しばらくは日常的なことが続くのでバトル系の設定の出番はまだまだ先です。
どうしてこうなった・・・
Side 信孝
あの日、俺が転生してから今日でちょうど16年が経った。
駄神の話を聞いた限り輝夜や妹紅の時代よりも前に生まれることは予想していたが、まさか同時代に生まれるとは思っていなかった。
今回の転生の結果、俺は古代日本最強の貴族である藤原氏の第2代当主藤原不比等《ふじわらのふひと》の弟にあたる藤原晴信《ふじわらのはるのぶ》の嫡男・藤原信孝《ふじわらののぶたか》として生を受けることとなった。
しかし、俺が3歳の誕生日を迎えた時、父と母が当時流行していた天然痘を患って死亡してしまったため、母方の祖父で当時右大臣という要職にいた織田信葛《おだののぶかつ》という爺さんに引き取られ、織田氏の後継として育てられ始めることとなった。
しかし、その爺さんも俺が4歳の時に病により急逝してしまったのだ。
その後、仲の良かった弟の遺児である俺の現状を見かねた不比等のおっちゃんが、養子として俺を引き取り、藤原一門として不比等邸で暮らすようになり今に至るというわけだ。
しかし、俺の知識では藤原不比等に「晴信」という弟はいない上に、織田氏の祖が歴史上に登場したのは鎌倉時代なのでこの時代に「織田」という苗字は存在しないという突っ込みどころ満載な状況なのだが、そこは「ここは異世界だから仕方ない」ということで無理やり納得しておいた。
・・・・・・女体化した関羽とか織田信長が出てくるような「外史」だって存在するんだから、これくらいは誤差の範囲内でいいだろう?
だが、細かい点はいくつか変化しているため、歴史や礼儀といった貴族社会を生き抜く上で必須の知識や文字は重点的に勉強するようにした。
何せ、この時代の文字は漢文そのままか万葉仮名のように無理やり日本語に当てはめたものばかりであり、元現代人の俺にとってはかなり苦戦を強いられることは予測済みだったので、物覚えの良い幼少期に文字の勉強を重点的にブチ込むことにしたのだ。
その結果、ただの文字の羅列にしか見えなかった文章が普通に読めるレベルにまで達し、「文盲貴族」という恥を晒さずに済んだ。
・・・・・・ありがとう子供脳!
それでも、この時代は遣唐使により新たな学問が次々と導入されることで日々の学問が欠かせない存在となっており、今日もまた1人離れに篭って唐で作られた貞観政要(唐の第2代皇帝李世民の言行録)を読み耽っていた。
最も、文字が読めても内容は儒教の教えが根幹となっているため、半分も理解出来ず中々勉強が捗らなかったが・・・・・・。
「相変わらず何言ってるのか全く分かんねーなこの人・・・・・・。 今から儒教の教えとか覚えれねーよ!」
そして、今日もまた何時もの如く途中で投げ出して休憩をとろうと思ったところ、離れに近づいてくる人影が現れた。
「信孝〜、東市に遊びに行こうぜ〜」
手を振りながらこちらに近づいてくる女性は、藤原不比等の長女である藤原妹紅《ふじわらのもこう》。 年は俺と同じく16歳、黒髪短髪の美少女だ。
この妹紅という少女は、「慎ましい」や「貞淑」という比較的ありがちな女性のイメージとはまるで対極の存在であり、馬に乗って朝堂院に殴り込んだ挙句、その理由が政務を放り出して自分の部屋で決闘を行なった父親と今上陛下に対する制裁」という即刻反逆罪で処刑されてもおかしくない事を仕出かした経験もある。
最も、今上陛下や不比等のおっちゃんには様々な前科があったらしい。
今回は妹紅を始めとする都の美人たちの湯浴み中の姿を2人で覗きを敢行した挙句、その姿絵を書き写した本を西市の露天で売り捌いたことに対する制裁だったらしく、「またお前らか」という貴族達の冷めた目線を向けられ、多くの貴族や皇族の方々から同情された妹紅はお咎め無しとなったらしい。
・・・・・・まだ奈良時代にもなってないけど、もうこの国ダメかもしれん。 間違った意味で未来突っ走ってるよこの国・・・。
「妹紅姉さんも落ち着いてください。 兄さんが怖がってますよ?」
そして、妹紅を窘めているまだ幼いといえる容姿の少年は、妹紅の弟で不比等の次男藤原房前《ふじわらのふささき》。 こいつは俺や妹紅の1歳下で15歳だ。
藤原房前という人物は藤原道長や藤原鎌足といった有名所と比べたら地味な印象だが、房前の系統から藤原道長や奥州藤原氏、西行法師といった後世に多大な影響を与える人物が多数誕生しているので、房前が無事に生き残らないと俺が持つ歴史の知識が全く通用しない恐れがある。
さらに原作キャラである西行寺幽々子に関する情報を見た限り、幽々子は西行法師の娘である可能性が非常に高い。 そのため、西行法師の先祖に当たる房前の早世は、「東方妖々夢終了のお知らせ」と同意義になりかねないという懸念もある。
そんな事情を差し引いても、個人的に房前には可能な限り長生きして欲しいと願うばかりだ。
え? なんで個人的に房前の生存を願っているかって?
