ピンク色の長髪の女性が剣で切りつけてくる。
いくら脳量子波で感知できても剣閃が鋭すぎて見切れきれず、魔力刃で受け止めるが、予想以上に重いく、衝撃で一瞬動けなくなった。
その隙を突いて、横からハンマーを持った少女が突撃してくる。
足から魔力刃を出すと同時に剣の女性を蹴りつける、手甲でガードされるが、反発を利用し、同時に飛行魔法を使って距離を取る。
開いた空間に少女がハンマーを振り下ろす。そこへ掌を向け集束魔力砲を放つ。
しかし、ピンク髪の女性が手で引っ張り射線から外された。
さらに追撃しようと手を向けた瞬間、後から高速で接近する物体を感知し、振り向きざまに砲撃を放つ。
しかし、褐色肌の男はそれをシールドで防いだ。
大勢を立て直したピンク髪の女性とハンマー少女がこちらに接近してくるのを感知し、飛行魔法で高速移動し高度を高めていく。
いつぞや使用した、設置型の弾幕を張る魔法で褐色肌の男とピンク髪の女性とハンマー少女全員へと弾幕を放った。
しかし、相手も歴戦の兵、即座に対応した。
褐色肌の男の後にピンク髪の女性とハンマー少女が高速移動し、褐色肌の男がシールドで弾幕すべてを受け止めてしまったのだ。
それを確認するや否や、ピンク髪の女性とハンマー少女は弾幕がない所から、俺に向かって接近してくる。
ハンマー少女が鉄球のような弾丸で俺を牽制し、ピンク髪の女性は剣を鞘に納めた状態で俺に向かって高速で突撃してくる。カートリッジが使用され、魔力が一気に増大し、剣に集まっていく。
「紫電、一閃!」
居合、鞘走りによって剣閃が鋭くなり、さらに魔力の炎熱変換によって威力も上がっている斬撃。普通のミッド式の魔導師ならバリアごと叩ききられて終わっているであろう高度な魔法だ。
しかし俺には通用しない。
なぜなら、彼女が切りかかった俺は幻影だからだ。
彼女が接近してきたのを感知すると同時に、俺は残像を幻影として残す飛行魔法を使用したが、移動しなかった。
利き腕の魔力刃と、左腕に魔力を溜めて迎撃すると見せかけたのだ。
彼女は魔力刃ごと切り伏せようとしたのだろう、カートリッジを使用した紫電一閃という魔法にはそれだけの威力があった、シールドなど使用していても破壊されていたかもしれない。
だが、俺は脳量子波の超反射能力を最大限に活かし、彼女が鞘から剣を抜く瞬間まで引き付けてから、後ろに下がった。もちろん幻影を残したままでだ。
彼女が斬ったのは俺の幻影だ。
俺は攻撃後の隙を狙って、飛行魔法を使用し、距離を詰めると同時に迎撃すると見せかけるために溜めていた魔力で零距離から砲撃を行った。
かわすことも、防御することもできず、彼女は魔力光に呑みこまれた。
そして、気絶したのか落下していった。
すぐさまハンマー少女が彼女を追っていき、抱きかかえる。
そして弾幕魔法が消え自由になった褐色肌の男が二人を庇うように俺と対峙した。
さてこれで二対一だが、どう攻めるか?相手が逃げの一手を取った場合、攻めきれない可能性がある。
俺がどう攻撃するか迷っているうちに、彼らは外部からの転移魔法で脱出していった。
おそらく、メシマズキャラの魔法だろう。
「疲れた…ヴォルケンリッターか、手強いな」
俺が今戦っていた相手はヴォルケンリッター。
新暦54年、ついに起きてしまった原作、闇の書事件。
闇の書対策部隊のエースとして俺は作戦に従事していた。
クロノが産まれてから二年後、リンディは執務官としての仕事を辞めて予備役になり、子育てに専念するようになった。
俺は子育てを手伝いながら、何度も考えた、このままでいいのか?と。
いくら資産家の次男で、SSランクを取得していると言っても働いていない。これは父親として駄目なのではないかと思ったのだ。
俺にできることと言えば委託魔導師としての活動のみ。管理局員になってまで働くのはトラウマから無理なので、少し危険な依頼を回してもらうように関係者に頼んだ。
リンディは反対こそしなかったが、危険な依頼は極力断って欲しいと言われた。
彼女とて執務官として、危険な仕事をしていたことがある。
誰かが、力あるものがそういった仕事をしなければ平和は維持できないと理解しているのだ。
しかし、家庭ができ、母になったからこそ家族がそういった仕事に就いて欲しくないという気持ちが芽生えたのだろう。
