恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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そろそろ学園祭も終わりそうです。
今回はレオスが主体では無いので苦労しました。
あくまでも会長が全体を動かし、レオスは裏方みたいなものでしたからね。


第百六話 キャンプファイヤー、一曲踊ってくれませんか?

 会長達の所に戻って来たオレ等に向けられたのは、何で逃がしたんだっていう会長の怒った視線だった。

 

「何で逃がしちゃったのよ! せっかくより情報が手に入るかも知れないチャンスだったのに!」

「そう怒んなさんな。仕方ねぇだろ、あれが一番の最善策だったんだからよぉ。それとも会長はこのまま学園祭を『炎祭り(キャンプファイヤー)』に変えるつもりだったのかい?」

「それは確かに困るけど……」

 

歯切れが悪い会長さん。まだここら辺の切り替えってのは上手くいかねぇらしい。

そんな会長と違い、クロードとクソオヤジは変わらねぇ面でオレ達を出迎えた。

 

「ご苦労さまでした、レオス」

「その様子じゃ逃がしたってところか。随分と甘いことで」

「そう言うなよ、オヤジ。悪いが無料で事を構えるほどオレ等は善人じゃない。違うか?」

「違わねぇ。そいつは確かにその通りだ」

 

オヤジの言葉にそう返すと、クロードは呆れた面でオレ等を見て来やがった、あの感じからして思ってはいるが、口にはするなって所だろうよ。悪いね、オレは正直者なんだよ。

 

「ところでクロード、例のボロ雑巾は?」

「レオス、仮にも女性にそんなことを言ってはいけませんよ。現在彼女は轡木 十蔵氏の元、治療室に運ばれています。多分治療が終わり次第隔離、回復を見て聴取と言った所でしょう。団長が暴れたにしては軽傷で助かりました。以前似たようなことがあった時は、復元不可能なくらい酷い状態になりましたからね」

 

疲れた感じにそう言うクロード。管理職ってのは色々と苦労が絶えないらしい。

進んでやろうなんてドM野郎は多分いないだろうさ。

クロードの話を聞いたイチカ達は顔が青ざめてる。別に今更だろうによぉ。さっきまで暴れる馬鹿を見てたんだしなぁ。

兎も角最初の目的はこれで果たした訳だし、問題もねぇだろ。

オレは会長の方に改めて向き合う。

 

「まぁ、そんなわけだ。当初の予定通り、イチカを狙うストーカーは確保したんだから、そこまで問題でもねぇだろ。こっちにはもうジョーカーが残ってるんだ。今更そこからさらに札を捨てて役を揃える必要は無いってもんだ。安全第一ってなぁ。そういうのが会長の好みだろ?」

「そう言われると少しむかつくけど当たりよ。確かに所定の目的は果たしてる訳だし、これ以上望むのは欲張りすぎかもしれない。下手に構えれば更に被害が広がって学園祭どころじゃなくなるかもしれない。そんなところよね。ちなみに貴方達だったら、どうするの?」

 

会長はその質問をオレとクロード、それとオヤジに投げかけた。

裏のことを知ってる割にはまだ甘々な会長なりに、現場の意見って奴が聞きたいようだ。まるで会社見学に来たガキに質問される職員の気持ちって奴だな。まさに会社員って感じがしてくすぐったいねぇ。

その質問を受けてオレとオヤジはニヤリと笑い、クロードはニッコリと微笑む。

だが、その雰囲気はほんわかとした優しいもんじゃねぇ。

実に殺伐とした、オレ好みの雰囲気だ。

 

「オレ等だったら、勿論逃がさねぇ」

「邪魔するんだったら容赦無くぶん殴る。仕事だったら尚更ぶん殴る。女だろうが子供だろうが、容赦なくなぁ」

「我々は仕事を依頼されたのならば、どのような相手であろうと容赦無く殲滅します。今回の場合、障害となるならば……その者を我々は殲滅します」

 

これがオレ達の返答。この仕事をするんだったら当然の答えってもんだ。

そいつを聞いた会長は何か言葉を詰まらせてた。

こんなんでびびってたら駄目だぜ、会長。世の中それが普通なんだからよ。今回見逃したのは『ボランティア』だったからだ。

仕事でなら、あの時現れた泥棒も容赦無く墜としてたさ。

そんな会長の肩を軽く叩くと、会長はビクっとして驚いたようだ。

 

「んじゃ、会長。もうこっちのイベントは終わったんだ。後は学園祭の方を頑張りにいかねぇとなぁ」

「っ!? そ、そうね!」

 

会長はそう返事を返すなり、慌てた感じでその場から動き始めた。

多分この後は学園祭を平常運転って所だろうよ。

そのままこの場から去る会長を見送り、今度はイチカの方を向くと、奴さんは首を傾げてる。

まぁ、こいつは言わない方が面白い事になりそうなもんだが、そいつを見てる余裕が無いんで教えといてやるか。

 

「イチカ、早く戻らないとホウキ達が騒ぎ出す頃合いだぜ、早く戻んな。また刀やらサバイバルナイフや青竜刀で追っかけ回されたくはねぇだろ」

「そ、それもそうだな。ありがとよ、レオス。んじゃ急ぐから」

 

イチカも会長に続いて慌ててこの場から飛び出して言った。

どうせ捕まったらこれまでのことを吐き出させられるんだろうさ。別に内緒にすることでもねぇし、この件について説明すんのは会長のお仕事だ。ボランティアの出る幕じゃねぇよ。

さて、残ったのはお嬢様と上司二人組だけだ。

 

「それで……クロードとオヤジのこの後の予定は?」

 

