とある暗部の暗闘日誌   作:暮易

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episode11の方は最後の方にちょびっと続きを書き加えています。どうかお読みくださいませ。


episode12:暗黒光源(ブラックライト)

 

 

雨月景朗が第十二学区の駅を出てまず初めに思い浮かんだのは、「こんなに辺鄙な建物ばっかりだったっけ?ここ?」という、些か同意しづらい、その地に15年間も住みつづけた人間が発するには相応しからぬ感想だった。

 

彼が第七学区に居を構えてから約半年。五ヶ月かそこらの間に彼はすっかりと学生の街に住み慣れてしまっていたらしい。初めのうちは大きく間を空けずに古巣である聖マリア園に顔を出していた彼だったが、ここふた月ばかりはめっきり音沙汰無かったようだ。ここに来て丹生多気美の零した話に切羽詰まり、彼にとっては久方ぶりの実家への見舞いに臨むところであった。

 

それ故に、気がつけば第十二学区特有の、宗教の無差別なごった煮のような町並みに新鮮味を感じる始末。彼は見慣れていた筈の景観に違和感を生じさせる自身の変化に、改めて自らがいかに顔を出さずに怠けていたのか実感し、これからの訪問を想像して冷や汗を垂らしていた。

 

 

「はぁー……。丹生の奴、マジでウチ(聖マリア園)に突撃しちゃってたからなぁ。糞ッ。皆になんて言われるやら……。くぁぁッ。だが、だがしかし、既に火澄に伝わっちゃってるかどうかは確かめないとマズい。それ如何で今後の手の打ち様が変わる。あーあもう。ここまで来たんだ。取り敢えず行くぜ。よし、行こう。さぁ、行くぞー」

 

だが、その言葉とは裏腹に、彼は一歩も足を踏み出していなかった。ぽやぽやとその場につっ立ち、感慨深げにぼやぼやと周囲を眺めているだけだった。やがて、終に飽きが来たのか、ようやく彼はしずしずと帰郷への道を歩き出した。

 

 

どうしてこんなに不思議な感覚を受けるんだろう。しばらく考え耽った後に、ある推論に辿りついた。二ヶ月前といったら、初めて暗部の任務を受けた時期だ。暗部に入ってからたった二ヶ月だけど、体感だとその数倍は長く感じてるかもしれない。だからだろうか。やたら第十二学区が懐かしいのは。となると、暗部の業界に足を突っ込んでからは、まったくここ(第十二学区)に帰ってきてなかったってことか。

 

……ていうか、ヤクザもんになっちまうってんで、自分から意識的に帰らなかったんじゃないか。そんなことすら忘れちまってたよ。

 

はは。だが実際。実のところ、俺自身の個人情報なんて暗部の連中には筒抜けだろうし、ここで下手に我慢しようとするまいと、園の皆を危険に晒す時は晒す羽目になるだろう。結果的にはそこまで神経質にならずに皆に会いに行っても良かったんだろうな。

 

大勢には何も影響せず、か。結局は気の持ち用。聖マリア園に帰らないことで、暗部で生きていく俺自身の危険への緊張が保たれるなら、それはそれで有りだったという考え方もできるかな。

 

 

 

 

 

 

 

懐かしの我が家、聖マリア園が近づくにつれて、これまた懐かしい作りかけの料理の良い匂いも鼻腔をくすぐりだした。直感で、なんとはなしに、これは俺が昔花華に教えたシチューじゃなかったっけ、と頭に浮かんだ。

 

窓の外から厨房を覗くと、花華とガキんちょたちがわいわいと炊事に勤しんでいる。少し見ないあいだに花華の奴、背が伸びてるな。小学六年って、確か女の子は一番背が伸びる頃合だよな。どうだったかな。

 

窓をこんこんと叩くと、近くに居た花華がこちらに気づいてくれた。飛ぶように窓に近寄ると、機敏に窓を開けてくれた。

 

「ただいま。久しぶり、花華。ちょっと背伸びた?」

 

「やっと来た景兄!久しぶり、じゃないよ!最近全然ウチによってくれなかったじゃん!皆に忘れられちゃうよ!」

 

「すまんすまん。あー、まぁそのことは後でおいおい話すからさ。ところで今日は大丈夫?」

 

俺の質問に、花華は頬をふくらませてムッとした表情を見せた。

 

「大丈夫に決まってんじゃん!……あ、でも、晩御飯は景兄が一人前で満足してくれなきゃ足りなくなっちゃうかも」

 

俺が一度に食べる量を良く知っている花華は、呆れを含んだ眼差しを寄こす。心配しなくても突然じゃました挙句食い尽くすような真似はしねえよ。

 

「心配ご無用だぜ。てか今日はちょっと顔を見せに来ただけだからさ。割とすぐ帰るつもりなんだよ。」

 

その返事は花華には不満だったらしい。

 

「ええー。一緒に御飯食べようよ。3人前までなら大ジョーブだからッ」

 

「いや、あのね、量の問題じゃないんだよ?」

 

俺の話を聞いてるのか聞いていないのか、花華は窓に身を乗り出さんとばかりの勢いで詰め寄った。

 

「そんなことより、景兄!びっぐにゅーすだよ。ワタシ、景兄の住んでるとこの近くの、柵川中学に行けそうなんだよ!まだ確定じゃないけど、推薦入試だから、先生はワタシの成績ならほとんど決まりだろうって言ってくれてるよ。」

 

柵川中学か。確かに近いな。

 

「おお、そっか。柵川中からだと俺ん家まで楽に来れるなぁ。なんだ、遊びに来る気か?」

 

「もっちろーん。それにベンキョーとかも教えてよね。高校生に教えてもらえれば中学のベンキョーも怖くないもんね」

 

ははは。いや、それはどうだろう。暗部の人間の住居にあまり出入りするのは宜しくないな。花華にはかわいそうだが。

 

「あぁー。景兄、笑ってるけど、今内心困ってるでしょ?ワタシにはわかるよぉー。やっぱり、こないだの彼女さんとイチャイチャできなくなるのが嫌なんでしょー?まさか、景兄に中学で彼女が出来るとはねー……」

 

あぁ!?コイツ等やっぱ誤解してやがる。クッソ、何を丹生に喋った!そして火澄には何処まで喋った!事ここに至ってはコイツ等に弄り回されるのは覚悟しているが、今後の被害は最小限に食い止めなければ。

 

「あー。その事なんだが。皆少々誤解してるよ?ちょっと前に来た丹生さんはね、唯の友達でね。そもそも当の丹生さんも俺の"友達"だって言ってなかったか?あんまり根も葉も無い噂が広がっちゃったら、ほら、丹生さんにも迷惑かかっちゃうっていうか」

 

「ははぁーん。そっかそっか。今日珍しく景兄が来たと思ったら、そういうことかぁー。火澄姉にバレれるのは時間の問題だねー、か・げ・に・い。ねぇ、もし、景兄にお小遣いを貰えたら、ワタシはきっと火澄姉には何も言わないと思うんだけどなー。それどころかその瞬間から景兄の味方になってあげる。そういう気分だよー?」

 

かつて見たことないほどの、恐ろしい花華のニヤケ面を前に何故かタジタジになっている俺。あ、あれ?花華ってもうちょっとちょろい奴じゃなかったっけー?思わぬ計算違いだ。

 

「突然だけど花華。英世さんのことどう思う?」

 

「ワタシは諭吉さんがカッコイイと思う」

 

想定内の答えだ。さっきも言っただろう。覚悟して来たと。

 

「あちゃー。諭吉さん今一人しかいないんだけど大丈夫?」

 

「大ジョーブだよッ!景兄、これからは火澄姉に何を言われようともずっと黙ってるからね。それでオーケー?」

 

「オーケー。……ってかさ、花華。そろそろ中に入らせて貰ってもオーケー?」

 

「あっ。ごめん、景兄。えへへ。はいはいドゾー」

 

 

なんだろう。もはや用は無くなったと言わんばかりの、急に手のひらを返すこの反応。もしかして、花華の奴。窓越しに俺を見つけた時から、俺の顔が諭吉さんに見えてたんじゃないだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏口から建物内に入れば、玄関の奥すぐそばでクレア先生が鼻唄混じりに掃き掃除をしていた。もはやそれほど最近の話では無いと言うのに、いつの間にか自分より小さくなった先生を眺め、浮かんでくる疑問に答えを見つけられずにいた。先生が俺より小さくなったのいつだっけ?

