ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

33 / 49
今回は殆ど話が進まず、会話がメインとなります。


30撃目 なんということでしょう

 

 

 サイラオーグを弟子と認め、転生天使の二人から隕石破壊の功労者として家を直してもらう事を約束して翌日。新学期の二日目、すっかりテント生活に慣れ、今日も一日頑張ろうと登校の支度を整えたアオヤマ。

 

制服に着替え、テントから出た次の瞬間……アオヤマは目の前の光景に呆然となる。

 

「う、おぉぉぉ……」

 

思わず驚きの声が漏れるが、それは仕方ない事だと言える。何せつい昨日まで焼け荒れた木造アパートがたった一晩で新品な新築アパートへと変貌を遂げていたからだ。

 

というか、アパートよりもマンションに近い。綺麗に塗装された外壁と近代化を感じさせる外装、試しに中に入ってみれば自動ドアが稼働しており、ロビーらしき空間の奥にはエレベーターまでもが設置されており、その外観、内装は高級ホテルの様である。

 

もはやどこをどう突っ込めればいいのか分からない。自らをヒーローと自負しているアオヤマだが、感性は一庶民である彼にはショックが大きすぎる事態だった。

 

「お気に召しましたか?」

 

聞き覚えの声に振り返ると、そこには昨日自分の所に訪れた転生天使の二人が佇んでいる。

 

「え、えっと……これ、アンタ等がやったの?」

 

「私達……というより、正確には三大勢力が、ですね。ここは悪魔の土地、リアス=グレモリーが管理している土地なので、周囲の住人の対処には彼女が行い、この建物の建築にはアザゼル様を筆頭に堕天使の皆様が……そして、安全策として我々天使がこのマンションのセキュリティーに手を加えて絶対の防御壁となっています」

 

「は、はぁ……」

 

ドヤ顔で語る転生天使───グリゼルダの説明にアオヤマは間の抜けた返事しか返せなかった。言っていることの半分も理解出来ないでいるアオヤマに浮かんだのは、ある疑問。しかも本人からすれば結構重大な内容だ。

 

「いや、あの……昨日の今日で非常に嬉しいのではあるんですけど、これ、家賃高いんじゃあ……」

 

「へ? そんなのありませんけど?」

 

「は?」

 

アオヤマが最も危惧してきた問題が即答で返される。なんて言われたか理解出来ないでいるアオヤマは先程以上に間の抜けた返事で問い返した。

 

「ですから、貴方に対する家賃は一切発生致しません。他にももう一人住人がいるみたいですが、そのお方にもオマケとして賃金の免除が施されています」

 

「はっ!? い、いやでも……」

 

「貴方様は今や世界を救った英雄。この程度の報酬で手打ちにするには本来あってはならない事なのですが、本人の希望とあっては無碍にもできません。というのが我々三大勢力の気持ちです。アオヤマ様、どうか受け取って下さいまし」

 

何か違う。絶対にどこか間違っている。そう思ってはいても受け取ってくれと頭を下げてくるグリゼルダにアオヤマは言葉が詰まって言い返せない。

 

助けを求める為にグリゼルダの隣にいるデュリオに視線を向けるが、彼も苦笑いを浮かべるだけで口を挟まず静観を決め込んでいる。

 

断りづらい、というか断れない。自分の今の状況、頼れる人もミルたんもいない今、アオヤマは嘗てないほど思考を巡らせ、数秒間悩みに悩み抜いて。

 

「あ、ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」

 

「こちらこそ、ありがとうございます」

 

結局、この自身にはもったいなさ過ぎるマンションを独断で受け取る事になってしまった。自分達の気持ちが受け取って貰えた事に喜ぶグリゼルダに対し、アオヤマの顔は凄まじくゲンナリしていたと後にデュリオは語る。

 

庶民の感性。それがアオヤマの弱点であることは今回の一件で明らかになるのだが、それもデュリオの胸の内にしまって置くことにした。

 

 後に、この事を大家に伝えるアオヤマなのだが、既に大家はアパートの権利を捨て、現在は温泉街のある街で余生を楽しんでいるとのこと。

 

手回しはぇぇ。悪魔の用意周到な手際に若干引いてしまうアオヤマだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉアオヤマ、その様子だと俺達の感謝の気持ちは既に受け取ってくれたみたいだな」

 

「るっせぇよ、朝っぱらから重たいもん押し付けやがって、ビックリして目が覚めちまったよこのヤロー」

 

 昼休み、新校舎の屋上で昼食の焼きそばパンを頬張っていたアオヤマにアザゼルが声を掛ける。その悪戯が成功したようなしてやったりな笑みを浮かべるアザゼルにアオヤマはジト目で言い返す。

 

「つーか、別に俺はそこまで望んでなかったんですけど? 前の様なオンボロアパートで十分だったんですけど? なに家賃免除って? あんな上流家庭が住むような高級マンション、俺の様な庶民には重た過ぎるんですけど?」

 

「いやな、正直俺様もやりすぎだとは思うし、俺自身神器以外にここまでやり込むとは思ってなかったんだ。けどな、図面を引いて建物を構成していく内にドンドンのめり込んでいく自分に気が付いてな、気付いたらこんなんなってた。ま、匠の技って奴だな」

 

「なんということでしょう……なんて言えばいいのかよ? 自重しろよ。アレの所為で俺、近所から白い目で見られるかもしれねぇんだぞ?」

 

