私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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絶対やべー少女③

 

 

”どうして私は希望側にいるのだろうか?”

 

 

そう問いかける自分の声が時々聞こえ始めたのは、

あの”人類史上最大最悪の絶望的事件”が起きた少し後だったろうか。

世界が壊れたあの日から家族の行方はわかっていない。

私は真子に連れられ、落ち延びるようにこのXXX地区避難所にやってきた。

避難所に着いた当初、まだ混乱は収まっておらず、その生活は悲惨を極めた。

食料の配給が途絶えるのはザラにあり、2、3日何も食べれないことが続いた。

食べ物が無ければ人心は荒む、

食料の強奪は日常と化し、もはやここも外と変わらない状態になってた。

その頃だろうか、あの問いかけが聞こえ始めたのは。

 

”なぜ私はここにいるのだろうか?なんの才能もない私がなぜ希望に縋りつくの・・・?”

 

・・・この問いかけの答えを考えてみたことがあった。

もしその答えがあるなら・・・それはきっと・・・ただの偶然・・・なのだろう。

私が今、希望側にいるのは、ただの偶然に過ぎない。

 

私に希望などない。

私に才能などないのだから。

 

地元の公園に撮影で来ていた舞園さんを・・・

あの超高校級の”アイドル”である舞園さやかを見たことがあった。

遠めではあるが、彼女が放つ存在感は金色のオーラの輝きを錯覚した。

まるで妖精がこの世界に舞い降りたように、本当に美しかった。

同じ高校生として・・・人々を魅了する・・・決して届かない輝き。

あれこそ才能であり・・・希望。

私には持ち得ないものだった。

 

私は何も持ち得ないならば・・・才能がないならば・・・希望がないならば・・・なぜ私はここにいる?

 

そんな問いかけがずっと続いていた。

もし、傍らに真子がいなかれば、私はある日、ふらりと外に出て行ったかもしれない。

 

この問いかけが止んだのは・・・吉田さんに・・・そして彼女に出会った頃だ。

 

「チッこの資料クッソ重いんだけど」

 

横でブツクサと文句を言いながら資料を運ぶ彼女を・・・黒木さんを見る。

 

コレは一体何だろう・・・?

 

出会った当初から生まれたこの問いの答えは未だに出ていない。

希望ヶ峰学園の入学者として彼女の姿をテレビでちらりと見たことを思い出す。

光り輝く才能達の中で、明らかに浮いていて場違いな彼女。

その才能も超高校級の”喪女”という何の役に立つか、私にはわけがわからないものだった。

私がそのことを思い出すのは、

黒木さんが私達の班の”班長”として現れた時だった。

 

「く、黒木・・・と言います。あ、あの・・・よ、よろしくドーゾ」

 

何をよろしくで、何をドーゾすればいいのだろうか?

 

コレは一体何だろう・・・?

 

それが私が黒木さんに抱いた最初の・・・そして今にいたる印象だ。

 

「アイツ、何が超高校級だよ!ただの馬鹿じゃねーか!」

 

吉田さんはいつもそう言ってキレていた。

 

「まあ、黒木さんも悪気があったわけじゃないし」

 

どうやら起こされる時、胸を弄られたらしい・・・なんだろう・・・やっぱりバカなんだろうか?

黒木さんのやらかしをフォローして行く内に、吉田さんと仲良くなれた。

真子は他の班も兼任しているため、

黒木さんは私と吉田さんが面倒を見るしかない。

結構、忙しい。

あの問いかけはいつのまにか止んでいた。

 

「・・・。」

 

再び問いかけが始まったのは・・・真子が班を抜けた直後だった。

たびたび兼任していたのは知ってる。

でも、なぜ今さら・・・?

なぜ、私に相談すらしてくれなかったのだろうか。

私は真子のことを理解しているつもりだった。

だけど、それは全て私の妄想。

以前、真子が感動すると言って貸してくれた本が

私にはなにも感じなかったように・・・なにもわからなかったように・・・

私は真子のことをなにもわかっていなかったんだ・・・!

