ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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今回。結構雑です。


24撃目 ヒーロー対英雄

 

 

 

 英雄派。世界に牙を剥くテロリスト集団、禍の団。それに組みするその一派の者達はその名の通り英雄を先祖に持ち、英雄の魂を受け継ぐ猛者達である。

 

人間でありながら化生達と戦い、打ち勝ち、その名を歴史、或いは神話に刻んだこの星の偉人達。

 

そんな偉大なる英雄を祖に持ち、その英雄と同じ血を宿した英傑達が何故テロリストに組みしているのかは定かではない。

 

そんな彼等が拠点として潜伏しているのは中東、紛争や内紛が耐えない某国の郊外の森の中に存在していた。

 

 森の奥、人も獣も寄り付かない場所で深淵にも似た暗い土地……その地下深く、地の底に根付くように建設されたその基地は差し詰め蟻の巣。地下の奥深くへと続き、洞窟に見立てた人工の通路の先の部屋に彼等はいた。

 

「曹操、先遣隊からの通信が途絶えた。恐らくは……」

 

「やられたか。……分かっていた事とはいえ、早かったな」

 

向かい合う二人の青年。一人は魔術師のような風貌で、その身には紋様の施されたローブを身に纏っている。

 

そしてもう片方のテーブルの置かれ、席に座る……曹操と呼ばれた男は学生服をの上から中国の漢服らしき民族衣装を羽織っている。

 

曹操。嘗て三国志の英雄として知られる男の名を持つこの者こそ、英雄派を束ねている男である。

 

曹操は目の前の魔術師の男──ゲオルグに言った。

 

「恐らくは既にこの場所は突き止めている頃だろ。ゲオルク、人員を集めてすぐにここから発つぞ」

 

「本気か? ここはどの勢力も下手に手を出せない我々はみ出し者の唯一の場所だぞ? それを捨てるなんて……」

 

「既に事態はそんな甘さを許さない。お前も知っているだろ? かのヒーロー様には我々の常識なんて通用しない事を……」

 

曹操の自嘲気味の笑みにゲオルグは冷や汗をかきながらゴクリと生唾を呑み込んだ。

 

アオヤマ。人間の身でありながら堕天使の幹部を葬り、白龍皇を下し、その実力は現魔王と同格以上と噂される規格外の怪物。

 

普通、そこまでの強さを誇るのならば何らかの対処法、つまりは攻略法というものが存在する。最近噂の赤龍帝やその名を全世界に轟かせる魔王、神ですらも僅かであっても必ずどこかに弱点というものが存在している。

 

彼等は英雄だ。喩え可能性が僅かしかなくともそれに賭け、相手を打ち砕き、勝利をもぎ取る覚悟と実力を備えている。

 

だが、相手は人間。本来なら脆弱という人間独自の弱点が存在しているのに、アオヤマにはそれがない。

 

何せ覇龍を纏ったヴァーリの攻撃すら奴には届かなかったのだ。その時点で此方の如何なる攻撃が通用しないことを証明している。

 

そんなふざけた存在を打倒するには、それこそ世界ごと変える“何か”が必要だ。

 

「兎も角、すぐに移動の準備だ。ゲオルク、帝釈天に連絡を、奴の事だ。ヒーローの名を出せば奴も少しは興味を示すだろ────」

 

 その時、曹操が今後の事を手短にゲオルクに伝えようとした途中、突如爆音と衝撃が基地内部の全てに響き渡った。

 

地震かと錯覚するほどの衝撃。しかし揺れはすぐに収まり、安堵した彼等の所に仲間らしき一人の男が部屋の中へと押しはいる。

 

「た、大変だ曹操!」

 

「どうした?」

 

「や、奴が……ハゲが来やがった!」

 

「バカな!? まだ現地の連中に威力偵察の指示をだして数分だぞ! 幾ら何でも早すぎる!」

 

 男の漠然としない状況説明。しかし、彼の言わんとしている事を理解したゲオルクは信じられないと言った表情で言葉を失う。

 

転移魔法陣も使用せず、一体どうやってこの場所へと混乱するゲオルクだが、曹操だけは比較的落ち着いた様子で壁に掛けた槍を手にとって立ち上がる。

 

「……過小評価しているつもりなど無かったが、どうやら俺達はそれでも認識が甘かったらしい」

 

「曹……操?」

 

「決戦だゲオルク。これより、我等は死地に赴いて血路を開く。さぁ、ヒーロー狩りを始めるとしようか」

 

