ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

6 / 49

風邪を拗らせ、数日寝込んでいたアゴンです。
皆さんも風邪には気を付けましょう。


5撃目 聖剣

 

 

 

 ────翌日。あれから特に変わった事もなく、アオヤマはいつもと同じ、日常の一日を送っていた。

 

いつもの授業、いつものHR、いつもの放課後。昨夜の出来事がまるで嘘の様に思われる変わり映えのない一日。

 

今日は帰ったらカレーにしよう。アオヤマは今日がスーパーの特売日だという事を思い出し、ノートを鞄の中へと仕舞い、いざスーパーへ向かおうとするが……。

 

「貴方がアオヤマ君ですわね? 初めまして、私は姫島朱乃。オカルト研究部の部長のリアス=グレモリーの遣いで貴方を呼びに来ました」

 

出入り口で待ちかまえていた二大お姉さまの一角、姫島朱乃によってその行く手を遮られてしまう。

 

普段、なんの接点もないアオヤマと姫島朱乃が向き合う事で、辺りは唖然となり、静まり返る。

 

 本当なら早くスーパーに行って安売りされている材料を買いに行きたいアオヤマだが、彼女達に聞きたいことがあるのもまた事実。

 

溜息と共にスーパーに行くのを諦めるアオヤマだが……一言、目の前の美少女に対して言うことが出来た。

 

アオヤマは肩に指した鞄をかけ直し、真剣な眼差しで姫島朱乃を見つめると……。

 

「いや、この間話したよな。主に委員会の時に」

 

アオヤマと姫島朱乃は共に委員会に所属。その時委員会の集まりの時でお互い面と向かって話しているのをアオヤマは覚えている。つい三日程前だ。

 

そんなアオヤマの返しに、姫島朱乃は笑顔のまま固まり。

 

「───では、こちらに。ついてきて下さい」

 

「おい」

 

やはりなかった事にする姫島朱乃に、アオヤマは自身の存在が髪と共に薄くなったのではないかと、割と本気で心配するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧校舎。現在使われている校舎の裏手にある森林に囲まれた場所にソレはあった。

 

表から見る分には古めかしい雰囲気を漂わせているが、いざ中に入ってしまえばその印象は変わるもの。

 

旧校舎といっても全く放置されている訳ではなく、管理者の手によってキチンと管理されている為か、木材で造られていながら老朽化されていない内側にアオヤマは「ほぇ~」と気の抜けた声を出してしまう。

 

外から見ていただけに中に入ったのは初めだから、アオヤマは物珍しさにキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「着きましたわ」

 

立ち止まった朱乃に言われ、アオヤマは視線を前に戻す。目の前には部屋に続くだろう扉があり、クラス名を表す札には“オカルト研究部”と書かれてあった。

 

ニコニコ顔で入って下さいと語りかけてくる朱乃を後目にアオヤマは扉を開けて中へと進むと……。

 

「ならば、我が剣に斬られるといい。悪魔に堕ちても尚我等の主に縋るのなら、それで主もお許しになられるだろう」

 

「ふざっけんな! アーシアの気持ちを踏みにじって勝手な事ばかり言いやがって!」

 

 見慣れぬ二人の少女、その内の一人が留学生の金髪美少女に剣を突き立て、それをエロ三銃士の一人である兵藤一誠が金髪美少女────アーシアの前に立って庇っている。

 

何やら修羅場っぽい雰囲気だが、アオヤマの存在に気付くと、部屋の一番奥のテーブルに座るリアス=グレモリーが溜息と共に立ち上がる。

 

「待っていたわアオヤマ君。そしてごめんなさい。いきなりこんな場面を見せてしまって……」

 

「別にいいけど……誰、この人達? アンタ等の知り合い?」

 

訝しげに首を傾げるアオヤマにリアスは違うと首を横に振る。

 

「彼女達は教会から派遣された聖剣使いよ。二人はある目的の為にこの街に来たのだけれど……」

 

「リアス=グレモリー。彼は?」

 

