気丈に振舞う未亡人を慰めたい
吾輩は転生者である。
名前は飛鳥真。
神様に会い、オンオフ切り替え可能なイノベイター並の脳量子波とリンカーコアが二つありツインドライブで魔力量を二乗化する能力をもらってリリカルなのはの世界に転生した。
しかし、原作よりも前の年代に生まれたようだった。
なぜなら俺が幼稚園の頃に、家の隣に小さいが道場がある家が建てられ、高町という表札がつけられたからだ。
引っ越してきた家には恭也と美由希ちゃんという子供がいた。
原作の登場人物立ちである。
恭也は良く言えばクール悪く言えば暗い性格で、美由希ちゃんはまだ小学生にもなっていなかったので、明るい娘だった。
俺は転生者なので、同年代の子供とは全く合わなかった。まあ中身社会人だからしょうがないが。
しかし、恭也は剣術の修行で精神教養があるのか、元からそういう性格なのか、それなりに付き合える奴だった。
たまに美由希ちゃんの面倒を一緒に見たり、同学年だったので、学校にも一緒に言ったりと友人と言える付き合いをしていた。
しばらくして士郎さんが桃子さんと結婚した。
桃子さんと初めて会った時、ドキッとした。
初恋だった。
栗色のストレートな髪、明るい笑顔、すごくタイプだった。
が、人妻である。
当然、告白などすることもなく失恋した。
まあ、初恋なんてこんなもんだ、と割り切った。
というか、割り切るしかなかった。
それから数年が経ち、俺が10歳の時に桃子さんが妊娠した。
未来の魔砲少女が産まれるのだろうとわくわくした。
そしてなのはちゃんは無事生まれ、桃子さんが復職して翠屋の経営も軌道に乗り、次第に人気が出てきた。
俺は普通に学校に行き、恭也と美由希ちゃんが剣術の修行をしている時は魔法モドキの練習をしていた。
それ以外では恭也と散歩したり、なのはちゃんの面倒を見たりしていた。人づきあいは良くなく、友人や会話をする人は少なかったが寂しくはなかった。
そして数年後、なのはちゃんが幼稚園に通う前の年、士郎さんが死んだ。
そう死んでしまったのである。
原作にはこんなことはなかった。
なのに士郎さんは死んでしまった。
俺が転生したせいかもしれないという強迫観念に襲われた。
だが悩んでいる暇などないことに気がついた。
桃子さんは、翠屋を休むわけにもいかず翠屋で働き、家では家事をしていた。
しかし精神的にも酷く疲れているのがわかった。
翠屋では接客用の笑顔で普通なら気がつかないだろう。
だが俺は気がついた。
数年来の付き合いがあるし、初恋の人でもあるからだ。
悩む前にできることをしようと思った。
恭也は自身で剣術の鍛錬を始め、それを美由希ちゃんに教えながら休日は翠屋の手伝いを始めた。
しかし誰もなのはちゃんの面倒を見てあげられないようだった。
なので、桃子さんを説得し、俺は学校が終わったらなのはちゃんの面倒を毎日見てあげ、休日は翠屋の手伝いをすることになった。
そしてしばらくの月日が経ち、俺は高校三年生になっていた。
「おはよう、真」
「おはようございます真さん」
「おはよう、恭也、美由希ちゃん」
学校は同じ風芽丘学園なので、今だに恭也達と一緒に学校に行っている。
思い返すともう10年以上になり、今世の大半は高町家と一緒に行動している。
雑談を交わしながら、学園に付き、美由希ちゃんと別れる。
「しかし、お前とは本当に腐れ縁だな」
「そうだな。今まで全部同じクラス…どれくらいの確率なんだか」
「おっはよー、お二人さん」
「忍か、おはよう」
「おはよう忍」
月村忍。
恭也の恋人になるはずの少女。
妹が友人なので、その縁で恭也と知り合い、さらに恭也の親友でなのはちゃんの兄貴分の俺も知り合った。
それが高校一年生の少し経った時だったので、もう二年ほどの付き合いになる。
「あ、二人とも今日の放課後空いてる?」
「ああ」
「俺も大丈夫。仕入れも今日はないし」
「うんうん、なら放課後は私の家でお茶会ね。すずかがなのはちゃん達を呼んだから、一緒にどうかって思って」
「了解」
「わかったよ」
ちょうどチャイムが鳴り、俺達は席に着いた。
俺達の席は窓際の後の席だ。
俺が後ろから三番目、恭也が二番目、忍が一番後ろとなっている。
ちなみに忍は授業の大半を寝て過ごしている、が成績は恭也よりもいい。
そんなこんなで今日も日常が始まった。
「うーん…よし!お昼ごはんだ」
「…今日は午前の授業は全て寝ていたな」
「まあ、要領がいいからテストの成績は心配していないけど」
「それよりごはん、今日はどうする?」
「ふむ、学食で…ああ、真、これを渡すのを忘れていた」
恭也から渡されたのは、弁当だった。
「ま、まさか、二人は…BL!」
「おい、やめろ。それ以上いけない」
脳量子波でプレッシャーを与えながら言う。
普通の人間は脳量子波の感知はできないが、それでも雰囲気というかプレッシャーみたいなものを与えることができる。
「あ、あははは」
冷汗を流しながら乾いた声で笑う忍。
妹のすずかちゃんとは大違いだ。あの娘は将来深窓の令嬢って感じになるいい娘だ。
「漫才はそこまでだ。急がないと席がなくなる」
「そうだな」
学食では 俺が席を確保し、恭也と忍はその間に注文の配膳を取ってくる。
俺と恭也は隣同士に、恭也の対面に忍が座る、これがいつもの形だ。
二人が席に付き、俺は弁当箱を開いた。
