ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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今回はほぼタイトル詐欺になる……かも。


31撃目 ヒーローと無限 接触

 

 

「明日のレーティングゲームの試合に招待されて欲しいだぁ?」

 

 アオヤマがアパートからマンションにランクアップした新居で過ごして数日。補習の課題も終わり、新学期が進むと同時に漸く今の日常に慣れてきた頃、自室にてアザゼルからの急な連絡にアオヤマは面食らっていた。

 

『いやな、明日は以前から予定されていたリアスとディオドラのレーティングゲームの試合があってよ。オーディンの爺がもう一度お前に会いたいと言ってきたんだよ』

 

「あの爺さんが? なんだってまた……」

 

『お前さんの巨大隕石の破壊について色々聞きたい事があるんだとよ。お前の力の源に興味津々でこっちが幾ら言っても聞かねぇんだ』

 

「聞きたい事も何も、ただブン殴って壊したとしか言えねぇよ。つうか、用があるんだったらそっちから来いよ。明日スーパーの特売があって忙しいんだけど?」

 

北欧の神の呼び掛けよりもスーパーの特売を優先するアオヤマ。その神すら恐れぬ物言いと態度にアザゼルの苦笑いが携帯の電話越しから聞こえてくる。

 

『まぁそう言うなって、もしコッチに顔出してくれるのなら、此方も相応な持て成しで応えてやるよ』

 

「相応なって……例えば?」

 

『純日本国産の黒毛和牛』

 

ピクリ。携帯を手にしたアオヤマの手が震える。

 

『それだけじゃあないぞ。伊勢エビを中心とした海鮮物を始め、旬の海山の幸がお前さんを待っている。他にも希望があれば可能な限り応える準備が此方にはある。どうだ? これでもこれないと言うのかよ?』

 

「良いだろう。その罠、まんまとはまってやるよ。明日だな? 場所は……分かった。時間通りに向かう。首を洗って待ってやがれ!」

 

そう言ってアオヤマは通話を切り、一人物思いに耽る。相手は堕天使の総督、何らかの思惑を巡らせているのは分かるが、自身はヒーローを称している身、喩え相手の術中に嵌まったと言っても逃げる訳にはいかない。

 

そう、これは堕天使の罠を打ち破る試練。己との戦いとの試練だとアオヤマは断言する。

 

「……デュフ、でゅふふふふふ」

 

故に、この笑いは不敵な笑みが零れたモノ、断じて欲に目が眩んだ訳ではない。……と、アオヤマは一人だけの部屋で一人見苦しい言い訳を考えていた。

 

 

庶民の感性。やはりアオヤマの弱点はその一言に集約されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、学校も終わり日が傾き始めた時間帯、アオヤマは待ち合わせ場所として駅前に来ていた。人通りの多いこの場所で街灯の光を頭部に反射させながら、ひたすら待ち続けるアオヤマの姿は本人にそのつもりはないのに……どこか、哀愁さを漂わせていた。

 

「っかしーな。場所はここであってるよな? 時間も十分前に来ていたし、てゆーか既に一時間も経ってるのに誰も来ないってどゆこと? え、なに? もしかして俺からかわれてんの? すっぽかされてんの? 頭が禿げてるからってイジメに来てんの?」

 

時間前と合わせて既に結構な時間が経過しているのに、知り合いが誰一人来はしない。それなりに忍耐に自信があるアオヤマだったが、流石に一時間以上音沙汰なしに放置されれば流石に焦るものがあった。

 

 家を出るときミルたんとすき焼きの約束をした以上、何としても黒毛和牛は手に入れときたい。アオヤマはヒーローだがその前に一人の学生。マトモな金など持ち合わせていない彼にとって、高級品にありつけるなどこの人生数える程しかない。

 

もしこのまま誰も来なく、自分がからかわれているだけだとすれば───。

 

「……アザゼル、潰すか」

 

「そ、それは流石に勘弁して頂きたいんですけど」

 

「んあ?」

 

