外角低め 115km/hのストレート【完結】   作:GT(EW版)

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高速とは言っていない高速スライダー

 

 

 緊急登板のマウンドに上がるのは、恋々高校との試合以来これが二度目になる。

 あの時もまた先発投手の負傷が切欠となって登板したものだが……まるで自分が登板する為に誰かが怪我をしているみたいで、星菜には己が疫病神のように思えた。

 しかしこれはどちらも、インプレー中に起こった不幸な事故としか言いようにない。投手というポジションについている以上、いつだって起こりうることなのだから。

 

 ……しかし、何故だろうか。

 

 バッティングの基本がセンター返しということを考えれば、今の打球で打者が責められる謂れはどこにもない筈なのだが……それでも何か、星菜には上手く言い表せない引っ掛かりを感じていた。

 

(雅ちゃん……)

 

 球数多めの投球練習を終えた後、球審からプレーを再開する声が掛けられる。

 同時に星菜はセットポジションに入り、一塁走者の動きを窺う。

 そしてその瞬間、星菜は気づいた。

 

(笑っている?)

 

 一塁ベースからやや大きめのリードを取る一塁走者――小山雅の表情が笑っていたのだ。

 愉悦に唇をつり上げ、まるで星菜の投球動作を今か今かと待ち詫びているかのように、雅は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 友達が投げるのが嬉しいと、そう考えるのが自然だろう。しかし顔立ちは整っているのに、星菜にはその表情が何故だか酷く不気味に映った。

 

(なんだって言うんだ……)

 

 盗塁を警戒したクイックモーションから第一球、星菜は右打席に立つときめき青春高校の四番、鬼力の胸元に向かって左腕を振り下ろす。

 放たれたボールは仰け反った打者の手元でシンカー方向に曲がると、内角一杯に構えた六道のミットへと寸分狂わず突き刺さっていった。

 

「ストライクッ!」

 

 ボールゾーンから右打者の内角に入っていく、フロントドアのツーシーム。球審の右手が上がり、狙い通りの感触に星菜は頷く。

 たとえ緊急登板で準備が不足していようと、その程度のことで定まらなくなるようなヤワな制球力はしていない。星菜にとって制球力は最大の武器であり、なくてはならない生命線なのだ。

 

(よし)

 

 制球が定まらない自分など、もはや球種が多いだけのバッティングマシンのようなものだ。そこに至ってこの日の星菜はすこぶる好調であり、不測の事態ながら既に万全の状態だった。

 星菜はこちらの制球力への信頼が窺える六道の要求に快く応じ、次の投球動作に移る。

 一球目よりも微妙に間合いをずらし、走者を警戒しつつ投じた二球目。その球種は打者の手元で小さく曲がるカットボール。コースは外角低めの、ボールゾーンから際どいストライクゾーンへと食い込んでいくバックドアだった。

 打者鬼力がそのボールを強振し、瞬間、乾いた金属音が響く。バットの先端寄りの部分に当たった打球は後方のバックネットに突き刺さり、ファールとなった。

 

「ナイスボールだ」

 

 意図して打たせることの出来たファールボールに満足し、星菜は六道からの返球を受け捕る。これでストライク二つのツーナッシング、どんなボールを使える投手に有利なカウントだ。

 

(盗塁は、仕掛けてこないか……)

 

 ここまで動きのない一塁走者のリードを目で牽制しながら、星菜は再びセットポジションに入る。受ける捕手の六道明はそのリードや捕球技術にこそ確かな信頼を抱いているが、肩は強い方ではなく、こと盗塁阻止に関しては少々心許ない。加えてただでさえ球速が遅い上にカーブやチェンジアップと言った緩い変化球を得意とする星菜にとって、足の速い走者の盗塁はまさに天敵とも言えるのだ。

 故にこの二球は極端に間隔の短いクイックモーションからツーシームやカットボールと言った比較的球速の速いボールを使っていたのだが、ここまで走者小山雅に盗塁の動きは見られなかった。

 

(……六道先輩も、要求が厳しいな)

 

