とある暗部の暗闘日誌   作:暮易

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内容は変わっておりません。

しばらくして落ち着いたらこのお話のタイトルを

episode26:一方通行(アクセラレータ)①

と変更させてください


episode26:一方通行(アクセラレータ)①

 

 六月最後の週が明けた。七月の到来だ。試験と"身体検査(システムスキャン)"さえ乗り越えられれば、夏休みがやってくる。ここは学園都市、つまりは住人の八割に至高の堕落期間が与えられるわけだ。

 

 早朝。遅刻ギリギリであるのに、登校中の青髪ピアスは余裕綽々の笑みを浮かべ、緩やかに通学路を歩んでいた。

 

 生まれてから16度目に味わう初夏の風は、相変わらず生暖かい。されど、不思議と不快感は無かった。長期休暇を祝う学生たちの残香が、その暑い空気から感じられるのだ。

 

 街はどこか浮き足立っている。軽いお祭り騒ぎ状態にあると言っても差し支えない。学園都市の2大ビッグイベント、大覇星祭と一端覧祭の際も街は沸き立つものだが、正味の話、学生にとってはそれ以上に期待を寄せるべき一大イベント、それが夏休みだった。

 

 

 

 

 

 とある高校の、とある教室はざわついていた。既に一時間目の授業が始まっている時間帯のはずなのだが、担当の先生が遅れているらしい。雑談に花が咲き、教室は生徒たちの自由空間と化していた。

 

 そんな中。遅れてやってきた青髪にピアスの青年は、教室に入った突端に大きく目を見開いた。目線の先、黒髪で絆創膏だらけの青年の姿に並々ならぬ関心を示すと、真っ直ぐに彼へと近づいていく。

 

「カミやん?!」

 

「痛ッ、やめろ、ベタベタ触ってくんじゃねーよ」

 

 体中に青痣と擦り傷をこれでもかとこさえた上条当麻に、友人はしきりに興味を寄せている。向けられる関心に、否応なく苦い記憶が浮かんでしまうのだろう。不機嫌そうに身を捩りつつ、擦り寄ってくる野良犬を追いやるように上条はその友人を手で払い除けた。

 

「触るな!痛えんだから……なんだよ今日はいつにも増してキモいぞ?」

 

「カミやんこそ何でこんなタイソウな怪我しとるん?てかぱっと見酷そうやけどホントに大丈夫なん?」

 

 質問の答え代わりに、音もなく青髪の顔の真ん前に左手が差し出された。その拳は包帯でぐるぐる巻きになっている。

 

「見ての通り、こっちの拳は完全にやっちまってんだけど、それ以外は大したことねえよ。まあ、しこたま体を打っちまったんで若干、むち打ちみてえにあちこち痛むけどな」

 

「何時ものあれぜよ。要するに、まーた喧嘩したんだとよ」

 

 怪我をした理由を補足するように、呆れた様子の金髪のクラスメイトが説明を一言添えた。

 

 青髪は金髪の彼へと視線を移した。黒光りするサングラスに隠れた土御門の顔色はわかりにくかったが、よく見れば冷ややかな視線を送っている。

 

 景朗は瞬きほどのほんの短い間、彼とアイコンタクトを交わした。たったそれだけで、つい昨日、彼と話したやり取りが蘇る。

 

 間もなく。大人しくしているさ、とでも言いたげに、景朗は剣呑な同僚へ肩をすくめてみせた。

 

 

 

 

 先日のウィルス騒ぎから上条との乱闘を含めた一連の事件。それが解決したと判明したすぐ直後に、景朗は土御門から説教まがいの愚痴を散々に食らっていた。勿論、その時の話題は景朗が上条へやらかした失態についてだった。

 

 上条への監視と護衛は2人の共同任務である。つまり、失敗すれば互いにしわ寄せが行くことになる。当然のごとく、土御門から不満の声が上がった。返す言葉もない景朗は叱られた子犬のように萎れるしかなかった。

 されど、土御門はそれほど粘着質な男ではなかったようである。延々と景朗を攻め続けた彼だったが、最後の最後には。なんとも頼もしいことに、今回の景朗の失態をなんとかアレイスターにとりなしてみよう、と自ら口にしてくれたのだ。

 

 

 いくら景朗がアレイスターの直近と言えども、実はそうそう自由に面と向かって会話はできなかった。それが可能なのは、そうするように向こう側から指示が来た時だけだった。自ら面会に赴く場合、結標淡希に都合をつけ、彼女の力で窓のないビル内部へ転送して貰わなければならない。

 

 そういった事情がある中、土御門は都合よく、すぐさまアレイスターと面会する予定があった。渡りに船とばかり、景朗は全ての報告を彼に任せることにした。

 

 

 そして昨日、幸いにも。"窓のないビル"から返ってきた土御門から連絡があった。そして彼から事後報告を聞き、ようやく景朗の心配はつゆと消えた。今回の件はそれほど大事には至らなかったようなのだ。上条が負った怪我は深刻なものではなく、問題は軽微であったらしい。もともと上条当麻は打撲程度の負傷、見舞われること日常茶飯事である。

 

