なのはちゃんのことをどうするか。
出した結論は、脳量子波で監視して、もしも命にかかわるような時は手助けしようというものということになった。
とはいえ、ろくに魔法の使えない自分ができることなどたかが知れている。
つまりは俺が下手に介入しても何ら役に立たないので、とりあえず保留にしておくという逃げの一手だった。
無力感に苛まわれたが、それでも変わらない日常を過ごすために翠屋で働いた。
その帰り道、青い宝石が落ちていたのを発見した。
落し物だろうか?と拾った瞬間、脳量子波に干渉されたようなノイズが走った。
宝石が俺の思考を読み取ろうとしているのだとすぐに気がついた。
ノイズがひどいので、脳量子波で逆にハッキングを行って黙らせてやった。
そして知った、これがジュエルシードだと。
…初めて脳量子波が役に立った瞬間だった。
ちょっと感慨深げに思っていると、脳量子波を放出していたからか空から何かが接近してくるのを感知した。
「あの、それを渡してもらえませんか?」
金髪長い髪をツインテール、レオタードとひらひらしたスカート、そして機械的な斧を持った少女が空から話しかけてきた。
この娘がフェイト、なのだろう。
あやふやな原作知識だが、さすがに主要人物の名前は覚えている。中の人の知名度も高ったし。
しかし、この場はどうするべきなのだろうか?
こんなことで巻き込まれるなど予想できるわけがない、どうする…?
「あの…それを渡してください」
斧を構えてそう言ってきた。
牽制いや警告のつもりなのだろう。
俺に戦闘能力はない…いやデバイス?をハッキングしてしまえば無力化できるかもしれないが…ここは素直に渡しておくことにしよう。
「君の落し物?」
「…はい、そうです」
嘘を言っているのが後ろめたいのだろう、少し言い淀んでいた。
まあ、空を飛んでいる時点で突っ込みどころ満載なのだが、放置しておく。どちらにせよ、今の俺にできることはないのだから。
「ほら」
「あ、ありがとう」
おそらく魔法を使って、封印したのだろう。
斧の中に仕舞われていく宝石をみて、初めて魔法を直に見たな、と思った。
そして、空を舞うように飛んでいった少女を見て思った。
俺も空を飛んでみたい、と。
4月ももうすぐ終わるころ、いつもどおりなのはちゃんの監視をしていた。
フェイトとなのはちゃんが戦い、男の子がそれに割って入った。
しかし、ジュエルシードが暴走し、これはまずいと、脳量子波によるハッキングを行った。
一度ハッキングした経験からか、あっという間に制御したのだが、それが俺だと特定されてしまったらしい。
突如俺の前に緑色の髪の女性の映像が出て、あれよあれよと言う間にアースラという艦に行くことになった。
転移魔法というのだろう、光に包まれた瞬間、魔法陣が光っている奇妙な場所に出た。原作知識から知ってはいたがSFだ、と思った。
「真さん!?」
俺の目の前にいた少女が叫んだ。
なのはちゃんだった。
「ええー!なんで真さんが!?」
「彼は、この事件に関与していると思われる人物なんだ。話を聞くためにこの艦に来てもらったんだ」
「まあ、話せることはほとんどないと思うけどね」
「驚きだよぉ…」
まだ驚いているなのはちゃん。
可愛いな…。
こういう子が妹だったら、甘やかしてしまうだろうな。恭也の気持ちが少し理解できた瞬間だった。
「驚いているところ悪いけどついてきてくれ」
その後、フェレットが男の子に変身し、またまた驚いてしまったなのはちゃんを見て、クスリと笑ってしまい機嫌を損ねてしまった。
しかし、頬を膨らませて私怒ってますって、むしろかわいいだけな気がした。
緑茶に砂糖を入れているありえない女性に垂れ流しの魔力と脳量子波を少し端折って説明して、しばらく後に俺は解放された。
なのはちゃんはいろいろ悩んでいるようだったが、俺に助言できることはないので、家に帰った。
無力すぎる…。
1月ほどが経った。
その間俺は魔法関係に巻き込まれることはなく、いつものように日常を過ごしていたのだが…いきなり拉致された。
朝、出勤しようと家を出たらフェイトが来て「一緒に来てください」と脅されて、拉致されてしまったのである。
そして女性の前に連れてこられたのだが…その女性が妙に色っぽかった。
派手な服だが、美人でスタイルがいいからか着こなせている。
しかし、怖いほどに青白い肌から身体の具合が悪いのだろうと察せられた。
「フェイト、よくやったわね。しばらく休んでなさい」
「は、はい」
少し嬉しそうな感情を声に含み、フェイトは去っていった。
「私は、プレシア・テストロッサよ。あなたにはしてもらいたことがあるのよ。拒否は許さないわ…もし嫌だと言うなら命の保証はできないわ」
色っぽい女性、プレシアは狂気を含んだ声でそう脅す。
彼女が何を望んでいるかは知っていたが、本人を前にして思ったのは一つだけ、綺麗な人だなということだけだった。
逆らったところで無意味なので、俺は協力を約束し、犬耳の女性に部屋に案内された。
妙に哀れな目で見られたが、あれはなんだったのだろうか?
それから数日間、軟禁状態で過ごしたが思ったことは一つだけだ。
プレシアさんは家事が苦手だった。
切羽詰まった状況でそんなことを思うなというやつもいるだろが、それ以外に感想はない。
下着とかそのままにしておくってどういうことなの。臭いがやばい…(嗅いだわけじゃないぞ)
洗濯ぐらい定期的にしろよ。
栄養食だけしか入っていない冷蔵庫ってなんだよ。
女性としてありえないだろこれ…。
外見はものすごくタイプなのに、これじゃあ百年の恋も冷めてしまう。
「何…?」
俺が同情というか、早くなんとかしろというか、そんな目で機械で何かの作業をしているプレシアさんを見ていたら、プレシアさんがこちらを訝しげ眼で見ていた。
美人なんだけどなぁ…。
「いや、なんでもないです」
俺がそう言うと、彼女はすぐに作業に戻った。
しかし、これからどうするか。
彼女は脳量子波に目をつけ、ジュエルシードを完全に制御し、アルハザードに行こうとしている。
しかし、俺はこれが必ず失敗すると確信している。
アルハザードの座標、時間軸が不明なのだ。もし、それがわかっていたら、どれほどの距離、時間を隔てていて、仮に障壁などが張ってあったとしてもいけるだろう。
だが、座標、時間軸がわからない限り、ジュエルシードを用いてのアルハザードへの転移は失敗する。
彼女の目的はアリシアの蘇生。
説得など無理だし、都合よく生き返らせるのも無理だ。
死者の蘇生はこの世界では無理なのだ。この世界の魔法はファンタジーではないのだ。
…蘇生が無理なら過去を変える?
それで現在が大きく変化したり、より大きな事件が起きるかもしれない…。
…過去……現在………もしかしたら…。
まるで、電球に明かりがピコンと点いたように、俺はこの状況に一筋の光明を見つけることができた。
おそらくアレならできる、ほんの少しのタイミングが重要になるができるはずだ。
そのためには…。
「プレシアさん、頼みがあるのですが―――」
俺はプレシアを救うための行動を開始した。