彼女、リンディからのお願い、それはとりあえず婚約者になっておき、家族からの縁談や仕事への干渉をなくしたいというものだった。つまり仮面婚約者のなってほしいということだ。
俺は誰が婚約者でもいいし、リンディはとりあえず仕事に専念できる。
面倒なことになったと思ったが、実質NEETで魔法の上達のみしかしていないので、特に問題ないと思い、俺は了承した。
しかし…。
「シンさん、待たせてごめんなさい」
振り返ると品のいい私服を着て、うっすらと化粧を施した美少女、リンディがそこにいた。
なぜ、彼女がこんなに格好をしてきているかと言うと、今日はデートだからだ。
「いや、時間ぴったりだし、俺も五分前についたからそんなに待ってないよ」
「ふう、すみません、昨日は急ぎの事務仕事で寝るのが遅くなってしまって」
「疲れているなら連絡をくれれば時間を遅らせれたのに、日にちだって俺は基本暇人だからいつでも変更できるしね」
「駄目ですよ!せっかく取れた休日なのに。それに楽しみにしてたんですよ?」
「そういうことならお付き合いしますよ、お姫様」
と気障ったらしいセリフを言って、手を取る。
「はい。エスコートよろしくお願いしますね、騎士様」
まるで恋人みたいなやりとり、そう彼女、リンディはチョロゲフンゲフン、恋愛事にすごく弱く、いつの間にか俺は本当の恋人にされてしまっていた。
リンディ・ハラオウンはとある管理世界の没落しつつあるが名家の出だ。
魔力はなかなかのものを持っており、10代で執務官になれるほど頭もキレる、当然管理局でも出世コースを邁進している。
そんな彼女に群がる男は下心満載で、それ以外の男はやっかみを持っている。
それが原因で彼女は恋愛というものに失望を抱くとともに、しかし心の奥底では憧れにも似た幻想、いわゆるシンデレラコンプレックスを抱いていた。
そこに突然現れた俺。
管理世界全体でも上位の資産を持つ名家の二男。
基本労働はしていないが、実家が金持ちなので労働をする必要がなく、さりとてただのごく潰しではなく魔道師ランクSを取得するほどには努力をして家の評判に貢献している。
さらに二つのレアスキル持ち。当然リンディにやっかみなど持つわけなく、さらに選ぶ側なのでそういう下心も持っていない。
こう書くと優良物件そのものだが、俺は悪くない、転生特典が悪い。
本当に神様転生ってすごい、特に変な行動をとらなければ普通に恵まれた人生を過ごせる。常識があれば踏み台になんてならないのだよ。
少し話題が逸れたので本筋に戻す。
リンディにしてみれば同年代で初めて対等に話せる異性が俺だった。
さらに、仮面婚約者だったがデートとか恋人らしい行動を取らないのは怪しまれるということでデートをするようになったのだが、基本暇人の俺はいろいろとデートコースを調べたり、予定は全て彼女の予定に合わせたりしていた。そうしたらいつのまにリンディはコロっと堕ちてしまっていたらしい
まさにチョロイン。理由はわからないでもないが。
しかし俺はあくまで仮面婚約者なのだと思っていたのだ。
そこからがすごかった。彼女は俺を逃がすかものかと策謀し、俺達はいつの間にか本当の婚約者になっており、さらに結婚の予定すら決められていた。
そんなところでハイスペックを発揮するなよと言いたいが、恋する乙女には通用しなかった。恋する乙女は無敵(ただしストーカー除く)なのだろう。
まあ、そんなこんなで彼女とはいずれ結婚するのだが…原作ってどうなるのだろうか?………ま、いいか。
「もうぼ~っとして、折角のデートなんですよ!」
「ごめんごめん」
こんないい女が恋人なのに文句はない。というか文句をいったら罰が当たる。
ちなみに今日はプールに行った。リンディの水着姿はかなり色っぽかった。正直くらくらした。
いつもはポニーテールにしている髪を下ろし、白い肌、均整のとれた身体をちょっと大胆なビキニで身を包む。しかし年の割にボリュームある胸は隠せず、はっきりと自己主張している。
あまりに色っぽかったのでまっすぐ見れなかったし、デートの最中はずっとドキドキしていた。
ちなみにその夜、いろいろとあったのだが、具体的な詳細はご想像にお任せする。
戦技教導隊、それは、平時は装備や戦闘技術のテストや研究、演習での仮想敵役や技能訓練などが主な仕事をしており、戦時になればエースとしての役割をこなす部隊。
管理局本局に本部があり、教導官と事務官を数名~数十名集めた班で編成されており、教導官は最低でもAAAランクで、どいつもこいつもエースクラスで構成されている管理局の精鋭とも言え部隊でもある。。
教導期間は最高でも一ヶ月ほどの短期間ほど。転々といろいろな部隊、局員達に戦闘技術を教導していく。
そんな部隊から俺は、戦技教導隊の対高ランク魔道師戦の訓練での仮想敵役の依頼を受けている。
例えば、数十年の周期で次元世界で暴れまわる闇の書とか、そう言った超高ランクの敵が現れることもあるので、対高ランク魔道師戦の訓練を行うのだという。実際に調べてみたが闇の書とかは今までにも洒落にならない被害が今までに出ている。
しかし闇の書か…もうすぐ出てくるのだろうな、原作的に考えて。正直戦いたくはないが、もしかしたら依頼が来るかもしれない。政治的理由で危険な依頼は来ていないが、流石にそんな事態になれば依頼が来る確率は高い。まあ、未来の話なので、今は置いておくことにする。
レアスキル有りの場合、俺はSSSランクになる。圧倒的な魔力に脳量子波による戦闘補正、短時間だが管理局でトップクラスの戦闘力を持っている。