 気になったのはアレイスターの一言だった。"悪魔憑き"と"幻想殺し"の交錯の顛末を聞くと、奴は『実に興味深かった』とだけ口にしたらしい。何事もなく心配事がなくなったと思いきや。一体何に対しての感想を述べたのだろうかと、景朗は嫌な汗をかいた。

 

 

 

「なんだよ、ボーッとして」

 

 不審そうな声を受け、目の前で割とピンピンしている上条を改めて眺める。何時もどおり、何も変わっていない彼の様子に、胸の内に燻っていた不安がみるみる打ち払われていく思いだった。

 

「……"若干"で済んで良かった……なぁ…………」

 

 乾いたつぶやきが景朗の口からこぼれた。そこには偽らざる本音が混じっていた。

 

 単純に、こうして週の初めから上条が登校してくるのは予想外だったのだ。それこそ、最後に目にした時は立ち上がれぬほどふらつき、ぐらついていた。一日二日でどうにかなる容態とも思えず、本人がやせ我慢していないのであれば恐るべき快復速度である。あるいは彼の頑丈さが逸脱しているだけなのか。

 

 人体とは思っていたほど脆くはないのかもしれないな、とうっすら不思議な気持ちにもさせられてしまう。

 

 

「ホントだぜい。相変わらず帰宅部の鍛えっぷりじゃにゃーぜ、カミやん?」

 

 青髪に同調し、からかう様に土御門は笑みを見せる。上条は尚も不満げに口を尖らせた。

 

「テメェーら2人に言われるとイヤミにしか聞こえねえっつの」

 

 土御門も青髪ピアスもそのチャラそうな外見を裏切って、しっかりと筋肉に覆われた躰つきをしていた。そのへんの高校生よりよほどガタイが良く、どうやら上条はその点において2人の友人に対抗意識を抱いているらしいのだ。

 

 家にトレーニング機材が山ほど鎮座している土御門はまだ納得できる。しかし青髪に至っては『そういう能力だから』とトレーニング方法を質問した上条を一刀両断する有様だった。

 

 

「はぁ。にしても、カミやんが拳やってまうくらい相手さんは殴られた訳や。さぞや痛かったでしょうなぁ」

 

 どこかホッとしたように落ち着きだした青髪が、しみじみと言い放つ。

 

「……結局、負けたんだよ。だから喋りたくねえんだ。ほっといてくれ」

 

 上条はおとなしく自分の席に着き、珍しいことに手早く次の授業の準備を始め出した。その後、ふてくされたように寝そべると、机に顔を伏せてしまった。喧嘩の話はこれ以上はもう御免被る、とばかりの態度。それからは授業が始まるまで、彼は友人2人の話を全てシャットアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  午前の授業も終わり、昼休みが始まった。その日は三馬鹿の3人が3人とも昼食を用意して来ず、ならば皆で学食を嗜もうか、と午前中にそういう話になっていた。

 

 特筆して上条はやたらと腹を空かせており、ダッシュで学食行くぞ、と鼻息も荒く。そんな彼に同調するように、スピード勝負ならカレーですたい、と言い出した土御門。ああ、学食のカレー最近食ってねえな、食いてえな、と上条はなお一層燃え上がる。カレーええな、もう学食のカレーの味忘れてるわ、なんかテンションあがってきますなぁ、と青髪が最後に賛同した。

 

 

 

 

 

 お昼はカレーにしよう。皆で確認を取り合わずとも、自然な流れでそのように決まった。そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 昼前の最後の授業が終了した直後。いよいよ教室のドアが乱雑に開かれ、青髪と上条が争うように廊下に転がり出る。だがそこで、両者の足は予期せぬ声に止められた。時間勝負と連呼していた当の本人の土御門が、『待て』と言いだしたのだ。

 

「ウ○コだにゃー」

 

 真剣な面差しで何を言い出すコイツは。その一言に、勿論2人はなに食わぬ顔で宣言した。

 

「野郎ざっけんな置いてくで、ごゆっくりなペド」

 

「ああいいぜ。3秒間待ってやる。3秒でケツまで拭いてこい。はい、いち、に、さん。ああ残念アウトーじゃあなシスペド」

 

 金髪サングラスは情けない台詞を繰り出しておいて、何故か堂々とした態度を崩しもしなかった。

 

「ふぃー。あいにくとそいつぁ無理な相談だぜいカミやん。オイラ今日カレー気味なんぜよー。実は朝からカレー地獄でにゃ」

 

 あまりの怒りに、今にも動き出しそうだった2人は再び足を止めて身体を反転させた。

 

「バカ野郎!テメェそれ以上言うんじゃねえよっ!!」

 

「うわ!信じられへん言いやがったでコイツ!カレー食う前によくも!」

 

 頭を抱えて地面にしなだれかかる青髪。ドン引きの上条は唾を飛ばす。

 

「あーもーこっちまで巻き込んでんじゃねえよシスコン三等兵!」

 

「友達なら苦楽を供にするってなもんだろ?待っててくれよー」

 

 フラフラと両手を伸ばし、金髪グラサン男が近づいてくる。

 

「やめて!カレーのついた手を包帯に近づけないで!」

 