アーシアに剣を突き付けたまま、青髪に緑のメッシュが入った少女が現れたアオヤマに付いて説明を求める。どうやら状況は予想していた以上にゴタ付いているようだ。

 

「彼はアオヤマ君。先程言ったフリード・セルゼンを倒した人間よ」

 

「成る程。貴方が例の……では、貴方には感謝しなければなりませんね。彼ははぐれ退魔師として教会側も問題視されていた者でしたから……」

 

「はぁ、……どう致しまして」

 

リアスと青髪少女の会話に付いていけず、ただ返事を返すだけのアオヤマ。見た目は外人らしいが、それにしては日本語か上手だなとか、いい加減剣を降ろしてやれよ等のどうでもいい感想を抱いていると……。

 

「それと、いい加減に剣を降ろして貰えないかしら? アーシアは私の下僕よ。流石にこれ以上好き勝手されたら……私も、黙ってはいられないわ」

 

丁寧な口調ではあるものの、そこに確かな怒りを含ませたリアス言葉に青髪少女の眉間に皺が寄る。

 

(イヤイヤイヤ、何人前で剣呑な雰囲気作り出してんのよアンタら。そしてリアス=グレモリー、お前は俺に説明をしに呼び出したんじゃねぇのかよ)

 

呼び出された側であるアオヤマとしては目の前の緊迫した雰囲気を醸し出す両人に戸惑わずにはいられない。

 

(というか、サラッと聞き流したが今金髪少女を下僕呼ばわりしなかったか? グレモリーってそう言う趣味だったのか……)

 

リアス=グレモリーの特殊な性癖に愕然とするアオヤマ。目の前の緊迫した空気など気にもとめず、一人場違いな事を考えていると……。

 

「ま、確かに私が口出しする言われはないな。嘗て同じ組織に身を置いていた私としては慈悲のつもりだったのだが……」

 

やれやれと肩を竦め、漸く剣を降ろした事でその場の緊迫した空気が一度弛む。一誠の方は言いたい事があるのか、剣呑な表情で青髪少女を睨みつけている。

 

他の面々もそうなのか、案内役の姫島朱乃も険しい表情で二人を見つめ、白髪の小柄な少女も注意深く観察している。

 

中でも一際目立っているのが殺気立った空気を纏う学園一のイケメン、木場裕斗の存在だ。今にも斬り掛かりそうな鋭い目で二人の少女を射抜く様は、差し詰め手負いの獣のよう。

 

(学園一のイケメンに二大お姉さま、話題の留学生にマスコットで知られる塔条にトドメはエロで評判の兵藤一誠。ホントにコイツ等全員悪魔なのか?)

 

一人、そんな事を考えているアオヤマ。すると、今まで睨むだけだったイケメンこと木場裕斗が不敵な笑みを浮かべて一歩前に出る。

 

「慈悲だって? 成る程、流石は理不尽な神に仕える者達だ。言うことが違う」

 

「……そういう貴様は何なんだ? 見たところ、我々に対し憎んでいるようだが?」

 

「……僕は、君達の先輩さ。不良品の、ね」

 

 

 明確過ぎる殺意と共に、木場裕斗の頬が吊り上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、どういう訳か試合をする事になった青髪少女と木場裕斗は、場所を旧校舎の裏庭に移し。それぞれに剣をもって互いに相対していた。

 

向こうにはもう一人の聖剣使いであるツインテ少女と兵藤一誠が向かい合ってるし、一人巻き込まれた感のあるアオヤマは眉を寄せて 不機嫌さを露わにしていた。

 

「なぁ、なんで俺までここにいなくちゃなんねぇの? 俺関係ないよね? 部外者だよね?」

 

「ごめんなさいアオヤマ君。けど貴方が倒したフリード・セルゼンは元々教会側───つまり、神側の人間なの。だから……」

 

「倒した俺からも話が聞きたいって事か? 別に誰だっていいじゃん。お前等が倒した事にすればいいじゃん」

 

「そうもいかないから、貴方を呼び出したのよ」

 

 隣にいるリアスに諭され、仕方なくここにいる事にするアオヤマ。目の前では既に木場と青髪少女の剣戟が始まっている。

 