「あぁ、その事も心配ねぇさ、お前さんの周辺住民には既に引っ越して貰っている。グリゼルダから聞いたろ? ここの土地はリアス=グレモリーが管理しているって」

 

「登校中、やけに人がいないなと思ったけど……まさか……」

 

「いやー、お金って便利だね♪」

 

 ケラケラと笑うアザゼル。一方でアオヤマは初めて悪魔の恐ろしさを垣間見た様な気がした。

 

ドイツもコイツもやり方が突飛過ぎる。常識を知らない人外達にアオヤマは今朝以上の疲労を感じた。

 

そんなゲンナリした様子のアオヤマにアザゼルはフッと笑みを零し……。

 

「まぁそう腐るな。……実はな、お前さんの家が燃えたと知って一番凹んでいたのはリアスなんだよ」

 

「は? なんで?」

 

「さっきも言ったがリアスはこの街の管理者だ。自分の街に賊が侵入し、知り合いの家に火を放った。責任感も強く、プライドの高いアイツからすれば宣戦布告を言われたも同然だろうよ」

 

「ふーん」

 

「加えてお前さんには自分の眷属を鍛え、導いて貰った借りがある。その借りを返す意味も含めて、今回の件には積極的だったって訳さ」

 

「別に導いたとか、そんなつもりはないんだけどなぁ」

 

 殆ど自分の言いたいことしか言ってないアオヤマとしてはリアスの恩義とか聞かされても戸惑うしかない。土地の管理者とか難しい事は分からないがアオヤマとしてはただやられたからやり返しただけ、より砕いて言ってしまえば喧嘩をしただけなのだ。

 

しかも自分より弱い相手を一方的に……よくよく考えればアレはヒーローにあるまじき行為なのでは? 今更ながらの疑問にアオヤマは人知れず冷や汗を流す。

 

「それとな、今回の件ではお前さんには本当に感謝してるんだ」

 

「あ? 何のこと?」

 

「巨大隕石。今では俺達三大勢力が主軸に破壊されたとしているが、本当の所はお前さんの功績を自分達の物にしているだけ、俺達はお前さんを都合の良い道具に利用しちまった。だから、今回の報酬は俺達の……俺達の詫びのつもりだ。すまん」

 

急に真面目な顔になったと思いきや頭を下げて謝罪してくるアザゼルにアオヤマは面食らうが、アザゼルとしてはそれは罪滅ぼしにもならない自己満足に過ぎなかった。

 

あの巨大隕石は天変地異を引き出す為……即ち世界をリセットする為の引き金であり弾丸だった。それに込められた“神の意思”による奇跡は因果をねじ伏せ、世界に終焉をもたらす代物。

 

北欧や他の神話体系の神々、魔王の力を結集させても通じなかった奇跡を、一人の男によって覆された。

 

改めて言う。この世界が消されなかったのは神でも魔王でもなく、たった一人のヒーローだと言うことを……。

 

 そしてそれによって生まれる新たな火種、巨大隕石の破壊という桁違いの偉業を……アオヤマという存在を世界は危険視しつつあることを、彼自身まだ知らない。

 

近い未来、アオヤマを存在を危惧して過激な行動を取る輩が出てくる事だろう。一つの組織が手を出すのか、それとも世界そのものが彼の敵になるのか……その違いは定かではない。

 

そして三大勢力もそんなアオヤマを守るだけの力など有してはいない。彼等が出来るには今後のアオヤマの人生を少しでも有意義に過ごして貰うだけである。

 

アザゼルが謝罪をするのは、そんな都合の良い自分達に対する戒めでもあった。

 

沈黙が流れる。頭を下げるアザゼルが次に耳にしたのは心底呆れたと言うような深々としたため息だった。

 

「あのさ、前から言ってるんだけど、ドイツもコイツも深く考え過ぎだっての、な~んでたかが石ころ壊しただけでそんなに大袈裟になるかな~?」

 

「…………」

 

「確かにあの隕石は今まで見た中で一番デカかったから驚いたけど、それでもチョロッと本気だしただけで砕けたんだ。アンタ等だってやりようにやったら壊せたんじゃないの?」

 

「いや、それは………」

 

「大体、功績とか偉業とか、そんなのこっちは最初から求めてねーの。ただ俺は自分のやりたい事を、満たしたい欲求があるから拳を奮っただけ。分かる? アンタ等が言ってるのはそんな人間相手に真剣に悩んでるの。ほら、端から見ればバカみたいじゃん」

 

それは違うと、アザゼルは断言出来る。隕石破壊やテロリスト達の制圧、それらは人の趣味の範疇を完全に逸脱したものだ。

 

そんな偉業を暇つぶし、趣味として扱うアオヤマの姿が……アザゼルには何故か酷く歪んで見えた。

 

「ま、今回は有り難く受け取っておくよ。けれど次からは勘弁な、あんまり大きいの貰うと返すの大変だからよ」

 

寧ろ返すな。そんな台詞も言えず、アザゼルは屋上を去っていくアオヤマを見つめ続けた。

 

世界は加速していく。神がいなくとも、その巡りは止まることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───数日後、アオヤマは邂逅する。

 

無限と夢幻、二つの存在に挟まれたヒーローは……世界から弾き出される。

 

 

 

 




次回、無限神龍

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。