 上条は恐怖に震えて後ずさる。ゾンビのようににじり寄る金髪カレー男。彼に狙いを移される前に、廊下の壁に背を付け極限まで身を仰け反らせた青髪は声を張り上げた。

 

「わかりました!わかりましたから!まっとるからはよいってこい!」

 

 上条も何度も頷き、その台詞に同意している。

 

「おみゃーら非道い扱いぜよ」

 

 呆れたように捨て台詞を残し、土御門は背を向けて歩き出して行った。起き上がった青髪が上条を覗くと、彼は投げやりな態度で空元気を炊き上げている。

 

「今ならちょっとくらいカレー食うの我慢できる気がする不思議!」

 

 その悲鳴に、同じくゲンナリとした顔の青髪は呟いた。

 

「ええ?ボクもう今日はカレーやめときます」

 

 彼の視界の端に、窓越しにぷるぷると震える吹寄整理が映っていた。行儀よく自分の席についた彼女は、全然カレーの匂いがしない怪しいカレーパンを片手に全ての動作を止めている。

 

(可哀想に……土御門の奴、声がデカいんだよ)

 

 同情しつつも、いつもいつもどうして吹寄ちゃんはあんな不味そうな匂いの食べ物ばかり食べているんだろう。だから毎日イライラしてるのかな、と景朗は疑問を浮かべたりもした。

 

 

「そいつは名案だぜ青髪」

 

 去りゆく土御門の背を見やる上条は、その一言と同時に晴れやかそうにそう述べた。

 

「いやいや、ここはあえてカレーだろ?」

 

 会話を耳にしていたらしい。廊下でくるりと振り向きドヤ顔を見せつけてきたその男を無視し、上条と青髪は白けたように教室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラスメートがまばらになった教室で、上条と青髪ピアスは2人して椅子にもたれかかった。トイレに行った土御門が戻ってくるのをひたすらに待ちわびながら。

 

『何か面白い話してくれ』『ネタ切れやぁー』『第一声がそれ!?んっとに虚仮威しのエセ関西弁野郎だなぁー』『なっ、そ、そんなん今関係ないやろ!?そない言うんならまずあんたからやってくれます?』『あーあ、だからモテねえんだよー』『おいっ!?』

 

 時間をドブに捨てるが如く、毎度毎度なんの足しにもならないやりとりをひとつ終えて。上条と青髪は2人してぼーっと椅子に座り、しばし無言のまま空腹と語らった。周りの友人たちは皆、見せつけるように弁当を頬張っている。明るく暖かな、ほのぼのとした光景だ。

 

 気を緩めずにはいられない。今ではこれがすっかり景朗の日常と化している。ほんの数日前には血みどろの抗争を、そして隣のツンツン頭とは荒々しい喧嘩を繰り広げたばかりであるのに。それがまるで嘘だったかのように思えてしまう。

 

「はぁーーぁぁぁ……」

 

 友人はなにやら、さきほどから隣で哀愁を漂わせ続けている。鬱陶しくもあるが、されどその理由を深く穿り返せばどうせ"あの喧嘩"の話が飛び出てくるのだろう。ヤブヘビとなるのは嫌だった。景朗はしばし、どうしたものかと考えた。やがて穏やかな空気を胸に吸い込むと、徐に、何気ない素振りで口を開いた。

 

「どしたんカミやん今日はホンマにぃー。えろうため息ばっかついとりますねぇー」

 

 恐らくはその原因を作っておきながら、いけしゃあしゃあと恍けた尋ね方をする景朗だった。しかし彼とて先日の喧嘩の件は積極的に話したくはなかったようで、その口ぶりもどこかテキトーだ。

 

「……土御門、おせぇーなぁー」

 

「まぁー、ええやんもう。こうなったら時間置いて人のおらん時間帯に学食行こうでー」

 

「そうだな。……はぁー……っ」

 

 相槌を打つものの、彼の意識はここではないどこかへ乖離してしまっているらしい。覚悟していた話題は出てこなかった。

 

 上の空で考えに耽る上条に習い、景朗も腰を落ち着けてボーッと窓の外に意識を移した。傍からただ単に、物静かに景色を眺めているだけに見える。でも、そんな彼の頭の中では思考の束がぐるぐると目まぐるしく移り変わっていた。

 

 

 

 

 横でうなだれる少年が証明してくれる。どうやら本当に、彼に手をかけてしまった景朗の失敗はアレイスターの逆鱗に触れずに済んだらしい。

 

 となれば、今一刻も早く手がけていかなければいけない案件は必然と、丹生多気美の後遺症問題となる。そのような思考が景朗の脳裏に到来していた。

 

 彼女が元気になれば、単純に自分も嬉しい。それに、そうなれば形だけでも丹生は暗部から開放される。景朗自身が彼女へトラブルを媒介させてしまわないか否か、心配事はそれだけになるはずだ。

 

 こういっては何だが、丹生多気美という少女は彼女の両親の負債を除けば、取立て暗部の業界に必要とされる人材ではなかった。彼女を恨み執着していそうな暗部組織にもとんと心当たりはない。

 

 自分が彼女を新たなトラブルに巻き込むのでなければ、おいそれと問題は生じない気がしていた。楽観的な考えではあるが、景朗には今のところ、そう思えてならなかった。

 