「で、話は戻るけどその“はぐれ”ってのが人間を襲う悪魔であり、お前等とは違うんだな?」

 

「少なくとも、私達はそうよ。私達悪魔は人間の欲を糧にしているの。確かに願いを叶える際、人によっては魂を賭ける事もあるけれど……大抵の人間はそんな選択はしないしね」

 

「ふーん」

 

リアスの答えにアオヤマは半分聞き流しながら納得する。リアス達悪魔と呼ばれる種族は嘗ての大戦でその数を激減し、今では人間を悪魔に転生させたりしながら細々と生き長らえて来たらしい。

 

“はぐれ悪魔”とはそんな転生した悪魔が欲望を増幅させ、主の元から離れて野生化したモノ。即ち、所謂野良悪魔の事である。

 

転生させたのならしっかり管理しとけよ。と、言いたいのが本音ではあるが、アオヤマ自身も野良悪魔を倒した事で自分の強さを実感していた時期があったから強くは言えない。

 

 そして大戦とは古の時代に行われた戦争の総称であり天使、悪魔、堕天使の三陣営が世界の覇権を賭けて争っていた事である。

 

まぁその辺の事情は完全にアオヤマの対象外であるため、聞かされながらも本人は相槌を打つだけで聞き流していたが……。

 

「「きゃぁぁぁぁっ!!」」

 

「あん?」

 

向こうから聞こえてくる悲鳴に振り向くと、何故か裸のままの女性二人が屈んでいた。そしてその側には呆然と立ち尽くす兵藤一誠。

 

何やら言い訳らしい事を言っているみたいだが……あ、塔条小猫にブン殴られた。

 

「何やってんだアイツ?」

 

「あの子ってばまた……」

 

隣でリアスも呆れたように顔を手で覆っている。アオヤマはなるべく全裸となった二人を見ないよう注意し、視線をイケメンと青髪少女に戻す。

 

その時だ。

 

「────うん?」

 

何かに気付いたのか、アオヤマは二人の挙動を見てその普段は惚けた表情引き締め

 

「所でアオヤマ君。貴方は以前からはぐれ悪魔を狩っていたそうだけど────あら?」

 

リアスが振り向いた頃には─────

 

「アオヤマ……君?」

 

アオヤマはその姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に仇とも呼べる存在がいる。

 

教会から派遣された聖剣使いのゼノヴィア? 確かに僕は教会の人間はすべからく憎んではいるが、自制が効く程度には自粛している。

 

僕をここまで憎しみに駆らせるのはゼノヴィアが持つ聖剣……“エクスカリバー”だ。

 

その存在がある限り、僕の復讐は終わらない。それを砕かない限り、僕の憎しみは止まらない。

 

「さぁ、これで15本目だ。どうする? まだやるか?」

 

「当たり前だ!」

 

聖剣を肩に担いだゼノヴィアに怒鳴る様に返す。冷静になれ。そんな言葉が脳裏を過ぎるが、憎しみ彩られた自分の思考にすぐに消されてしまう。

 

既に僕の神器によって生み出された魔剣を砕かれるのはこれで15本。

 

小手先ではダメだ。幾ら元々は一度砕かれた聖剣と言ってもアレは正真正銘本物の聖剣だ。小細工ではどんなに魔剣を量産してもアレには届かない。────ならば!

 

「君の聖剣と僕の魔剣、どっちの力が強いか勝負だ!」

 

全身の力を込めて、手元に魔剣を生成する。僕の手に握られたのは従来使われる片手剣ではなく、パワーに特化した両手剣だ。

 

これなら聖剣の力にも対抗できる筈。僕は剣を両手に握りしめ、地面を蹴り、ゼノヴィアへと肉迫するが……。

 

「やれやれ、それでは落第だぞ。リアス=グレモリーの騎士よ。破壊に特化した聖剣相手に真っ向から力任せに挑んでどうする」

 

そんな、溜息混じりの声と共に一閃。横凪に放たれた剣戟によって、僕の渾身を込めて作り出した魔剣が……呆気なく砕かれてしまった。

 

