ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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イケメンはハゲになるべし。
今回はそんなお話し。


17撃目 悪魔の理屈、人間の正論

 

 

 

 

 

「ふふふ、久し振りに休暇が取れた事だし、今日は思い切ってミリキャスと遊び倒すとするかな」

 

 グレモリー家本邸。天高く聳える城に一人の男性が門を潜る。横には彼の付き添い人である銀髪のメイドがそんな明るく振る舞う男の姿に呆れた様子で溜息を零す。

 

男は魔王。冥界……悪魔の界隈を牛耳る四人の魔王の一人であり、“紅髪の魔王”と畏れられている存在である。

 

そんな男が、息子であるミリキャスとの遊戯で久々の休みを満喫しようと足早に部屋へと続く扉を開ける。

 

まるで子供のようだと、自分の主であるサーゼクスに銀髪のメイド、グレイフィアは苦笑う。

 

しょうがない人だと分かっていながら、そんな彼だからこそ惹かれていったグレイフィアはドンドン先を往くサーゼクスの後を苦笑いを浮かべながら後を追う。

 

「ミリキャス。お父さんが帰って来たぞ! さぁ、今日は思いっ切り遊び倒そう!」

 

 ミリキャスの部屋へと勢い良く扉を開けるサーゼクス。日々の疲れを可愛い息子に使うことで癒そうと次に来る息子の抱擁を待ちわびていると……。

 

「サぁぁぁぁゼクスくぅぅぅぅん。 今日はミリキャス君に変わって僕が相手してあげるよぉぉぉぉ」

 

────目の前に ヒーロー(ハゲ)がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、ミリキャスってグレイフィアさんとサーゼクスの子供なんだ。通りでその歳で行儀良く出来てる訳だ」

 

 あの後、どうにかして落ち着きを取り戻したアオヤマはグレイフィアの案内の下、ミリキャスの子供部屋から少し離れた別の客間へと通されていた。

 

「はい。お母様からお客様と接する時は行儀良くしなさいと言われていましたから」

 

「普通ならこの歳のガキならクソ生意気な年頃だってのに……よし、そんな良い子のミリキャス君にはお兄さんからキャラメルをあげよう。地上からのお土産だ」

 

「ホント!? ありがとうハ……アオヤマさん!」

 

「ありがとうございますアオヤマ様。ミリキャス、大切にお食べなさい」

 

「はーい!」

 

 そう言ってミリキャスは箱の中から銀紙に包まれた一個のキャラメルを取り出し、銀紙を取ると同時に口の中へと頬張る。

 

美味しそうにキャラメルを食べる年相応のミリキャスの姿に、グレイフィアは慈愛の眼差しを向けた後、アオヤマに向かって改めて頭を下げた。

 

「ワザワザ申し訳ありませんアオヤマ様。このお礼はまた改めてさせて頂きたいのですが……」

 

「別にいッスよ。非常食として念の為に持ってきただッスから、あ、でもこの間の紅茶はスゲェ美味かったから、今度もそれを頼みたいかなーって」

 

「フフ、ではそのように。一緒に美味しいお菓子もお出ししますので、少々お待ち下さい」

 

「アザーッス」

 

礼儀正しく頭を下げ、部屋を後にするグレイフィア。結局お茶をご馳走される事になったアオヤマは気を使わせてしまったかとと内心申し訳なく思う。

 

まぁ、お礼と言って差し出す好意を突き返すのもアレなので甘えて受ける事にしたアオヤマだが……セレブのお菓子。その事に少しばかり期待で胸を膨らませていた。

 

「……さて、もう良いだろ? いい加減泣き止めよ」

 

 そう言ってアオヤマは目の前のソファー……の横でうずくまる魔王を見て泣き止めと口にする。

 

「…………泣いてないもん」

 

体育座りで泣いてないと言い張る魔王様。その声はどことなく鼻声に聞こえた。しかし、それもその筈。紅髪の魔王と呼ばれた美しくも強大な力強さを感じるサーゼクスの髪はサ○エさんの如くお団子ヘアーと化しているのだ。魔王とはいえ半泣きになるのも仕方ない。

 

「んなこと言ったって、元々陰口叩いていたのはそっちだろうが。しかも自分の子供にまで刷り込むとか、悪趣味ってレベルじゃねぇぞ」

 

「悪魔だもん。魔王だもん。魔王は人間に対して悪い事してナンボだもん」

 

次第に幼児退行をし始めるサーゼクスにアオヤマは頭が痛くなってきた。イジケる魔王を宥めるヒーロー、何ともシュールな光景である。

 

「そもそも、どうして君は冥界にいるんだい? 正式な手続きがなければ人間はこれないし、何より冥界だよ? 何故君はそんな平然としていられるんだい?」

 