 そうして丹生多気美の行く末について考えを巡らせていると、また一つ、とある重要な事実が浮かび上がってくる。景朗は想像してしまった。丹生の身体的障害を全て取り除くことが叶えば、その結末に何が訪れるのか。

 

 丹生の容態が完全に治癒すれば……少なくともひとつ、幻生のジジイに握られている弱みが解消される。理不尽な命令を言いつけられるだけの関係から脱却できるかもしれないのだ。

 

 幻生との関係が、変化し得る。木原幻生との付き合い方を一変させられる可能性が、突如浮上する。

 

 

 

 急を要する話題。性急に取り組まなければならない課題。たくさんありすぎて困るほど色々と思いつくものがあったが、その内ふと、手纏ちゃんと交わした言葉が脳内に湧いて出た。

 

 その瞬間、衝撃とともに微かな動機が景朗を襲う。

 

(ああ、手纏ちゃん俺のことスキって、好きって……うおおおああああああ)

 

 青髪は得体の知れぬ快感とともに椅子に座ったまま縮こまり、器用に身体を小さくしたまま藻掻き回る。離れたところでそれをたまたま目撃したクラスメートの女子校生が、彼の頭髪より青い顔色を呈している。

 

 

 周囲の目など露知らず、景朗の脳内は一面鮮やかなピンク色に染まりそうだった。しかしそれも直ぐに終わる。景朗が"その日の放課後の用事"を思い出すや否や。彼の躰は芯まで一気に凍りつき、熱を失っていった。

 

(……歯がゆさに、悔しさ……色々あるかな。もちろん申し訳なさもあるけど……手纏ちゃんはウチらとは違う。大した後ろ盾もバックボーンも何もない聖マリア園の奴らとは違って……手纏商船の経営一族、現経営者トップの一人娘だもんな)

 

 今一度よくよく考えてみると、住んでいる世界が違い過ぎる。それが景朗の正直な想いだった。拙い例えになるが仮に、彼女が世間的に+(プラス)の世界に大きく位置しているとすれば、逆に自分は±0(平凡)な世界どころか、際立って-(マイナス)の世界に大きく振り切れてしまっている状態だ、と。

 

 

「……mottainai……」

 

 景朗の口から、蚊の鳴くようなつぶやきが漏れる。その時、耳ざとくその台詞を聞いていた上条が、びくりと激しく身体を反応させた。

 

 

 

 

「……ぁぁー……へぁーあ」

 

 そして彼はまたひとつ、深く息をついた。いかにもワザとらしい態度だった。実は先程から、景朗は顔面を不自然なほど無表情のままにして、チラチラと上条の寄越す視線に気づかないふりをし続けていたのだ。

 

「あのー、青髪さん?そろそろいい?わかる?ほら見て?上条さんが落ち込んでいるでしょう?理由。なぜ理由を聞いてくださらないのかね?」

 

 しびれを切らした上条当麻はいよいよ口火を切った。極力短調な声色を意識して、青髪は答えた。

 

「……あれー?おかしいなー。ボクそれさっき一回お尋ね申しましたよね?あんさんウニ頭やのうてトリ頭やったんかいな?」

 

 上条は息を止めたように静止し、一瞬真顔になる。

 

「……はぁーっ。ぁーぁ、最悪だ……、どーすっかなぁー……」

 

 そして直ぐに何もなかったように平然と景朗の指摘をスルーした。時間を巻き戻したように再び、落ち込んだ素振りを露骨に押し出してくる。

 

「はいはい。怪我が痛むん違うの?てかちょいまち、今のな、それ、今の。今のをボクがカミやんに言い出す前に、前もって気遣っとったら。どーせいつもみたいにホモッ気がどーのこーのと言い出すつもりやったんやろ?簡単に読めてたでー」

 

「全然ちげーよ。オメー、やーっぱホモクサイこと考えてたんだな。ちょっと離れてくれません?」

 

 疲れ気味に話を合わせた恩が、仇で返ってきた。椅子の足が床とこすれ、上条ごと真横をスライドしていった。やや大げさなほどげんなりとした仕草を見せる上条に対し、青髪の額に青筋が差す。

 

「カミやん?最後のチャンスやで?」

 

「ああもうわかりましたよ、青髪さんは全くもう。先にネタふったのはテメーなのに……」

 

 景朗の方から真面目になれば上条がフザケ、逆のシチュエーションとなれば今度は自分が話題を逸らしてみせる。三馬鹿たちは一から十まで遊びの要素を含んでしまうところがあった。正味、真面目な話をする時は遅々として進まなかったりする。

 

「なあ、青髪さんや。詰まるところ、卵って1日に何個まで食っていいと思います?1日に許される許容量的な意味で」

 

 イマイチ重要度のわからない質問が飛び出してきた。

 

「あー?そんなん好きなだけ食えばいいねん」

 

「真面目に答えてくれよ」

 

「あー?カミやんみたいな貧弱ボーイは1日12ダースくらい貪って2000回くらい腹筋せなアカンのやない?」

 

 問いかけ自体が毒にも薬にもならなそうな代物である。イマイチ親身になりきれず、景朗は悪乗りするように茶化して答えてしまった。

 