ニヤリと曹操は不敵な笑みを浮かべる。その顔つきに何かを思ったのか、ゲオルグもヤレヤレと肩を竦め……。

 

「あぁ、ヒーローに英雄の矜持を見せつけてやろう」

 

魔術師のマントを翻し、彼の後を追従するように続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、バカな……俺が、こんなハゲ野郎……なんか、に」

 

「ハゲは関係ないだろうが」

 

「そ、そんな、ヘラクレスまで一撃だなんて……」

 

英雄派の基地内部。既にそこへの侵入を果たしたアオヤマは出てきた戦闘部隊と早速遭遇。二人の男女、ヘラクレスとジャンヌと名乗る英雄派の二人に率いられた神器使い達はアオヤマを撃退しようと死に物狂いで攻撃したのだが……。

 

結果は悲惨の一言。此方の攻撃などモノともせず、なのに目の前の男がその拳を一振りする度に仲間が再起不能されていく様を見るのは、彼等に恐怖を与えるのには充分過ぎる光景だった。

 

一人、また一人と倒され、遂にはヘラクレスまでもが禁手化したにも関わらず、アオヤマの繰り出す一撃に為す術なく崩れ落ちた。

 

悪夢。残されたジャンヌは倒れた仲間の屍の山(死んではいない)を目の当たりにし、夢なら醒めてくれと震えながら必死に願った。

 

「つーか、コイツヘラクレスだったの? ヘラクレスと言えば色黒巨漢の岩みたいな剣を持った12回倒さないと死なない奴じゃなかったっけ?」

 

倒れ伏すヘラクレスを訝しげに見つめるアオヤマ、どうする? このまま隙を突いて切りかかるか?

 

なんて考えがジャンヌの頭を過ぎるが……。

 

「さて……」

 

「っ!?」

 

まるで此方の意図を察した様に振り返るアオヤマにジャンヌは戦慄する。殺される! そう覚悟したジャンヌは剣を片手にアオヤマと対峙するが……。

 

「そこのアンタ、悪いけどコイツ等を看てやってくれ。一応死なないよう手は抜いたから、そんな大した怪我じゃ無いはずだ」

 

「………え?」

 

その言葉に意外だとジャンヌは目を丸くさせる。あれだけの力を見せつけながら誰一人殺していない事実もそうだが、この男の殺し殺される戦いの最中でも相手を気遣う余裕ぶりに、ジャンヌは言いし難い悪寒を感じた。

 

この男にとっては、先程までの戦いは戦いと呼べない遊戯だとでもいうのか。

 

悔しい。けれど、言い返す度胸も切りかかる覚悟も無くしてしまったジャンヌは、アオヤマの言われるがままに倒れた仲間達の所へと駆け寄っていく。

 

そんな彼女の背中を見送り、アオヤマは再び奥へと進む。

 

「さて、と。これで一通りここの連中は倒したかな? そろそろボスが出てきても良い頃だと思───うん?」

 

 アオヤマの足が止まる。ふと気が付けば、周囲には地下には有り得る筈のない濃い霧が、アオヤマを包み込むように充満している。

 

なんだ? アオヤマが疑問に感じたと同時に霧は晴れ、周囲の景色が見え始めた時。

 

「キシャァァァァァアッ!!」

 

十の目、二つの口、触手や複数の腕を持った異形の怪物が、数百にも渡る凄まじい数となってアオヤマに全方向から襲いかかってきた。

 

視界が晴れたと同時の奇襲。それを前にアオヤマは僅かに驚くが、瞬時にその惚けた表情を引き締め、拳を脇に寄せ───。

 

「連続・普通のパンチ!」

 

機関銃の如く撃ち出されるアオヤマの拳が、周囲を囲んでいた怪物達を瞬時に消し飛ばしていく。

 

残された怪物達は感情など有る筈もないのに、ピタリと一瞬行動が停止してしまう。そんな彼等の事などお構い無しにアオヤマ次々と拳を放ち、怪物達を瞬く間に屠っていく。

 

一通り倒し尽くした後、アオヤマは辺りを見渡すとその光景に呆気になる。

 

「俺……いつの間に外に出たんだ?」

 

何故なら、今自分がいるのは広々としながらも薄暗い洞窟ではなく、晴天の青空の下にいるのだから。

 

