しばらく書いてないので少し調子が悪いですね。
学園祭も終わったからって暇になるわけじゃねぇのがIS学園って奴らしい。
次々と新しいイベントのオンパレードだ。
それに嬉々とした様子でテンションを上げまくってる周りの連中は流石、若いねぇ。
その点、オレは少しばかり疲れちまうよ。
ハシャぐのも悪くはねぇが、たまにはゆっくりと過ごすのも悪くねぇもんだぜ。
そんなことを思い浮かべていた時だったよ…………。
アイツから連絡が来たのはさ。
それは学園祭を終えて三日ほど経った夜中。
お嬢様が天蓋付きのベットで可愛らしく寝息を立てている時にそいつは来た。
酒がねぇんで電子タバコを吹かしてたんだが、その時普段はあまり鳴らねぇ携帯が鳴り出したのさ。
この学園に入ってからは爺さんにかけるしか殆ど能がねぇ代物だったが、珍しいもんもあったもんだと思ったね。
一応は交友関係って奴くらいは持ち合わせてるから、ねぇとは言い切れねぇけどよ。
オレだってボッチじゃねぇんだよ。『お友達』の一人や二人はいるもんさ。
それで携帯を見れば、そこに映ってる名前は随分と久しぶり……てこともねぇ相手だった。
そう言えばこの学園の寮に入ったときに一回かけた覚えがあるなぁ。
あまり待たすと今度会った時にオレの頭がトマトペーストみてぇに床にぶちまけられちまうから、早めに出ますかねぇ。
「もしもし、こんな夜中に随分なことで。オレは明日の授業に備えて眠ろうと思ってたんだが」
『嘘を付くな。貴様がそんな殊勝の心意気だったのなら、世の中はもっと泰平だろうよ。大方酒でも呷っていた所であろう』
「残念、外れだ。学生は酒もタバコもいけねぇんだと。今は学園長様のお慈悲で渡された電子タバコをやってる最中だ」
中々にダンディーな声がスピーカー越しから流れてくる。
その声は聞く奴によっちゃぁ震え上がるくらい怖ぇらしい。オレにはただのイケメンの声にしか聞こえねぇけどなぁ。
この電話の相手が誰だって?
まぁ、さっき言った通りこの学園に来てから一回連絡した奴なんてのは、一人くらいしかいねぇんだけどよ。
そうそう、初日に寮の部屋に入ったときにオレに遊びに来た馬鹿な華人がいただろ。そいつに土産持たせて送ったときにかけた奴さ。つまり………。
「それで? 李家の若頭がオレに何用だい? またドンパチか?」
そう、少し前に花火をお届けした中国マフィアの若頭様だよ。
お得意様だが、同時に個人的な『お友達』でもあるのさ。
まぁ、初めて出会ったときは悲しいことに誤解を招いて殺し合いに発展しそうになったっていう物騒なファーストコンタクトをしたわけだがね。
それなりにやり取りをした後は本題に移る。
奴さんがわざわざ世間話をするためにオレに連絡を入れてくるようなフレンドリーな社交性を持ち合わせているわけがねぇんだからよぉ
てことは当然、何かしらの用があるもんだ。
すると携帯越しに若頭から呆れたような声が聞こえてきた。
『貴様、その言い方ではまるで私が毎回厄介事を持ってきているようではないか』
「なんだ、違うのかい? 毎回呼ばれる度に何かしら騒動に巻き込まれてるからまたかと思ったぜ」
『まるで人をトラブルメイカーのように言うな。それとその騒動の半分以上は貴様絡みだろうが』
「あれ、そうだったか? どうも多すぎて面倒だったんで良く覚えてねぇなぁ」
『たく……まぁ良い』
まぁ、こんな感じの間柄って奴だよ。
仕事以外でも偶にプライベートで呼ばれては連んで馬鹿やってる。
その殆どは何かしらに巻き込まれてるってんだから不運過ぎるけどよ。
クロード達からは付き合いを見直した方がいいんじゃねぇかって良く言われてる。
それから若頭は気を取り直して改めてオレに話しかけてきた。
『実はな、我等の組織が東京歌舞伎町の一等地に店を出店することになってな。それがつい先月オープンして営業を開始し始めた。その様子を李大人に見てくるよう命じられたというわけだ。そう言えば貴様も今は日本に居るのだし、様子でも見せに来い、というわけだ。楊の奴が嫌がるだろうが』