「顔だけっ!顔だけマジメッ!そんな真剣なツラしてんなこと言われっと遠まわしに殴れって言われてんのかと思うぞ野郎!あと忘れないうちに言っとくけど卵12ダースって144コだぞッ!しかも何カッコつけてダース使ってんだ卵ひとパック10コ入りだろ、中途半端になるだろこの青ゴリ!」

 

「ゴリゴリやかましい!イントネーション似とるからって『青ガミ』みたいに『青ゴリ』って言うの多様すんなやっ!」

 

「まだ一回しか使ってませんがっ!」

 

 ひとしきり言い返すと、上条は憤慨した格好からするりと照れくさそうに口ごもった。

 

「……あぁクソ……なにげにオレが『青ゴリ』を気に入ったの見抜いてんじゃねーよっ……初見で看破するんじゃねーよっ」

 

 いきり立つ少年に対し、景朗は涼しげにそっぽを向いている。更には椅子をカクカクと傾かせて遊んでいた。バランスを崩せばガタリといく、"あの"ポージングである。

 

「で?結局タマゴがどうしたん?さっきからしょげてたのにタマゴが関係すんの?」

 

「はふぅ。……実はさ、この怪我をした休みの日な。……運悪く喧嘩の直前に特売でたくさんタマゴ買ってたんだよ。それが……喧嘩に巻き込まれて全滅しちまってよ……」

 

「……ほ、ほーお。それで?」

 

「『それで?』って!?上条さんの貴重なタンパク源が無残に散ってしまったんだぞ!おかげでこれからしばらくは血で血を洗うがごとく、デンプンでデンプンを迎え撃つ日々の到来なワケだ!強制的に!あああいやだあああそんな無味乾燥な晩餐、耐えられないぃぃぃ!」

 

「カミやんの事やからどーせ自分で首突っ込んだ喧嘩やったんやろ?そんなん自業自得やん、アキラメロン」

 

「冷たいぞ青髪ッ!男子高校生たるものプロテインの摂取は必修科目じゃないですかっ!俺だって腕相撲で青髪クンの両手へし折るくらい鍛えたいんですっ!」

 

 ぷフーっクスクス、と我慢できずに吹き出した青髪は嘲笑うように唇を釣り上げさせた。

 

「そんな日は永久に来ないよ(笑)」

 

「わざわざ標準語で言わないでッ!」

 

 いい加減友人の落ち込んだ振りがウザかった青髪は、話題がそれる前に無理やり叩き直した。

 

「てえか卵1日にどんだけ~ってそおいう話やったんやね。そもそもカミやんはそんな大量の卵どうするつもりでしたのん?あ、てか結局卵はのうなってしもうとるんかスマン」

 

 しっかり聞いていただろうに彼の台詞の最後の部分を無視し、上条はキリリと真顔で述べ返す。

 

「そりゃあオマエ、上条さんはサッカーで言うところの"食卓のフォワード"に"スリートップ"体制で任命するつもりでしたよ。3-4-3的な?」

 

「なして強引にサッカーで例えます?"フォワード"に"スリートップ"……ほならメインのオカズとして毎日タマゴ3つってことやの?あーあーあー、そのウニ頭には魚卵やのうて鶏卵が詰まっとったみたいやな。そんなん三日も続けられんで?」

 

「ほざくじゃねええかテメー」

 

「いやーやっぱ、そもそも男子高校生の晩飯でタマゴをフォワードにするっちゅう発想がキツいですわ。第一タマゴにメインディッシュ的なポストプレーは難しいですやろ。せめて、『カニ玉』みたいにオカズに絡めてワントップのFWの下、トップ下のシャドー(セカンドストライカー)で使うくらいの気構え――」

 

「この痴れ者ッ!」

 

「おわ!」

 

 上条が隙を突くように右手の手刀を抜き放った。ガダリと椅子と共倒れになりつつも、景朗は大慌てで回避した。犯人はまるでその様を気にかけることなく、続けて言葉と"幻想殺し(右手)"を畳み掛けてくる。

 

「贅沢者ッ!」

 

「わあ、待ちいや!どうどうどう!」

 

「全国の卵好きさんと卵業業者さんに土下座しろっ」

 

 青髪は急ぎ距離を取りつつ、両手を前に伸ばして牽制した。猛る上条は俊敏に右手を引いては突き、引いては突き、を繰り返すばかり。

 

「あー、そそそそそそや!カミやんに取って置きの情報を披露するで!タマゴクンに変わるニューフェイスクンの紹介や!彼は攻撃だけやのうて守備の技術も一級品なんやでっ!?」

 

 口と手を止めた上条が、良いだろう言ってみろ、と無言でガンを飛ばしてくる。

 

 

「ふふふ。存外、カミやんにぴったりの一品かもしれんで。まずは……タマゴには流石に負けるんやけどな、きっりち高タンパク、そして低脂肪!」

 

「ほほう」

 

「それでいて、入手が容易!良好なコストパフォーマンス!アーンド、閉店間際によく値下がりしとるしご飯のオカズとしての相性もバッチリや!ほら、安いし高タンパクとくれば、夜な夜な右手がアレなカミやんも大助かりやろっ!?」

 

 