 

何で今頃になって気づくんだよ。中3になる頃にはとっくに身長、先生を追い抜かしてたはずよな。ある程度身長に差ができないと案外、気づかないもんなのかな。すぐ目の先で揺れる先生の柔らかそうな栗毛。子供の頃に見た、記憶にあるものとは少し違った、先生の後ろ姿。胸中に湧き上がってくる、心地よい夕凪のような平穏と心の弛びがあまりに快い。

 

先生の様子を見たところ、別れた直後とは打って変わり、思いのほか元気そうだった。強いて言えばほんのちょっと疲れているみたいだけど。……無理もないか。

 

現状、所属部隊の任務以外にも暇さえあれば、手に入れた伝手を頼りに、小遣い稼ぎのような小さな依頼だろうと何だろうと受けられる仕事は最大限受諾しているつもりだ。稼いだ資金は全て専門の仕事人みたいな奴を通してウチ(聖マリア園)に突っ込んでいるけれども、やはり以前の幻生が支援してくれていた額には届きやしない。

 

俺が招いた災いなのに。クレア先生にそのツケを押し付けたままじゃ居てもたってもいられない。もっと気合入れて、何とかしてかなきゃならないな。ああ。畜生。一度でもこのことを考え出すと幻生のニヤケ面が脳裏にチラついてイラついてしょうがない。まぁ……そもそも騙された俺にも責任はあるんだし、幻生を恨むだけで済む話じゃないってわかってはいるけどさ。

 

とうとう彼女が振り返るまで、声をかけるのを忘れていた。先生は背後の人影の怒り顔に驚き、軽く悲鳴を漏らした。

 

「ひゃぁッ!すすす、すみません!雑用に集中していて気が付きませんでしたぁ!いつからいらっしゃったんですか。ああああのこちらは職員専用の出入り口となっていまして。申し訳ありませんが正面玄関をお使いしていただくと助かるのですがッ」

 

懐かしいなぁ。碌に相手の顔も見ずに、ぺこぺこと頭を下げたまま。箒片手にあわあわと慌てふためいていらっしゃる我らがシスター・ホルストン(31歳独身)。まぁ、三十路にはとても見えない、若々しい外見だからその反応もそれほど痛々しくはない……かな。

 

「先生、俺ですよ、俺。景朗ですけど。お久しぶりです。なんか相変わらずなご様子で、安心しました。つってもたったふた月ほどしか経ってませんけど」

 

「ふぇ?かっ、かげろう君ですか!?す、すみません。一瞬だと誰だかわかりませんでした。……なんだか、記憶の中のかげろう君よりさらに大きくなってる気がします。……はッ。そ、そうじゃなくて、かげろう君!ひどいですよ、ここ最近はずいぶんとウチに寄り付かなくなって。ダメですよ!中学卒業まではちょくちょく会いに来るって約束、忘れちゃったんですかっ?」

 

 

クレア先生による出会い頭のお説教が始まるかに思えた。俺の口から零れた言い訳も歯切れが悪く、一時は駄目かと思ったけれども、流れは予想していた通りには進まなかった。

 

「い、いや。これでも忙しかったんですよ。一応腐っても霧ヶ丘付属ですから、授業とかそれなりに……」

 

「愛が足りませんよ!かげろう君。火澄ちゃんなんて常盤台の寮からいつもお手伝いに来てくれているのに。」

 

クレア先生はぷんすかと眉根を寄せて怒っているが、全然怖くない。このお説教も懐かしいなあ。

 

「ははっ。俺と火澄を比べても意味ないですよ。霧ヶ丘は常盤台と違ってブラックですからね!」

 

「ぶ、ぶらっく、ですか?うう、またそうやって業界用語を乱用して私を煙に撒こうとしてますねっ!和製英語はとてもややこしいんですよっ」

 

「いやいや、そんなつもりは無いですよ。正真正銘真実本当に」

 

満面の笑みで対応すると、先生はちょっと歯がゆそうに声を漏らした。

 

「むむむ。だ、だいたい、忙しいといっても週末は一体何をしていたんですか!かげろう君には火澄ちゃんみたいにたくさんのお友達は……あ、そうでした」

 

あああ。この流れはよろしくないぞ。先生は一気に怒りを和らげ、次いで興味津々の面持ちで俺に身を寄せてくる。

 

「丹生、多気美ちゃんでしたね。とってもいい子でした。かげろう君、おめでとうございます。私もひと安心しました。ようやく、かげろう君にも……

 

 

だあああっ。よぉおおおおくわかったよ。この聖マリア園が今まで平和だったってことがね!結局みんなこの話にたどり着くんだからな!どうやら他の事件は起きようも無かったようですね!先生の追求を押しとどめようと、声を大きくした。

 

「待ってください待ってください!その話はさっき花華にもしたばっかりなんですよッ!もしかして園の皆全員にいちいち説明してかなきゃならいんですかッー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がここ(聖マリア園)に来た目的は、ぶっちゃけ丹生の話が既に火澄に漏れているのかどうかを知るためだった。頑張って気づかれないように、クレア先生や他の子達にそれとなく探りを入れて見ようとしたけれど、その目論見は皆には最初からバレていたらしい。見事に会話をした人物全てに丹生と火澄の件を突っ込まれてしまった。

 

これほど居心地の悪い聖マリア園は初めてだった。何度も一緒に晩餐をと勧められたが、それ以上墓穴を掘りたくは無かったので日が落ちぬ内に撤退した。花華やクレア先生の口ぶりからしてまだ火澄には知らされていない状態だと推測した。クレア先生がちょっとギクシャクしていたのが怪しく、気になる所ではあるけれど。

 

一番有用な情報源となりそうな真泥にも話を聞きたかったのだが、彼はまだ帰って来ていなかった。彼ならまず間違いなく俺を裏切らないはずだったのに。

 

ともかく、これ以上は仕方がない。火澄がよく状況を把握する前に勘違いして、丹生が俺の彼女だってことになったら……。お粗末な言い訳(てか言い訳すらせずに強引に押し切ったこともあったな……)で約束をブッチし、彼女と遊んでいた"とんでもないクズ野郎"の烙印を押されかねない。

 

良かった。まだ火澄がこの事を知らないのなら、先手を打って誤解が生じないように状況を説明でき…………………………あ、あれ?うまく説明できるのか?これ……。

 

だって、丹生との関係を偽りなくそのまま説明できるわけねぇし。必ず嘘を付かなきゃならない訳だ。この案件をこの俺が綺麗に問題なく解決できるだろうか……。全く想像できない。うわ、どうする?これ。

 

 

 

結局は。折角、事前に選択肢を与えられ、対応がとれる機会を手にしていたのに。俺は"その時"が来るまで何も実行に移さなかったのである。下手に突っ込んでヤブヘビが怖かったのもあった。だが、世の中そんなに甘くない。やはり怠惰な人間には当然、それ相応の厳しい試練が訪れるものらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖マリア園を訪れて幾数日。俺がヘタレて手をこまねいている中にあっという間に時は過ぎ、一端覧祭が始まっていた。そのうちに、だいぶ落ち着いたらしい火澄や手纏ちゃんからお誘いが有り、俺は"学舎の園"の近くの行きつけのカフェへとやって来ていた。

 

到着したのは火澄と手纏ちゃんと初めてお茶をした思い出深いカフェテリアである。一端覧祭が始まって何日目だったかな。三日位だろうか。四日目だったっけ?なにせ俺自身は全く一端覧祭には絡みがないから、はっきりとは覚えていない。興味を持つ必要性の無い事に関しては、誰だってうろ覚えになるはずでしょう、と言い訳をさせてほしい。

 

閑話休題。俺が今居るカフェテリアはこの中学生活の間に、火澄達と会う時にわりと使われた店だった。お店のメニューももう少しで完全制覇できそうな塩梅だ。"学舎の園"のゲートから近い場所に位置しているから便利だったのさ。

 

屋内には2人の姿は見つけられなかった。それならテラス席だろう。すっかり指定席と成りつつある、入口から最も離れた南側のテーブルに、彼女たちの姿を発見した。

 

 

 

「なんか久しぶりだなぁ。2人ともちょっと元気ないね。よっぽど大変だった?一端覧祭の準備?」

 

火澄と手纏ちゃんは既にくつろいでおり、俺のことを待ってくれていたようだ。手纏ちゃんはテーブルに突っ伏して何だかお疲れのご様子。こんなにダラけた手纏ちゃんの姿、初めて見るかもしれない。

 

「アンタは相変わらず、いつ見てもピンッピンしてるわね。羨ましい」

 

邂逅一番に愚痴を漏らすとは、火澄さんもご機嫌という訳では無い様子。一方の手纏ちゃんは俺の声を耳にした途端にビクッと起き上がり、いそいそと姿勢を正した。

 

「こ、こんにちはですっ。景朗さん」

 

おお。何というか、手纏ちゃん、疲れと羞恥と無理矢理に浮べた空元気の笑顔が混ざり合って、今まで見てきた中で最高に面白いお顔になってますよ。

 

「お疲れ様、手纏ちゃん……俺の学校は一端覧祭無いけどさ、どうやら、やるのとやらないのとじゃ学生にかかる負担は大違いみたいだね」

 

「は、はいー。景朗さんの仰る通り、私もそう思います。ちょっとだけ、景朗さんが羨ましいです……」

 

だ、大丈夫かな、手纏ちゃん。火澄は彼女を労わるようにそっと紅茶を彼女の空になったティーカップに注いでいた。しかし、観察する限り、火澄の方も手纏ちゃんに負けじと劣らず疲れているようだけれども。

 

そう、そうなのだ。彼女たちは一端覧祭が開催され、準備してきた催しをやってのけるまで、のっぴきならぬ忙しさの中に浸かっていたのだ。丹生が聖マリア園へ突撃したのは火澄達が最も忙しい時期だったはず。必然、火澄に聖マリア園へ帰る暇など無かっただろう。

 

俺が今日、彼女達に会うまで丹生の件に手を打たなかったのは時間的余裕があると踏んでいたからなのさ。た、単にヘタレてしまってただけじゃないんだよ?

