私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第1章・イキキル 前編②

超高校級の“アイドル”舞園さやかさん。

国民的アイドルグループのセンターマイクを務める時代の超新星。

そんな彼女の活躍を、私はいつもリビングのソファに座って眺めていた。

女性というものは、生まれた瞬間から美の競争に巻き込まれる。

故に、自分の美に敏感であり、他者の美を本能的に妬むものであると私は思う。

だから、私は、親友の優ちゃんがどんどん綺麗になっていくのを嬉しいと思う反面、

激しく嫉妬していたことをここで認めよう。

だけど、彼女には…舞園さやかさんにその感情を持つことはなかった。

それは、彼女が私にとってあまりにも遠い存在だったから。

格闘技を始めたばかりの少年が、

世界最強のロシア人チャンピオンと戦おうなどと考えないように。

将棋を始めたばかりの素人が、

メガネの名人と真剣勝負をするなどと夢にも思わないように。

テレビに映る彼女は、私にとって、

あまりにも美しく、あまりにも遠い存在で、嫉妬の対象になりえなかったのだろう。

それは、美しい人形を眺める時に抱く感情近いような気がする。

だからこそ、この希望ヶ峰学園の厨房において、本物の彼女と二人きりという状況に

私は、何か夢の中にいるような不思議な感覚に囚われた。

あの舞園さやかが、目の前にいる。

あのテレビの中で、華やかに踊っていた彼女が、話しかけられる距離にいる。

そんな状況において、私があまり緊張しないのも、現実感がないというのもあるが、

なによりこの希望ヶ峰学園で起こった奇怪な出来事の連続で

感覚が麻痺しているからかもしれない。

 

舞園さんは、表情こそ見えないが、元気がなさそうだった。

その背からは、あの超高校級のアイドルが放つ独特のオーラが感じられなかった。

やはり、あのDVDの影響なのだろうか。

脳裏に、家族や優ちゃん、そして、破壊された部屋の映像が過ぎる。

あんなものは捏造に決まってる…と信じたい。

だが、あれを見せられて元気な人間などいるはずがない。

彼女が元気がないのは、当然だろう。

見ると、彼女は手に、何かをもっていた。

それは、部屋に備え付けてあったハンドバックだった。

私の部屋にあるものと同じなので、すぐにわかった。

どうやら、女子の部屋の支給品は同じらしい。

 

(舞園さん…ここに何しにきたかな?)

 

彼女の後ろ姿を眺めながら、そんなことを思っていた時だった。

 

「あとは…え!?」

「へ…?」

 

何かを呟いた次の瞬間、舞園さんは、急に振り向き、私と目を合わせた。

 

「え…どうして?いつから!?い、嫌…ッ!?」

「え…!?ち、ちょっと」

 

視線を合わせた彼女は、呆然と私を見た後、激しく狼狽し始めた。

彼女の美しい瞳が、恐怖で濁っていく。

何か恐ろしいものを見たように。

その表情は、まるで、夜、部屋に帰ってきた時に、部屋の中に

何度も被害届を出したストーカーを見たような…そんな感じだった。

 

「見てたんですね?ずっとそこで見てたんですね?そうなんですね!?」

 

決定的だった。

彼女は、私がストーカーのように後をつけてきたと勘違いしたのだ。

 

「ご、誤解です~ッ!!果物をとりに、さっきここに来ました~ッ!偶然ですッ!!」

「嘘よ!ずっとここにいたんですね?私が気づかないのをいいことに、ずっと私のことを見てたんですね!?」

「違います~ッ!!1秒前にここに来ました~ッ!信じてください~ッ!!」

 

疑う彼女に対して、私は、身の潔白を死に物狂いで説明する。

本来ならば、同じ歳の女の子に、

ここまでの必死さを見せるのも変な話ではあるが、彼女が相手ならば仕方がない。

彼女は、超高校級の“アイドル”

きっと、ストーカーのような犯罪に巻き込まれたことがあったに違いない。

だから、そのことを思い出して神経過敏になっているのだ。

 

「ほ、本当ですか…?本当にさっき、ここに来たばかりなんですか…?」

「は、はい!神に誓って本当でありますッ!!」

 

私の必死のアピールに彼女も落ち着きを取り戻し始めた。

 

「そう…よかった」

「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

 

誤解が解けたようだ。

彼女はいつもの笑顔を私に向けてくれた。

私は、それに対して、感謝の言葉を連呼する。

嬉しかった。

だが、それと同時に、自分が何か酷く惨めな存在に思えたのは気のせいかな…?