「せんせー、今日も相変わらず青髪が下品でーす」

 

 

「むぐむぐ。はーい。むぐ。知ってまーすー」

 

 

 もぐもぐと口を動かし、教卓近くで持参のお弁当を啄いていた月詠小萌が上条の呼びかけに大声で答えていた。数人の女子たちと仲良くお昼、といったところだろう。

 

「え?あれれー?小萌センセー?」

 

 その途端。不幸男など眼中もなく、青髪はくるりと反転した。そのまま下劣な表情を浮べると、小萌先生へ意識を集中させる。前に質問した時、彼女は料理なんて出来無いと言っていた。然るに、あれは誰が作った弁当だ?……いや、そんなことはどうでもいい。

 

 

 ――その寸前。"青髪ピアス"こと"雨月景朗"の脳内で、理性やら良心やら道徳やら、あらゆる人間性を構築する"歯止め"がギリギリと音を立てていた。しかし。景朗はその拘束を引きちぎり、欲望を沸騰させた。あえてね。

 

 景朗の想像する"ボクの考えた青髪ピアス君"は自分の欲望に忠実な人間であり、婦女子の嫌悪の視線など微塵も恐れたりはしない男なのだ。むしろ、青髪ピアスという人間を演じるのならば、ここは心を鬼にして……やるべきなのだ。

 

 

 青髪は吠えた。

 

「ウェヒヒ、小萌てんてー!具体的にどの件が下品だったかよくわからなかったので、もっと詳しい補足をお願いしまーす!」

 

「こら、速く言えよ」

 

 その瞬間、そっぽを向かれた上条が不機嫌そうに彼の尻をつついていた。青髪の世界に衝撃が走る。

 

 

 

「!? アッーーーーーーーーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 野郎が何かを失ってしまった時のような悲鳴、そしてビリッ、という布の避ける音が轟いた。小萌先生の一挙一動に完全に注目していた青髪は対応できなかったのだ。

 

 音の正体は、青髪のズボンだった。なんと、彼のズボンのケツの部分が綺麗に上下に裂け、肌色やら"自主規制クン"やらが露出してしまっている。

 

 "青髪ピアス"の肉体は"雨月景朗"のデフォルトの体格よりも、もう少しコンパクトな体型に設定してあった。それが、景朗の気の緩みで膨らんでしまったのだ。ケツの部分だけ。"幻想殺し"に触られたケツの肉だけ異様に膨らんだ結果、青髪のズボンのケツが破裂してしまったらしい。

 

 

「お…お……オレは……一体何を……ぶち殺したというんだ……?」

 

 一方、上条は戦慄に震えていた。右手でツツいたその刹那、"右手"が"ナニか"を破壊する感覚とともに、"青髪"の"ケツ"が炸裂してしまったのだ。

 

「オレハッ!一体ナニをッ!ナニを壊してしまったというんだッ!?」

 

 床にうずくまる青髪を決して労わらず放置し、上条はひとり、頭を掻きむしり動揺する。

 

 

 

 

 

 

 が。直ぐに両手を収めると、椅子にぽふり、とだらけて座りこんだ。

 

「はぁー、もうヤメヤメ。はいはい、青髪クーン、いつまでそうしてるんですかー?」

 

 横たわる青髪ピアスは『ケツが……ケツが爆発した……』とうわ言のように呟いて、なかなか起き上がる素振りを見せない。

 

「もおー。さっきからワザとらしく大げさなんですよ、青髪クンはぁー。あなた、どうしてそういちいち"かまってちゃん"なんでせう?」

 

 あなたのワンタッチで下手したら俺の人生は(アレイスター的な意味で)終わってしまうというのに、酷なことをおっしゃりますね。青髪が急に浮かべだした、その切なそうな表情の所以を。上条は全くもって理解してくれそうもない。

 

「ほら早く。世にも珍しい青いゴリラだからって調子乗りすぎると人気なくなりますよ?動物園に居ないはずの閑古鳥が鳴きますよ?正直言ってテメェーみてえなムサいゴリラがんな狼狽えてんのは見ててみっともないんですよ」

 

 ようやく容態を安定させた景朗は、ぷるぷると怒りに震えて身を起こした。

 

(野郎、何さらしてくれやがる……ッ!)

 

 くっ、と怒りを押さえ込んだ。まったくもって気持ちの通じ合わないツンツン頭君は、早く話の続きを言いなさいと急かしてくる。

 

 やりかえしてやろうか。そう考えたが、やっぱり景朗はやめておくことにした。それよりも尚一層彼が恐怖したのは、この年頃の男子高校生の低脳IQ的素行を象徴するようなノリから生じるとばっちりであった。そわそわと動く上条の"右手"。なんだか今この時、Sッ気を微妙に開眼させつつある上条が"嫌がる青髪を右手でつつくゲーム"に興味と関心を持ち始めて来ている気がしたのだ。ガキってそういうの好きだものね。

 

 

 

 キコキコと椅子が傾く音。今度は上条が椅子にもたれかかり、バランスを取って遊んでいる。なんともワザとらしい。

 

「気になるだろー。はよ言いなさい」

 

(なんだその『どうぞムカついてください』と言わんばかりの変顔は!?見せつけてきやがって……)

 