オレのその問いに答えたのはクロードだ。

まぁ、オヤジが答えようもんなら、碌な事にならねぇってのは分かりきってるからなぁ。

 

「この後は轡木 十蔵氏に挨拶と団長が壊した分の修理費の弁償、それが終わった後は日本で一仕事あるので、これでお暇しようと思います」

「そうかい。なら、しっかりとそこのクソオヤジの手綱を握っとけよ。でねぇとさっきの二の舞だ」

「うっせぇよ、クソガキ! 俺の前でスィーツを無下に扱わなきゃなにもしねぇっての」

 

オヤジはさっき暴れたみっともねぇことにまったく懲りてねぇらしい。

まぁ、これで簡単に改めるようならもっと大人らしい振る舞いってもんが身に付いてるはずだからなぁ。

 

「さいで。反省の欠片もねぇな。まぁ大体分かったよ」

「えぇ、ですのでご招待して下さったセシリアさんには申し訳ありませんが」

「いえ、そんな……このような騒ぎに巻き込んでしまい、申し訳無いです。それでも楽しんでいただけたのなら嬉しいですわ」

 

お嬢様は頭を下げるとクロードはむしろ自分達も申し訳無いと謝り始めた。

ここら辺は礼儀正しい真面目な感じだねぇ。

そんな訳でクロード達はお帰りだそうだ。先に爺さんの所に行くってんでこの場から動き始めた。

だが、扉から先に行く前にクロードが足を止めてこっちに振り返ってきた。

 

「そうでした、一つ言うことがありましたね。レオス」

「何だよ」

「学園生活を楽しんでいるようで何よりですよ」

 

何を言うかと思ったらそんなことか。一々足を止めて言うことでもねぇだろうによぉ。

 

「それなりには楽しんでるよ。少しばかり刺激が足りねぇがね」

「そうですか」

 

それだけ言うと、満足した様子で笑いながら去って行った。

まったく……保護者気取りで様子を聞くのも大概にして欲しいもんだ。

そんなクロードに呆れ返ってると、お嬢様が妙に嬉しそうに笑ってきた。

 

「レオスさん、何だか嬉しそうですわね」

「そうか? だったらそいつは目の錯覚って奴だろ。オレは呆れ返ってるんだからよ」

 

そう答えるが、それでもお嬢様は愉快そうに笑ってた。

何だか、気恥ずかしいって感じでいけすかねぇが、悪くはねぇ感じだよ。

それを誤魔化すためにも、オレは軽く咳払いして懐から電子タバコを取り出して加える。

そいつを一息吸うと、美味くはねぇ味を感じながら蒸気を吐き出す。

それで気分を切り替えると外の校庭の辺りを見て、オレはお嬢様に手を差し出した。

 

「んじゃ、こんなオレと踊ってくれねぇか、お嬢様」

 

オレの差し出した手を見てお嬢様は顔を真っ赤に、嬉しさと恥ずかしさが入り交じったような面でゆっくりと差しだ出した手に手を重ねてきた。

 

「はい、私でよろしければ」

 

その時のお嬢様の顔はオレにしては珍しく、見惚れるほど綺麗だった。

 

 

 

 

 その後、お嬢様と一緒に校庭で燃え盛るキャンプファイヤーに参加したわけだが、この学園じゃぁゆっくりとムードを楽しむってもんが出来ねぇらしい。

イチカの野郎を巡ってホウキ達が暴れまくってやがった。

周りの奴等はそいつを見て更に騒ぐわけだが、祭り好きな奴等だからなぁ。思いっきり笑ってやがった。

騒ぎの張本人は必死扱いて逃げ回ってるようだが。

いつもならオレも見てて腹を抱えている所だが、お嬢様とムード流れるこの場でそいつは無しってもんだ。

そんなイチカ達に苦笑を浮かべるお嬢様と一緒に、踊ってる輪の中に加わる。

そしてお嬢様の身体を抱きながら踊り始めた。

 

「うふふふふ。まさかレオスさんと踊れるなんて思ってもみませんでしたわ」

「そうかい? まぁ、お嬢様はイチカを扱くのを頑張ってたし、これぐらいしたっていいだろ」

 

お嬢様は楽しそうに笑いかける。

そいつに返しながら身体を動かすわけだが、元から踊りなんてしねぇんでな。全くもって踊れてねぇ。

その割りにお嬢様は嬉しいらしい。

 

「あまり踊れてないってお顔ですけど、その割りのはお上手ですのね。経験でもあるんですの?」

「おいおい、オレの表情を読んだのか? まったく、クロードに似てきたねぇ、お嬢様は。このままじゃ何を考えてるのか全部読まれそうで怖ぇなぁ。別に経験って程でもねぇよ。クロードの野郎に仕込まれて、奴さんがセールスをするときに社交界で恥を掻かない程度に見せかけるだけさ。踊れるとは言わねぇ」

 

それを聞いて、お嬢様は少し膨れたが、それでも楽しそうに笑った。

そしてそのまま踊り続ける。お嬢様が踊れるだけに、見せかけるだけでも苦労もんだよ。

まぁ、この程度でイチカを扱いた報酬ってんなら、安いもんだ。

それに何より……たまにはこんな日も、悪くはねぇだろ。

 そんな事を思いながら、オレ達は音楽が終わるまで踊り続けた。

 

 

(レオスさんと踊れるなんて………夢のような時間でしたわ………)

 

 

 まぁ、この後は部屋に帰って寝るだけなんだが、オレはまだ寝れそうにねぇがなぁ。

爺さんと話さなきゃならねぇことが多そうだ。

そいつを考えるとせっかくの悪くねぇ気分が台無しにされそうだよ。

 

 

 

 

 

 


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