 

「ウフフ…」

「ウヘヘ…」

 

彼女と私は、お互い、微笑を浮かべながら黙り込む。

あたりを静寂が包むこんだ。

すでに、第二の試練は始まっていた。

 

そう、“話題”が出ない。

 

こ、これは私がコミ障だからでは断じてない!

ほぼ初対面の人と気軽にコミュニケーションできる人間が

この日本でどれほどの数いるというのだろうか?

そもそも、そんな能力が私にあるのなら、

私は他校で今頃、リア充ライフを満喫しているはずだ。

なにはともあれ、何か話しかける必要がある。よし…やってやる!

 

「あ、明日の天気はどんな感じかな…?」

「え…!?え、えーと、晴れかもしれませんね…。

外に出られないからよくわかりませんけど…うん、晴れだといいですね!」

「ハ、ハハハ、そうですね…」

 

(うがががあああああああああああああああああぁぁぁぁ~~~~~~~~~ッ!!)

 

私は心の中で絶叫した。

天気の話をしてどうする!?

たとえ会話の基本だとしても、緊張して訳がわからなくなっていたとしても、

監禁されて外が見えねーのに、天気の話題をしてどうするよ、私!?

しかも、舞園さん、気遣ってくれたよ!どうする私!?

 

「え、えーと、黒木…智子さんですよね?ここへは何をしにきたのですか?

さっき、果物がどうとか…言ってましたよね?」

 

私が心の中で頭を抱えている中、気を使ってくれたのか、

舞園さんから話題をふってくれた。

 

「うんうん!そうそう!く、果物!果物を取りに来たんです!

実は、昼寝してたら、夕食を逃しちゃって…それで、果物でも食べようかな、と」

 

渡りに船とばかりに私はこの話題に飛びついた。

アイドルというのは、私生活では、テレビの中の態度とは正反対で、いつもイラついて

おり、マネージャーを奴隷のように扱うイメージがあるが、彼女は違う。

気を使って、話題をふってくれたことからも、彼女の性格の良さが窺えた。

 

「そうなんですか。なるほど!ここには美味しそうな果物がたくさんありますものね!」

 

彼女の視線の先には、果物が山積みになって置かれている。

果物や食料は、毎日、モノクマの奴が律儀に調達してくる。

ロボットの分際で、

台車ロボットをリモコンで操作しているシュールな光景を見かけたことがある。

自分の目的を伝えることができて、ここで私もようやく、冷静さを取り戻した。

そこで脳裏に一つの疑問が浮かんだ。

 

(舞園さんは、ここに何しにきたのだろう?まさか、私と同じ様に果物を夜食に…?)

 

ふと、そんなことを考えたが、即座に心の中で否定する。

彼女は、超高校級の“アイドル”。

スタイルの維持には、人一倍の努力をしているはずだ。

夜食など、体重が増えそうなリスクを犯すことなどないはずだ。

 

私がそんなことを思った時だった。

 

「アイドルでもお腹がすいたら、夜食はとりますよ。果物くらいなら、太りませんし」

「へ~そうなんだ!なるほど…え!?」

 

アイドルでも夜食はする、という生の情報に関心した次の瞬間、私は絶句した。

素でノリツッコミをしてしまった。

なぜなら、この会話が成立することなどありえないはずだから。

夜食の話題は、私は話してなどいない。心の中で思っただけなのに。

 

「…エスパーですから」

 

私の心を見透かしたように、微笑を浮かべながら、彼女は呟く。

 

「え…?」

「私…エスパーなんです!」

 

彼女はそう言って力強く両の手を胸の前で握り締めた。

 

(え…ちょっと!?な、何?エスパーってあの超能力の!?)

 

とんでもないカミングアウトに私は狼狽した。

彼女は…舞園さやかさんは、超能力者だったのだ!?

それも、他人の心が読める、というかなりレベルの高い能力の。

 

「ここだけの話なんですが、芸能人の半分は何らかの超能力を持っているんです」

 

さらなる衝撃が私を襲う。

お笑い番組のあの芸能人も、ドラマで活躍するあの芸能人も超能力者!?

