「和也様、お茶を淹れました。塩漬けの桜がありましたから、桜茶にしてみました」
陽炎が片手に盆をのせ、素足のまま樫の板張りの廊下に出てきた。
目刺しの欠片を舐めていたチビは、陽炎の声を聞いた途端、くるりと丸まってころころと転がり、姿を戻すと陽炎の足先に前足をちょんと乗せる。
「すっかり陽炎さんに懐いたみたいですね」
「和也様がいらっしゃらないときは、絡まった糸みたいにずーっと、わたしの足に纏わり付いているのですよ」
踏みつけてしまいやしないかと心配です、と陽炎は嬉しそうに微笑む。
陽炎が膝をついて湯呑みを置くと、チビはその手をペロリと舐めてぼくの膝の上に戻ってきた。
「シマはちゃんとチビの面倒をみていますか? 猫のくせに一匹オオカミって感じだからなあ、シマは」
「無愛想なりのかわいがり方をしていると思いますよ。たまにチビを咥えてどこかへふらりと行ってしまいます。夕暮れまでにはこの庭に必ず戻り、咥えているチビを、不味い魚でも口に入れたような顔をしてぺっ、と放り出すのですよ」
「それは、可愛がっているといえるのでしょうかね?」
「シマには昔、慕った人間の男が居りましたが、その男以外に気遣いを見せたことのないのです。長いことシマを見てまりましたが、シマは絶対にチビのことを気に入っております」
仕事があるので、といって陽炎は奥へと姿を消した。
入れ替わりに寝所からカナさんが出てきた。
「陽炎の楽しそうな声が聞こえると思ったら、和也様でしたか」
「起こしてしまいましたか?」
「いいえ、昼間は寝所にいることが多いといっても、身を横たえているだけでございます。本当の意味で眠る事などないのでございますよ。人で在った頃の、古き習慣とでも申しましょうか」
カナさんはチビを膝に抱き寄せ、小さな頭を指先で撫でた。
さわさわと庭に吹き込む風に、カナさんの頬に髪がさらりとかかる。
「チビはいったい何者なのでしょう? 普通の猫ではないことはわかっていますが、ぼくの体調を整えるなど、たとえ猫の幽霊でも無理だと思うんです。あと考えられるのは、妖怪とか? 妖怪のイメージとはかけ離れたかわいらしさですが」
けっこう真剣に考えていったのだが、カナさんは可笑しそうにくつくつと笑う。
「この子の本当の正体など、わたしにも解りません。何がきっかけかは知りませんが、和也様を好いてしまった小さな魂がひとつここに居る、それで良いではありませんか?」
好かれたのだろうか、好かれた理由さえわからない。
「ここは辻堂。迷う魂が先に進む道を見つけるために立ち寄る場所にございます。
どのような存在であろうと、拒むことはございません」
客が少なくなったと前にもいっていたが、昔はどのような者がこの庭に姿を現していたのだろう。
「でも、お気をつけませ」
微笑みながら、カナさんがぼくを流し見る。
「気をつけるとは、いったい何にですか?」
「長年の間に知ったことでございますが、この子のような存在が誰かを好くというのは、日常で人が感じる他人を好きだという感情とは、少しばかり違うようでございます。この子達にとって、人を好くというのは、その者の存在に心底惚れるということ。だからこそ、好いた存在の為とあらば、惜しむことなく己の命を賭けるのでございます」
カナさんの膝の上で、ころりと上向きになったチビは、無防備に腹を見せて気持ちよさそうに目を瞑っている。
「命をですか? はは、ぼくはまだそこまで好かれてはいないでしょう」
「そう思うからこそ、お気をつけなさいませ。思わぬ所でこの子の命が消えたとき、泣き崩れることのないよう、覚悟なさいませ」
