でもあまりいじめないで下さいね・・・・・・
織斑 一夏との試合を終えたセシリアはレオスとの再戦を快く応じた。
はっきり言ってレオスとの試合にはかなり不満があった。
あそこまでコケにされたのはセシリアの人生で初かも知れない。オルコット家を守ろうと奮闘していた初めのころにも周りの大人達から似たように馬鹿にされていた。しかしその時のそれは侮蔑を含んだものだった。
しかしレオスにされたそれはその時の大人とは違うものだった。
セシリアのことを完璧に『子供』扱いしたのだ。
それまで立派なオルコット家当主としてふさわしいように振る舞っていた自分を、レオスはまるでその辺の子供をからかうように接した。
それまで受けたことのない扱いにセシリアは・・・・・・
ムカついた。
そう、今までに感じた事の無い感情にそう感じた。
だからこそ再戦に応じた。
このまま引き下がっては負けたような気がしたから。
そして・・・・・・確かめたかった。
父とどう違うのかを・・・・・・
さっきと同じようにアリーナ上空に歩いて行くと、もうお嬢様がスタンバってやがった。
ありゃやる気満々だな。どうやらさっきのことをよっぽど根に持ってるみてぇだ。
そこまで怒るようなことかねぇ~・・・まったく、年頃の娘ってのは何を考えてるのかわかんねぇなぁ。
「よう、お嬢様。またよろしく頼むぜ・・・・・・つっても、今度はやらせてもらうけどな」
「当たり前ですわ! もしさっきと同じようなことをするのでしたら、本当に貴方を許しません!!」
「おお、こわ。そう怒んなよ、それなりにやるからよぉ」
「なっ!? キィーーーーーーーーーーーーーー!」
お嬢様は少々ヒステリー気味にうなり声を上げてきた。
駄目だぜ、そうすぐに怒ちゃあ。そのうちチフユみたいに眉間のしわが取れなくなっちまうぜ・・・・・・おっと、チフユがこっちを睨みつけてやがる。何でわかるかねぇ~、まさに千里眼ってか(笑)
さてチフユに怒られる前にとっとと戦うとしますかぁ、酒のためにな。
そして俺とお嬢様、セシリア・オルコットはまたアリーナで相対した。
「んじゃ、お嬢様、『殺し合う』準備はできたかい」
「当然ですわ! こんどこそその減らず口、叩けないようにして差し上げますわ!!」
そして試合開始のブザーがアリーナに鳴り響いた。
お嬢様はさっそく距離を開けるとこっちを睨んできた。
「さっきと違い、最初から全力で行かせてもらいます!」
吠えると初っ端から独立兵装、『ブルーティアーズ』を展開して俺に襲いかかってきた。
四つのビットがこっちの死角を突こうと牽制射撃を加えながら移動してくる。
「さっそくやる気全開だなぁ。いいんじゃねぇか、こういうのも」
前の試合のような過信や油断がねぇ、マシな攻撃に少しは退屈しなくて済みそうだ。
俺は襲いかかってくるレーザーをさっきと同じように避けていく。
お嬢様の顔を見ると、真っ赤になってムキになっていやがった。いやいや、なかなかに面白れぇ顔だな。
つっても、このままだとさっきと同じ流れになっちまう。そうしたらさらにお嬢様がキレることだろうよ。生憎俺は人をそこまで怒らせて楽しむ趣味はねぇ。
「んじゃ、お嬢様よぉ。何でお前さんが攻撃を当てらねぇのか、わかったのかい? 分からなきゃさっきと同じで俺には一撃も当てられねぇぜ」
そうお嬢様に言うと、お嬢様はさらに達磨みてぇに真っ赤になったが、聞きたそうな視線を向けてきた。おちょくられたことに怒ったが、確かに当てられねぇことも気になっているってところか。以外と素直だねぇ。