サーゼクスの口振りでは、どうやら普通の人間では冥界に滞在するのはそれなりに危険が伴う様だ。言われた事で漸く気付いたアオヤマはポンと手を叩き。

 

「あぁ、どうりで来たときから妙な息苦しさがあった訳だ。────すー………はー……よし、慣れた」

 

「イヤイヤイヤ、普通ないから。深呼吸で適応出来る程冥界の空気は優しくないから」

 

深呼吸をする事で冥界の環境にも完全に適応してしまうアオヤマにサーゼクスは手を横に振って否定する。

 

しかし、実際になれてしまったものは仕方ない。サーゼクスの否定の言葉はスルーし、今度はここに来た経緯に付いて語り出す。

 

それを聞いた時、サーゼクスは床に体育座りの姿勢からソファーへと座り直す。その表情は真剣そのものだが、彼の髪型がサザ○さんヘアーであるため、今一真剣さが伝わらない。

 

「成る程、そのミルたんが何者なのかは非常に気になる所だが……アオヤマ君。君の人間界への帰還準備は暫く掛かりそうだ」

 

「へ? そうなの? 不法滞在とか侵入国とかって理由で強制的に送り返したりしないの?」

 

「確かに、そう言った事例も無いこともないのだが……」

 

そう言ってサーゼクスはアオヤマを見る。アオヤマは三大協定会議の時から世界中に知れ渡った……謂わば、不安定且つ不確定要素の塊でもある存在。

 

白龍皇を一撃で倒した人間が冥界……しかも魔王の血筋の領土に身を置いていると知られれば、世界に対し余計な刺激に成りかねない。

 

そんな爆弾とも呼べるアオヤマの処遇にサーゼクスは割と本気で扱いに悩んでいると……。

 

「お兄さま! お帰りなったと聞きました。……て、お兄さまの頭が○ザエさん風になっていらっしゃるぅぅぅ!?」

 

サーゼクスの妹、リアス=グレモリーの登場にその場の空気はより混沌めいたモノへと変貌していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、アオヤマ君。貴方はどうしていつもいつも私達の度肝を抜くような真似を仕出かしてくれるの!? 少しは自重と言うものを学びなさい! 魔王の髪型をサ○エさんにするなんて聞いたことないわ!」

 

「んなこと言われてもよ。陰口を叩いていたサーゼクスが悪いんだからしょうがねぇだろ? やり過ぎたとは思うけどよ」

 

「それだけじゃないわ。私達の長でもある魔王を呼び捨てにするのはいい加減止めて頂戴。魔王の肩書きは決して軽くはないの。本来なら血族である私達ですら気安く言葉を交わすことすら憚れるのよ」

 

「それこそ俺の知った事じゃねぇよ。つか、人間。しかもヒーローを名乗っておきながら魔王を敬うなんて、それこそおかしな話じゃねぇか」

 

激昂するリアスをアオヤマは淡々と落ち着いた様子で応えていく。

 

悪魔の理屈と人間の正論。交わる事なく交わされる二人の会話は徐々に熱を帯びて加速させる。

 

「大体、さっきの言葉は何? あれでアドバイスのつもりなの? あんな乱暴でもし小猫や朱乃に無理が祟ったらどう責任を取るつもりなのかしら?」

 

「いやいや、強くなるのに無理しないやり方なんてあるのかよ? 強くなるって事は今の自分を超えなきゃいけないって事だろ? だったら、多少の無茶は承知の筈だろ?」

 

「だとしても、さっきの言い方は乱暴過ぎるわ。あの子達の生い立ちは少し特殊なの。トラウマを刺激するような真似は止めて頂戴」

 

「それを言い出したらこの修行自体意味が無くなるだろ? 強くなる為に修行してたんじゃねーのかよ? 矛盾しまくりだろ、お前」

 

リアスの言葉に少し苛立ってしまうアオヤマはつい最後の辺りで口調を強めてしまう。

 

睨み合う両者。剣呑とした空気を醸し出している二人にミリキャスはキャラメルの箱を持ったまま部屋の隅で縮こまる。

 

そんな雰囲気の悪くなる客間に一人の男が乱入する。堕天使の総督、アザゼルだ。

 

「よぉ、お前ら。グレイフィアの茶を飲むなら俺も呼んでくれよ。……って、何? この空気?」

 

部屋の中心で睨み合うリアスとアオヤマ、緊迫とした空気の中で首を傾げたアザゼルは部屋の隅でモソモソとキャラメルを頬張るミリキャスに事情を尋ねると、徐に不敵な笑みを浮かべ。

「あー、アオヤマ。ちっとばかしいいか?」

 

「 あ? なんだよ?」

 

「お前さん。レーティングゲームってのに興味あるか?」

 

 

 

 

 

「この髪、直るかなぁ?」

 

 




今回の一番の被害者はミリキャス君。間違いない。

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