 三球目の投球動作に移る前に確認した六道の要求に、星菜は内心で苦笑を浮かべる。

 六道明という捕手は、自分が受ける投手の特徴を実によく捉えている。剛腕投手である波輪をリードする際には細かい制球よりも球威の方を重視させる方針であり、ボールにより強い力を伝えてもらう為にコースはある程度アバウトに、しかしミットの構えは必ず大きく取る。たとえ要求通りのボールが来なくても、指に掛かった彼の剛速球ならば力技で空振りを奪うことが出来たからだ。

 一方で彼と比べれば至って平凡な投手である青山をリードする際には、まず第一に内野ゴロを打たせるべく外角低めを中心とした堅実な配球になり、波輪の時と比べれば小さめな構えで慎重な攻めを基本としていた。

 

 そして星菜をリードする時は、そのどちらでもあり、どちらでもない。

 

 基本的には青山のように内野ゴロを狙った堅実なリードなのだが、勝負どころに関しては星菜に対して二人よりも大胆な要求をすることが多いのだ。僅かに変化が甘かったり、ほんの一個分ボールの制球を間違えるだけでデッドボールやホームランボールになってしまうような紙一重の配球が目立ち、他の投手以上に投げミスを許さない厳しい要求を行うのである。

 

(でも、それがいい)

 

 星菜は、そんな注文の多い彼のリードが嫌いではなかった。

 その身の貧弱さ故に豪速球を投げることの出来ない星菜は、波輪のように高めのストレートで強引に空振りを奪うなどという芸当は出来ない。だからこそ、慎重にコースを投げ分ける必要があるのだ。

 しかし星菜には、彼よりも高い制球力と完成度の高い多彩な変化球という大きな武器があった。

 故に、時に軟投派投手を扱っているとは思えなくなる六道の大胆なリードにも十分に応えることが出来る。

 否、完成された軟投派投手だからこそ、要求の厳しいリードに応えることが出来るのだ。

 

「ふっ……!」

 

 ポーカーフェイスの下に気合いを振り絞り、星菜は鬼力に対して三球目のボールを投じる。

 ツーシームやカットを投じた時と変わらぬ腕の振りで放たれたボールは打者鬼力の内角のストライクゾーンに向かっていき、そのバットを豪快に走らせた。

 しかし彼の一閃が金属の快音をグラウンドに響かせることはなく……この打席に決着をつけた白球は、ボールゾーン低めに構えた六道のミットに収まっていった。

 空振り三振。最期の一球は高速の縦スライダー――一見ストレートと見間違う速度から縦に大きく割れていく、泉星菜が持つウイニングショットの一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ツーアウトランナー一塁という場面をたった三球で切り抜けた星菜は、チームメイト達の温かい声援によってベンチに出迎えられる。

 攻守が入れ替わり、イニングは二回表の攻撃だ。打球が直撃した右手をアイシングで押さえている青山の姿は実に気の毒であったが、それでも試合は当然のように続いていく。

 

「うちのピッチャー陣、呪われてんのかなぁ」

「打球直撃、ルーズショルダー発症、打球直撃……肩の不安を隠していた波輪君は正直言っちゃ自業自得ッスけど、こんなに打球が当たりまくるのはどうしたもんッスかねぇ」

「まあなー……守備練習以外にも、上手く避ける練習とかした方がいいのかもしれんね」

 

 あれほど強烈なピッチャー返しを「捕れ」とは同じ投手として簡単には言い辛い。ベンチから見ていた波輪も星菜と同じ考えのようであったが、彼はそれでも一言キャプテンとして青山に物を申していた。

 

「だけど右手だけは守らねーと駄目だぞ。お前が投げられなくなったらもう星菜ちゃんしかいねーんだからな」

「フハハ……面目ありません」

 

 元々は三人居た筈の投手も、マウンドに上がれるのは今や女子選手である星菜だけだ。苦肉の策として野手の池ノ川を投げさせるという手段もないわけではないが、はっきり言ってそうなったらもう試合にならなくなるだろう。

 後の控えが居なくなったことで、星菜の身に大きな責任が回ってきたということだ。

 少なくともこの試合は、後のイニングは全て自分が投げきらなくてはならない。これまで行ってきた練習試合では最長でも六イニング程度しか投げてこなかった星菜にとって、ほぼ完投しなければならないというその条件は高校生になって未知の世界だった。

