魔法を習い始めて二週間。
空を飛ぶだけならかなり慣れてきた。
「すごいですね真、空戦適正S以上はありますよ」
俺に飛行魔法を教えているリニスはすぐ傍で飛んでいる。
「じゃあ、鬼ごっこでもしましょう」
鬼ごっこと名付けているが、飛行魔法で行うのでドッグファイトに近い。
脳量子波を使っても、飛行魔法に慣れていないとすぐに追いつかれてしまう難しさがある。逆に追いつこうとしてもアクロバティックな飛行で回避されていまったりする。
しかし、一日単位ではなく時間単位で上達していくのが身体でわかるので楽しい。
魔法を使うのは楽しい。
なのはちゃんは毎朝フェイトと一緒に魔法の練習をしているが、その気持ちがわかった。これはハマる。
などと考えていたら、いつの間にかリニスに追いついてタッチしていた。
プレシアほどではないがそれなりに豊かな胸に。
すぐに手を離したが、プレシアより弾力があった感触が脳に刻まれていた。男の本能だからしょうがないとはいえ、プレシアへの罪悪感が胸に沸き立った。
「…」
「…」
「…えーと、その、すまない」
「…真、謝るなら責任をとって下さい」
「うぇ!?」
「…冗談ですよ」
ペロっと舌をだして、おどけたリニスに不覚にもときめいてしまった。
…なんか負けた気分だ……そしてプレシアごめん、他の女にときめいてしまった。
最近の朝食はプレシアが作っている。とはいえ、簡単なものばかりだが。
パン、目玉焼きかスクランブルエッグとベーコン、サラダ。
リニスがいるときは和食に挑戦しているみたいで、たまに味が薄い味噌汁や少し硬いごはんが出たりする。
まずくはないし、上達していっているので気にはならない。
むしろ、失敗したことを恥ずかしげにしているプレシアが可愛いので、もっとやれと言いたい。
付き合ってみてわかったが、フェイトは明らかにプレシア似だ。
フェイトの恥ずかしがったりする仕草はプレシアそっくりだ。逆にアリシアは物怖じしないし失敗してもポジティブに考える…が、ちょっとアホの子が入っている気もする。
…原作知識にフェイトのコピー?みたいな子がいたが、あれはむしろアリシアのコピーなんじゃないかと思う。
どうやら今日の朝食は無事作れたらしい。
一通りおかずを食べたが、味付けもおかしくないし形もそれなりに整っている。
「おいしいよ」
と褒めたら、パァァと顔を輝かせたプレシア。
乙女というか仕草がいちいちやばい。
(あざとい、プレシアあざとい)
リニスが何か変なことを考えてるみたいだが、気にせず朝食に手をつけていく。
「日に日に上達していくなぁ…これは俺もさらに磨きをかけないといけないかな?」
「…あ、愛情がこもっているから…」
…やばい、プレシアやばい。可愛すぎる。
恥ずかしげにそう呟いたプレシアは凶悪的な可愛さだった。年上の女性が恥ずかしげにしているのは凶悪的な魅力があると思う。
(あざとい、プレシアあざとい。なんですか?あの恋する乙女風味は?とても30代とは思えません。あざとすぎます)
フェイト達が不思議な顔で俺達を見ていたのだが、それどころじゃない俺だった。
翠屋は平日週四日勤務となっているため、フェイトやアリシアが学校・幼稚園に行くようになってからは空いた日は魔法の練習を行うことにしている。
飛行魔法はある程度慣れてきたので、プレシアが作っているデバイスのデータ取りを行うことにしている。
まずは広域走査を行う魔法。
脳量子波を使用すれば物体や思考を感知できるが、魔法の感知は隠蔽されているとできない。できるほどの錬度がない。
それを補うため、脳量子波とデバイスをリンクさせることによって、脳量子波での広域走査を魔法として登録し、使用すれば魔力や魔法も感知できるようになる。
そんなわけで実際に試してみたのだが…なのはちゃんを超える魔力と、それに準ずる魔力が2つにやや劣るがそれなりの魔力のリンカーコアを感知した。
これってはやて一家だよなぁ……。
闇の書についてすっかり忘れていたが、どうしよう?