 

「深咲が一番の功労者。景朗の言う通り、お疲れ様。でも、今日でやっと終わりじゃない。一息つけるぅー、嬉しい」

 

う~ん、と火澄は両手を上げ、大きく伸びをした。手纏ちゃんも同意し、はふ、と息をつく。

 

「はいー。終わりましたぁー」

 

何のことだかさっぱりわからない。疑問符を浮かべたままの俺に、火澄が徐にパンフレットを渡してくれた。これは……常盤台中学の一端覧祭のプログラムか。催し物のアウトラインが小奇麗に羅列してあった。全然関係無い話になるが、火澄が今ぞんざいに扱ったこのパンフレット、オークションに出せば万札に化けるぞ、間違いなく。

 

「常盤台校水泳部の欄を見てみて」

 

火澄に言われた通りに、パンフレットに目を通す。

 

「えっ。常盤台中学校水泳部によるシンクロナイズドスイミング……。うわあっ!見たかったなぁ、これ!手纏ちゃん出てたんだろ?!なんで教えてくれなかったんだよッ」

 

「アンタに言ったって無駄じゃない。いくら"学舎の園"が一般開放されてると言ったって、入れるのは女の子だけなんだから」

 

火澄のジト目にたじろぐ事無く、俺は食いついた。

 

「それじゃさ、ほら、動画とか撮って無いの?!いや撮ってない訳無いよな?」

 

「あ、あの、それは……そのぅー……」

 

そう言って手纏ちゃんを見つめれば、彼女はもじもじと恥ずかしそうに俯いて視線を逸してしまった。横で火澄は大きなため息をつく。

 

「はぁー……。アンタみたいな連中にだけには絶対に動画が渡らないように、"学舎の園"の中は専門のスタッフ以外の撮影が全面的に禁止されているんですぅ」

 

「おあ!?やりすぎだろそれは。例えば"学舎の園"に娘や兄妹が通っている父兄はどうすればいいんだよ?」

 

「セキュリティ上仕方がないわよ、ある程度は。一端覧祭は大覇星祭と違ってそこまで"干渉数値"の制限がキツくないから、どこだって学生の能力を存分に使ったイベントをやりたがるでしょ?ウチ(常盤台)みたいな学校になると割と機密ギリギリまで能力を活用しちゃうから、そういう意味でも対策が取られているの。でも、まぁ、確かに折角頑張って準備したイベントだしね。アンタがそこまで見たがるなら後で特別に新聞部の人達が撮った動画見せてあげる」

 

 

やりぃ。見せてもらえるのか。喉から出かかっていた「シンクロナイズドスイミングやったらしいけどカナヅチの火澄は一体何をやってたの?」というツッコミは入れないでおこう。

 

 

「なるほど。手纏ちゃんが"一番の功労者"ってのは……」

 

俺の推論に火澄は同意して頷き返してくれた。手纏ちゃんはあいも変わらず照れたままだ。

 

「そうよ。"泡"を使った視覚効果、部員への酸素供給、そういう風に能力を酷使しながら"シンクロ"をやるのだから、深咲の負担はとてつもなかったはず」

 

うわあ、それは聞いただけで大変そうだなぁ。練習もどれほどやったのか。よく投げ出さなかったなぁ。常盤台はやっぱり伊達じゃないな。

 

「今までで一番大変でした。も、もうやりたくないですぅッ!」

 

手纏ちゃんにここまで言わせるとは。しかし、俄然興味が湧いてきた。後で絶対見せて貰おう。疲れた様子の2人だったが、一緒に彼女たちの達成感と開放感もこちらに伝わってくる。暗部で四苦八苦している俺には、2人がとても眩しく、犯し難い存在に思えてならなかった。

 

「うーぬ。よしんば霧ヶ丘が一端覧祭をやれたとして、火澄や手纏ちゃん達みたいに生徒同士で協力して連携を取れそうにない。想像できない。てか、そんな和気あいあいの霧ヶ丘なんて霧ヶ丘じゃないなぁ。ははっ」

 

「そっちはそっちで一度拝見してみたい校風みたいね……」

 

火澄の漏らした感想を聞いて、ふと考えた。そもそも霧ヶ丘付属中学に他校の生徒が見学に来れる機会なんてあるっけ?……無いぞ。皆無だ。おいおい、常盤台に男も入れろだなんてツッコミを入れる資格無いんじゃないの。

 

「はぁー。しかし、色んなイベントやってんだな。よくよく考えれば、小学校以来この手の行事に参加してないぞ。さすがに羨ましくなっちゃうね」

 

手持ち無沙汰に眺めていたパンフレットに、ひとつ気になるものを見つけた。

 

「んん!?ええと、ラ コントラディ…ツォン?呼び方わからないけど、この常盤台生の有志が運営してる喫茶店、めっちゃ気になる!」

 

火澄はああ、やっぱりね、といった表情を浮かべていた。俺の反応は彼女には予想通りだったらしい。

 

「それ、ラ コントラッディツィオーネって言うそうよ。気になる?」

 

「もちろんだ。常盤台中学御用達の最高級コナコーヒー使用。常盤台のセレブなお嬢様、その中の有志がこだわり抜いた厳選のコーヒーを提供とな。ふむふむ、注目は通常は表層が深煎り、深層が浅煎りとなる豆の焙煎過程を能力を使って真逆にした……な、に。マジかよ、スゲッ。ほぼ全ての工程に現代の産業技術では加工不可能な処置が施してある。うおお。能力者が浸透圧を弄って抽出し、粉砕過程ではテレキネシストがマイクロスケールでの調整を加えます……。そ、そうか。La Contraddizioneってイタリア語で"矛盾"て意味か。な、なあ、手纏ちゃん……お願いが」

 

「迷わず深咲に言ったわね。聞くだけ聞いてあげるけど、何?」

 

何故か火澄が答えを返す。お前には聞いてないんだよッ。どうせ無理筋だし。

 

「は、はい。なんでしょう?」

 

きょとん、としている手纏ちゃんへと身を乗り出し、力強く頼み込んだ。

 

「女装してこの喫茶店に行くからさ、手伝ってください!」

 

「ふぇっ?ふえええええええええええええええ??」

 

手纏ちゃんは驚きの声をあげ、火澄は呆れかえった。

 

「想像の斜め上の答えが返ってきた。景朗、それ冗談キツいんですけど。アンタみたいな脳筋が女装できるわけないでしょ。さすがにもっとマシなお願いかと思ってたわ」

 

 

いや冗談に決まってるだろ。毎年続出する"学舎の園"に侵入しようとした不審者の末路に関する、都市伝説まがいの噂には事欠かない。中には"学舎の園"のセキュリティを論った定番ジョークのように扱われる話だってあるしな。受験の時期には、失敗して投げやりになった男子学生が「ちょっくら今から"学舎の園"に侵入してくるっ」って言い出す光景がよく見受けられる。

 

さて、ドン引きの2人の顔を十分に堪能できたことだし。

 

「まあ、当然冗談さ。ジョークだよ。……血泪が溢れ出そうなほど悔いが残るけれどもな。是非ともその場で味わってみたかったが不可能だ。まぁだからさ…………ぅお願いしますッ!何とかテイクアウトで入手してきてくださいませんかぁッ!」

 

俺はそう言い終わらぬうちから勢いよく頭を下げ、ゴツリとテーブルへ額をくっ付けた。

 

「フッ。そうくると思ってた。いいでしょう、景朗。アンタのお願いを聞いてあげても。ただし、こちらが提示するそれ相応の条件を飲んでくれれば、だけど」

 

圧倒的高位の立場からの発言だった。火澄は鬼の首を取ったように一瞬で表情を引き締め、俺は彼女から、思わず凍えそうなほどの冷徹な眼差しを向けられた。

 

「な、何故コーヒー1杯にそれほどの覚悟を要求されるのか理解不能ですが、どんな条件だろうと飲み下して見せよう。このLa Contraddizioneのエスプレッソを味わえるのならばッ」

 

視線を上げて彼女達の反応を窺った。火澄が手纏ちゃんへウインクをひとつ投げかけると、手纏ちゃんもおずおずと頷き返した。そして、手纏ちゃんは喉をごくりと鳴らし、2人して真剣な面持ちを維持しつづけた。

 

……なにゆえ、コーヒー1杯でかやうな反応を召されるのでせうか?そこのところにツッコミを入れたいのはやまやまだったが、機嫌を損ねられては堪らない。俺はひたすら下手にでていく所存である。

 

「ささ、早くその条件とやらを聞かせてくれよ」

 

「それじゃ、聞かせて。丹生多気美さんって、景朗のカノジョさんなの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あい?……………………………なぁーんだ。そんなことかー。いやいやいや、カノジョなんかじゃねーよ、あんな奴。はい、これで質問には答えたな。そんじゃ後日、エスプレッソをよろすくおながいしま」

 

恐怖で正面の2人とは目を合わせられなかった。何故か無意識のうちに小さな物音ひとつたてぬよう気を配りながら、草食獣が肉食獣からそろそろと後退していくが如く、そろりと席をたとうと試みたが。

 

「逃げたら燃やす」

 

「おーらい」

 

中途半端に浮かせていたケツを降ろし、椅子に座り直した。火澄は大変お怒りの様子。両手は膝の上にそろえてお行儀よくしておきましょう。

 

「雨月被告人。貴方には『カノジョにカマけて被害者兼原告である仄暗と手纏両名との約束を反故にし続けた"最低ドクズ野郎"』という嫌疑が掛かっています。貴方はご自分で十分に理解しているはずですよね?」

 