「んじゃネタバラしだ。お前さんの攻撃が当たらねぇ理由、そいつは・・・・・・武器への理解だ」
「はぁ!?」
お嬢様が何を言ってるんだ、て面になった。
ISのプロたる代表候補生がISの武器を理解していないなんてのはおかしいってか。
そういうことじゃねんだよなぁ。
「たとえば、お前さんが持ってる、そいつ。そう、そのスナイパーライフルだ。お前さんはそいつをどう考えて使ってる?」
「どうって・・・・・・普通に武器として使ってますわ」
「そういう意味じゃねぇよ。お前さんの使い方ってのはその武器本来の使い方じゃねぇってこった。お前さんの使い方ってのはISの使う武装を教えられたように使ってるだけだ」
「それのどこが・・・」
お嬢様はまだ俺が言ってることを理解できてねぇみてぇだな。まぁ、ISの武装って考えている以上仕方ねぇのかもしれねぇが。
「いいかい、お嬢様。スナイパーライフルってのは本来、『敵に気付かれないほどの遠距離から一撃で対象を殺す』武器だ。こんな相手に丸見えで、しかもこんな距離で使う武器じゃねぇ。その時点でお前さんは既に不利だ。そんな取り回しが悪く、しかも射線がわかりやすい武器じゃ避けやすいったりゃありゃしね」
そう言われてお嬢様はだんまりになっちまった。
ちっと可哀想だがまだまだいくぜ。
「それにせっかくの独立兵装もまったく使いこなせてねぇ」
「そ、そんなことは!」
「いや、言い方に語弊があるな。お前さんはビットの使い方は間違ってねぇ。出来てねぇのはやっぱり理解だな」
「なっ!?」
今にもお嬢様は「そんなことはありませんわ!」って言いたそうな面してやがる。まぁ、自分の自信があるもんにケチつけられりゃ当然だな。
「お前さんは確かにビットをうまく使ってる。相手の死角からの射撃は結構いいぜ。まぁ、こいつは相手が悪かったとしか言えねぇなぁ。現にイチカの野郎には通用したしなぁ・・・・・・すぐに見破られたけどな」
そう、別にお嬢様の戦術に問題はねぇ。
まぁ、今回俺が相手だったのが問題ってところか。他のやつには問題無かったんだろうがなぁ。
「戦場じゃあこの五倍の銃撃に常に晒されているようなもんだ。その中で生きていくには結構大変なのさ。しかもこんな見渡しのいいところじゃどこにビットがあるのかなんて丸わかりだぜ。見えてるんじゃ射線もわかっちまうよ。確かにビットは多方向から同時に攻撃できるのが強みだが、そんなもんは認識の違いですぐに変わっちまう。一対一だと思うからいけねぇ。一対多だって認識してりゃぁんなもんは普通だ。戦場じゃそんなことはよくあるからな。それをどうにか出来なきゃすぐ御陀仏てここにはいねぇよ」
お嬢様は言われたことに何か考え始めたって顔をする。
ビットの扱いが雑になっているのが証拠だろうなぁ。御蔭でさっきからさらに当たらなくなっていやがった。別にお嬢様の動揺を誘うとか、そういうために言ったわけじゃねぇ。
ただ物足んねぇだけだ。
だから助言しただけだ。報酬もらって戦うって決めたんならそれなりに楽しませてもらわねぇとなぁ。
「んで最後だが・・・・・・お嬢様は気張りすぎだぜ」
「それが何だというのですか、そんなことは当たり前です!!」
「そいつがいけねぇ、もちっとリラックスしねぇとな。お嬢様がやる気なのは良いんだが、そのせいで撃つ気が表情から丸わかりなんだよ。そんないかにも今から攻撃しますよ、なんて面されりゃあ発砲タイミングまで丸わかりだ。そこまでバレてりゃ避けるのも余裕ってわけだ。こいつがお前さんが当てられねぇタネってわけだな。以上のことに気ぃつけてもう一回いこうか」