 上条は催促を繰り返す。

 

 奴をこのままプッシュしてひっくり返してやりてえ。その衝動を必死にこらえ、景朗はふぅと息をついて持ち直し、そのまま答えた。

 

「その名は、THE☆CHI☆KU☆○」

 

「乳首?」

 

「竹輪です。ちくわ。今日もはしってますな、カミやん」

 

「ちくわだぁ?何を言い出すかと思えば。いいとこサイドバックだろ」

 

「はっ。流石タマゴスリートップは言うことがちがいますな。ええか?ちくわは世界を取れるんやで!ちくわワールドクラスや!これからよおく説明を」

 

「ぷっ。ワールドクラス(笑)。魚肉レベルが吹いてますな」

 

「言ったな!あぁぁちくわバカにすんなや!サイドバックやけど、いうて世界を狙えるサイドバックやからな!普段はサラダのお供、DFとしてディフェンスラインに構えてますが、カウンターの好機と見れば"磯辺揚げ"やら何やら、攻撃的な采配に即座に対応することも可能やねん!」

 

「ううむ。磯辺揚げか……あれ?え?てかDFって野菜なの?ああなんてこったい!それじゃ……それじゃあ我が『FC Kamijoh』は全試合守備崩壊状態よ!ディフェンスラインスッカスカよ!」

 

「ほれみい!アンタんとこみたいな弱小クラブは助っ人ストライカーを海外から輸入してる場合やないのよ!まずは守備から!足元からきちっと見直しましょうねっ!」

 

 踏ん反りかえる青髪は腕を組み、目を一層細めて不敵に微笑んだ。

 

「い、嫌だ!オレだってフィジカル鍛えて攻撃的サッカー目指すんだっ!"自分たちのサッカー"目指すんだああっ!」

 

「あっそ。せいぜい頑張りやぁ、その調子でグループリーグ(期末考査)突破を祈ってるでー」

 

 とうとう文句一つ言い返せなくなったらしい。青紙のその言葉を最後に、上条は机に伏せて敗北を顕にした。

 

 そのまま満足げに椅子に身体をもたげ、しばらく目の前の男を観察する。この時、景朗は気づいた。上条当麻が机に顔を埋めたまま、教室の様子をチェックしていることに。

 

 

「…………言ったな?」

 

 ポツリ、と上条。

 

「言いましたね」

 

「もういっぺん言ってみろ」

 

 自信満々に切り返す青髪。

 

「ハハハ。何度でも言いますよーボクは!」

 

 ガバリ、と上条は機敏に顔を上げ、間髪入れず叫び上げた。

 

「おーい、吹寄ー!吹寄ーちょっとこっちきてーちょっとだけ来て見てくださいませんかのことよー?!」

 

「……なによ?上条当麻」

 

 辛辣な、相変わらずのフルネーム呼び。尋ねる前からどこか喧嘩腰の彼女の様子に、景朗は目の前の上条へ馬鹿野郎と罵りたかった。

 

(ほら見ろ気づけよ、吹寄ちゃんはさっきのカレー騒ぎで俺たちにまだ敵意があるんだよ馬鹿気づけよ、ウニ!ああもう、オマエって絶対こういうの気づかないよな!)

 

「ほら青髪、言ってみ?」

 

 無表情のまま、上条はただ一言、それだけを口にした。

 

「え?」

 

「ほら、何がワールドクラスなのか言いなさい」

 

「……」

 

 思わず口ごもる。『ちくわは世界を取れる』なんて吹寄整理の前でホザいてみたらどうなることか。……蔑まれ、鼻で笑われ……え?それがお望みなの?上条クン。そんなもの、ちょっと考えればわかるだろキミ。

 

 吹寄ちゃんがボクだけを、この青髪ピアスだけを蔑む訳ないじゃない。きっとボクたち2人セットでゴミカスのように見下されるで……。最後に共倒れしたいだけ?

 

「なに照れてんだよ?ほら、男らしく堂々と高らかに!」

 

(いや、ちがう。それなら、上条は勝者の笑みを浮かべているはずだ。どうしてだ、どうしてそんな、何かを必死に耐えるように、表情を凍りつかせているんだ……な!そ、そう、か!そういうことかっ!)

 

 景朗は把握した。上条の真意を悟ったのだ。

 

「吹寄……ち……ち……ちく……は、……ド、クラス……で……?」

 

 景朗はわざと恥ずかしそうに精一杯演技をする。蚊の鳴くような小さな声で何度もどもりながら、聞き取りにくい声でブツブツもごついた。

 

「え?ちょっとなに青髪クン。はっきり喋って?」

 

 ほら。吹寄整理はこういったハキハキしない態度が大嫌いなのだ。予想通り食いついた!