 

「星菜、わかっちゃいるだろうが気負いすぎるなよ。君はいつも通りのピッチングをすればいい」

「……わかってる」

 

 こちらのプレッシャーを察してか、隣に座った鈴姫が要するに「気楽に行け」という意味で星菜に声を掛けてくる。

 この夏は徹底的に走り込み、星菜なりに長いイニングを投げる為のスタミナを作ってきたつもりだ。責任は大きいが、ポジティブに言えばこれはスタミナ強化の成果を見せる良い機会でもあった。

 

 

「ストライク! アウト!」

 

 そうこう考えている間に竹ノ子高校の二回表の攻撃は始まり、この回先頭の五番池ノ川が外角のボールゾーンに逃げていくスライダーを空振り、あえなく三振に倒れる。

 相手マウンドの青葉春人がテイクバックの大きいサイドスローから投じるボールのキレは、初回と比べてなんら落ちていない。打席に立つ打者陣は青葉の高速スライダーに対して、バットを振るまでことごとくストレートだと錯覚させられている様子だった。

 

「お! 直球ゥー!」

 

 続く六番外川の初球、こちらも自信を持って振り抜いた筈のバットは音も無く空を掻いていた。

 確かにスライダーにしてはスピードがかなり速く、ベンチからでも140キロ前後の球速が出ているように見える。

 一見ではストレートと見分けがつかないそのボールは、たった一巡の間に見極めるには非常に困難であった。

 

「駄目だ……あれもスライダーだ」

「良い高速スライダーを投げるよね、あのピッチャー」

「なんだ、自慢か?」

「私があんな速い球投げれるわけないだろ」

 

 相手投手を分析し、素直に賞賛する星菜に対して至って真面目な声で茶化す鈴姫。

 変化する方向の違いはあるが、確かに星菜も先の回のように高速スライダーを投げることは出来る。しかし、星菜と青葉とではそもそものポテンシャルに大きな開きがあるのだ。

 青葉は140キロ台中盤のストレートと、140キロ前後で大きく曲がる高速スライダーを扱う。

 星菜は110キロ台中盤のストレートと、110キロ前後で大きく割れる高速スライダーを扱う。

 同じ高速スライダーでも青葉は本物の高速であり、星菜のは高速の後ろに(当社比)とつくような偽物の高速だ。数字として記録に表れている以上、誰がどう言おうとそれは確固とした事実である。

 ……尤も、だからと言って星菜は自分が投手として青葉に劣っているとは思っていない。

 肉体のポテンシャルに劣る日本人選手の一部がメジャーリーグでも一線級の活躍が出来る理由のように、星菜は投球の「工夫」を重要視していた。

 

「君は遅い球を速く見せれるんだから、似たようなもんだろ」

「わかっているじゃないか。それが出来なかったら、私なんてとっくにピッチャー諦めてるよ」

 

 最速115キロという事実を事実として認識しているからこそ、泉星菜という投手は完成しているのだ。

 緩急、ボールの回転数、フォーム、リリース、球種、制球――球速以外ほぼ全ての要素を極めているからこそ、星菜は高校野球という舞台でも対等に渡り合えていた。

 所詮は偽物の高速。ならば最後まで偽物として気持ち良く打者を騙してしまえばいい。それが星菜の中に居る彼女の前世――星園渚の教えでもあった。

 

 

 六番外川は結局アウトコースに逃げていく高速スライダーを最後まで見極めることが出来ず、池ノ川と同じような配球であえなく空振り三振に倒れる。右打者にとってこのボールは脅威というほかないだろう。

 無論左打者にとっても容易いボールではなく、続く左の石田は外角のストライクゾーンに入ってきたバックドアの高速スライダーに手を出すことが出来ず、文字通り手も足も出ないまま見逃し三振に倒れていった。

 五番から始まったこのイニングだが、これで三者連続三振である。それも青葉のボールのキレを見れば意外でもなく、至って必然的な結果なのかもしれない。

 

「締まっていきましょう」

「おう!」

「オイラの華麗な守備が星菜ちゃんを守るでやんす!」

「てめーには無理だ」

「もうエラーすんなよダメガネ」

「チキンハート」

「ひ、ひどいでやんす……」

「……先輩方」

「すみません」

「言い過ぎました」

「さっさと守備に着けよ……」

 

