拙い文章ですが、宜しくお願いします。
自らを悪魔と名乗る怪物をワンパンで片付けて早数日。若くして禿げてしまった頭が特徴の高校生、アオヤマは憂鬱な表情で今日も学校に登校する。
変わりない日常だ。別に劇的な変化を求めてはいないが、それでこうも同じ日々が続いては多少の刺激が欲しくなるモノ。
あの悪魔と名乗る怪物を何時もと同じ要領で一撃で粉砕してしまったアオヤマは激しい後悔と共に落胆した。
何せ悪魔と名乗った割にはやけに脆かったし、アレではこの間のドラゴンと大した変わりはないからだ。
(けれど待てよ? アレが悪魔だって言うなら今まで俺が倒してきた怪物は……何だったんだ?)
三年前、強くなる為にトレーニングを初めて3ヶ月を経った頃に其奴は現れた。
鋭い爪、鋭い牙、ライオンの顔をした如何にも化け物の姿をした異形の存在にアオヤマは畏怖と同時に高揚した。
思えばあの時が初めて自分が強くなり始めた実感を覚えた瞬間でもあった。飛び交う爪の斬撃を避けながら拳を叩き込む……ギリギリの死闘。
そんな戦いを一晩中続き、朝日が昇ると共にボロボロになりながらも初勝利の雄叫びを上げている自分の姿と光景は今でも鮮明に思い出せる。
(そういや、あの頃はまだ“毛”があったよな)
思い出した嘗ての在りし日。その時にはあった自分の財産も同時に思い出したアオヤマは、毛の無くなった自分の頭皮を慰めるように撫でる。
……話が逸れた。確かそれからだった。時たまにランニングの途中に怪物に出会って戦い、命懸けのデスマッチを繰り広げたのは。
今思うと確かに戦ったどの怪物達にも皆似たような翼を生やしていたような気がする。
ここ最近はあまり印象に残らない怪物ばかりだったので、古い記憶の物ばかりだが、まだ自分が弱かっただけに苦戦を強いられた相手ばかりだったので思い出すには容易かった。
そして、その記憶にある殆どの怪物が同じ翼をしている事を思い出すと、アオヤマは納得したように手を叩き。
「なんだ。俺、前から悪魔と戦ってるじゃん」
と、思い出したと同時に再び落胆の溜息を零した。何せ今までどこぞの戦闘員の下っ端だと思われていた怪物達があの悪魔だったのだ。
先日夢で見た悪魔に対して二重の意味で期待していただけに、アオヤマの落胆は前以上に酷くなっている。
(はぁ……まぁ、別に強い奴と手当たり次第戦いたい訳じゃないから、そんな気にしないけどさ)
アオヤマにとって大切なのは“強いヒーロー”であること。しかし、その強さに至ってしまったアオヤマは達成感による充実感よりも自身の中にある何かが抜け落ちてしまったのではないかという喪失感に苛まれていた。
このままではいずれ、自分の大事な物が抜け落ちてしまうのではないかと、そう静かに危惧しながら、アオヤマは今日も駒王学園の門を潜る。
(どうか、せめて一発で終わらない相手と巡り会えますように)
そんな、届きもしない祈りを込めて今日も変わらない一日を送る。
◇
(結局、何も変わりなかったな)
そんなこんなで放課後。特に大きな変化もなく、授業はいつも通りに行われ、帰りのHRも滞りなく終了した。
ただ、少しだけいつもと違う風景があった。それはいつも旧校舎に入り浸っていたオカルト研究部の連中が、新たに二人も新入部員を増やして明日の球技大会の練習をしていた事だ。
しかも片方は先日転入してきたばかりの留学生だ。長い金髪を揺らしながら賢明に部活動に励む彼女の姿は遠巻きに見ながらも癒される。
そしてもう片方の新入部員だが……これもある意味では意外だった。何せオカルト研究部には学園の象徴とも呼べる美少女、“二大お姉さま”が存在している。
そんな彼女達の下にエロスの権化と悪名高い二年の男子、兵藤一誠が在籍しているのだ。噂になり、アオヤマの耳にも入ってくるのも当然と言えた。
周囲から聞かされる噂話では、二大お姉さまである姫島朱乃とリアス=グレモリーが何らかの弱みを握られているからとか、女子部員全員をその毒牙に掛けているとか色々耳にしているが、どれもこれも憶測から抜け出せないものばかり。
アオヤマ自身もオカルト研究部の連中とは殆ど顔も合わせたことが無いので何とも言えないが……まぁ、人の趣味はそれぞれである。リアス=グレモリーがどんな変わり者だろうとアオヤマには関係の無い話である。
「いいなぁ、綺麗な金髪。俺も染めようかな? ─────髪、ないけどね」
などと、誰も聞いていない自虐ネタに自ら傷付きながら、アオヤマは変わらぬ下校道を往く。
◇
「ただいまーっと」
基本、親しい友人のいないアオヤマは特に途中で寄り道せず、模範生とのように自宅へ帰宅する。基本的に帰宅部であるアオヤマは明日に控えた部活対抗の球技大会には出場せず、クラスの個人戦にしか出ないため、放課後の練習にも参加せず、基本的には自由気ままな生活を送っていた。