 

”どうして私は希望側にいるのだろうか?”

 

また、あの声が聞こえてくる。

 

”何の才能もないのになぜここにいる?希望などないのになぜ生きている?”

 

なんで・・・生きているのだろう・・・家族だってもう・・・。

 

「グウェッ!!」

 

黒木さんが盛大にこけて資料をぶちまけた。

 

(黒木さん・・・あなたこんな時に)

 

かなりシリアスだったのに・・・。

 

「大丈夫・・・?」

 

黒木さんを立たせようと手を差し出す。

 

「アハハハ、ウケる!」

 

その声の方に顔を上げる。

アレが・・・南小陽がこちらを見て笑っていた。

 

「てか、超高校級の”喪女”って何?アハハハ」

 

南小陽は倒れている黒木さんを見て

 

「まこっちもあんなヤツの班にいてカワイソー」

 

そして私に視線を移し、笑いながら去っていった。

 

真子は・・・アイツの班に行った。

 

私ではなく、アレを選んだのだ。

また問いかけが始まる。

 

”そもそもなんでアレは希望の側にいるのだ?”

 

いや・・・私もアレと同類だ。

人の心がわからない。

ならば、私は・・・

 

「ぐ・・・」

 

黒木さんが顔を上げる。

また思考が途絶える。本当にタイミングが悪い・・・

 

 

「うるせー、キバ子・・・」

 

 

(え・・・今・・・)

 

 

   ”調子に乗ってるとその歯、矯正すんぞ!!”

   

   

   

――――プッ

 

不意を突かれ、一瞬息が止まった。

 

「え・・・?」

「・・・なんでもないよ」

 

怪訝そうに私を見る黒木さんの視線をかわす。

意外な一面を見た気がする。

バカだけどもっと大人しいイメージがあったから。

 

「それに超高校級の”喪女”が何だって・・・?」

 

黒木さんは怒りが収まらないらしい。

また何か言おうとしている。

 

「わたしだって、未だにわけがわかんねーんだよ!

なんだよ、喪女って!?何の才能なんだよ!ただの辱めじゃねーか!」

 

 

――――ププッ

 

胸が・・・苦しい。

 

 

「みんな簡単に絶望するけどさぁ!

私の方がどう見ても絶望的だろ!なんで私はまだ希望側にいるんだよ!」

 

「フ、フフフ」

 

堪えきれず、声が洩れた。

 

「え、今、笑ってる?」

「・・・笑ってないよ」

「え、でも・・・」

「なんでもないよ!」

 

 

 

 

 

 

・・・もう少し、頑張ってみようかな。

 

 

 

 

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

「うぇーい、やったね!」

 

絶望の連中の侵入を防いだ?黒木さんに拳を突き出し祝福する。

それに躊躇しながら拳を合わせる黒木さんは

 

「え、な、何この中学生みたいなノリは?」

 

と怪訝な顔をした。

 

(君がしてたことなんだけどな・・・)

 

これも覚えていなかった。

きっとあの日のことは彼女の中から何もかも綺麗さっぱり消えてしまったのだろう。

あの入試の日のことは―――

 

私が中学の時、仲のよい友達が2人いた。

その友達はいわゆるオタクだった。

彼女達の言っていることはわからないことも多かったが一緒にいて楽しかった。

ある日の放課後、クラスメイト達が彼女達について話していた。

 

「BLってやつを机に広げて騒いでてさ」

「マジで、ヤべーなそれ」

「いやいや、尊いって!」

「すげー似てる!その早口」

「ギャハハハ」

 

「ハハハ・・・」

 

その場にいた私は、ただ愛想笑いをするしかなかった。

 

「一緒になってすげー悪口言ってたわ」

「言われてみると普段から私ら見下してたよね、あの子」

 

階段の踊り場でそう囁く彼女達の姿を見て、

私はただその場を離れることしかできなかった。

 

”そんなつもりはなかった”

”私は何も言っていないのに”

 

そう伝えることもできず、私の中学時代は終わりを迎えた。

 

私はアニメは好き。

みんなでわいわい楽しく暮らす日常系のアニメが好き。

そんな生活がしてみたいとずっと憧れている。

 

だから・・・

 

   今度は・・・

   高校では・・・

   

   

   

   

          上手く演る!

