ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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今回はややシリアス。


19撃目 サイラオーグ

 

 

 

 

 

 冥界。本日は悪魔の界隈でも抜きん出て話題となっている若手悪魔達のお披露目会を兼ねたパーティーが行われていた。

 

グレモリー、シトリー、バアル、アガレス、アスタロト、グラシャラボラス。古の時代から脈々と受け継がれてきた魔の系譜達。

 

そんな若手悪魔に取り入ろうと、多くの貴族悪魔達が社交辞令の場としている中。

 

「悪魔だから蜥蜴の丸焼きでも出てくるのかと思ったけど、普通に美味いなコレ」

 

誰もがお家の発展と後ろ盾の確保に奮闘する中、一人料理に舌を打つ者がいた。

 

アオヤマである。片手に受け皿を持ち、並べられた料理を必死に食べ尽くそうとする様は庶民丸出しの田舎者であった。

 

遠巻きから聞こえてくるヒソヒソ声など全く意に介さぬまま、アオヤマは並べられた料理を口一杯に放り込んでいる。

 

それだけでも異常な光景だというのに、彼にはトドメとばかりに異彩を放つ要因が合った。それは、言わずもがな、彼を彼足らしめんとする正装……即ち、ヒーロースーツである。

 

アザゼルから正装で来いと言われた後、自分の正装とはなんぞやと考えたアオヤマは、やっぱりコレだなヒーロースーツを着用した。

 

スーツなんて高い物は持ち合わせていないし、何よりこのヒーロースーツこそが彼の少ない小遣いをはたいて購入した一番の値を張るものなのだ。

 

グレモリー家の人から貸してやると言われたが、唯でさえ泊まりにお城を使わせて貰っているのに流石にそこまでされては申し訳ないとアオヤマは断った。

 

アザゼルも爆笑していたが特にドレスコードは指定していない事を教えて貰った為、いきなり追い出される事はない筈だ。

 

 それから、アザゼルの転移魔法でこの会場にきたのはいい物の、それ以降のアザゼルは用があるといってその場を後にし、残ったアオヤマは空腹もあって目の前に出された料理を食べながら時間を潰そうと考えた。

 

悪魔の巣窟のド真ん中にヒーローの格好をした人間の男一人。普通に考えれば悪魔に喧嘩を売っているとしか思えない光景だ、それでも誰も直接言いに行かないのは、悪魔としての本能か……。

 

そんな周囲の緊張に全く気付かないまま、アオヤマは次なる料理に手を伸ばそうとすると。

 

「驚いた。まさか本当に貴方がいるなんてね。アオヤマ君」

 

声のする方へ振り返れば、ドレス姿のソーナが呆れ顔で此方に歩み寄っていた。

 

「あれ? 何で会長がここにいんの?」

 

「それは此方の台詞よ。……まぁ、事の顛末はリアスから大体聞かされているから大体察しているけど。それと、今回は若手悪魔のお披露目パーティーって聞いたでしょ? 私、シトリー家の次期当主だから」

 

ソーナの眼鏡を掛け直しながらの説明にアオヤマは成る程と納得する。モグモグと口を動かしながら食べ物を飲み込むと、アオヤマはふと疑問に思った事を口にする。

 

「それにしても人……あ、悪魔か。が、多いよな。お披露目会ってのはそんなにも話題を呼ぶものなのか? 明らかに関係なさそうな連中もいるっぽいけど」

 

「お披露目自体は先日終わったけど、今回はレーティングゲームを開催させる予定も兼ねてるの。恐らくはその見物且つスポンサー目当てね」

 

「スポンサーって、何? そのなんたらゲームってそんな企業とか関わってくる話なの?」

 

「レーティングゲームは冥界における唯一と言っていい程の娯楽なの。唯でさえ明るい話題のなかった悪魔の界隈で漸く出てきた明るいニュースなのだもの。何せ魔王を輩出した一族から高い力を持った若手悪魔が複数新たに出て来たのだもの。当然、世間からの注目は高いわ」

 

「ほぇ~、まるで歌舞伎とプロスポーツが一緒に出て来たような話だな」

 

ソーナの話を自分なりに纏めてみたアオヤマにソーナは「そうね」と苦笑い。

 

「あれ? てことはソーナも所謂将来有望な若手悪魔って事?」

 