色とりどりのオカズと、白いごはん。おいしそうだ。
「いつもながら、見事ねぇ」
「パティシエだが、料理も得意だからな母さんは」
「うん、おいしそうだ。では、」
「「「いただきます」」」
桃子さんの弁当、それは昨日のおかずの余り物と朝食の余り物で構成されている弁当だ。
なのはちゃんの面倒を見たり、翠屋の手伝いをしたりしているお礼ということでいつも作ってもらっている。
余り物ではあるが、弁当のことを考えて作ってあるので学食よりもおいしい。ひとつだけ欠点があるとすればつくりたてではないので温かくないことだけだ。
今日は和食、鶏肉の竜田揚げと卵焼き、野菜の煮物か。
煮物は人参、大根、ゴボウ、レンコン。
人参と大根はやわらかく、ゴボウ、レンコンはサクサクとした歯触りが最高だ。
そして噛みしめると出汁が出てくる。なのに、他のオカズには浸みていない絶妙さ。
野菜なのにご飯が進む。
鶏肉の竜田揚、鶏肉自体に味付けがしてある。
衣はほんの少しサクッとして、すぐに肉汁が出てくる。
しかし、すごく薄味で微妙に物足りないが、それが一層野菜の煮物を引き立てる。
肉をオカズに野菜を食べ、野菜をオカズにごはんを食べる。
そして最後に卵焼き、ほどよい甘みとふんわりした食感がデザートのようだ。
一心不乱に食べ、食べ終わった後の、満腹感はたまらなかった。
ただ、お腹がたまったからではない、充足感があった。
おいしかった。
「…ごちそうさまでした」
ふう…食後にお茶を一杯飲む。
これがまた乙だ。
「「…」」
一人悦っていると、二人はおかしな眼で俺を見ていた。
「何?」
「…いや」
「…その」
「本当においしそうに食べる(な)(ね)」
「実際においしいんだから、いいだろう?」
「そうなんだが…」
「あれは…」
((愛妻弁当を食べる夫の様だった…))
「?」
おかしな二人だ。
放課後、学校から少し離れた公園でノエルさんの送迎車に乗って月村家の屋敷にやってきた。
俺は助手席に、恭也と忍は後ろの席に乗った。
忍が恭也を好きなのは、この二年間でバレバレだったので、こういうところでサポートしてやっている。
恭也は朴念仁すぎるので気がついていない。
しかしそれでも、恋人なんじゃねって誰もが思える雰囲気を醸し出すだすことがあるので、いい加減告白しろよと言いたい。
俺はノエルさんの運転の邪魔にならないように、脳量子波の訓練がてら、周囲にレーダーのようなものを発したりしていたら屋敷についた。
相変わらずでかい屋敷だ。
月村家の屋敷はまるで、中世時代の貴族の城みたいなところで、庭園とかがあり、今日みたいな天気のいい日はそこでお茶会を開くこともある。
初めて見た時は原作知識で知っていても驚いた。
「あ、真おにいちゃん!」
庭園に来た俺にとてとてと駆け寄ってきたのは高町家の末っ子、なのはちゃんだ。
桃子さんは翠屋と家事で、恭也達は剣術の修行で忙しかったので、俺が面倒を見てあげていたのでものすごく俺に懐いている。
「なのはちゃん」
いつもの癖で、なのはちゃんを抱き上げる。
「えへへ~」
「よしよし」
(兄というより)
(父親だなあれは)
「あ、お姉ちゃんおかえりなさい」
「ただいま、すずか」
「忍さん、お邪魔せてます。恭也さんと真さん、こんにちわ」
「「こんにちわ、アリサちゃん、すずかちゃん」」
一通り、挨拶が終わったところで席に付く。
ちょうど席に着いた頃に、ノエルさんとファリンさんがカートを引いて庭園にやってきた。
高級な茶葉の紅茶を飲みながら、できたてのクッキーを味わう。
洋風の上流階級を思わせるお茶会だ。
皆で会話をした後、恭也と忍を二人で話すように仕向け、なのはちゃん達小学生組と話しをする。
「体育の時間にドッジボールをしたんですけど、なのはったらボールを投げたら、ボールが後ろに飛んでいったんですよ」
「もう!アリサちゃん!」
「その後で、ボールを止めたすずかが投げたら二人同時にボールを当てたんですよ」
「あ、あれはまぐれだから」
「私もすずかちゃんみたいに運動ができたらなぁ…」
「頑張ればなのはちゃんだって、すずかちゃんみたいになれるさ」
原作的にそれ以上になるのだからなぁ…。
確か通り名が白い魔王?だったはずだ。
「本当にそう思う?」
「本当にそう思ってるよ。美由希ちゃんだって、普段はアレなのに、剣術をやってるときは強いでしょ?この前なんて、眼鏡を上げた状態で、眼鏡どこ~?ってやってたし」
「うん、そうだよね。お姉ちゃんだって運動できるんだし、頑張ってみる!」
「美由希さんって…」
「前見た時はカッコよかったのに…」
ごめん、美由希ちゃん。ダシにして。
今度本でも買ってあげよう。
そろそろお開きになる時間、恭也と忍を見たらなかなかいい雰囲気になっていた。
ふだんはお嬢様といった感じの忍だが、恭也の前では素の自分をさらけ出せている。
恭也は普段高町一家と俺以外に見せる心の壁のようなものがあるが、忍といる時だとほとんど感じない。
感じないのだが、それが異性として心惹かれているからではなく、友人として思っているからだと思い込んでいるのがまずい。
どうみても相思相愛なのだから、何とかしてやりたいが…こればかりは当人が気付かなければならないのだろう。
いままでも通り少しだけサポートする形でいいか、と結論付けたところでお茶会はお開きになった。