 食い物の恨みは恐ろしい。戦争に発展しかねない危ない発言するアオヤマに一人の女性が声を掛ける。振り返ってみれば、そこにいたのスーツ姿で銀髪の女性が一人、戸惑った表情で此方を見ている。

 

どこかで見た顔だ。美人で覚えのある顔立ちの女性にアオヤマは目の前の人物が誰だったのか記憶の断片を繋ぎ合わせて思い出す。

 

「え……っと、ろ、ロス───ロスヴァイゼンさんでしたっけ?」

 

「ロスヴァイセです。……本日はお忙しい所、ワザワザ御足労頂き、誠に感謝しております。アオヤマ様」

 

「は、はぁ……」

 

名前を間違えた事に特に関しては特に何も言わないロスヴァイセ、それどころか自分を敬いの対象にするかの様な態度にアオヤマは若干戸惑ってしまう。

 

 そして同時に思い出す。目の前の女性は以前オーディンと一緒にいた戦乙女の一人だったと。

 

というか、アザゼルはどうしたのだろう? 呼び出しておいていつまでも姿を見せない堕天使の総督様を不思議に思うアオヤマ。そしてそのアオヤマの心情を察した様に、ロスヴァイセが今回の経緯を端的に説明した。

 

「アザゼル様は現在オーディン様とポセイドン様のお相手に忙しく、急遽私が代理としてお迎えに上がる事になりました。急な事とは言え、説明もなしに時間に遅れてしまった事を……どうか、お許し下さい」

 

 そう言って頭を下げてくるロスヴァイセに面食らう。自分よりも少し年上の女性に頭を下げさせているのだ。周囲の人達による奇怪の視線がアオヤマを貫き、居たたまれなさを驚異的に加速させている。

 

「あの、お話は分かったんで、どうか頭を上げてくれません? つか俺の心労がマッハでヤバいんで今すぐ頭を上げて下さいお願いします」

 

「は、はい……」

 

アオヤマに言われ、頭を上げるロスヴァイセ。すると周囲の人達の興味も薄れ、集まり出した人垣もすぐさま離散していく。

 

「話は分かったスけど、いいんスか? ロスヴァイセさんもあの爺さんの世話とかで大変なんでしょ?」

 

「いえ、それに付いては心配には及びません。何せこれはオーディン様直々のご命令でもあるのです」

 

「あ、そうなの?」

 

「はい。オーディン様は以前の隕石騒動からずっと貴方様にご執心のご様子で、それはそれは今日の日を楽しみにしていたんですよ? お陰で休日に呼び出されて予定の調節にアチコチ回され、終いには有給を返上して爺の道楽に付き合う始末。……天災か何かでくたばらないかなあの爺」

 

何やら余計なスイッチを押してしまったようだ。ブツブツと独り言を呟き、最後辺りは物騒な事を口走っているロスヴァイセだが、彼女の印象を汚さない為にも、ここは敢えて指摘しない。

 

すると我に返ったロスヴァイセは咳払いをし、先程の丁寧な口調と同様、敬いの態度で案内をする。

 

こうして少しの回り道をしながら、アオヤマはロスヴァイセの案内と共に冥界に繋がるゲートへと向かった。

 

「あの、ロスヴァイセさん。さっきから気になってたんスけど……何故に敬語? 俺は多分ロスヴァイセさんより年下だと思うんスけど。仕事の体面上って奴ですか?」

 

「まさか! 貴方様は世界を救った立役者。そんな救世主と呼べるアオヤマ様を敬うのは当然と呼べます」

 

「……そんな大したもんじゃないんだけどなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転移の陣を抜けてすぐ、アオヤマは目的の人物と出くわす。十二の黒い翼を広げて佇み、学園の教師でアオヤマの悪友になりつつある───堕天使総督、アザゼルがしたり顔で佇んでいた。

 

「よぉアオヤマ、待ってたぜ」

 

「ったく、呼び出ししてきておいて待ち合わせ場所に来ないとか、人としてどうかと思うぞ」

 