          

 

 

 

「うぇーい、やったね!」

 

そう身構える私に、君はいきなりそんなことをしてきた。

 

「拳合わせて、拳!」

「あ、はぁ・・・」

「私、黒木だから。覚えといて」

 

それはまるで日常アニメの始まりのように・・・

 

「あ、うん・・・私は・・・」

 

私に新しい何かを期待させる出会いだった―――

 

でも・・・

 

 

「黒木さんは転校しました」

 

高校生活が始まって1ヶ月ほど経った頃のことだった。

 

”超高校級の喪女”

 

そんなアニメみたいな才能を見出された黒木さんは

ネットに晒されるとすぐに不登校になり、瞬く間に希望ヶ峰学園に転校して行った。

 

私の日常アニメは始まる前に終わった。

 

それからしばらくしてあの”人類史上最大最悪の絶望的事件”が起き、

世界は私が嫌いな暴力アニメに変わった。

私は家族と共にXXX地区避難所に疎開することになった。

 

そこに・・・黒木さんがいた。

 

信じられなかった。

たくさんの人が死んで、

多くの友達が行方不明になって、

こんな・・・こんな絶望を支配する世界でまた君に会えるなんて。

それはまるで諦めていた日常アニメの2期が始まったような気持ち。

 

「黒木さん、ひさしぶり~」

 

喜びを押さえながら、私はクールなキャラを演じ、彼女に手を振る。

 

「え・・・?あ、あの、その、え、えーと」

 

 

 

   黒木さんは・・・私を覚えていなかった。

   

   

 

 

 

許せない・・・。

 

 

 

許せない・・・許せない!

 

 

 

許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!

許せない!許せない!どうして・・・!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!

許せない!許せない!許せない!許せない!あの時・・・許せない!許せない!許せない!

許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!声をかけてくれたのに・・・!

許せない!許せない!許せない!私のことを・・・許せない!許せない!許せない!

許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!忘れるなんて・・・!

 

 

絶対に・・・許さないんだから!

 

 

・・・だから、今度こそ始めよう。

あの日打ち切りになってしまった日常アニメの続きを、

私と黒木さんと・・・みんなと一緒に始めよう。

主役の私の存在をもう一度、黒木さんの中に刻もう。

絶対忘れないようなとびきり楽しい日常アニメをここで始めるんだ!

 

 

「・・・そう思っていたんだけどな」

 

絶望達の襲撃の混乱の中、黒木さんは姿を消してしまった。

 

「本当に、黒木さんは面白いな・・・」

 

つくづく私の予想の斜め上を行く。

こういう冗談は嫌いなんだけどな・・・。

 

(私は・・・諦めないから)

 

始まったばかりの日常アニメを打ち切りなんかにさせない。

きっと君は戻ってくる。

その時、また始めよう。

私と黒木さんがメインキャラの日常アニメの3期を!

 

黒木さんが私のことをこっそり”ネモ”と呼んでいるのは知ってるよ。

だからね、黒木さんが帰ってきたら、私も呼んであげる。

ちょっと恥ずかしいけど、ほんの少しの勇気を持って

 

みんなの前で黒木さんを”クロ”・・・そう呼んであげるね!

 

 

 

 

   ~~~~第1回学級裁判中継中~~~~

 

 

「黒木!お前が”クロ”なんだよぉおおおおお~~~~ッ!!」

 

「ヒィィィィィィィィィィィィ~~~~ッ!!」

 

 

 

 

 

   ―――チョッ!?

 

 

 

 

 





【あとがき】

ゆり&ネモの話。
原作要素を使って書いてみました。
次話から本編再開です。
今後も細々と書き続けたいと思います。
どうぞ宜しくお願いします。

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