 相手のリリーフにはまだ朱雀南赤が控えていることを考えると、やはりこの試合は一点でも取られると勝利は厳しくなるだろう。

 だがそれは、星菜にとっては寧ろ望むところである。

 投手戦になればなるほど気合いが入り、良いパフォーマンスが発揮出来るというものだ。元来投手とは、そういう生き物だった。

 

 そんな気合いをポーカーフェイスの裏に隠しながら、星菜は再びマウンドに上がった二回裏のイニングを淡々と投げ込んでいく。

 ときめき青春高校の先頭打者、五番朱雀を内角のツーシームを詰まらせてピッチャーゴロに仕留めると、六番茶来には先の回で鬼力相手に投じた膝元の高速縦スライダーで空振り三振を奪う。そして七番神宮寺にはワンエンドワンから外角のカットボールを引っ掛けさせ、狙い通り鈴姫の守るショートへとゴロを打たせていった。

 この回星菜が投じた球数は、僅か六球。危なげない投球でときめき打線を三者凡退に封じると、イニングはテンポ良く三回表へと進んでいった。

 

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 竹ノ子高校はこの回、八番小島からの攻撃である。

 しかし先頭の左打者である小島は高速スライダーを警戒している隙にクロスファイヤーで決められた内角のストレートに見逃し三振を奪われ、続く九番右の鷹野は池ノ川や外川のリプレイを見ているような形で空振り三振に倒れていった。

 前のイニングから続けて、これで五者連続三振だ。マウンドの青葉がこれまでに奪った三振の数は早くも七つとなった。

 矢部と鈴姫以外、バットに当たってすらいないのである。青葉に圧倒される形で竹ノ子打線は一巡し、打順は再び一番打者へと回ってきた。

 

「打ったれ星菜ちゃん!」

「ファイトでやんすよー!」

 

 尤もその一番打者は、この試合では初めての打席である。

 青山に代わったことで一番ピッチャーという形でオーダーに加わっている星菜は、足場を軽く慣らしながらゆっくりと打席に立った。

 

(実は私、一番って打順、結構好きだったりする)

 

 星菜がプロ野球を最初に見始めた小さな頃、野球は一番良い打者が一番を打つものだとばかり思っていたものだ。単純に考えて最も打席が多く回ってくる打順なのだから、始めはそう考えても何もおかしくはないだろう。

 星菜自身、幼い頃は何でも一番でなければ気が済まない性格だったというのも理由の一つである。そんな昔の名残りからか、星菜は今でもこの一番という打順はそれなりに好んでいた。

 尤も、だからと言って星菜がこれまでに培ってきた打撃スタイルが変わるということはない。九番だろうが四番だろうが一番だろうが、チームが勝つための打撃をするのが野球なのだ。

 

 

「ストライク」

 

 青葉が投じた一球目、外角の難しいコースに決まったストレートを見送ると、球審からストライクがコールされる。

 

(朱雀ほどじゃないけど、やっぱり速いな……私の力じゃ前に飛びそうもない)

 

 以前の練習試合では剛腕投手の朱雀、変化球投手の青葉という印象が強かったが、かと言って青葉のボールが剛速球ではないのかと問われればそれは断じて否だ。今の一球を見ても140キロは超えていると感じ、星菜は改めて青葉という投手を本格派右腕として認識する。

 星菜は彼の投げるような速いボールはあまり得意ではない。この細腕では、強くスイングしたつもりでもボールの力に振り負けてしまうからだ。

 故に星菜は構えを低くし、クリーンヒットよりも実現性の高い出塁を最優先にした打撃へと切り替えることにした。

 

「ボール」

 

 二球目、高めに迫ってきたストレートをやや身を屈めながら見送ると、球審からボールがコールされる。その判定にムッとした表情を浮かべるマウンドの青葉だが、今のは決して誤審などではない。

 他の打者であればストライクゾーンに入っていたボールでも、今打席に立っているのは竹ノ子高校の野球部で最も小さい身長160センチメートルの星菜なのだ。必然的に、そのストライクゾーンは狭く設定されていた。

 

「ンなくそオッ!」

 