お嬢様は『私ってそんな丸わかりの顔してましたの!?』て面で顔を触って確かめていた。別に表情が変わってるわけじゃねぇんだけどなぁ。
「んじゃそろそろ行かせてもらうぜ」
そうニヤリと笑うと、お嬢様の顔が引きつる。
おいおい、そんな怖がんなよ。
俺は両腕を広げて武器を呼び出す。
そいつは俺が実際に使ってる代物をIS版にしたもんだ。
俺の両手から呼び出されたものが展開する。真っ黒な色をした巨大な拳銃。
ISのアサルトライフルなみのサイズで、そして銃身に鋭利な刃。銃剣が装着されている。
『オルトロス』
それがこいつの名前だ。
地獄の番犬、ケルベロスと同種の双頭犬。ケロベロスほど有名ではないが、それでも立派な魔獣。
その名を付けられた二丁拳銃、それが俺の相棒だ。
俺は展開すると腕から垂らすようにそいつを持つ。
「んじゃ、実践だ。さっきお嬢様に言ったことを間近にみせてやるよ」
そして銃を構えるのでは無く、銃剣で斬るかのように両手の銃を振るう。
するとお嬢様の手前ににあった二機のビットが爆発した。
「なっ!?」
お嬢様は目の前の事態に驚いたみてぇだ。
そりゃそうだな。銃を構えてから撃ったんじゃ無く、振りながら撃ったのだから。
お嬢様には何が起きたのかわからねぇか。
「この距離で銃を使うってんなら相手に射線を見切られねぇように使わねぇとなぁ」
そして俺はそこから跳んだ。
空中を駆け抜け、あっという間に俺の死角を狙うビットに追いつき銃剣を振るう。
ビットは一息に切り裂かれ爆散、残るもう一個もさっきと同じように撃ち堕とした。
「ま、こんな感じだ。戦いってのは相手の虚を突かねぇとなぁ」
やっとお嬢様の理解が追いついた時にはビットは全滅した。
ビットだろうがなんだろうが、多数なんてもんは一つずつ殺していけば問題ねぇ。
そのあとはお嬢様に向かって突っ込むと、お嬢様はライフルでこっちを狙い撃ってきたが、俺は変わらずに避けていく。真っ直ぐ走っている最中には悪くねぇ狙いもあったが、そういうのは銃を撃ち込み、狙いを逸らす。
そしてあっという間にお嬢様の間近まで接近する。
お嬢様はミサイル型のブルーティアーズを撃とうと狙ったみてぇだが、そんな一度やったネタがもう一回通用すると思うなよ。
少しバックステップで下がったのちにビットを狙い撃ちして破壊すると、お嬢様を銃剣で斬り付ける。
「くっ!」
お嬢様はライフルで防ごうとするが・・・・・・
「おせぇ!!」
俺は思いっきり銃剣でライフルを叩き斬った。これでお嬢様は丸腰同然だ。
「い、インターせぷっ」
「チェックメイトだぜ、お嬢様」
近接用のナイフを展開する前にお嬢様の目の前に銃を突き付ける。
「ま、こんなもんだ。これ以上は無意味だってのはお嬢様でもわかんだろ」
お嬢様にそう言うと、お嬢様は悔しそうな顔をしながら呟く。
「わ、わたくしの・・・負けですわ・・・・・・」
その面には悔し涙が浮かんでいた。
そして試合終了のブザーが流れる。
『セシリア・オルコット棄権のため、レオス・ハーケンの勝利』
しっかし終わってみりゃ俺は悪者かよ。
別に善人ってつもりはねぇがよぉ、あまり泣かれても困るぜ。
仕方ねぇからあやすかねぇ。
「ま、お嬢様だってけっこう頑張ってたぜ。だからもっと頑張んな」
「っ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そう告げて頭を撫でてやると、しばらくお嬢様はなすがままにされていた。
何でこう俺はお嬢様に甘いのかねぇ。まぁ、結構気に入ってるからなんだろうけどなぁ。
そうしてしばらくした後、俺はピットへと戻っていった。