テーブルの上に腕をのせ、手を組んでその上に顎をつけ、某超法規的組織の司令のように凍てつく眼光を放ってくる火澄。手纏ちゃんも恨めしそうに俺を見つめていた。その冷たい相貌に反して、火澄の口ぶりからは彼女が怒った時に本来見せる気炎万丈な猛々しさが表に出かっかっていた。

 

「被告人はさらに前述の一般の女子中学生に対して淫らな行為に及んだとされ、率直に申し上げれば学園都市の淫行処罰規定に抵触した疑いも掛けら

 

 

おいッ!何を言い出す!やめろ!手纏ちゃんも顔を赤くして恥ずかしがってるじゃないか!だがしかし、何と言うことだろう。火澄は鉄面皮を崩しもせず、決して臆すことなく次々と俺に追及してくる。俺は彼女の言葉を遮り必死に抵抗した。

 

「い、異議あり!突然何を言い出すんですかッ!言いがかりだ、そんなもん!一緒に飯喰っただけで何でそうなる!って、あ……」

 

畜生、余計な情報を与えてどうすんだよ俺の馬鹿。

 

「ふーん。そうなんだ。被害者とは仲がよろしかったんですね。それじゃ、被告人に"本当のところ"はどうだったのか証言して貰いましょうか」

 

 

ど、どうしよう。コイツ等知ってたよ。コーヒーがどうとか言ってる場合じゃねぇ。一転して、最も恐れていた最悪の事態に陥っているぞ!

 

あぁぁぁぁぁぁなんで知ってんだよ君たちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。しかも煩わしい形で誤解してるし……。丹生がカノジョじゃないってのは正真正銘真実、本当のことなのに。それだけ説明しても問題は終結しそうにない。俺が暗部の任務のためにバックレた、2人との約束を破った理由を言わなきゃ納得して貰えなさそうな状況になってるうう。

 

 

「ま、まずは弁護士に電話をさせてくれ」

 

時間を稼がないと。まともな言い訳を考える時間を。この場を治めるナイスなアイデアを思いつく時間をッ。

 

「どうぞ、ご自由に。かけれるもんならね。誰に助けを求めるつもりなの?」

 

そんな奴いないじゃん。俺にはこの状況から俺を助けてくれそうな知り合いなんていなかった。助言を与えてくれそうな人の心当たりすらない……いや、1人いるか。丹生さんだ。あーでもわからないんだよな、丹生さんは。事態を余計に引っ掻き回すだけ引っ掻き回して自滅されてしまうかもしれないし。さりとて、彼女がこの状況を動かしてくれる選択肢であることには違いなさそうだし。

 

落ち着け。まずは落ち着こう。俺はこの状況を予想してなかったワケじゃないだろ?そう、そうだよ。正直面倒臭くて後回しにしてたけど、一応矛盾しない言い訳を考えたりしてたじゃないか。

 

プランA:『いつぞやのように厳かに沈黙を守り通し、真剣に、真摯に、正直に、それは説明できないと説得する』

 

いかん。これは言い訳ではない。この状況でそれをやるのは本当にツラそう。できれば他のプランにしたい。

 

プランB:『実は丹生は借金に苦しみ、泣く泣く違法風俗で働く風俗嬢だった。俺は彼女のお店で働く、お客さんがゴネたときに代わりにお話を聞いてあげる係の人。色々と法律スレスレってかもろアウトだから話すに話せなかったんだ、HAHAHA!』

 

こんな嘘付いたら燃やされる。マトモな言い訳考えつかなくて1人で妄想して笑ってたクズみてえな案だ。どうして人間って、よりにもよってこんな切羽詰った時に限ってこんな下らない事ばっかり思い出すんだろうなぁぁ。

 

プランC:『丹生に丸投げする。だってコイツが元凶じゃん』

 

そうそうそうその通りじゃん。俺のせいじゃないよ、この状況。丹生がオイタしたせいじゃんかよッ。もういっそ丹生んとこ連れてって巻き添えにすりゃ……。できればほかのプランで。

 

プランD……プランD……あああプランDってなんだっけ、てかプランDとかそもそもあったっけあああ。

 

矛盾しない言い訳なんて考えてなかったアッー。そうだよ、考えついてたら俺だっていくら怠け者だろうと、こうなる前にその手筈通りに手を打てていたはずだろッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救いを求めて手纏ちゃんの対応を確かめた。なんと、彼女は何だか俺以上にハラハラとした顔色だった。いろいろ葛藤に悶えてそうな様子だ。変だな。どうして手纏ちゃんが今のこの空気でそのような表情を浮かべる必要がある?

 

もしかして、俺の尋問に乗り気なのは火澄だけで、手纏ちゃんは救いの女神となりうる存在なのではなかろうか。その可能性、ゼロではない。

 

「さ、最初にそっちが質問した内容には答えただろ。丹生という女の娘とは唯のお友達です。神に誓って。これは本当のこと。揺るがない」

 

「そもそもアンタに同級生の、しかも女の娘の友達ができるということ自体が疑わしいんだけど」

 

火澄に一蹴される。はぁ?もう、なんなんだよッ。

 

「だったら、俺にカノジョができるだなんて、むしろそっちのほうこそ疑わしくない?ねえ、なんでカノジョのくだりは都合よく信じちゃうのッ?教えてー?!」

 

火澄は嘆息しつつ、本人も半信半疑といった態度でその理由を語りだした。

 

「それが、クレア先生と花華が景朗にカノジョが出来そうだ、わざわざウチ(聖マリア園)まで訪ねてきたぞ、うかうかしてられない―――こほん。それが、クレア先生達が実際にアンタのカノジョらしき女の娘を目撃したって言うものだから、信じるしかないのよ。どんなに疑わしくとも」

 

 

花華さん、今度諭吉さん返してね。彼の命が儚く散っていないことを切に願うよ。

 

 

「火澄さん、さっき言いかけた『うかうかして』の続きをちゃんと

 

「うるさい死ねっ」

 

 

ぐはあっ。久しぶりに火澄に死ねって言われた……。

 

 

「やっぱり自分から素直に話す気はないみたい。深咲、プランBよ」

 

「へぅっ。ほほほ、ほんとに言わなきゃダメですか?火澄ちゃん?!」

 

少しだけ張り詰めていた緊張を緩ませた火澄は、僅かに慌てながら手纏ちゃんと次の手に討って出るつもりらしい。

 

「これは深咲にしかできないことなの」

 

「……わかりました。景朗さん、ごめんなさいぃぃ」

 

 

俺へと向けた、申し訳なさ、恥ずかしさ、そしてやるせ無さを代わる代わるブレンドさせて、手纏ちゃんは表情をころころと変えつつ、息を飲み込んだ。何の前触れだ?え?なんなの?なんなの?プランBって?

 

 

 

「『い、いい加減本当のこと話せよ、最低男』……」

 

 

 

キリッと俺を睨み、刺々しく、今まで俺が見たこともないほど荒々しい物言いで、手纏ちゃんが暴言を吐いた。

 

「え?たまきちゃ……」

 

 

 

「そ、『そろそろキレんぞ、クズ。何回約束破れば気が済むんだよ。ぶっちゃけアンタのやってることマジで有り得ないから。本音言っちゃうとさぁ、次また同じことされたら本気でアンタのこと"切る"つもりだから』……ぅぅッ」

 

 

 

手纏ちゃん、凄まじい顔だ。それでも、やはり暴言を発するうちに本人の怒りのボルテージも僅かに上昇しつつあるらしく、羞恥と怒りと覚悟がごちゃまぜになった顔。それでも、やっぱり可愛い顔付の名残はまだ残っているから、俺は……俺は……。

 

 

 

 

 

 

「『さっさと謝れよ、こっこっこッコッコッこッのッ、チン○スゥーーーーーッ!!!!ウドの大木!タマ無し野郎ーーーーーッ!!!』ぅぅぅ」

 

 

 

 

嘘だ。手纏ちゃんじゃない。俺の手纏ちゃんはこんなこと言わない。ああ、でも、なぜだろう。恥ずかしそうに、羞恥の極みの中それでも一生懸命に頑張って、俺に下品な単語を連呼する手纏ちゃんは見ていてゾクゾクして来る…………これが、天使?