いや…言われて見ればそうかもしれない。

芸能人は、一般人とは明らかに違う雰囲気を持っている。

今思えば、それは、彼らが持つ能力から発せられたものかもしれない。

お昼番組の司会者のあのグラサンなんて、超能力持ってない方がおかしい。

 

「…冗談です。ただの勘です」

 

私が、彼女の発言を信じて切ってしまった直後だった。

 

「え…?」

「もちろん、芸能人の話も嘘です。本気にしないでくださいね」

 

唖然とする私に、彼女はニッコリと微笑んだ。

 

(え、嘘だったの…?)

 

完全に騙されてしまった。本気で信じかけてしまった。

彼女に心の中を読まれたことで、私は彼女がエスパーであると本気で思ってしまった。

なんだよ、ただの勘かよ…。

グラサンが超能力を持っていないことが少し残念だった。

しかし、舞園さんめ、私を騙すなんて…。

見ると、彼女は、可笑しそうに口を押さえて笑っている。

 

(クソが…超カワイイじゃねーか)

 

こんなカワイイ生物に騙されたら、怒るに怒れない。

なんだって、許してしまいそうじゃないか。うん、許す。

 

「あ、果物を取りに来たんですよね?ささ、私に構わず、先に選んじゃって下さい!」

「え、あ、ど、どうも」

 

そう言って、舞園さんは、私を促した。

話をまとめると、彼女も夜食として、果物を取りに来たみたいだ。

手に持っているハンドバックは、果物を入れるため、ということかな。

ああ、確かに、あれを持ってくれば、いろいろ入れることができた。

チ…私も持ってくればよかった。

しかし、順番を譲ってくれるなんて、本当にいい子だな、舞園さんは。

私は、彼女に感謝しながら、果物を選び始めた。

 

(う~ん、改めて見ると、本当にいろいろな種類があるな…)

 

ここに来るまでは、りんごやバナナなど、定番品を食べようかと考えていたが、

マンゴーやら、キュウイやら、ブルーベリーやら、いろいろあり目移りする。

なかなかすぐに選ぶことができない。

そして、すぐに動けないのには、もう一つの理由があった。

 

見られている―――

 

先ほどから、明らかに見られていた。

じっと、観察されるように。

彼女は…舞園さやかさんが、私を見つめていた。

その視線は、背中越しからでも、感じることができるほどに。

 

(な、何?私が何を食べるか、そんなに興味が…?それとも私が面白いから!?)

 

彼女とは、気絶した苗木を運ぶ時以来、話したことはなかった。

ほぼ初対面と言っていいだろう。

そんな私に興味を持つのは、考え過ぎだろう。

彼女の冗談に騙されただけだし、そこまでのリアクションはしていなかったはずだ。

ならば、やはり、どの果物を選ぶか、に興味を持っているのかな…?

 

そんなことを考えている間でも、彼女の視線が途絶えることはなかった。

緊張で私の心音がどんどん高まっていく。

私は耐えられずに、後ろを振り向いた。

 

「…。」

「ひ…!?」

 

彼女は…舞園さんは、じっと私のことを見つめていた。ずっと私を見ていた。

監禁生活が一週間を越えて、いろいろなことがあった。

超高校級達の自己中ぶりに振り回されたと日々。

そして、昨日のあのDVD。

 

私は、きっと本当に疲れているのだろう。

 

野に咲く一輪の薔薇。

そう形容されることがふさわしい超高校級の“アイドル”

そんな彼女の瞳から…

 

空から獲物を狙う猛禽類を連想するなんて―――

 

「黒木さん…お願いがあります。今夜…」

「え…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――私の部屋に来てくれませんか?

 

 

 

 

 

 







字数が1万字を超えそうなので、いいところで区切ります。
悪しからず。

舞園さんの現状

殺人に向けて包丁をバックに入れる。
もこっちの存在自体を忘れ、ターゲットは原作通り桑田に。
しかし、この出会いにより、ターゲットの変更を決断。

まあ、普通に考えたら、一番リスクの低い相手には違いないw

もこっちの現状

最悪、被害者。よくて容疑者。
さすがは、ヒロイン(笑)

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