「そういう事になるわね。どう? 口説いてみる? ヒーローさん。将来有望の若手悪魔と親密な関係になれるチャンスかもしれないわよ?」

 

「自分でそんな事言っちゃう辺り流石会長。頭下がるわ~」

 

冗談混じりに談笑する二人。和気靄々と語り合う二人は奇異の視線を向ける者達からすれば異常な光景だった。

 

ヒーローと名乗る者と将来悪魔の世界を背負って立つ者がまるで仲の良い友人のように語る。それは近い内ソーナにとってマイナス要素にも成り得る事かもしれないのに……。

 

それでも彼と友人として接するソーナは恐らくはソレを踏まえた上でアオヤマとの会話を楽しんでいるのだろう。

 

「そう言えばアオヤマ君。夏休みの課題はどうしたの?」

 

「三日完徹して何とか終わらせた」

 

「貴方って人は……」

 

「会長~!」

 

そんな二人に一人の男性が走り寄ってきた。何だと思い二人して振り向くと、息を切らせて走ってくる匙元士郎の姿があった。

 

「匙、どうしたの? そんなに慌てて」

 

「じ、実は、緊急事態が起こりましてって、アオヤマ!? ……先輩」

 

「あ?」

 

いきなり年下に呼び捨てにされ、眉を寄せてしまうアオヤマ。そんな怪訝に思う彼の仕草が怒りを買ってしまったと誤解する匙はビクリと肩を振るわせながら視線を外す。

 

「それで、何があったのです? その様子ではただ事では無さそうですが……」

 

そんな匙にソーナの冷たく冷静な視線と声が掛けられる。それを受けた匙は一度深呼吸をし、落ち着きを取り戻した事で隣にいるアオヤマに聞こえないよう、ソーナの耳元で囁く。

 

匙から話の内容を聞いた瞬間、目を大きく開かせたソーナは数秒間目を瞑った後。

 

「ごめんなさいアオヤマ君。少し急用が出来てしまったわ。申し訳ないけどこれで失礼するわね」

 

そういって足早にその場を後にし、フロアから出て行こうとする。

 

「手伝おうか?」

 

そんな彼女の背中にアオヤマの言葉が投げ掛けられる。恐らくはソーナが向かおうとしているのは中々に厄介な話なのだろう。それも、悪魔関係でのレベルで。

 

もしここでアオヤマが介入すれば、事態は速やかに収拾出来ても余計な問題が多々浮上してくる事だろう。それも、ソーナにとって不利な形となって。

 

何となく、アオヤマも理解した。ソーナの立場、それ故の周囲からの期待の重圧。それらを一身に背負いながら尚そうで有り続けるソーナの姿は悪魔とか種族問題を抜きにしても尊敬できる人物だ。

 

故に、アオヤマは協力を申し出る。ヒーローとして出はなく、彼女の友人として力を貸そうかと問いた。

 

けれど。

 

「大丈夫よ。心配しないで」

 

それだけをアオヤマに告げて、ソーナはフロアを後にする。

 

無論、アオヤマがソーナに取り入ろうと画策したり、裏があってそんな事を言える人間ではない事を彼女は知っている。

 

全てを踏まえて助けようかと申し出たアオヤマにソーナもまた全てを知った上で断った。

 

立場や将来を見据えての断りではなく、巻き込みたくないという一身で提案を断ったソーナは、若干の罪悪感を感じながら階段を下り、ホテルから出て行く。

 

その際に、眷属達を引き連れた彼女の表情は普段の生徒会長ではなく、シトリー家の次期当主、ソーナ=シトリーの顔をしていた。

 

その様子をステンドガラス越しに見据えたアオヤマは皿に乗せられた最後の料理を口に頬張る。

 

「おお、では貴方の親族はバアル家に嫁ぐ訳ですな?」

 

「いえいえ、まだそう決まった訳ではありませぬ。そういう卿こそ、アガレス家とは良い関係を築こうとしてるのではないですかな?」

 

 恐らくは戦いに駆り出たであろうソーナ達を余所に、好き勝手に自身のお家を語り合う貴族悪魔達。

 

若手にだけ戦わせ、自分らは高見の見物の姿勢を崩さないその姿勢に、同じくその席に同席していたフェニックスの末、レイヴェル=フェニックスは表情を険しくさせていた。

 