 しかし、だからと言ってボールを置きに行かないのは流石は元ボーイズリーグ日本代表投手というところであろう。横手から強く腕を振って投じた次の三球目は高めのストライクゾーンに決まり、カウントはツーエンドワンとなった。

 

(……追い込まれたか)

 

 以前の対決では星菜の狭いストライクゾーンに苛つきながらフォアボールを与えてくれたものだが、この打席では制球を乱しそうな様子は欠片も見当たらない。

 冷静な思考で青葉の調子の良さを分析すると、星菜はこの打席での方針を再び変更する。

 そして青葉の四球目、テンポ良く星菜を追い込んでから投じてきたのは――石田を見逃し三振に仕留めたバックドアの高速スライダーだった。

 外角に鋭く食い込んできたそのボールに対して、星菜は右手で放り投げるようにバットを突き出した。

 

「ファール」

 

 辛くもバットの先端部に当たった打球は三塁側のベンチへと転がっていき、球審からファールの判定がコールされる。

 

(石田先輩のようにインコースを見せられていたら、今のは手が出なかったかな)

 

 危うく見逃し三振を浴びるところだった星菜はカットの成功に内心で冷や汗を掻きながら、バットを構え直す。

 速いボールは当てるのも簡単じゃないから嫌いだ。常日頃から持ち合わせている剛腕投手へのコンプレックスも相まって、今この打席に立っている星菜は非常に不愉快な気分だった。

 

「へっ、当てるだけが……」

 

 カットはしたが、完全に押されている。

 自分が打者を圧倒していることを感じているのであろう。マウンドの青葉が不敵な表情を浮かべ、自信満々なフォームで五球目を投じた。

 

「精一杯かよ!」

 

 五球目はクロスファイヤー――内角へのストレートだった。外角に決めた先の高速スライダーを意識させておけば、そのボールはより大きな効果をもたらす。反応が遅れて空振りか、或いは反応が出来ずに見逃しか……バッテリーはそのどちらかを狙っていたのだろう。

 しかし星菜とて、むざむざとやられて帰っていくつもりはない。既に一矢報いる策は用意していた。

 

(当てるだけで十分なんだよ)

 

 セーフティーバント――ヒッティングの構えを解くなり自己判断でそれを実行した星菜は、内角のストライクゾーンで勝負を決めに来たその一球をコツンとバットに当てた。

 

「なっ……サード!」

 

 ツーストライクと追い込まれた後に行ったそれはもちろんスリーバントとなり、打球がファールゾーンに転がればあえなく三振となる。仕掛けてくる可能性を考えておらず、警戒を緩めていた青葉は僅かに反応が遅れ、勢いを殺されて転がっていく打球の対応をサードに任せた。

 

「捕るなYO! どうせファール……何っ!?」

 

 打球は左に流れており、そのまま三塁線に切れていくと思いきや……寸でのところでピタリと動きを止めた。星菜のセーフティースリーバントは、フェアゾーンに留まったのである。

 

「フェア!」

「くっそマジかYO!」

 

 スリーバントの失敗を狙ってサードはわざと捕球を見送ったが、それは判断ミスとなった。球審からフェアが判定された頃には時既に遅く、星菜の足は一塁ベースを駆け抜けていた。

 

(よし、ヒットヒット~)

 

 してやったりと言わんばかりの悪戯っぽい表情を浮かべながら、星菜は狙い通りのバントが決まったことを心の中で喜ぶ。

 半分以上まぐれのようなものだが、ヒットはヒットだ。これも野球の面白さだと、星菜は今一度それを感じていた。

 

 

 

 

 






 参考までに本作のMIYABI氏の能力を。

 
 右投両打

 ポジション 遊撃手

 弾道3
 ミート S
 パワー D
 走力 B
 肩力 D
 守備力 S
 エラー回避 S

 広角打法 安打製造機 盗塁4 走塁4 芸術的流し打ち 大番狂わせ ムード×
 威圧感 チャンス5 固め打ち 魔術師 ストライク送球 対エース○ 孤高 星菜病末期

 備考:持ち味のサヨナラ男を失った代わりに色んな能力を身に着けたスーパーチート。現時点では作中最強の打者です。

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