 

やはり一番仲が良いはずの火澄にもインパクトは絶大だったらしい。彼女が口にした「ホントに言っちゃった……」というつぶやきも耳に入ってこない。

 

「ひ、う、『いつもいつも人の体をジロジロ眺めてきやがってッ!この変態!毎度毎度姿くらまして何してやがんだよっ、どうせ家に帰ってせんずりこいてんだろカスッゥ』うぅーーーーッ!……」

 

気がつけば、手纏ちゃんの叫びにテラスにいる周りの生徒たちも物珍しげに俺達3人を観察していた。衆目に敏感な手纏ちゃんがこのことを察知していないはずがない。きっと本人も現状は把握しているはず。それでも。

 

「ぅぅッ、おおおお『おらぁ話せよ最後のチャンスだぞゴミクズゥッーッ!!じゃなきゃテメェーは一生ぉおお、お、お、お、お、お、お、オ○ニー野郎で決まりだぞこのやろぅーーーー!!!』ぅぅーっ!ですぅーーーーーッ!話すんですぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーー!!!」

 

ついに手纏ちゃんは言い切った。いや、俺も某かの言葉を返したいよ。でも、今この場の空気は完全に凍りついている。喉からは渇いた空気が音もなく漏れ出るのみだった。しーん、という静寂の中、手纏ちゃんは涙目で必死に俺に食いついてきた。

 

「はっ、話すんですぅーーーーーー!!!」

 

「…………」

 

たった1人、手纏ちゃんの叫びが響き渡る。そんな目で見ないでくれ、手纏ちゃん。俺だって話したい。話したいんだけど声が出ない。身動きすら取れない。この空気の中では。この雰囲気の中では。実のところ、きっと火澄も喋りたくとも喋れないんだと思う。時が止まっていた。

 

 

「は、話すんですぅ…………。……話し……ぅぅ……」

 

 

 

「……………………」

 

 

「……………………」

 

 

なんという気まずい沈黙。外の喧騒からはガヤガヤと「あら!?"火災旋風"のお二方!?」との話し声が。

 

 

 

 

 

 

やがて、空気に耐えられなくなった手纏ちゃんは勢いよくテーブルにつっぷし、縮こまって動かなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかりと外野に興味をもたれてしまい、こそこそと覗き見されていた俺達3人は、しばらくの間ずうっと。そのままの姿勢で硬直したまま、延々と言葉を発すること無く沈黙を維持し続けた。というよりは、金縛りにでもあったかのように、動き出すことが出来なかっただけだったのだが。たぶん火澄も似たような感じだったんだと思う。

 

そのうちに、こちらを観察していた見物人や他のお客さんが興味を失っていき、また元通りのざわめきがその場に舞い戻った。

 

 

俺達3人の静寂を打ち破ったのは、やはり火澄だった。急にずぞぞ、と椅子ごと体を伏したままの手纏ちゃんへと寄せて、耳元でごにょごにょと彼女を慰め始めた。俺はというと、突然動き出した火澄に驚き、反射的に身体がビクついていた。だが、そのおかげで俺の金縛りも解けたみたいだ。

 

 

手纏ちゃんのぐずり泣きをBGMに、火澄は彼女とひとしきり会話を続けた後、おもむろに俺を見やると、やや後ろめたそうに、一言口にした。

 

「あーあ。景朗が深咲を泣かせちゃった」

 

 

「……はあっ!?なんだその責任転嫁はッ。俺は公衆の面前で散々罵倒された挙句、事後の責任まで負わされなきゃならないのか?!」

 

俺の反論などまるで意に介さず、火澄は再びこそこそと手纏ちゃんと内緒話を始めやがった。おまけに、俺が言い返した後すぐに、手纏ちゃんのぐずり泣きのボリュームが微妙に上がっている始末。

 

口を尖らせた火澄が再度俺へと向き直り、キッと顔をしかめて更なる文句を継ぐ。

 

「景朗。今ならアンタが私たちに隠してる秘密を正直に打ち明ければ、特別に深咲が許してあげるって言ってるわよ!」

 

 

そう来ますか。どのような状況に陥ろうとも全力で自分の都合のいいように持って行きやがって、この女、悪魔か。お前だって手纏ちゃんの勢いに固まってたじゃないか!今さっきのは彼女にとっても絶対に想定外だったはず。なんという切り返し……。こうなれば……。

 

俺は降参しましたよ、と言わんばかりの大げさな溜め息をつき、火澄の意識をこちらへと向けさせた。時を同じく、突っ伏した手纏ちゃんの曇った泣き声が、ほんの一瞬だけ、停止していたのも確認する。あ、手纏ちゃんこれ間違いなく聞き耳立ててやがる。チッ、やはり罠か。最初の方は手纏ちゃんもガチで泣きそうだったしな。途中から持ち直したんだろう。

 

 

 

「……分かりましたよ。腹をくくりましょう、私も。だが、その前にひとつ!聞かせて欲しい」

 

俺の要求に、火澄はもどかしそうに、早く言いなさいよ、とでも言いたげな視線を送って来る。

 

「手纏ちゃん、さっきの罵倒、ご自分で考案されたんでしょうか?誰か別の人が考えたのか、それとも手纏ちゃんが自分で考えたのかで、俺はもう先程の手纏ちゃんの啖呵を何故咄嗟に録音できなかったのか一生悔やみ続けるかどうかの瀬戸際にオワアッ!!!」

 

俺が全てを言い終える前だった。ボッ!という軽い破裂音とともに、俺が注文したまま手付かずにプレートの上に乗っかっていた、やたら長い名前のスコーンから煙が立ち上がっていた。蒼い焔。火澄の能力だ。

 

「わ、わ、水。水ッ」

 

みるみる蒼い焔は燃え上がり、スコーンを真っ黒に染めていく。夢中になってあたふたと水差しの水をスコーンにぶっかけたものの、全く効果が無い。だ、駄目だ。もうスコーンは手遅れだ。もったいなあ、これを食せば、この店のスコーンは全種類制覇していたのに。

 

「さいッてーだわ。デリカシー無さ過ぎ」

 

呆れを通り越して殺意すら身に纏いつつある火澄さんから、軽蔑を受けた。いつの間にか起き上がっていた手纏ちゃんとも目が合う。彼女はぷくりと頬を膨らませ心なしかお怒りモード、可愛い。

 

「あー、その、な。手纏ちゃん」

 

手纏ちゃんは黙したまま、じとーっとした目つきでこちらを見つめていた。目元と鼻頭がピンクに染まっている。

 

「正直、良かったよ。さっきの。最高にゾクゾクした」

 

今度はコーヒーだった。俺のエスプレッソがその小さなカップの中で突如、水蒸気爆発を生じさせた。飛来した熱いコーヒーの飛沫が俺の顔面を襲う。火澄の能力だ。

 

「熱ッ!がああッ!」

 

なんせ沸騰寸前の温度だ。熱さと痛みを同時に感じる。火澄はもはや無表情だった。

 

「あら?どうしてそんなに熱がるの?景朗だったらなんともないでしょ?」

 

まままマズい。調子に乗りすぎた。もうこれ以上は怒らせてはいけない。手纏ちゃんも怯えている。

 

 

「すみませんでした。調子乗ってました。もうここからは巫山戯ません」

 

「むぅ……ごめん。すこしだけやりすぎたかも」

 

すこしだけ……?一般人ならそこそこ問題になる気が……。皆押し黙り、寸秒間が空いた。空気を読む。2人して言いたいことを我慢し、必死に口を噤もうと努力している風に見える。どうやら2人はこれ以上俺の冗談に付き合ってはくれなさそうだぞ。年貢の収め時がいよいよ迫りつつある……。

 

「わかった。話すよ。ただ、その前にお昼ご飯を……」

 

尚も諦め悪く、ここに来てまだ別の提案を挙げる俺に対して、火澄は睨み、手纏ちゃんは頬をふくらませた。

 

「待って待って!聞いてくれ!そろそろお昼も頃合だし、お腹が減ってると皆いつも以上にイライラするだろ?絶対に逃げないと約束するし、その場で食べながら話をするから!」

 

 

しぶしぶといった様子で2人は納得してくれた。やった!狙い通りにいったぞ!まだだ、まだこれからが重要だ。抜かるなよ、雨月景朗……!

 

「それじゃ、さっさとここで済ませましょ?」

 

そうは行くか。ここでは都合が悪いんだよ。

 

「いやいやいや、ちょっと待ってくれ!実は、今日2人を誘おうと目星をつけていたところがあってさ。折角だから、そこにしない?同じ第七学区、ここから近いお店だから安心してくれ。もちろん俺の奢りだから!」

 

 

火澄と手纏ちゃんは互いに目配せし合うと。

 

「私は構いませんよ、火澄ちゃん」

 

「はぁ。わかった、それでいいわよ。で、何処なの、そこ?」

 

素晴らしい。良かった、2人共承諾してくれて。

 

「ああ、それじゃ行こう!いざ、旭日中学!」

 

俺の告げた行き先を聞いて、彼女達は不思議そうに疑問符を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、雨月景朗にとっては厄日だったに違いない。日が出ている間は友人たちに責められ、追求され、彼は半日、そのほとんどを彼女達への必死の弁明に費やす羽目になった。しかし、悲しいことにそれだけでは終わらなかった。その日の夜更け。今現在、彼は件のプラチナバーグの部隊へと移籍した"オペレーターさん"に緊急の呼び出しを受け、押っ取り刀で深夜の第一学区へと馳せ参じていた。

 

昼間にあれほど騒動に巻き込まれた彼には、この急な出動は相当なストレスとなったに違いない。しかし、拒否権を持たぬ身である雨月景朗には、どうすることもできなかった。大人しく、これから属することになるであろう部隊の"初指令"を受け、うなだれる同僚、丹生多気美を連れてプラチナバーグの戦闘部隊との合流を目指していた。

 

 

彼らが現在位置する第一学区は、学園都市圏の中央に位置し、学園都市の行政機関が集中する学区である。基本的に学生達が住みやすいようには設計されておらず、学園都市に住む大多数の人々にとっては生活感しづらい所でもあった。その特徴は顕著に見られ、すぐ隣の第七学区では通行人の大多数を中高生が占めているのにもかかわらず、ここ第一学では彼らの姿を目にする機会は非常に稀である。特筆して、この深夜の時間帯には。

 