彼女もまた目の前にいる貴族悪魔達と変わらぬ者だ。家の為に画策するし、他者を蹴落としたりもする。

 

しかし、先日とある一件があってからは別の視点を持つようになった彼女にとって、目の前の輩達が煩わしく思えた。

 

同時に、ただ思うだけで動けない自分にも当然腹ただしく思えた。

 

と、そんな時だ。彼女の視界にまん丸と輝く頭部が映ったのは。

 

(あれは……たしかリアス様の所で厄介になっているとされる人間)

 

 マントを靡かせながら受け皿を持って彷徨いてるアオヤマに自然と視線が追う。

 

すると、適当に空いたテーブルに空になった皿を置くと。

 

「行くか」

 

その言葉に怪訝に思った次の瞬間。

 

アオヤマは天井をぶち抜き、ホテルの屋上へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サイラオーグ様。こちらは粗方片づきました」

 

「此方もです」

 

 ホテルから離れた森。鬱蒼と生い茂った森林───の、焼け払われた場所で一組の男女がサイラオーグと呼ばれる偉丈夫に声を掛けた。

 

「ご苦労。そのまま周囲を警戒してくれ」

 

眷属達にそう命令するのは屈強な肉体を持つ男性悪魔。サイラオーグ=バアルだった。

 

若手悪魔の中で最強の実力を誇る彼は握り締めた拳に視線を落としながら表情を険しくさせながら悪態を付く。

 

「禍の団。よもやこの時を狙ってくるとはな」

 

「中には神器を持った輩もいましたからね。報告が早くて助かりました」

 

 匙の言う緊急事態。ソレは以前三大協定の際に襲いかかってきた禍の団に他ならなかった。様々な術、魔術を使用する彼等はその性質から厄介さ、危険さ、共にトップクラス。

 

もし先に禍の団の使い魔らしき物を発見したとされるリアス=グレモリーからの報せがなければ、恐らくは大惨事になりかけた事だろう。

 

何せ既にこのホテルを多くのテロリストが包囲しているのだ。危機を察知するのは余りにも遅すぎたと言えた。

 

本来ならここでパーティーは中断しそれぞれ各個撃破、若しくは撤退という流れにしなければならないのだが……。

 

「彼等を放っておく訳にもいかんか。全員、もう暫く踏ん張ってくれ!」

 

貴族。しかも自身は戦いもせず、のうのうと高見の見物を洒落込んでいる貴族悪魔達の事を彼等と呼ぶサイラオーグ。あんな奴らでも今の悪魔界を支える者達であると理解している彼としてはそう呼ぶことが最大の妥協であった。

 

眷属達に檄を飛ばしながら自身も戦うその姿は、正しく上に立つ物としての一つの姿だった。

 

そんなサイラオーグに嬉々として仕える彼等はもう一度その刃を振ろうとした時。

 

彼は現れた。

 

突如目の前に降り立つ白い龍の翼を生やした男は、サイラオーグの前に立ちはだかる様に地面に立つ。

 

「貴様は、白龍皇!?」

 

「何故、奴がここに?」

 

突如現れた二天龍の一角にサイラオーグの眷属達が動揺する。歴代の中でも最強と噂される白龍皇が目の前に降りたった事実に、誰もが緊張に身を固めた時。

 

「ヴァーリ=ルシファーだな。一体ここになにしにきた? まさか旧魔王の仇……ではあるまいな」

 

彼等の主たるサイラオーグが、眷属達を守るように前に出た。

 

それはまさに獅子。仲間を守る為に体を張る屈強の獅子の如くの立ち振る舞いだった。

 

そんな彼を前に白龍皇、ヴァーリ=ルシファーは苦笑う。

 

「その名は捨てた。いや、砕かれたと言うべきか。俺がここにきた理由はただ一つ。サイラオーグ=バアル。アンタだ」

 

「なに?」

 

「バアル家に生まれながらも才能に恵まれず、落ち零れの烙印を押されたアンタが、己が肉体一つで強さを得た。その事実は実に興味深い」

 

「……何が言いたい」

 

「なに、大した話じゃない。ただ……」

 

そういってヴァーリは背中の翼を消し、サイラオーグに向けて拳を突きつけ。

 

「アンタとの、一対一の勝負を申し込みたい」

 

そう、不敵に笑みを作るのだった。

 

 

 

 

 




何やらヴァーリがブシドー化しそうな予感。

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