「あら、これは、5つのリンカーコア?それもかなりの魔力量…」
悩んでいたら、デバイスのデータを取っていたプレシアが見つけてしまった。
「うーん…これはちょっと調査してみた方がいいかもしれないわねぇ…脳量子波の広域走査じゃないと見つからないほどに隠ぺいされてるわ」
どんどん話が進んでいく…どうしよう…。
「ひとまずリンディに連絡してから、フェイトとアリシアの除く全員で行ったほうがいいかしら、いえその前にデバイスを完成させてからにしましょう」
本当にどうしよう…。
などと悩んでいた俺が馬鹿らしくなるほどあっけなく闇の書事件は解決した。
はやての家をいつでも戦闘に移行できるようにして、尋ねたら、予想通り襲われた。
が、ヴォルケンリッターはしょせん高度な魔法で造られたプログラム体、プレシアが俺のデバイスを急ピッチで完成させていたのでハッキングしたら、身動き取れなくないようにできた。
その後、闇の書を発見。
プレシアはロストロギアについて調べていたことがあるので当然闇の書についても知っており、研究者の血が騒ぐのか、研究室で調べていた。
その後、バグっていることを探り当て、俺がデバイスを使用してハッキングし、そこからバグを強制修復した。
完全に治ったわけではなく、バグっている部分のみをコメント化し、エラーが出ないようにしただけだが、バグはなくなった。
結果とりあえず安全になった。
なんて展開だよ…。
つうかプレシアすごいわ、拙者脱帽でござるよ…。
クロノ君達に連絡を取ったところ、前の事件で手に入れた情報から局員の汚職の告発から始まった権力闘争が激しくなってきたので、しばらくそちらには人員を割けないということ。
データからひとまず安全になったことは確認したので、しばらく保護・監視だけしてほしいとのことで、八神一家も家に来ることになった。
リンディさんとクロノ君は因縁のある闇の書があっけなく解決されてしまったことからかなり動揺していたが、それどころじゃないほど汚職の捜査やその妨害工作への対策が大変らしく、派閥の長であるグレアム提督も忙しいそうだった。
たぶんこれが原因で猫姉妹?が妨害できなかったのだろう。
そんなわけで、さらに家に五人もの人が増えた。
普通の一軒家二つ分の大きさがあるので部屋などは問題なかった。
それから少し経って、八神家の面々も慣れてきたようだ。
はやてとは料理の話を結構するし、補助デバイスで歩けるようになってきたので一緒に料理をすることがある。
「真さんの料理おいしいなぁ。うーん…和食は負けとるけど洋食は勝っとるかな?」
「はやての料理もおいしいよ。洋食の味付けは俺の好みのものも多いし」
薄味で旨味を引き出すのが俺の和食だから、洋食になると、味付けが雑になってしまうんだよなぁ…。
「…9歳の子供に負けた…」
「プレシア、継続は力なりですよ。はやてはずっと自分で料理を作っていたんですから、負けるのは当たり前です」
「シグナム、夕方の約束覚えてるよね?」
「ああ、私がヴィータとお前が高町と組んでのコンビ戦だ」
「私はそこまで戦いに興味はないんだけどなぁ…」
フェイト達は模擬戦をするらしい。なのはちゃんもあれで武闘派だから、模擬戦をするのが楽しいらしいし、フェイトはシグナムに負けたのが悔しくて何度も再戦の約束をさせている。
ヴィータは口が悪いところを除くばいい娘だ。
お年寄りと一緒にゲートボールをしたりしているし、祖父さん祖母さんに育てられた俺とは波長があうのか、比較的言うことを聞いてくれる。
懐いてくれた一番の理由はおやつに和菓子を作ったりしているじゃらだと思っているが。
「シャマルさん、お醤油取って」
「はい、アリシアちゃん」
「ありがとう」
アリシアは年少ということもあり誰とでも打ち明けている。というか可愛がられている。ヴィータも妹ができたいみたいで、お姉さん風にふるまっている。
シャマルさんは、料理以外の家事を手伝ってもらっている。それとプレシアの研究の手伝いもしているようだ。時折研究で相談しているところを見かける。
「平和だねぇ…」
「いいことだ、この平和がいつまでも続くことを祈ろう」
アルフとザフィーラは一緒に日向ぼっこしたり、休みの日に子供たちの面倒を見たりしている。
しかし、平和だ。
まさかこんなに簡単に原作の問題が解決するとは、この転生者の目をもってしても読めなかった。
いや、誰がこんな展開予想できる?無理だろ。
しかし、女性が多すぎて、なんか肩身が狭くなってきた。ザフィーラは普段犬になっているし、男は俺一人だけ…。
ここ、俺の家だよなぁ…。