「ありがとうございました!」
明るくはきはきとした声でお客様に言う。
プレシアと結ばれた次の日、俺は今までにないほど活力に満ち溢れていた。
「真君、いつもよりも元気ねぇ…これはもしかして恋人でもできたのかしら?」
「あの感じはそうみたいだな。彼に近しい人だと…リニスさんかな?」
「あら、プレシアさんだと思うわよ」
…なぜわかるのですか桃子さん。
あの後、根掘り葉掘りかれました。
桃子さんのあの楽しげな表情が忘れられません。恐いというかなんだろう、畏怖する?って感じだ。
「恋はいいものだよ、人に活力を与えてくれる。俺が桃子に出会ったときだって―――」
「そうよ。私も士郎さんに出会って一層美味しいものが作れるようになったのよ」
ラブラブオーラがきついです…!
しかし、俺には恋人が、プレシアがいる。もはやこのオーラも打ち破ることができるはずだ。
「あの真君に恋人かぁ…プレシアさんってどんな人なの?」
「年上の女性で二児の母、優しい目で子供を見てる人だったな」
「美人?」
「ああ」
く、ここにもバカップルが一組!
恭也と忍がカウンターの隣に、士郎さん達が正面にいる。
右を見ても、左を見てもバカップル…早く帰ってプレシアといちゃいちゃして、癒やされたい…。
年上の女性が恥じらいながらもいちゃいちゃしてくるのって…いいね!
「おめでとう、と言っておく」
「そうねおめでとう。でも、このことを聞いて泣く人は多いんでしょうねぇ…」
「ありがとう恭也、忍」
恭也とはまあ、仲がいいと思っている。
たまにぶらりと一緒に散歩するときがあるし、バイトで一緒に働くこともある。
士郎さんと桃子さん達曰く、ようやく同年代の同性の友人が増えて安堵した、だそうだ。
俺も似たようなものだったので、波長があったのか仲が良くなったのだろう。
ただし、忍といるときは大抵ただのバカップルになるので苦手なのだが。
なんなのあのラブ時空。
「それでどこまでいったの?ABCのどれ?」
「…それは秘密かな」
「ええー、気になるなぁ…」
「やめておけ忍、流石にそれは下世話すぎるぞ」
流石常識人、こう言うときは頼りになる。
「いらっしゃいませー!あら、プレシアとリニスさん」
「こんにちわ」
「こんにちわです」
「いらっしゃいませ」
なぜ二人が翠屋に来ているのか?
いや、別に問題はないが、恋人に働いているところを見られるのは少し恥ずかしい。
まあ、この時間は休憩時間だし、お客さんも常連の人がまばらにいるだけなので良いが。
「はい、どうぞこちらの席に」
なぜ、俺の隣にプレシアを座らせるんですか?桃子さん。
忍、その笑みはなんだ?そんなやらしい眼でみるな………くそう。
「し~ん君?紹介して欲しいなぁ」
「…こちらがプレシア、俺がお付き合いしている人です。こっちがリニス、メイドみたいなものだ」
(なんで私だけそんなにぞんざいなのでしょうか?)
「初めまして、真さんとお付き合いさせていただいてますプレシアです」
「リニスです。テスタロッサ家のメイドとかいうか家事を引き受けてます」
「私は月村忍、恭也の恋人です」
「あら、恭也君の?恭也君も隅におけないわね」
「それでぇ…真君とはどこまでいったんですか?プレシアさん」
「え、どこまでってそれは…」
プレシア、そんなに真っ赤な顔で恥ずかしげにこっちを見たら、バレバレだろう。
…でも、可愛いから許す。
「…これは」
「…まさか」
二人とも何でそんな目で俺を見る?