しかも目の前にそびえ立つのは東京スカイツリー、そして周囲には天高く築かれた摩天楼。そう、今アオヤマのいる場所は紛れもない東京の一場面だ。

 

 ────地上処か飛行機にすら乗った記憶のないアオヤマは目の前の光景に呆気に取られ、軽く混乱する。否、それよりも気にすべき問題点がこの時浮上した。

 

「……そういや、俺パスポート持ってねぇや。あれ? もしかして俺、バリバリ不法侵入国者?」

 

今更ながらの疑問。どんなに力が強くても感性は庶民のアオヤマは無断で他国に侵入した事実に遅ればせながら冷や汗を掻き始めた。

 

霧の事や目の前の光景を目の当たりにしながら、そんな庶民的な思考が出来るアオヤマは、色んな意味で残念だった。

 

「まさか、この光景を前にそんな台詞を吐けるとは……呑気なのか、はたまた大物なのか、見当がつかないな」

 

「?」

 

「しかし、レオナルドが創造したあれだけの魔獣を瞬く間に葬るとは、その点は流石と言うべきかな? “ヒーロー”アオヤマ」

 

声のする方に振り返れば、槍を携えた男が二人の男性を付き従わせるように佇んでいる。レオナルドというのはアオヤマから見て右隣にいる男児の事なのだろう。感情のないその表情から、まるで人形を見ている気分になってしまう。

 

「お前が英雄派のボスか? なんか思ってたよりも若いな」

 

「フフ、髭の生えた大魔王でも期待したのかな? だとしたら済まない。……俺の名は曹操。こっちの魔術師被れがゲオルクでこの少年がレオナルドだ」

 

「自己紹介する所悪いけどさ、俺こう見えても結構頭にキてるんだわ。人の住む所を燃やしやがって、夏の課題どうしてくれる! 折角三日完徹したのに灰になっちゃったよ! 補習確定だぞこの野郎!」

 

 曹操の丁寧な自己紹介に構わず、アオヤマは鬱憤をまき散らすように叫ぶ。幾らヒーローとはいえ彼も学生。折角終わらせた課題が灰と化すればそのダメージは計り知れない。それが他者の意図が関わってきているのであれば尚更だ。

 

「成る程、流石コカビエルを始めとした数ある猛者を沈めてきたヒーローだ。我々とは感性からして異なっているようだ」

 

しかし、そんなアオヤマの訴えもどこ吹く風。さして気にする様子もない曹操の態度にアオヤマ額に青筋が浮かぶ。

 

上等だ。拳に力を込め、そのイケメン顔をブサメンに整形してやる。そう意気込んでアオヤマが一歩踏み出した……その時。

 

「ヌンッ!」

 

「!」

 

頭上から突如現れる人影、何だと思い見上げれば、そこには大剣を振り上げた青年がアオヤマに向けて振り下ろしていた。

 

爆散。斬るというより叩きつける勢いで振り下ろされたソレは地面を砕き、砂塵を巻き上げ、陥没した地面に瓦礫が積み重なっていく。

 

すると、舞い上がる砂塵の中から一つの影が飛び出し、曹操の隣に立つ。

 

「どうだジーク、手応えはあったか?」

 

「……いや、残念ながら掠り傷一つ付けられなかった。見ろ、魔剣の一つ、ディルヴィングがこのザマだ」

 

ジークと呼ばれた青年が自嘲の笑みと共に手を曹操の前に突き出すと、柄から先が粉々に砕けた魔剣の残骸があった。

 

「奴の身体は一体何で出来ている? 服自体は大した素材で出来てはいないようですぐに切れたが、問題はその下だ。奴の肌に触れた瞬間、硬い何かに当たった瞬間砕けたぞ」

 

冷や汗を滝の如く流すジーク。その様子ではアオヤマに切りかかった時、余程の圧を感じ取ったのだろう。彼の顔色には明らかに疲弊の色が濃く滲み出ている。

 

 曹操、ゲオルグの二人は戦慄する。感情の乏しいレオナルドですら、額に冷や汗を流している。

 

トンでもない化け物だ。改めて自分達が相手にしている存在のヤバさに曹操達が内心で恐怖を抱き始めた時。

 

「言っとくけど、俺は何もしてねぇからな。後でその剣の弁償とか言われても困るぞ」

 

舞い上がった砂塵の中から、マントを靡かせたアオヤマが悠長に歩きながら姿を見せる。

 

左肩には僅かに裂けた跡。そこがジークが切りつけた場所なのだと察知する。

 