それはな、房前以外の兄弟共及びおっちゃんは揃いも揃ってロクでもない連中ばかりだからさ! いくつか例を挙げると、
・長男の藤原武智麻呂《ふじわらのむちまろ》:メ○ボなんて目じゃないレベルで肥満体の藤原家随一のお荷物と呼び声高いダメ人間。 17歳という若さでありながら仕事や運動よりも一日六度の食事と趣味に情熱を傾けるニートの先駆け的存在。 但し、食事に関してはかなり五月蝿く、料理の腕に関しては当代一として尊敬されている。 最も、その絶品料理はほぼ全てが自身の胃袋の中に収まってしまうのが難点だが・・・。
・三男の藤原宇合《ふじわらのうまかい》:人を罠にかけることを趣味とするサディストであり、自身の喜びのためならば天皇相手でも平気で罠を仕掛ける危険人物。 いつの間にか作ったのか独自の情報網を持ち、日本国内あらゆる情報のみならず、新羅や琉球、唐帝国、果てはイスラム圏のウマイヤ朝の情報すら何故か保有しており、敵に回したら確実に社会的に抹殺されるであろう末恐ろしい14歳。
・四男の藤原麻呂《ふじわらのまろ》:隣にいてもなかなか気づかないレベルで影が薄く、いつの間にか隣にいていつの間にか消え去っている掴みどころの無さ過ぎる野郎。 何気に個人戦闘力では四兄弟トップを誇り、「最早貴族ではなく暗殺者や猛将である」他の貴族や皇族から揶揄されていることに思わず納得してしまう生まれた場所を間違えた13歳。
・藤原不比等:大臣としての仕事よりも、自らの筋肉を鍛えることに情熱を向けている貴族のトップとして方向性が間違っているおっちゃん。 日の本各地にいる剛の者達や、完全武装した天皇家の親衛隊を全て己の肉体のみで薙ぎ倒したという謎の伝説が残っている。 さらに、実年齢39歳といういい年のくせに、10代の女子のみを欲望の対象としている生粋のロリコンでもある。
・・・・・・な? 正直房前以外はロクでもない奴ばっかだろう?。
特に宇合の奴はその傾向が顕著で、不比等のおっちゃんを自作の落とし穴にはめた後、「今度は帝・親王専用の落とし穴作ってみるのもありですね」という皇族が聞いたら処刑されそうなことを堂々と公共の場で言いやがったのがつい2日前のことだ。
勿論、宇合とはその後しっかりと(肉体言語で)説教をしておいたので、恐らく3日間ほどは自重してくれるだろう。
いくら今上帝が残念な人間とはいえ、帝を落とし穴にはめたせいで藤原氏断絶なんてオチは幾らなんでも洒落にならなすぎる。
どうか房前だけはそのまま純真でいてくれよ・・・・・・
〜閑話休題〜
「それで、今日は何を見に行くつもりなんだ?」
妹紅に腕を引っ張られた状態で、俺は妹紅にそう訪ねた。
以前、「西市に掘り出し物があるらしいから、行くぞ信孝!」と言って西市に連行された末、新羅からの渡来品らしい巨大な壺等重さ約250kg分の荷物持ちをさせられた経験があるのだ。
それ以来何かと理由をつけて逃げ回っていたが、今回は逃げられそうにもないようだ。
連行されることが間違いない以上、「今回は自重してくれるか?」という期待を込めつつ妹紅の返事を待っていると、妹紅にしては珍しく言い出しにくそうにしながら口を開いた。
「最近父上が執心の輝夜姫っていう名前の姫を見に行くんだよ。 どうやら輝夜姫の従者がよく東市に買い出しに来ているらしいから、従者を尾行すれば輝夜姫の屋敷まで案内してくれるだろ?」
「んなっ!?」
妹紅の発言に俺は驚きを隠すことが出来なかった。
妹紅と輝夜はこの時点では出会わず、およそ1000年後にようやく出会うことになる筈なのだが、既に原作との齟齬が発生しているとはな・・・。 しかし、どうして妹紅はあんなに言い出しにくそうにしていたんだ・・・?