「そりゃ俺は堕天使だ。人間じゃねぇ……と、冗談だ冗談。悪かったから機嫌直してくれよ、な?」

 

端から見れば友人同士の会話に見える二人のやりとり。堕天使総督と普通の人間が会話している所を見たら、彼を慕う者は卒倒ものの衝撃を受ける事だろう。

 

 そして謝ってくるアザゼルにアオヤマは嘆息する。最早諦めたのだろう、適当な相手には適当に相手するのが一番かとアオヤマはこの時悟る。

 

「……まぁ俺もおっさんと連れて歩くのは抵抗あるし、ロスヴァイセさんという美女に出迎えて貰ったのは素直に嬉しいと思うさ。けどな」

 

「けど?」

 

「レーティングゲームの観戦室って……こんな殺伐としてたっけ?」

 

「うぉぉぉぉ! くたばれアザゼル!」

 

「今日こそ現魔王を打倒し、我等の主が魔王へと至る為に!」

 

 そこかしこから聞こえてくる殺意の声、その手に魔力を込めた悪魔が突っ込んでくるのを片手で一撃粉砕しながらアオヤマはアザゼルに問いかける。

 

対するアザゼルは苦笑いを浮かべ、襲いかかってくる悪魔を蹴散らしていく。途方もない数の悪魔が囲んでいるというのに、全く意に介さずに蹂躙する二人を見て、案内役のロスヴァイセはアングリと開いた口が閉じれないでいた。

 

そしてその最中、アザゼルから聞かされる現状に付いて説明されると、以下の事が判明した。

 

ディオドラとのレーティングゲーム

しかしそれは禍の団の罠だった!

隙を突かれアーシア拉致。

リアスとその眷属激怒プンプンで追跡

取り敢えず俺達は雑魚を狩ってよう←今ここ!

 

大雑把過ぎる解釈だが、大体あっていると思うので由とする。

 

確かにこれは重大な事件だ。テロリストにまさかの内通者がおり、しかも大量の旧魔王側の悪魔がいることから、どうやら向こうはここを決戦の場としているようだ。

 

テロリストが相手では仕方ない。アオヤマはやはり仕方ないと溜め息を吐くが、その時一つ気掛かりな事が頭に浮かんだ。

 

「……なぁアザゼル。お前さ、本当にこんなことになるなんて予想出来なかったのか?」

 

「……へ?」

 

「いやだって、テロリストの内通者って例のディオ何たらって奴なんでしょ? あんな奴の動向見切れないなんて、あの魔王様方がしでかすとは思えないんだけど……そこん所どうなのよ?」

 

「……………」

 

無言。アオヤマの鋭い指摘にアザゼルは何も言わず、ただ誤魔化すように口笛を吹く。その態度に全てを察したアオヤマは、襲いかかる悪魔を粉々に打ち砕き、敵意を以て拳をパキパキと鳴らし始めた。

 

つまりアオヤマは……まんまと利用されたのだ。堕天使の囁きに耳を傾け、その誘惑に取り憑かれてテロリスト掃討の手伝いに繰り出されてしまっていたのだ。

 

テロリストは確かに許されない存在だ。ヒーローとして許してはおけないし見過ごしもしない。だが、それ以上に自分を利用した目の前の堕天使に個人的感情を抑えることもまた出来やしない。

 

アオヤマの周囲の空間が歪む。変わったアオヤマの迫力に囲んでいた悪魔達すら怯んでいる。

 

「アザゼル君。波○ヘッドになる覚悟は出来たかい?」

 

「ま、まままま待てアオヤマ君! 今回の件に付いての元々の提案は俺じゃない! サーゼクスだ! アイツが最初に言いだしたんだ!」

 

「ちょっ! アザゼル! 私を売って自分は悪くないと言い張るつもりか!」

 

 今まで姿は見えなかったが、アザゼルの言い逃れに反応したサーゼクスが周囲の悪魔達を吹き飛ばして間に割って入ってきた。

 

「だってお前言ったじゃん! コイツの力を借りれば旧魔王派とのいざこざも楽に終わらせられるって!」

 