が、しかし。やはり彼が言うようにアオヤマ自身にはダメージを受けた様子はない。垂れた目で、けれど確かな敵意と怒りを混ぜた視線に曹操達は悪寒に身震いする。

 

最早後がない。そう悟った曹操達は互いに剣と槍を掲げ、世界の均衡を崩す禁術に手を染める。

 

「「───禁手化ッ!」」

 

瞬間。ジークの背中から三本の銀色の腕が生え、それぞれに剣を持ち。曹操にはその背後に神々しく輝く輪後光が出現し、更には彼を守るように七つの球体が宙に浮かんで現れる。

 

「待たせたなヒーロー。これが俺達自身の切り札、バランスブレイクだ」

 

「バランス……何? 卍解の親戚?」

 

「俺の神器は普通と違ってな。黄昏の聖槍という。そしてこの禁手化は“極夜なる天輪聖王の輝廻槍”まだ未完成だが、これが今の俺の最強の形態だ」

 

「僕のは“阿修羅と魔龍の宴”これもまた僕の最強の形態さ。そしてこの剣は魔帝剣グラム。聖王剣コールブランドと対を成す魔剣だ。この剣の刃で以て、君を斬る」

 

「いや名称なんかどうでもいいよ。てか何? 何で悪魔やテロリストはそんなカッケェ名称のある武器持ってんの? 俺なんてハゲだぞ? 理不尽過ぎるだろ」

 

二人から発せられる強大な覇気を前に、アオヤマはやはり全く別の感想を口にする。

 

大層な名前を持つ神器を所有するイッセーやヴァーリ、そして目の前のコイツ等。対する自分はハゲだの妖怪だのハゲだのと言いたい放題。

 

確かに禿げているのは事実だから追求はしないが、それでもハゲハゲ連呼されるのは正直辛いところがある。今日だってここへ来てから相手にハゲと言われ続けているのだ。

 

そろそろリーヴ24に相談すべきか。アオヤマは曹操達から視線を外し、一人悩んでいると……。

 

「戦場で余所見をするのは感心しないな!」

 

「これで終わりだ!」

 

「我が魔術の全て、見せてやろう!」

 

その様子を隙と定めたのか、曹操とジーク、そしてゲオルクが一斉にアオヤマに飛びかかる。三人を助けようと後ろに控えていたレオナルドも神器を発動させようとするが。

 

「ソイ、ソイ、ソォォォィ!」

 

「「「なぐわおっはぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」」」

 

三人が三人共、アオヤマの放った何気ない一撃にそれぞれ沈む。

 

ゲオルクは眼鏡を割られ、ジークは手にした剣全て叩き折られ、曹操は七つの球体全てが砕かれる。

 

地面に倒れ、気絶するジークとゲオルク。その様子に手助けしようとしたレオナルドは顔を青くしてペタンと地面に座り込む。

 

唯一曹操だけは、槍を支えに膝を付いて堪えていた。

 

「ったく、大層なネーミングを付けてるもんだから期待してたんだが……お前等もう少し地力を鍛えた方がいいぞ? これじゃ名前負けも良いところだ」

 

 そんな彼等を一瞥し、アオヤマは嘆息を漏らしながら忠告する。しかし。

 

「……名前負け、か。確かにそうだな」

 

「あ?」

 

名前負け。その言葉に反応した曹操が槍を握る手に力を込めながらアオヤマを睨みつける。

 

「確かにお前からすれば俺達なんぞただの餓鬼の集団に見えるだろう。けどな、それしかないんだよ。世界から疎まれ、憎まれ、居場所のない俺達には世界が望んだ通りに世界の毒になる他ないんだ」

 

 神器とは、それ自体が得意な能力を持った希有な存在。その能力、力から人の世界には馴染めず、疎まれ、蔑まれてきた。

 

英雄派というのは詰まるところそういった者達で構成されたはみ出し者の集まり。世界に弾き出されたのであれば、望み通りに世界の脅威になろう。そんな歪んだ思想の元で英雄派の元に神器使いは集まった。

 

無論、アオヤマにはそんな彼等の気持ちなど欠片も理解できない。けれど、憎しみを込めて睨んでくる曹操にアオヤマは一つ分かった事があった。

 

「あのさ、お前──本気になった事、ないだろ?」

 

「────何?」

 

指を突きつけて言い出すアオヤマに、曹操の目がまるくなった。

 

 

 

 

 

 




次回、必殺

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