そういえば、借りてきたDVDをまだ見てなかったな。そんな事を考えながら部屋のドアノブに手を伸ばすと────。
「あ、アオヤマ君。お帰りなさいだにょ」
「おー、ミルたん。何だ? 今日も魔法探しの続きか?」
隣の部屋の扉が開き、姿を現したのはいい感じに肌を焼いたコスプレ姿の巨漢。通称───ミルたんと呼ばれる漢……否、漢女が顔を覗かせていた。
「違うみょん。今日は悪魔さんが来る日だから魔法探しはお休みだみょん。アオヤマ君はこの後暇にょ?」
「ん? まぁ暇っちゃ暇だが……」
「ならこの後、一緒にミルたんの上映会をするから一緒に見るみょん! コレを見て一緒に魔法についての見識を広めるにょ!」
(寧ろ、お前の存在自体が魔法みたいなもんだろうが)
と、内心口悪くそんな事を考えるが、隣人であるミルたん(本名不明)とはこのアパートに引っ越して以来、時折世話になっているアオヤマにとって数少ない友人である。
トレーニングに励み過ぎた為、留年の危機に瀕した時も生徒会の会長(当時役員)の彼女や目の前のミルたんの世話になったのは既に一度や二度ではない。
ただ、ミルたんには少々特殊な趣味があるために時々ミルたんの言う異世界に連れられたのは記憶に新しい。
確か、最初に連れて行かれたのは一年の最後。冬休みの間に行った世界はフロ何とかと言う獣人が生息する世界だった。
戦争という名のスポーツゲームが盛んな世界だったが、ミルたんがその世界に降り立った途端にゲームがマジもんの戦争になったのはアオヤマにとっても予想外の出来事だった。
何せミルたんが魔法という名の肉体言語のお陰で戦場には血の雨が降り、辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図になったのは今でも覚えている。
あの時の怯えた獣人達の眼は、いつまでもアオヤマの脳裏から離れる事はないだろう。まぁ、アオヤマ自身もとある国の大層貴重な斧とかを誤って砕いていたりするのだから人の事は言えないが……。
と、ミルたんとの冒険を思い出す一方、この後にやることを思い出したアオヤマは申し訳なさそうにミルたんの申し出を断った。
「あー、悪い。そういや俺借りてたDVDを見なきゃならなかったんだ。しかも今日まで、急いで見なきゃいけないから……」
「むぅ、それなら仕方ないにょ。ミルたんの上映会はミルたんと悪魔さんで楽しむとするにょ」
「そうしてくれ、今度お詫びも兼ねて肉じゃがご馳走してやるから、そん時一緒に見ような」
「わーい! アオヤマ君の肉じゃが美味しいからミルたんの好物だみょん! その時を楽しみにしてるにょ!」
そう言うとミルたんは両手を広げて自室へと戻っていく。そんな光景にやれやれと肩を竦めながらアオヤマもまた自室へと戻るのだった。
「──ん? そういや、ミルたんの奴、悪魔と見るって言ったか? ……まぁ、いいか」
今更、悪魔程度でミルたんは倒せないと知っているアオヤマは、借りたDVDを消化する為、今度こそ自室に戻るのだった。
◇
──────夜。魔の者がその動きを活発化させる時間帯。
いつもの日課でパトロールをしているアオヤマは、序でとばかりに借りてたDVDを返す為に、レンタルビデオ店に向けて歩みを進めていた。
「いやー、意外と面白かったな。“ドラグ・ソボール~GOD&GOD”は、話題になるだけの事はあった」
借りたDVDの感想を口にしながら、アオヤマは一人人気のない道を往く。
ドラグ・ソボールは大人から子供まで幅広く楽しまれ、愛される世界的有名な漫画である為、その人気は連載終了から十数年経過した今でも、人々の間で語り継げられている。
その衰えぬ人気で半年前、遂に新劇場版が公開。人々はその話題に大いに盛り上がった。
ただ残念な事に、当時のアオヤマはミルたんと共に異世界巡りに付き合っていた為に銀幕で見ることは叶わなかった。
またその時二人が訪れた世界は魔法が存在する世界で貴族やら平民やら虚無やらが主な世界だったのだが……長くなるので省略する事になる。
「いいよなぁ。空孫悟は、あんな熱い台詞が言えるなんて、ヒーローしてるよなぁ」
画面の向こう側に映るヒーロー。それは今もアオヤマが思い描き、そして目指している偶像。それらは全て造られたものだと理解していながら、アオヤマはそれに憧れ続けている。
「あんな熱い台詞、俺もいつかそんな事が言える場面に出くわせるかなぁ」
そんな夢を幻視しながら、アオヤマは次の角を曲がる。
そして次の瞬間。
『────あ?』
「ん?」
アオヤマの日常は急激に変化する。目の前の“聖剣”を手にした白髪の神父の登場と共に─────。
ミルたんの語尾は“みょん”であってますかね?
それとも“ニョン”?
フリード神父って原作では悪魔の能力で日本語のように聞こえてましたけど、実際は何語だったんだろう?
英語? それともフランス語?
皆さんは何か知ってますか?