学生が多く住まう学区では、一般的に一端覧祭の開催期間中は夜間に外出する学生の数が平時の数倍に跳ね上がる。昼間の勢いに乗ってハメを外し深夜まではしゃぎ続ける学生や、通常時のカリキュラムでは起こりえない、異なる学校の生徒との交流によって乱造された急増カップルが無差別にあちらこちらに出没し、そして彼らが不良無能力者集団(スキルアウト)を呼び寄せ、各々が警備員(アンチスキル)と諍いを撒き散らす。

 

しかし、ここ第一学区はやはり一般の学区とは比べられる訳もなく、当然のように例外であった。隣接する第七学区で頻発するような騒がしい事態は全く見受けられない。さりとて、これが通常の第一学区の夜の姿かと言えば、それも違うと言わざるを得ない。

 

先述の通り第一学区は学園都市の行政を一手に請け負う、政庁の役割を担う学区である。つまりは、学園都市の意思決定機関の頂であるところの、学園都市統括理事会の膝元となる。それ故に、他の学区とは一線を画した厳重な警備が敷かれているはずなのだが。打って変わって、一端覧祭の開催期間真っ只中である現状では、常日頃巡回している警備員(アンチスキル)の数も、他の学区の騒動の解決に追われているせいか大幅に減少していた。

 

 

 

 

「よく二十三学区と比べられてるけど、やっぱ雰囲気違うな、第一学区は。いや、それだけじゃないな―――」

 

今の暗部業界の動向がはっきりとわかる、と続けるつもりだったが、最後までは口にしなかった。夜の第一学区は奇妙なほど静かだった。俺の第六感が今なお現在進行形でこの学区の何処かで行われているであろう、凄惨な暗闘の残香を嗅ぎつけているのだろうか。俺はピリピリとした、ざわついて落ち着かなくなる空気を肌で感じ取っていた。

 

俺と丹生は、迎えに来てくれたプラチナバーグの部隊の車から降りて、目的地である、今回の任務の拠点となる大型のトレーラーへと向かった。

 

後ろを付いてくる丹生を振り向き覗き見れば、彼女は不安そうな顔を隠しもせず、心配そうに俺を見つめ返してくる。彼女が僅かにでも安心できればと思って、不敵にニヤリと笑いかけた。それを見た丹生は少しだけ呆気を含み、ふぅ、と息をついて気を張り直した。

 

 

トレーラーの中へ入ると、これから世話になるであろうスタッフとの挨拶も碌にできぬままに、ヘッドセットと端末を渡される。すぐさま、ヘッドセットからは聞き覚えのある、オペレーターさんの声が響いてきた。

 

『申し訳ないわね。急に呼び出して』

 

意外にも、その台詞からはこちらに対する申し訳なさを感じ取れた。"上"からの命令だし、気にしてくれなくていいんだけどな。

 

「かまわない。余計なことは省いて、大事なことだけちゃっちゃと教えてくれ。こんな急に俺を呼び出したってことは、それだけの事態が起きてるってことなんだろ?」

 

『理解が早くて助かるわ。今回、そこで貴方達にやって貰いたいのは、一言でいえば、"プライム"と彼のゲストを狙って来る暗殺者の排除よ』

 

 

 

オペレーターさんの説明によると、今、俺たちが乗車するトレーラーの近くのホテルでは、"プライム"ことプラチナバーグ氏が学園都市外来のゲストとコンタクトを取っているらしい。詳しいことはまだ聞けてはいないが簡単に説明すると、情報部の調査から、この機を狙ったプラチナバーグ氏暗殺の依頼が数件、暗部の殺し屋どもに受注されていたことが発覚したらしい。恐らくは敵対している統括理事会のメンバーが放った暗殺者だろうと言っていた。

 

プラチナバーグを死守するのは当然のことだが、更に問題となるのが、もし彼が今交渉を行っている外部の来客にまで危害が及んでしまった場合だ。プラチナバーグ氏の面子に傷がつき、危うい立場に立たされる上に、彼にとって有力な外部とのコネクションも失ってしまう事態に陥りかねない。

 

 

今、現場となるホテルではプラチナバーグ直轄の戦闘部隊"ポリシー"が護衛対象に密着して警護しているとのこと。もちろん周辺にも手広く人員を配置して敵襲に備えているらしいが、如何せん、今回の任務では、プラチナバーグ氏の交渉相手や彼らと関わりのある来賓がいるために、カバーすべき対象が通常より広くなっているのだろう。そのため、警備網が手薄になっていたり、戦闘員が不足しているのでは、と俺はそういう風にこの状況を推察していた。

 

急遽俺たちが呼ばれたのは、恐らくは不測の事態に対するバックアップのためだろう。最近は、どこの統括理事会メンバーの私兵部隊も度重なった内輪もめによる戦闘で人員不足、人材不足に陥っている、という"人材派遣"の情報はどうやら正しかったみたいだな。慌ただしく任務に走る構成員の姿を目にして、より一層そのことに確信を持ちつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

状況が動いたのは、というより敵の強襲が始まったのは、俺と丹生が同士討ち(フレンドリーファイア)を避けるための簡易なレクチャーを受け終わった直後のことだった。

 

あちこちから続々と、交戦を知らせる通信が入ってきた。丹生は色めき立ち、がたりと立ち上がったが、俺は彼女に落ち着け、と言わんばかりに姿勢を楽にし、だらけた格好で座りなおした。俺たちは一番の新参者である。事態を混乱させないため、余計に引っ掻き回さないために、基本的にはオペレーターさんの指示に従うことになっている。

 

今はただ、オペレーターさんの命令を待っていればいい。ただ、今の交戦状況を知らせる通信だけは聞き逃さないように集中しつつね。

 

襲撃してきた相手もやはり単なる素人集団ではなかった。断片的な通信を又聞きしていただけだが、なかなかにこちらの部隊は翻弄されていた。

 

 

 

突如、プラチナバーグ氏が会談を行っていたホテルと、周辺のホテルの電源が落ちた。すぐさま連絡を密に確認を行えば、どうやらホテルで歩哨に当たっていた隊員数名からの連絡が途絶えていたようだった。

 

照明の消失とほぼ間が開かずに、今度はホテル周辺の建物をカバーしていた部隊が強襲を受けていく。そして、それから僅かして。とうとうプラチナバーグ氏とゲスト数名を狙った敵の突入部隊が、護衛にあたっていた部隊"ポリシー"と交戦に入ったと報告が届いた。

 

 

 

敵襲を受けた部隊は各地で応戦している。能力者で編成された部隊"ポリシー"は流石であり、優勢に敵部隊を押しているようだった。だが。その"ポリシー"から、突如の悲鳴。

 

 

『新手のスナイパー!"ポリシー3"、被弾!』

 

敵の伏兵の登場。それにより、プラチナバーグ氏とゲスト達、そして護衛部隊は動くに動けず、会談していた会場に釘付けとなった。

 

 

『ッ"スキーム"に伝令!急いで!"プライム"を攻撃しているスナイパーの排除に協力して!』

 

思っていたより早く、俺達に命令が下った。"スキーム"とは、新たに俺と丹生の部隊に与えられたチーム名だ。俺が"スキーム1"、丹生が"スキーム2"である。オペレーターさんから言われた通り、トレーラーから出て、側に控えていた隊員の案内で近くの建物の屋上へと移動した。

 

味方は"プライム"等を攻撃している敵の位置を未だ把握できずにいた。幸いなことに、まだ護衛対象に被害は出ていないが、早く対処しなければ危うい状況らしい。

 

赤外線暗視装置、指向性心拍センサーといった、様々な最新装備を駆使して、味方の隊員達は必死に敵スナイパーの姿を索敵していた。

 

「心拍センサーに反応無し。少なくとも敵は距離200m以上からの狙撃を行っています!」

 

敵の姿を苛立たしげに探していた、そのうちの1人が声を張り上げた。今わかっているのは、現場の"ポリシー"から得られた射角の情報や、周辺に展開している味方部隊の位置情報から、どうやら会場のあるホテルの北西方向に敵が潜伏している、ということだけだった。数は恐らく1人。スナイパーがたったひとりで行動するのは稀なので、数人側に控えているだろうけれども。

 

襲撃して来た敵の規模が想定より多かったらしく、数分後に"プライム"たちを収容するための装甲車チームが来る、と通信が入った。

 

しかし、今の状況では、"プライム"たちの速やかな撤退は難しい。ホテルを取り囲む周辺の建物では今なお歩哨部隊があちこちで敵と銃撃戦を繰り広げている。肝心の護衛部隊"ポリシー"は敵の突入部隊と見えない位置から一方的に攻撃するスナイパーに阻まれ、会場で抵抗しつづけている。

 

確かに、指令が下った通りに、潜伏するスナイパーを殺れれば状況が好転しそうだ。しかし、これほど必死に索敵しているのに、今以て位置が分からないとは。

 

そもそも、学園都市製の強化ガラスや壁材を貫く狙撃なんてどうにもピンと来ないぜ。……いや、そうか。常識で考えてはいけないのか。ここは学園都市、超能力者の街だ。敵部隊に物体の強度を低下させる奴がいるのかもしれないし、スナイパーの方で何らかの能力を行使している可能性もある。

 

 

埒が明かない。いっそ"プライム"の護衛の援護に向かえれば。……いや、その命令が来ない以上、スナイパーさえいなくなれば、"ポリシー"が敵部隊を排除出来るのだろう。敵に増援がいるかもしれないし、装甲車が来る事を思えば、やっぱり敵スナイパーの排除が優先か。随分と腕がいい、敵のスナイパーも。