やめろそんなこいつすげえみたいな目で見るな。
「真君って手が早いんだ」
「真、興味ないようなふりしてそんなに」
「…ど、同居してるから展開が速かったんだよ。それに元々タイプの人だったからな、ぶっちゃけ一目惚れだったし」
言わせんなよ、恥ずかしい。
「真さん…」
「真…私も一気にそこまでいくとは思っていませんでしたよ」
うるさいリニス、駄猫は黙ってろ。
「あらあら。でもお似合いよ二人とも」
「ありがとう桃子」
…なんかにぎやかになってきたなぁと思いつつプレシアの幸せそうな顔をちらりと見たら、それをリニスに見られていた。
リニスは楽しそうにしていたが、どこか不機嫌そうでもあった。
あいつは猫だからか考えてることがいまいちわからない。
その後、恋人とどんなスキンシップをしているかの話になり、俺とプレシアは大いにからかわれた。
(…この中で私だけ独り身じゃないですか……)
11月1日、フェイトは私立聖祥大学付属小学校に転入し、アリシアは家から一番近い幼稚園に通うことになった。
フェイトをプレシアと一緒に学校へ送った後、アリシアを幼稚園に連れていった。
…ちなみに俺達は夫婦として見られていた。
そんな仲に見られるのは嬉しいのだが、子供がいるように見えるほど老けて見えるのかと少し落ち込んだ。
海鳴に住む人なら高町夫妻を知っているはずなので、そういうタイプだと思っているのだろう、そう一人完結させた。
その後、俺は翠屋に出勤。
プレシアは家の離れを研究室にしていて、デバイスとかを作るそうだ。
リニスは家事を、アルフはその手伝いをする。
これからはこの生活リズムが日常になっていくのだろう…。
ちなみに子供達が見ていないので、いってらっしゃいとおかえりなさいのキスをするようになったのは秘密だ。
リニスからは砂糖を吐きそうと罵られた。
だが絶対にやめられそうにないほど、俺は恋愛脳になっていた。
プレシアはどうやら俺のデバイスを作っているらしい。
休みの日に、どんな形がいいか、ツインドライブと脳量子波の詳しい説明を聞いてきたり、データを取ったりしていた。
その時のプレシアはいきいきとしていて、いつもの母性あふれる女性ではなく、好奇心旺盛な科学者の顔をしていた。
そんなプレシアも綺麗だ、と思ったが、次第にマッドな一面を見せるようになって、ちょっと恐れた。
さすがに家庭も顧みないようにはならなかったし、俺とリニスで切りがいいところでやめさせたりしていた。
「…プレシアって、素でマッドだったんですね……」
「研究に打ち込んでる顔も綺麗だけど、流石にあれは…」
「まあ、あれは真のためにデバイスを作ってるからというのが大きいと思いますけどね…」
だと嬉しい。
恋人的にも心情的にも。
「…もしも素でマッドだったのなら、これ以上マッドにしないように気をつけましょう」
「…ああ」
それから2週間ほどが経って、デバイスは完成した。
二つのモードがあり、ひとつはただのストレージデバイスとしての機能を持ち、脳量子波の反射速度に反応してくれる性能を持っている。
もう一つのモードは、脳量子波完全開放時に使用できるモードで、自動で脳量子波による思考の読み取りを遮断し、かつインターフェースを持つ有機物、無機物のハッキングを行えるという鬼性能を持っている。
デバイスならマスター権限の強奪、アースラですら制御を奪える電子戦なら次元世界最強…正直プレシアを舐めてました。
彼女は自分の担当していた研究でアリシアをなくしたし、その後の研究も狂気に駆られて行ったものばかりで、そこまですごいとは思っていなかった。
しかし、詳しく聞いてみれば、限定SSクラスで使用できる人などほとんどいない次元跳躍魔法を使える大魔導師。
さらに研究者としても天賦の才を持っているということを身に沁みて実感した。
そして俺はデバイスに補助されながらプレシア達に魔法を習うことになった。
女教師のコスプレをしたプレシアを想像して、今度お願いしてみようと思った。
その願いがかなったかどうかは秘密だ。
―――番外編―――
プレシアの研究室がすぐに汚くなり、リニスと一緒に掃除をしていたところ、古いデータディスクを見つけた。
リニスに中を確認しもらったところ動画ファイルが入っているらしかった。
気になったので再生してもらった。
リニスも気になったのかノリノリで再生してくれた。
『雷光少女プレシアちゃん!悪い人にはビリビリしちゃうぞ!』
魔法少女のコスプレをした少女が、ポーズをとって決めゼリフを言っている。
「…」
「…」
俺とリニスは何も言えなかった。
「ああー!ちょっと見ないで!恥ずかしい!」
俺達が何を見ているのかを知って、顔を真っ赤にして再生を止めるプレシア。
「何これ?」
「…私が9歳のころに撮ってもらったの。天才だって昔から言われて物心ついたときから魔法を習っていたのだけど、始めて高性能なデバイスを貰ってバリアジャケットを自分で作ったのだけど、その時に親から言われてこのセリフを言ったのよ」
「ま、まあ可愛くていいじゃないでしょうか?まだ子供の時のことですし」
「…慰めはいいわ……」
そういえば、プレシアのバリアジャケットって…あのエロい悪の女幹部みたいなやつだったよなぁ?
なんであれなんだろうか?
「話は変わるが、プレシアの現在のバリアジャケットってなんであのデザインなんだ?あれはできれば他の人には見せたくないんだけど」
「…あれは、その、昔ミッドで流行ってたのよ、大人っぽいセクシーなバリアジャケットが…30年近く前のことだけど」
「…その、なんかごめん」
「…いいのよ、どうせ私はおばさんよ、年増よ」
いじけてしまった。
以外に打たれ弱いというか、プレシアにはこういうところがある。
面倒くさいと思う反面、それが可愛いとも思う。
そして俺はこういうときの対処法をすでに理解している。
強引にキスをする。
そして、
「年増でもプレシアが好きだよ」
「…もう、馬鹿」
プレシアからもキスをしてきた。
それに応え、スキンシップをすれば、拗ねていたことも忘れてくれる。
(私の存在忘れられていませんか…?ちくしょう…なんだかとってもちくしょうーーー!!!)