話を聞いているのかいないのか、チビはのほほんと小さな手で顔を撫でる。
「そんな日が来てしまったら、泣かずに笑ってあげて下さいませ。大好きな者の最後にみる顔が笑顔であって欲しいのは、人と変わらぬはずでございますから」
ぼくはカナさんの膝からチビを抱き上げ、頭上高くに持ち上げる。
「大丈夫です。好いてくれているなら、最後に笑顔で見送るのはチビの方です。だって、絶対ぼくよりチビの方が長生きするでしょう? 何も起こりませんよ。周りを巻き込んだりしないから」
カナさんは言葉無く目を閉じた。
「チビ、ぼくが爺さんになって天寿を全うするときには、ミャって鳴いてにっこり送り出してくれよ?」
ミャ
解ってかわからずか、チビは丸い瞳を見開いて可愛く鳴いてみせた。
板張りの廊下におろしたチビに草でくるくるさせたり、子犬のようにお手を教えようとしたりと目一杯遊んで、ぼくは居間へと戻った。
チビは少しだけ寂しそうにちょこりと座って見送ってくれたが、あとの世話は陽炎が喜んでやってくれるだろう。
居間から見える窓の外はまだ暗い。
厨房の横にある作業場から、やすりをかけるよような音と明かりが漏れていたがタザさんに声をかけるより疲れの方が勝っていた
一眠りしようと、ぼくは二階へ続く梯子を登り、気絶に似た状態で布団も掛けずに横に丸まって眠りについた。
何かの夢を見ている様な気がした。夢の入り口で、小さくミャと鳴く声が、遙か後ろの方で聞こえた気がした。
日が昇りまだ半分閉じたままの目を擦って居間に下りると、ある種異様な光景が目に飛び込んで、ぼくの脳は一気に覚醒した。
「た、タザさん、何やってんの?」
振り向いたタザさんの顔は眉間に皺が刻まれ、その形相はまさしく泣く子も黙る鬼面だ。だというのに、タザさんの前には積み木で組み立てられた汽車があった。
積み木の汽車? タザさんが手にしている短い円柱の積み木が、どうしても手榴弾にしか見えない。
「自由に遊べて尚かつ絵の通りに組み立てれば、こうやって汽車が出来上がる積み木を造ってみた。三歳の孫への誕生日プレゼントらしいんだが、なかなかいいできだと思わないか?」
手作りとは思えないクオリティーですよ、確かに。
昨夜作業場から聞こえた物音は、これを造っていた音だったのか。
「箱に入れて可愛く包装したら完璧だよ。ところでそれ、いったい幾らで引き受けたの?」
「三千円」
「えぇ、安すぎない?」
手作りオーダーメイドで三千円? 逆ぼったくりじゃないのかタザさん。
「だってよ、年金暮らしのじいちゃんだぜ? 三千円で造れる物っていわれたら、造るしかねぇだろ?」
三千円で依頼されて造ったのがこれか。タザさん商売には向いてないよ、まったくさ。
「お爺ちゃんも子供も喜ぶと思うよ。先に店の開店準備にいってるね」
おう、といってタザさんは積み木の汽車に向き直る。
人のいない厨房は金属質で、何だかとても冷たい感じがした。
いつもならとっくに彩ちゃんがお湯を沸かしている筈なのに、冷え切った厨房に今日も彩ちゃんの姿は無い。
タザさんだって、あえてこの話題に触れずにいる。
ぼくだってそうだ。
数日は風をこじらせた、といってお客さんを誤魔化すしかないだろう。
彩ちゃんに甘い常連客達は、心配しても文句を言うことは絶対にないから。
「彩ちゃんがいないということは、今日も裏メニューの嵐か。ていうか、彩がいないのに客が来るのかな? 来るか、薬代を稼がせろっていってあるもんな」
一人頷いて薬缶にお湯を沸かす。
けれど、この時沸かしたお湯はほとんど無駄になった。