 

 

俺の横にいる丹生は必死に光学センサーを使い、敵の姿を追っている。そうこうしているうちに、対テロ用に特化された監視用飛行ドロイドが撃ち落とされた。

 

 

俺は何時でも動けるように、唐突に"人狼化"を行なった。それを初めて見る、周りの隊員達にどよめきが生まれたのを全くもって気にかけずに。

 

 

 

 

 

性能が段違いに上昇した、人狼の瞳で周囲をくまなく見渡した。伏兵が居るとされている北西方向を集中して眺めていたその時、ある箇所に微かにだが違和感を感じた。

 

「丹生、アノ場所、アノビルノ左上ダ。アソコ、周リト比ベテ暗スギナイ(・・・・・)カ?」

 

俺の言葉の意味を、丹生は捉えきれないようであった。

 

「え?……景朗、どういうこと?あそこ?……暗くてよく見えない、けど?」

 

違うんだ、丹生。暗さにも程度があるだろ?完全な暗所なんて滅多になく、薄暗くモノが見えることが普通で……。

 

丹生は俺が指した場所へ暗視装置を向けながら唸っていたが、やはり疑問を残したままだった。そう、か。もし、俺の目は普通の人間なんかより、特別上等に色彩を判別できるとしたら。他人と違和感を感じるのも当然となる。

 

俺は今一度眼球へと意識を集中し、気になっている箇所を凝視した。時を等しく、ほんの僅かずつではあるが、それにより視覚能力が上昇していくのを実感していた。より薄暗い色、黒色の判別能力を高めようと試みる。

 

そして、答えが出た。俺が違和感を感じていた箇所を見つめているうちに、はっきりと、そのビルの一角が、まるで絵の具の黒色から光沢だけを取り去ったように、完全なる黒色を呈していると判別できたのだ。

 

月は雲で陰っているが、いくら朧げであるこの月明かりでも、あそこまで暗黒に変性させるものだろうか。俺は有り得ない光景だと思えてならなかった。

 

「オペレーター、出動スル許可ヲクレ。敵スナイパーノ潜伏場所ヲ見ツケタカモシレナイ。確証ハナイ、俺ノ勘ナンダガ」

 

『!?確証が無いとはどういうこと?……ダメよ、それじゃ許可できない。その場所を教えて。近くに展開している部隊に確かめさせる』

 

もし、本当にあの場所に敵がいたら。相手はまず能力者だ。出向いた部隊が返り討ちにあって、敵が潜伏場所を変えてしまうかもしれない。

 

「オペレーター、頼ム。俺タチニヤラセテクレ」

 

『……確証は無いといったけれど、自信はあるみたいね?』

 

「頼ム」

 

オペレーターさんの判断は思いのほか早かった。すぐに、上に許可を要請する、と返した。それほど時間が掛からぬうちに、また彼女から返事が来る。

 

『スキーム1、スキーム2。上からの許可がでた。頼むわ』

 

オペレーターの返信を聞くやいなや、俺は丹生の腕を掴み、何時ぞやのように彼女を背中に背負って、彼女に水銀のロープを俺の体へぐるぐる巻き付けるように言った。急ぐぞ、丹生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

接敵を警戒していたが、都合よく誰とも遭遇せずに、目的のビルへと一直線に辿りついた。その間、丹生は俺の出す猛スピードに怖がり必死に背中にしがみついていたんだが、その時に背中に当たっていた柔らかな感触には、幸せな気分にさせられたよ。任務中に不謹慎だったけど。

 

敵スナイパーが潜伏していると思われるビルは、やはり電源が落ちてしまっていた。大きな音を立てないように、ガラス張りのドアを力を込めて無理やりこじ開け、ビルの上層、角部屋を含む一角を目指した。

 

丹生に、絶対に俺の背中から出ないように言付け、なるべく足音を立てないように進み続ける。建物内は静かで、一見すると誰も潜んでいるようには見えなかった。

 

エレベーターを見つけたが、停止していた。時間が無いってのに。それからは階段を探して、窓が一面に並んだ廊下を小走りに進む。その時。

 

 

最大限に警戒させていた俺の耳に、微かな人間の息遣いが聞こえた気がした。背後の丹生にフラッシュライトを準備するようにハンドサインを送った。その直後だった。

 

 

外からは、微かな月明かりが溢れ出てくるのみで、もともと室内は真っ暗ではあったのだが。突如いきなり、闇よりもよりいっそうに濃い、完全なる暗黒が廊下一帯を包んだ。

 

それと同時に、トスッ、という鈍い音がして、俺の左胸に何かが突き刺さった。冷たい。金属だ。……ナイフ?

 

考える前に、体が動いていた。丹生を庇うように振り返り、すぐそばの窓のあった所を思いっきり殴った。盛大に音を立てて硝子が砕け散る。俺の目には、不思議な光景が映る。月明かりで微量だが、外には確かに光がある。そのはずなのに。目に映る室内は、すべて。そう、全ての壁面に墨汁をぶちまけたかのように、漆黒に染まっていた。

 

機敏に丹生を抱え上げ、窓の外へ放って、ビルの壁伝いに目指していた部屋へと向かえと叫んだ。また、敵を見つけても決して手を出さずに、もし逃走したら距離をとって追跡するようにとも言うと、水銀を上手く使って壁にぶら下がっていた丹生は勢いよく頷き、焦りながらもするすると壁を登っていった。

 

 

丹生が取りこぼしたフラッシュライトがころころと床を転がっていた。だが、しかし。部屋にはライトが放っているはずの光の痕跡は全く存在しなかった。転がるライトのLEDがこちら側を向いた時のみ、俺の視界に光が入ってくる。その光景は、まるで……まるで、ブラックライトシアターを見ているようだった。もしくは、星空か。

 

暗黒の真っ只中で、目にできるのは。目に映るのは、その真っ暗な部屋で異様に光を放つ光源のキラメキのみ。どれだけ光源が光っていようとも、周りの物体は不自然に真っ暗なのだ。

 

敵を警戒しつつ、床に転がるフラッシュライトを拾った。ライトは問題なく点灯しているのに。目の前を照らそうとしたが、期待した光の柱は物理法則を捻じ曲げられた風に、その存在を消失させていた。

 

右手に持ったライトをあちこちへ向けてみる。だが、なんということだ。そのライトは何ものも照らし出してはくれず、ライトとしての役割を果たしてくれなかった。俺の目に映るのは、暗闇とライトの先っぽに存在する、LEDの光球だけだ。

 

 

嗅覚と聴覚を最大限に励起させ、敵の攻撃に備える。今度は、バス、という軽い音とともに、俺の首に何か細長い棒状のものが突き刺さった。ボウガン、だろうか。俺の脳裏に焦りが生まれたその時だった。

 

 

「オメェ、もしかして"人狼症候(ライカンスロウピィ)"か……?"」

 

その発声が生じたのと一緒に、再び不思議な現象が起きる。突如、俺の体毛が薄らと淡く、白く発光しだしたのだ。先ほどブラックライトシアターと例えたが、これはほとんどそのまま、ブラックライトの蛍光反応と言っていい。俺の体は暗黒の中で、薄らと白く蛍光し、恐らくは目の前の敵にだけ、その姿を現しているのだろう。マズい事態……なんだけど。

 

その現象と一緒に、俺の鼻には数メートル先に立つ男の口臭が届いていた。……あれ?位置がわかっちゃった。……何してんだ?コイツ……。それでも、俺は油断なく、前方に位置する男へと対峙した。

 

 

「ようこそ、俺様の"ブラックライトシアター"へ!おーおー、そのシルエット、まんま狼男じゃん。うはっ、本物の"人狼"たぁ、ラッキーだぜ!こりゃあ大物だぁ!」

 

彼の歓喜溢れる戯言が耳に入った途端だった。コンッ、と何かが床を転がる音を耳にした。反射的にその方向へと視線が向いていた。そして。

 

 

 

強烈な閃光。そして轟音。

 

 

 

敵が放ったのは、閃光手榴弾(スタングレネード)だった。まんまと室内で使われてたせいで、閃光に目が眩み、耳鳴りとともに耳がよく聞こえなくなってしまった。視覚と聴覚、どちらも上限まで鋭敏に励起させてしまっていた弊害だ。だが、だが、しかし。嗅覚はまだ残っている。

 

 

「これで俺様の名が一気に上がるってなもんだぜぇ!」

 

 

何やら敵が喋ってたようだがはっきりとは聞こえなかった。気がつけば首に裂傷を受け、血が噴出する。恐らく、目の前の男は俺の頚動脈を狙ってナイフを振るったのだろう。でも、そんなんで俺は倒せないんだよ。

 

 

勘弁してくれよ。何せ、姿も見えないし音もよくわからないんだ。だから、手加減できそうもない。俺はそう心の中で念じながら、匂いをたどり、俺の背後に回っていた男へと噛み付いた。

 

「があああああああああああああああああああああああッ!」

 

俺に噛み付かれた男は悲痛な叫びを上げて、じたばたと力の限りにもがく。そして同時に、廊下全体を包んでいた暗黒がピタリと消え去った。可哀想だったが、俺は男を咥えたまま、さらに噛む力を強くしていった。やがて、べきべきと骨が砕ける振動が、男を噛み締める歯から俺の脳みそへと伝わった。当然、男は失神して動かなくなっている。

 