子ができてようやく両親の気持ちがわかったと、彼女が言った時の顔を覚えている。
それは夫を愛する妻の顔であり、母としての顔でもあった。
だが、同時に俺も父親としての自覚を持ち始めていた。
だからこそ少々危険な依頼を受けることにした。
それから二年間、俺はいくつもの事件に携わり、解決へ多大な貢献をした。
いつからか破格の戦力として俺は引っ張りだこになったが、家庭を一番に考え、依頼を受けるペースは変えなかった。
闇の書対策部隊のエースに望まれた時、俺は迷った。
原作を知っているから、もしかしたら運命が俺を殺すかもしれない、と不安になった。
もしも運命などなく、クロノやリンディが襲われたらと不安になった。
悩んだ。
何度も考えた。
そして出した結論が、運命などわからない。だから今できることをする。
闇の書対策部隊のエースとなって、彼らを追うことがクロノやリンディを守ることにつながる。そう信じて戦うことだった。
「あなた、話があるの」
幾度かのヴォルケンリッターとの戦いを行い、もうすぐ闇の書が完全に起動するため、起動した瞬間を狙って、対闇の書対策部隊の全戦力を投入する作戦が行われる。
隊員達には一時的な休暇が与えられた。
俺も自宅へと帰ってきていた。
クロノに簡単な魔法の手ほどきをしてやり、疲れて眠ってしまったクロノをベッドへと運んだ俺にお茶を入れながら、リンディが悲壮な顔で話を切り出した。
「何だい?」
「…次の作戦のこと、聞いたわ…」
今の部隊にも当然秘匿義務があり、それはかなり高位の情報なのだが、管理局への影響は彼女の方が強く、また同期のレティさんは今も出世街道を直走っているので、その線だけでも情報を得ることは容易だろう。だから彼女が知っていてもおかしくはなかった。
「…もう、やめましょう?いくらなんでも闇の書に関わるのは危険すぎるわ」
「…それは、できない」
彼女がそう言うだろうことはわかる。俺だって、リンディが闇の書と対峙するような作戦に従事するなら止めるだろう。
だが…。
「責任がある。情がある。次の作戦においての役割は俺以外に替われる奴はいない。そして死んでいった隊員達のためにも、ここでやめるわけにはいかない」
俺一人で戦った場合はヴォルケンリッターを圧しているが、常に俺が戦えるわけでもなく、俺以外の隊員も当然彼らと戦っている。そしてその中には死んでいったものがいるのだ。
一度引き受けた仕事を無責任に放棄すれば、多くの人に迷惑がかかる。前世では部下、同僚、取引先、客全てにだった。だから俺も引き際を誤まり、鬱になってしまった。
ならば今度はやめるべきだと、心の中のどこかでそう思っている俺がいる。
だが、それはできないのだ。
この作戦から俺が抜ければ、多くの人が犠牲になる。隊員、彼らの潜伏している次元世界とその近隣の次元世界の人々が。
ここまで関わった以上、もう途中下車はできないのだ。
それが責任というものなのだ。
「でも、でも…!」
「今度の作戦が終わったら、一線から退く。昔みたいに教導隊との模擬戦くらいの依頼だけを受けるようにするよ。さすがに俺も疲れたし」
かかわってきた事件はテロとかそういった凄惨なものはなかったが、ロストロギア関連では危険度はわからなく、次元災害規模のものもあった。
いくらなんでも二年でこれだけの事件にかかわってきたし、闇の書という原作的な一区切りもある。
だから次の作戦が終わったら、平和な日常に戻ろう。
自己満足かもしれないが、十分に父親として胸を張れることをしてきたつもりだ。だから、あとは家族のために時間を使おうと思う。
魔法の講師なんかを私塾で教えるのもいいかもしれない。
施設とかが必要だが、建てるくらいの資産はあるし…元は実家のものだが。
「だから、待っていて欲しい。絶対に生きて帰るから」
「…絶対よ、絶対だからね」
「そのためにも、リンディの料理が食べたい。それだけで気力が湧いてくるよ」
「うんと腕によりをかけて作ってあげるわ」
そうだ、俺は死なない。死ねない。
必ず生きて帰る。
原作は原作。ここはもう現実だ。
妻がいて、子供がいる。
帰りを待っている人がいる。だから、必ず生きて帰る。
……しかしこう言ってると死亡フラグみたいだ…。
いやいや、死亡フラグなんて存在しないだろう、現実的に考えて。
ただ弱気になっているだけだ。
リンディ、クロノ、俺に勇気をくれ。