昼時を過ぎても、通りすがりの一人客がぽつりぽつりと戸口を開けただけで、常連客が一人も顔をださなかった。
昨日の裏メニュー乱立でみんな腹でも壊したかと、内心ひやっとしていたところに、葉山のおばちゃんが飛び込んできた。
「いらっしゃいませ! 今日は一人?」
どこからか全力で走ってきたのだろう。膝に手を付き肩を上下させる葉山のおばちゃんは、なかなか言葉を発せずにいた。
「大丈夫? お水でも持ってこようか?」
首を横に振った葉山のおばちゃんが口にした言葉は、ぼくの心を凍らせた。
「死んじゃった! 森田さんが死んじゃったんだよぉ!」
顔を手で覆い、葉山のおばちゃんがわっと泣き出した。
突然のことに、おばちゃんを慰める言葉さえ出てこなかった。
自分を落ち着かせる言葉さえない。
眼鏡をくいっとあげて笑う、森田さんの笑顔は昨日見たばかりじゃないか。
「だって、昨日は元気にホイップクリームぽいものって。口直しだって笑っていたのに」
「脳梗塞だよ! 三時間前に病院に運ばれて、でも駄目だったって。みんな病院にいるよ。森田さん独り者で、身内なんかいやしないからさ」
そうか、独り者だったのか。
「最後に手を握ったらね、まだ温かいんだよ。……温かいんだもの」
声を聞きつけ居間からでてきたタザさんが、泣き崩れた葉山のおばちゃんの肩を支えて外へ出た。
タザさんは黙って頷いて見せたから、一緒に病院へ向かうのだろう。
ぼくも行こうと思った。
なのに足が動かなくて、必要の無い薬缶のお湯にもう一度火を付けた。
――アルバイトの兄ちゃん!
森田さんの明るい声が人のいない店内に響いた気がして、ぼくは思わず顔を上げる。
誰もいない。居るわけがなかった。
ホイップクリームぽいものを、最初に気に入ってくれたのは森田さんで、ぼくのことをアルバイトの兄ちゃん、と最初に呼んでくれたのも森田さんだった。
薬缶の口から、白い湯気が立ちのぼる。
ぼくはホイップクリームっぽいものを泡立てた。
「今日は特別に、ブルーマウンテンといきますか」
フィルターをセットして挽いた豆を入れ、ゆっくりとお湯を回し淹れる。
コーヒーの香りが、湯気と一緒に広がった。
せっかくのブルーマウンテンに白い泡を山にして盛る。
カウンターのいつもの席に、ぼくはそのコーヒーを置いた。
「森田さん、ぼくの奢りです」
森田さんのふざけた口調をコーヒーの香りが運んでくる。
ぼくはやっと涙を流した。
冷えた厨房で、一人泣き続けた。
客のいない厨房でずっと蹲っていた。
クローズのプレートも裏返さないまま、とっくに日が沈んでいる。
立ち上がったぼくは、格子戸に向かった。
何だっていい、動こうと思った。
草陰のギョロ目に聞きたいことがあったから、それが今日でも構わないだろう。
冷蔵庫の中から、草陰のギョロ目に渡すゼリーを取りだし袋に詰める。
「余り物だけどな」
ぼくは格子戸に手をかけ、静かに引き開ける。
庭の端で陽炎さんとチビが遊んでいる。
こちらを見たチビに、しっと唇に指を当ててみせると、まるで意味を汲み取ったかのように視線を外して陽炎さんに絡みついた。
楽しんでいるところを邪魔したくはなかったし、この心境を誰かに話せる気分でもなかったから、ぼくはそっと庭を抜けて林道へと入った。
残欠の小径に出入りするようになってから、自分でもわかるほど感覚が鋭くなるときがある。
微動だにしない丈の長い草の裏に潜む、草陰のギョロ目の気配を感じて足を止めた。
「今回の質問は独り言だから。答えたくなければ応えなくていいよ」
僅かだが草が身じろぐ。
「響子さんは、何者なの?」
沈黙が流れる。答えたくない内容だったか。