「っ! おい、何を呆けている。避けろ!」

 

ゼノヴィアの声が聞こえる……何か言っているだろう彼女の言葉には僕の耳には届かなかった。

 

渾身の力で込めたにも関わらず、たった一振りで砕かれたのだ。呆然となる僕の思考には誰の声も届きはしないだろう。

 

眼前に迫る聖剣の刃。それを前にした時、僕の生もここで終わるのか……そう思った矢先。

 

「はいストップ」

 

目の前の手によって、聖剣の刃は止められていた。

 

「──────え?」

 

呆然となるゼノヴィア。普段の刃の様に凛々しい表情はどこへやら、惚けたその時の彼女の顔はどこにでもいる普通の女学生に思えた。

 

だが、それは当然の事。何せ目の前にはハゲ頭の生徒、アオヤマ先輩が素手で聖剣を止めていたのだ。

 

聖剣を素手で止めただけでも信じられないと言うのに、このアオヤマ先輩は何の前振りもなく突然僕達の間に立っていたのだ。

 

割って入った所など、誰も気付きはせずに……。

 

それを証拠に辺りを見渡していたリアス部長がアオヤマ先輩を見ると目を大きく開かせて呆然としていたし、向こうで小猫ちゃん殴られているイッセー君や彼の幼なじみで聖剣使いの紫藤イリナも、目の前の光景に固まってしまっている。

 

そんな凍り付いた僕達をお構いなしに、アオヤマ先輩は深々と溜息を吐き出し。

 

「お前等なぁ、喧嘩をするならもちっと周りの事も考えろよ? 事情はよく解らんが、暴れるのは良くないからな」

 

それだけを言い残し、彼は何事も無かったようにその場を後にする。

 

残された僕達はその後、彼が立ち去った後に気まずい空気のまま、解散となった。

 

はぐれ悪魔を狩っていたただの人間……アオヤマ先輩。

 

彼は、一体何なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、やっぱり特売品売り切れてたか。まぁ仕方ないよな」

 

 手元にぶら下がったスーパーの買い物袋を見て、アオヤマは一人後悔する。

 

袋に入っているのは半額と書かれたシールの張った弁当のみ。しかもこれを手に入れようとするといきなり他の客が殴りかかってきた時は驚いた。

 

普段買い慣れた店でまさか殴られるとは思っておらず、多少苛ついていた所為もあってその時は襲いかかってきた客を全員天井に突き刺してしまった。

 

他にも他校の生徒が別の半額弁当を賭けて乱闘していたが……流行っているのだろうか?

 

まぁ、それはそれとして、結局特売品を買うことも出来ず、今夜は半額弁当だけかと嘆いていると……。

 

「あ、アオヤマ君。おかえりなさいだにょ。今お帰りにょ?」

 

アパートへと辿り着き、自分の部屋の扉を開こうとしたとき、隣から聞き慣れた口調と共に筋肉巨体の漢女が現れた。

 

「おー、ミルたん。ただいま。いや今日は学校で呼び出しを食らってさぁ、特売品が買えずに半額弁当しか買えなかったんだよ」

 

ハハハと、乾いた笑みがこぼれてくる。ホント、なんで今日はワザワザ悪魔の呼び出しに応じたのだろう?

 

やはり悪魔とはいえ、美女に呼び出されると気持ちが浮いてしまっていたのか? そんな自問を内心で唱えていると。

 

「それなら調度いいにょ。ミルたんその特売で多く買いすぎちゃったから、お裾分けするにょ」

 

「え? いいの?」

 

「アオヤマ君にはお料理教えて貰ったり、ミルたんの欲しかったフィギュアを買ってきてくれたり、色々お世話になってるからコレくらいはさせて欲しいにょ」

 

そう言って満面の笑顔を浮かべるミルたんに……。

 

「……ミルたん。魔法少女じゃなくて天使って名乗ったら?」

 

割と本気でそう思った。

 

 




本作品におけるヒロインはミルたんに決定!?(震え声)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。