そんな俺がよく相手にしているのが、AAAランク4名にS-1名とSランク1名、Sランクオーバーを隊長としたスリ―マンセル2個小隊だ。
これにはいくらレアスキル有りといえども、苦戦する。
たとえば、AAAランクが十字砲火でありったけの弾幕を張り、Sランク二人が同時にバインドをしかけてきたり、全員がサークル状のフォーメーションで常に移動しながらも陣形を崩さず、あらゆる角度を守りつつ、弾幕を張ったりと、各個撃破できる状況を極力作らずにこちらに攻め手を与えない。
とはいえ、こちらはこちらで脳量子波を使用して十字砲火からの弾幕を避けながら、逆に砲撃しつつ接近したり、相手が防御を固めすぎて密集したところへ広域魔法で殲滅したりとしている。
おかげで一対多数戦の経験はかなり豊富になった。相手が戦技教導隊で戦術が管理局最高峰だということもあり、SSランクが取れたのはその経験のおかげだ。
つまり、この依頼は戦技教導隊が鍛えられるとともに俺も鍛えられていたと言うことだ。
そんなわけで一ヶ月に一度ぐらいの割合で依頼がくるのだが、今日は特別だった。
なぜならリンディが見学に来ているからだ。
普通なら見学とかはイベント時しか許可しないのだが、なぜか俺が依頼を受けている時だけは許可されている。
家が何かしたらしい痕跡はあるが、詳しくは知らない。
管理局の広報もいて、雑誌に俺の顔が載っていた時は唖然とした。というか恥ずかしくて家から出られなくなった。まあ、管理世界全てで注目されているわけではないので、少ししたら出られるようになったが。
しかし、その雑誌を偶然リンディが読んでしまい、見学したいと強く言われ、今日に到るのである。
「頑張ってくださいね」
とにっこり微笑んで激励するリンディに一部の観客は嫉妬の涙を流し、別の観客は生暖かい目で見ている。その内訳は独身が嫉妬し、既婚者が生暖かい目だ。
ツインドライブの魔力同期率90%で脳量子波は思考受信のみオフの状態で常時開放する。
彼女の前で格好つけたいという思いはどんな男性でも持っているだろう。
俺もそうだ。
だから今日は本気でいく。
いつもどおりのクロスファイアからの弾幕を今日は全て撃ち落とし、設置型と通常のバインド二つを瞬時に解析し、破壊する。
残像を残しながら高速移動する飛行魔法で移動しながら、こちらも牽制で弾幕を張りつつ、AAAランク二人に接近していく。
AAAランク二人は残像に惑わされどれが実体か掴めず俺の接近を易々と許してしまう。
俺はすれ違いざまに両手から非殺傷設定の高圧縮魔力刃を出し、回転する用に切り裂き意識を刈り取った。
が次の瞬間にはSランクとS-ランクが接近しており、左右から同時に魔力刃と杖状のデバイスが振り下ろされた。
しかし、脳量子波でそれを感知し、反応していた俺は両手の魔力刃で受け止めた。
さらにAAAランク二人が俺を砲撃しようとしているのを感知し、わざと力を抜き、押し込まれる形で、身体の重心をずらす。
間髪入れず、高圧縮魔力刃を足から出すと同時に、S-に蹴りを入れる。
高圧縮魔力刃で切られたがS-ランクだけあって、AAAランクとは違い一撃では墜ちなかった。
そのままS-の背後に回り込むように射線から離れると、AAAランクは砲撃をあきらめた。
俺は高度を一気に高め、ありったけの魔力を込めて弾幕を張った。すぐさま敵4人は固まりシールドを張ったが、それは悪手だ。
弾幕を張った魔法は俺が一つ一つ出して発射しているのではなく、一定時間弾幕を自動で発射する魔法を空間に展開しているのだ。
この魔法は魔力を馬鹿喰いするし、射線の変更ができないデメリットがある。
しかし今のように足止めに使用すると高確率で敵は防御に専念してしまう。さらに視界も塞いでしまうメリットもある。。
この隙に残像を残さない最高速の飛行魔法で敵の後ろに回る。
当然彼らは弾幕から身を防ぐのに精いっぱいで俺が移動したことに気が付いていない。
俺は自分の魔力のみで行う収束砲撃を密集していた四人に向けて放った。
まったく意識していない死角からの攻撃に反応できるわけもなく、四人はぶっ太いレーザーのような砲撃に呑みこまれ、意識を失った。
勝利である。
終了の音声が流れ、隊員達の近くへ降り立った俺にリンディが寄ってきた。
「お疲れ様です。かっこよかったですよ」
タオルを渡しながら、そう言うリンディだが、眼がハートになっていた。
頑張った甲斐があったのだが、俺へ向けて送られる獲物を見るような独身女性達の視線を警戒してリンディの眼は殺気を帯びている。
俺は浮気とかする気はないから安心してほしい。正直これ以上心労を増やしたくないし。
働きながら女性と付き合っている男性を俺は心から尊敬する。真剣で。本気で。
働いていない俺でさえ、ちょっと疲れる時があるのに…たとえば服を買いに行くときとか…いくら婚約者になったとはいえ、下着を選ばせるのはやめてください。店員の生暖かい目と他の客の訝しげな眼で見られるのは辛かった…。
それにいちいち買い物が長いのはちょっと疲れる。
後、道を聞かれただけなのに、殺気を出さないでください。確かに相手は美人だったけどさぁ…。
女って男とは違う感性を持っているから、完全に理解することなんて一生かかってもできないのだろうなぁ…。
例え100%理解することなどできなくても、それでも理解したい、理解されたい、一緒に居たいと思うのが恋なのだろうと思った。