「そんなことかい。しかし、いつから李家が日本に進出してたんだ? 確かに歌舞伎町はヤクの売買の重要拠点ではあるけどよぉ、そんな新参者に日本の奴等が黙ってるとは思えねぇんだが、そこのところどうなんだよ?」
新宿や歌舞伎町なんて町は所謂ブラックゾーンなところだ。
裏の厄介な碌でなし共がテメェ達の利益を得るために汚ねぇことを平然とやっていく。
その汚さと来たら、オレ等よりもある意味ひでぇもんさ。
すると若頭は少し呆れたような声で答えてきた。
『生憎だが、それはない。何せそう言った物を扱うんじゃないからな』
「はぁ? 歌舞伎町に来てヤク扱わずに何扱う気だよ。娼館か? それとも……」
『そいつも外れだ。この件に関しては私も大人(ダーイエ)の意向が分かりかねている。実はな……歌舞伎町に建てたのは料理店だよ、中華料理店。それもVIP対応のかなり高級のな』
「そりゃまた随分なことで。いつから李家は飲食業なんて始めたんだ?」
『それ自体、本土では普通にやっている。貴様が知らないだけで以外と多いのだよ。四川、香港、上海、北京、大体の都市には大概組織の手が回っている店が建っている』
そいつは初耳だ。
まさか中国屈指の巨大マフィアが飲食業ねぇ。
その資産は一国を買える程の額があるって聞いた事があるが、そんな組織が随分と珍奇なことをするもんだ。
『今のご時世、表も裏も顔がなくてはならないからな。その一環だ』
「さいで。それで若頭が日本に進出した店の様子を見に行くと」
『そういうわけだ』
組織の大幹部様ってのは色々と苦労が絶えねぇらしい。
オレはそんなの、やれと言われても嫌だねぇ。こういう時、自分が今の職業で良かったって思うよ。
「ってことは、若頭はオレをその店に招待していると?」
『そうだ。貴様のような奴では滅多に食えない本物を出してやろう』
何とまぁ豪勢なことで。
やっぱり持つべきは金持ちの『お友達』って奴だねぇ。
「そいつはいいねぇ。当然酒も出るんだろ?」
『当たり前だ。最高級の老酒を出してやる』
「Good」
特に予定もねぇし、日本で出歩くんだったら多少は安全ってのがお嬢様とのデートで分かってるしなぁ。
そう思って行くことを決めたオレだが、そこで丁度良いことを思い出した。
学園祭じゃぁかなり頑張ったお嬢様に、せっかくだから御馳走しようってなぁ。
何せ無料で超高級中華が食えるんだからよぉ。
「なぁ、だったらオレの気に入ってる奴も連れて来ていいかい?」
『気に入ってる奴? 貴様に気に入られるなんて……可哀想な者だな、その人物は』
「それは自虐かい? オレはアンタのこと、気に入ってるんだぜ、朋友」
『次に同じ事を言ったら、貴様の脳みそがその宴会に出ると思え』
「そいつは勘弁だ。誰だってテメェのお脳は見たくねぇ」
あまりからかうと本当にやってきそうで怖いねぇ。
若頭は真面目だからなぁ、ある意味で。
『まぁ、別に良い。その人物は貴様の事を知っているのか?』
「まぁね。夏休みにウチの連中に挨拶しに来たくらいだよ。今じゃウチのアイドルだ」
『ならば良いが……』
若頭もOKしたことで、この話も終わりになった。
せっかくのお誘いだ。たまにはオレの方からデートに誘わねぇとなぁ。
翌日、お嬢様と一緒に食堂に行く最中、オレはその件をお嬢様に言うことにした。
「そうだ、お嬢様。今週の土曜は空いてるか?」
「今週の土曜ですの? 特に予定はありませんが……」
お嬢様は何やら顔を赤らめながら期待を籠もった目でオレを見つめてきた。
その期待通りの答えをこれから言うであろうオレは笑いながら望んだ答えを言った。
「だったら夜に一緒にディナーを食べに行かないか? 昨日ちょっとした伝手で高級中華料理店に招待されたんでなぁ。お嬢様は学園祭で頑張ったんだし、これぐらいのご褒美があってもいいだろ」
「は、はいですわ! ぜ、是非ともご一緒させていただきます!!」
お嬢様はご期待通りの答えを聞けて、凄く喜んでるようだ。
そんなお嬢様の顔が見れただけでも、誘った甲斐があったもんだよ。
それが、まさかあんなことになるとはなぁ………。
この時のオレは予想もしなかったよ。
よくよく考えれば、当たり前に気付く事だったんだよなぁ。
オレとアイツがいて、今まで平穏だったことがねぇことによ……。