「私が言ったのはあくまで希望だ! 断言しちゃいない! それなのにノリノリでアオヤマ君を巻き込もうと言い出したのは他でもない君だろう!」

 

「へーん! そんな昔な事なんて俺は知らねぇ! 俺はこれから振り返らない男アザゼルとしてデビューするんだい!」

 

 醜い大人の責任の擦り付けあい。そんな現実を前にしてロスヴァイセは悪魔側、堕天使側に対するイメージが完全に砕け散った気がした。

 

そしてアオヤマもこんな二人を相手に本気になって怒った自分がバカバカしくなり、怒気を納め肩で息を吐く。

 

「……はぁ、まぁいいや。兎も角コイツ等をどうにかするまで終われねぇんだろ? だったら手伝うよ。テロリストを相手にするのもヒーローの役目だ」

 

「……ありがとうアオヤマ君。そして、すまなかった」

 

「謝るよりも約束、忘れんなよ。高級食材、アレ楽しみにしてるの俺だけじゃねえんだから」

 

「あぁ、約束するよ」

 

 サーゼクスと約束を交わし、未だに騒がしい戦場の中心地帯に向けて足を進める。取り敢えずリアス達に合流する為に移動するとしよう。

 

「アオヤマ、これ持ってけ」

 

「?」

 

そんな時、背後からアザゼルに声を掛けられて振り返ると、何か布切れのような物が投げ渡される。何かと思い広げて見れば……。

 

「これ、俺のヒーロースーツ。大気圏で燃え尽きた筈じゃ……」

 

「そいつは俺ん所のラボで開発した特殊繊維で構成された特別な代物だ。生半可な衝撃じゃ破れねぇし、燃えもしない。しかも保存も利くという優れ物だ。コイツは餞別としてお前にやるよ」

 

「……いいのか?」

 

「言ったろ。お前さんは世界を救った英雄だ。これぐらいの報酬は当然さ」

 

このヒーロースーツを作るのには多大な労力と金が入りそうだというのに、餞別といって簡単にくれるアザゼルにアオヤマはフッと笑みを浮かべる。

 

「……ったく、何が餞別だ。要するにこのスーツの耐久力を知りたいが為のテストって訳だろ。───上等だ」

 

「見つけたぞハゲマント!」

 

「英雄を気取るガキ共を倒した程度で、いい気になるなよ!」

 

 アオヤマを囲むように全方位から押し寄せてくる悪魔の軍勢。暴力の渦に飲み込まれ、魔力の光に溶けていく彼の姿を見て、ロスヴァイセが息を呑んだ時。

 

「邪魔」

 

ただ一撃、腕を突き出しただけの一撃により、悪魔の軍勢は瞬く間に吹き飛んでいく。その様はまるで悪魔による花火であったと、後にロスヴァイセは語る。

 

そして、悪魔達が吹き飛んだ地点では───。

 

「んじゃ、有り難くこのヒーロースーツは受け取っておくよ」

 

新たなヒーロースーツに身を包む、ヒーローアオヤマがそこにいた。

 

これがアオヤマ、これがヒーロー。勇者とも英雄とも違うその佇まいに、ロスヴァイセは何故か目が離せなかった。

 

そしてヒーローは掛ける。助けを待っている少女を救う為、悪しき存在を倒す為、戦場を一人駆け抜ける。

 

疾風怒濤。進路上に蔓延る悪魔の群を蹴散らす様は正に圧巻の一言。その様子に遠巻きで目撃するオーディンも驚きを隠せず、また今回の騒動に繰り出された龍王タンニーンも言葉を失っていた。

 

戦場の流れが変わった。一人の人間の登場に誰もが恐れ、誰もが驚愕した。

 

だが、次の瞬間。神、魔王を含めた神魔達は更に戦慄する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハゲ、見つけた。我、ここは通さない」

 

瞬間、アオヤマの頭上が煌めき、極大の閃光が戦場を貫いた。

 

 

 

 

 




次回からは本格的なバトルに……なるといいなぁ

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