 

「ボク、な……吹寄さ……ちく、……は、ワールドクラス……と思うねん」

 

「え?何?」

 

「吹寄……ちく…、は……ちくもが……ワールドクラス」

 

「……」

 

 吹寄はピク、と体を硬直させ、若干頬を赤くした。

 

「だから吹寄ちくッ!は――ちくwブゴアッ」

 

「またセクハラかこの三馬鹿!」

 

「わぁ待てなんでオレまでヘブ?!」

 

 吹寄は瞬く間に2人に一撃を加えると、何故か土御門の名を叫びつつ教室を飛び出していった。

 

 あの子もようよう執念深いなぁ、と痛みにのたうつ上条を眺め、景朗はしんみりと息をついた。彼女が土御門を狙う理由。それはきっと、さっきのカレー発言の報復に違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、小萌先生が颯爽と現れた。

 

『こらー!また吹寄ちゃんにセクハラしたんですかー?』『"また"ってなんですか"また"って?』『そんなボクらをセクハラの常習犯みたく言わんといてくださいよー』『嘘付きさんです!吹寄ちゃんは訳もなくああいう真似をする娘じゃないのです!』『いえいえ、俺達、なぁ?』『ええ。センセー、ボクたち、セクハラなんて一切してません』『ホントですか~?』『吹寄サンにはただ、ちくわの栄養価についてボクなりの個人的な解釈をお伝えしようとしただけでして……はて、彼女はどうやら、何か勘違いしてはったようですが……』

 

 上条と青髪は肩を組む。二人して仏のように、静かに、穏やかに、淡々と語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま。結局カミやんが何を言いたかったのかようわからへんけれども、とりあえずマッチョになりとう思っとるんなら、肉を食えばいいんじゃないですかね?」

 

 その台詞をぽつりと青髪が漏らすと。くわ、と上条は目を見開き、鬼の形相で青髪の胸ぐらをつかんでガンガンと揺さぶった。

 

「うおらぁ!話聞いてまちたかっ?ここまで会話してきて肝心なとこ理解できてなかったの?!上条さんはお肉が買えないから卵を買ったのよ?パン屋に下宿してっからって、売れ残りのパンで炭水化物を補給できるお前とは違うんだい!」

 

(そういえばそういう設定だったなぁ……)

 

「全てのリソースをお肉に統合できるゴリラくんとは違うんですよ。ま、しかたないかぁー。青髪クンにはちょっとむつかしいお話だったかなー?」

 

「……」

 

「罰として、オマエんとこのパン屋の売れ残りを上条さんにも献上しなさい。ハイこれ決定事項ね?」

 

「はーい!ウニパンマンー!新しいウニよー!あれれーなかなか取れへんなーこのウニッ!ヲラァッ!」

 

 今度は景朗が素早い動きで上条の頭部を掴み、左右に激しく揺さぶった。

 

「あが、あががががが!ひゃべっ、ひゃべろっ、でッ!~~~だあぁッ!」

 

 喋っているうちに舌を噛んだらしい。怒った上条は荒々しく右手を背後へ指し伸ばした。慌てて離脱する青髪とタイミングが重なり、2人はガタリと椅子を倒して距離をとる。

 

「あでぇ、舌……。ちっ、だいたいテメエ、なんだよ『新しいウニ』って!海産物じゃねえかっ!それもうパンですらねえじゃんっ!どうせならウニパンをよこせよっ!」

 

「じゃあカミやんはウニとウニパン、食えるんならどっちが食いたいんや?そんなん、皆ウニって言うに決まっとるやん!」

 

「知らねえよ、そもそもウニパンってなんだよ、んな非実在の食物あるんなら持ってきてみせろよ。食うぞ?今の俺なら食うぞ?食うからな?むしろ食わせてください三段活用!」

 

「……」

 

 蔑むような青髪の目つきに、上条は居心地悪そうに固まった。

 

「……あーもーチクショー、舌かんじまったぞ!」

 

 少し顔を赤くした彼は誤魔化すように突如怒り出し、威嚇するように右拳を突き出してブンブン振り回す。

 

 降参したように両手を前に揃えて、あわあわと青髪は口を素早く動かした。

 

「ま、待つんや!よお考えて!違うで、これはボクが悪いんやないで!……そうやで、そもそも土御門が悪いんや!あれもこれもそれもどれもまるごと、早く用を足して帰ってこん土御門が全部悪いんや!諸悪の根源ってヤツや!」

 

「ぬ」

 

 上条の動きが止まった。悩んでいる。あと一歩だ。

 

「そうや!ボクを殴るならせめて先にあのカレー男をイワしてからにしてやっ!」

 

 突如、ボカリと青髪の背中が蹴られ、彼は教室の床に倒れ込んだ。

 

「帰ってくるなり物騒な話してんじゃにゃーぜッ。野郎ども何をこそこそと画策してやがるっ、廊下でいきなり吹寄が襲ってきたぜよっ!」

 

「それはオマエのせいやっ」

 

 

 

 




 遅れに遅れておいて、本当に申し訳ありません。このお話、暗闘日誌らしくないと思います。episode26は全体的にギャグ的なのに初挑戦してみようと思い、挑戦しているのですが、寒いです。後悔が募ります。それでも、感想だけでも頂かなければ始まらないので、生き恥とキツイ責めを覚悟して投稿致しますorz

今回の更新でepisode26の全体量の四分の一くらいでしょうか。まだまだ先があります。話の展開を早くする、みたいなのはどこいったって感じです……大急ぎで書き進めます。ホント遅くなって申し訳ないですorz

 感想の返信も停滞しており、必ずお返事致しますのでどうかここでお詫びさせてください。




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