(ってどう考えてもおっちゃんのせいだな。 原作では妹紅の父親が輝夜に恥をかかされたことを恨んでいたが、この世界の不比等のおっちゃんでは違う意味で恥をかかされかねないな。 間違いなくストーカー的な意味で)
「妹紅。 一つ聞くが、おっちゃんがその輝夜姫に求婚をするようになってから今日で何日目だ?」
「・・・確か、今日で26日目だ。 輝夜姫の噂が流れた当日に求婚し始めて、母上に折檻されていたから間違いない」
「そんなに前からか。 おっちゃんよく諦めないな・・・」
「信孝だって知ってるだろ? 私ぐらいの歳の女に対する父上の飽くなき情熱を」
「ですよねー ・・・・・・・・・・・・はぁ」
妹紅の言葉があまりにも予想通り過ぎて俺は思わず天を仰いだ。
輝夜の噂を一ヶ月以上気づいていないことも、あのおっちゃんがこれから輝夜に対して行うであろう求婚の風景を思い浮かべただけでやる気が削られる。 正直行きたくないと思うのは仕方がないと思う。
だが、ここで断ったら間違いなく妹紅の十八番であるパワーボムが炸裂するだろうから、嫌が応にも引き受けなければならないという現実に目を背けたくなるが、目線を逸らした先にいた房前の姿を見て、一つの名案が浮かんだ。
房前は、その場に居てくれるだけで何故かおっちゃんや宇合の暴走を高い確率で予防することが出来、「歩く心の清涼剤」という異名が他の貴族達の間で呼ばれている(但し本人はそのことを知らない)ため、房前が同行してくれるだけでおっちゃんに対する最強のストッパーとしても、俺の心の安定にも活躍してくれるだろう。
「・・・わかった。 折角だし房前も一緒に来ないか?」
「いえ、私はまだ仕事が残っています。 なので二人で行ってはどうでしょう?」
・・・│心の清涼剤《房前》ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
「房前も一緒に来てくれ!! お前が来ないと誰がおっちゃんを止めるんだよ!?」
「・・・流石に公務を放り出して私情を優先するわけにもいかないですから」
「その言葉を│大納言《だいなごん》(大臣とともに政務を議し、大臣不在時はその職務を代行するかなりの重役)のおっちゃんや、他の馬鹿兄弟共に言ってやれよこんちくしょう!!」
くっ! おっちゃんやあの馬鹿兄弟共と血が繋がってるのか本気で疑いたくなるくらいの生真面目だな房前は!! その言葉を大納言のおっちゃんや弟に先を越された武智麻呂、おっちゃんと一緒に政務から逃げ出す今上陛下にも聞かせてやりたいわ!!
「そういえばお前、俺よりも年下のくせに既に従五位下│民部少輔《みんぶしょうゆ》(古代律令制において、租税・財政・戸籍を取り扱う役所である民部省の三等官に当たる役職)になってたな。 いいよなお前は順調に昇進してて・・・。
俺なんて今年の除目で漸く正六位下│左近衛将監《さこのえのしょうげん》(天皇家の警護を司る近衛府のうち、左近衛府の四等官に当たる役職。 主に現場指揮官で護衛、警護の体制を組み立てを任務とした)になったばかりなのに、この義弟と来たら妬ましい限りだ・・・。 ああ妬ましい・・・」
「妬んでどうするんですか・・・」
房前が何か言ってるみたいだが、パルパルオーラに包まれた俺の耳には届かなかった。
だから、房前と妹紅の会話も聞き逃してしまった。
「それに姉上も義兄上と二人の方がいいでしょう? 信孝兄さんと妹紅姉さんは従兄妹なんですから婚儀だって出来ますし、父上もその気ですよ?」
「ばっ!? 何言ってんだよお前!?」
「照れなくてもいいですよ姉上。 姉上が義兄のことを気になっているのは家中の誰もが知ってますから。 (最も、それが恋心であると自覚しているかどうかは分かりませんが・・・)」
「んな!? 私と信孝は兄妹だ! それ以上でもそれ以下でもない!!」
「(・・・やはりまだ恋心と自覚してませんか。 どこかに恋敵がいれば、姉上も素直になれそうなのですが・・・)」
待てよ、原作では輝夜と妹紅は相当険悪な間柄だったが、ここではまだ面識はない。 それなら、しつこく言い寄る変質者・・・・・・もとい、おっちゃんを妹紅が撃退すれば二人の初迎合は好印象になるかもしれないな。
親友同士の妹紅と輝夜による永夜抄6面でのまさかのタッグ対決・・・、この展開はありかもな。
そうと決まれば、妹紅と一緒n「さっさと行くぞ信孝!!!」「ちょっ!! 一緒に行くから! だから右腕を握りつぶしながら引っ張るのはやめろぉぉ!!」
「頑張ってください義兄上ー。 姉上も良い報告を期待してます」
「うっさい房前! お前はさっさと公務に戻れ!!」
「俺を見捨てる気か房前ー! 妹紅も早く俺の腕を離してくれぇぇぇ・・・・・・!!」
・・・・・・輝夜と会う前に俺の右腕が天寿を全うしそうです。
誰かこの怪力暴走少女を止めてください(泣)
作者は基本的にプロットは作らず、思いつくままに直接文章を書き込んでゆくタイプです。
なので、最後の見直しというのをすることはほぼ無いので、表記の間違いや誤字が所々見つかるかもしれません。
可能な限り正確に書き込みをしますが、発見した場合は情報を是非ともお願いいたします。