俺は血に塗れる男の手と足に手錠を施し、急いで丹生とオペレーターさんへと通信を入れた。

 

「丹生、サッキノ犯人ハ倒シタ。今ドコダ?スグソッチヘ行ク!」

 

『よかった景朗!無事なの?!』

 

丹生の声はか細く、小さなものだった。恐らく、既に敵の近くに忍び寄っているのだろう。

 

「当然ダロ。今スグソコヘ向カウカラ、敵ヲ見ツケテモ俺ガ着クマデ仕掛ケルナヨッ!」

 

『わかってる。早く来て……くッ!敵が動いた!逃げだしてる!』

 

 

チィ!俺が"光学操作"野郎をぶっ倒したのがバレたんだろう。ライトを拾い直し、階段を怒涛の勢いで駆け上がる。目的の場所に着くまでの、そのあいだにオペレーターさんに連絡を入れた。

 

「オペレーター!スキーム2カラ連絡ガアッタダロウガ、敵スナイパー部隊ノウチ1人ヲ今シガタヤッタトコロダ!」

 

『スキーム2から連絡は受けていたわ!お手柄よ、"ウルフマン"!既に敵スナイパーの攻撃は止んでいる!そのまま逃走したスナイパーを捕縛、もしくは仕留めて!"プライム"の収容は上手く行きそうだから!』

 

「スキーム1、了解!」

 

何だかオペレーターさん、興奮しているなぁ。俺のこと思わず"ウルフマン"って呼んでいたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結末から言えば、その後、逃げ出したスナイパーは屋上へと向かっているようだと丹生から連絡を受けた俺は、屋上に先回りし、難なくそのスナイパーを捕獲することに成功していた。

 

気がかりだった"プライム"と彼のゲストたちの収容も、ほどなくして無事に成功した。"ポリシー"を襲った敵部隊の能力者たちもなかなかに強敵だったらしく、撤収開始間際に伝え聞いた話だと無事に帰還できたのは1人だけだったという。

 

その敵部隊の中に物質の強度を極端に低下させる能力をもった能力者がいたらしく、防弾アーマー、スーツが役に立たぬばかりか、窓の外や壁の外からの狙撃にもさらされ、おまけに彼らは"プライム"やそのゲストたちの肉の盾とならねばならなかった。過酷な状況だったろう。生き残りは1人、か。もっと早くに俺達がスナイパーに対処できていれば、被害を抑えられたかもしれない。

 

 

 

 

 

トレーラーの中で事後処理を行っている間に、色々な情報を手にしていた。想像以上に、このプラチナバーグの私兵団は疲弊していた。資料に目を通せば、この部隊は連戦に次ぐ連戦を受け、戦闘部隊は次々とメンバーが欠け落ち、ツギハギだらけのままなんとか今まで体裁を保ってきていた。

 

そりゃあ、予想していたより装備はハイテクなものだったし、部隊には潤沢に資金が注ぎ込まれているようではあったが。それでも、人材の方は。人材の方は悲惨な有様だった。なぜ、これほどまでプラチナバーグの部隊は襲われる?そして襲ってくる敵の質が異様なほど高いのは何故だ?木端な暗部組織、雇われの殺し屋や傭兵風情に、何故統括理事会のメンバーの1人であるトマス=プラチナバーグの懐刀がいいようにしてやられているのだ。

 

オペレーターさんは、プラチナバーグが俺を欲していると言っていたが、そりゃそうさ。この状況なら純粋に戦闘に使う駒として俺を必要とするはずだろう。

 

 

 

続々と上がってくる他の資料にも目を通した。その中に、先程俺達を襲った敵の詳細な情報が、もうリサーチされ報告されていたのを発見する。この辺は流石、大所帯と言うべきだな。

 

 

俺が捕まえたスナイパーは、巳之口辰哉(みのくちたつや)という異能力者(レベル2)の殺し屋だった。彼は"絶対温感(サーマルビジョン)"という、人間が感知できる可視光の範疇を超えた、紫外線、赤外線を認識する、千里眼のような能力を用いて標的を狙撃するそこそこ有名な奴だった。彼はその能力を使って、スナイパーが不得手とする夜間の暗殺を得意としていた。"ポリシー"や"プライム"を襲った時も、彼には誰がどこにいるのか丸見えだったに違いない。

 

俺が噛み付いたアホ、巳之口の観測手(スポッター)を勤めていた男は、紫万元明(しまもとあき)という最近暗部に入った新人で、異能力(レベル2)の光学操作能力者だったという話だ。自身の能力を"暗黒光源(ブラックライト)"と自称しており、それは周囲の物体の光の屈折率や反射率、吸収率をコントロールできるものだった。

 

 

今俺がつらつらと述べたように、襲ってきた敵を仕留めれば、それが誰だったのか判明し、依頼した組織や個人を特定しやすくなる。また、仕留めるのではなく、俺がやったように生け捕りにして確保すれば、のちのち拷問や薬品を使うなんなりして、さらに詳しい情報を敵から引き出すことができるのだ、とオペレーターさんに今回の俺たちの活躍については好評価を得られたのだが。

 

トレーラーにて、撤収作業を待つ間、そんな風に、新しい部隊での初任務から上手く貢献できた喜びに浸っていた俺達の気分を吹き飛ばす、深刻な報告が突如、情報部へと届く。その結果は、すぐに俺達にも伝えられた。

 

 

 

『……"ウルフマン"。心して聞いて。たった今、報告があったわ。……私たちの組織の主力精鋭部隊"レジーム"が、先程、約15分前に壊滅しました。生存者、ゼロ。彼らが防衛にあたっていた重要施設も破壊されてしまった』

 

さっきまで、なにやら俺たちの活躍を自分のことのように喜んで(いてくれていたようにみえた)いたオペレーターさんが、突然、意気消沈して、張り詰めた空気を纏いつつ、俺たちに"レジーム"とやらの壊滅の報を伝え始めた。

 

 

「あ、ああ。それは聞いた感じヤバそうな話だな。……どうしたんだ?オペレーターさん。そんなの何時もの話じゃないのか?落ち込み過ぎだぜ……?」

 

 

オペレーターさんの声から色がなくなっていた。その声色が、俺たちの不安をよりいっそう煽る。

 

 

『状況から、襲撃者に被害はゼロ。一方的に"レジーム"が嬲り殺しにされていた』

 

 

"レジーム"。プラチナバーグの懐刀たち。レジーム(権力)を名前に冠した部隊だ。特別な部隊で、プラチナバーグが選別した生え抜きが揃えられていた。大能力者2人に強能力者2人。

 

能力強度(レベル)が戦闘力の全てだとは言えないが、少なくとも目安にはなる。戦闘では強能力以上はおいそれと侮るべきではない。……襲撃者は、この"レジーム"を一蹴したのか。

 

 

『……"レジーム"を襲撃した敵の正体は、恐らく。"ジャンク(壊し屋)"の名で知られる、統括理事会の親船最中の息が掛かった精鋭部隊、よ』

 

 

"ジャンク"……?その名前、さっき漁っていた資料で目にしたぞ。夢中で資料を改め、その部隊の資料を見つけ出した。

 

オペレーターさんの言う通りに、親船最中と関わりが深い部隊のようだった。親船最中。彼女も統括理事会メンバーの1人。

 

そこまで来て、ピンときた。先程の疑問だ。なぜ、トマス=プラチナバーグという、統括理事会の一員ともあろうものが、これほどまでに窮しているのかを。

 

"人材派遣"は言っていたじゃないか。統括理事会の内輪揉めによる、殺し合いが各地で勃発していると。

 

トマス=プラチナバーグは統括理事会のメンバーの中で恐らく最も若い。つまりは、最も新鋭であるから当然、最も影響力や権力、そして勢力が小さいのだ。

 

弱肉強食。戦いとなれば、弱いものから潰され、消えていく。最悪だ。ここは。ここの、この部隊の、プラチナバーグの部下であるということは。

 

 

『"レジーム"は消滅し、"ポリシー"も残すは1人だけ。プラチナバーグ本人の護衛にその他の主力は回さねばならない。そこで、"上"は。この敵部隊"ジャンク"の対応に、貴方たち"スキーム"を指名したわ。生き残りの"ポリシー"最後の1人を加えて、ね』

 

 

マジで最悪だよ。他所の、統括理事会メンバーからの、刺客。しかも、名うての精鋭部隊が相手か。

 

 

『現状、どんなに急いでも、貴方たち"スキーム"以上の質を有すチームを用意できそうもない。"上"の判断は……妥当よ……』

 

 

左手をギュッと握り締められる。隣に座っていた丹生が、俯いたままいつの間にか俺の左手に手を伸ばし、不安そうに握りしめていた。

 

 

資料には、要注意人物として、2人の名前が上がっていた。

 

 

煎重煉瓦(いりえれんが)。能力名、螺旋破壊(スクリューバイト)、大能力者(レベル4)

鳴瀧供離(なるたきともり)。能力名、共鳴破壊(オーバーレゾナンス)、大能力者(レベル4)

 

 

彼らは、裏の世界じゃ、実力者であり、"壊し屋"として有名なのだそうだ。先のことはわからないが、どうやら、明日か、すわ明後日か、もしくは明明後日か。少なくとも死闘が俺達を待ち受けていることだけは確かなようだった。

 

 

 




推敲が足りないので、後でちょっと変わるかもしれないです。ふぃー。

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