「響子さんが鬼神を追うのは、長いこと自由を奪われたから? それとも他に明確な理由があるのかい?」
丈の長い草が割れて、ぎょろりとした目が覗く。
「自由を奪われる前も、そして今も響子が鬼神を追う理由は変わらない。蓮華を自由にするためだ。あの女は、ただそれだけの為に此処にいる」
「蓮華さんを大切にしているのは知っているよ。でも、恩義を感じているように見えるのは蓮華さんの方に思えるな。主従関係というか、かなり明確じゃないだろうか」
ぎょろりと上目使いに目を見開いたまま、草陰のギョロ目は口を閉ざす。
ぼくはゼリーの入った袋を、草の向こうに投げ込んだ。
袋の中を値踏みする音ががさごそと響く。
どうやら、少しは価値があると思ってくれたようだった。
「恩義を感じて側にいるのは蓮華だが、そうやって側に居てくれた蓮華に誰よりも恩を感じているのは響子だ。共に歩む者を持たなかった彼の女にとって、蓮華は己の存在より大切であろうよ」
「自由にするとは、具体的にどういうこと?」
「鬼神を殺して、奪われた蓮華の欠片を取り戻す。そうしたなら、蓮華は輪廻の輪に戻ることができるだろう。欠片とはいえ、鬼神に何かを奪われた者は、今いる場所から動けないからな」
蓮華さんが欠片とはいえ、鬼神に奪われた者だとは思わなかった。
「わかったよ。それで、響子さんは何者?」
草の先さえ微動だにしない沈黙が下りる。
どうしても答えたくないか。
「わかったよ。ありがとな」
背を向けて歩き出したぼくに、草陰のギョロ目が声をかけた。
「これはおまけの情報だ。今はこれ以上残欠の小径の奥へは入らないほうがいい」
立ち止まり、訝しげに首を傾げた。お茶の効果はまだ残っているはずだが。
「鬼神はおまえの大切な者を、片端から奪いたいらしい。同じく奪われるにしても、見えぬ所のできごととして片付けた方が気が楽だろうよ。このまま足を進めれば、それほどかからず追いつくぞ」
「誰に?」
大切な人なら沢山いる。いつの間に、こんなに人に囲まれていたのかと思うほど。
ぼくの表情が険しくなっていたのだろう。振り向くと、草陰のギョロ目がひっといって草の割れ目を閉じた。
「名は知らん。だが、今のおまえと同じ匂いが、微かだが漂っていた。少し前にここを通った。これ以上は知らん」
ざっと音を立てて、草陰のギョロ目が去って行く。
草むらから視線を外したぼくは、はっとした。
残欠の小径の住人は、一様に嗅覚がするどい。
自分たちとは異質の者、違う世界の物なら尚のこと。
今日一日厨房に居て染みついた、喫茶店のコーヒーの香り。
同じ場所で毎日のようにコーヒーを飲んでいたら?
「森田さん!」
叫びながら走った。
死んで失ったばかりの人間の、その魂まで奪おうというのか。
無性に腹がたった。
急なカーブを右に曲がったぼくは、荒い息のまま立ち止まった。
三メートルもない距離に、森田さんの背中があった。
「森田さん?」
振り返った森田さんの顔をみて、冷や水を浴びたように心臓が跳ね上がる。
胸まで垂れ下がる黒い布に、森田さんの顔は隠されていた。
「此処はどこだ? 遠くで誰か呼んでいる。でもな、来るなって叫んでいる人も居る。来るなといわれても、少しずつだが勝手に寄っていくんだよなあ」
まるで独り言だった。
「森田さん? ぼくだよ、わかる? アルバイトの兄ちゃん」
森田さんは首を傾げた。
「そこに誰かいるのか? 真っ暗でそっちは見えないし、良く聞こえないよ。見えるのは、少し遠いがあっちの人だかりだけだな」
駄目だ、ぼくのことが見えていない。
今見えているのは、おそらく鬼神に呑み込まれた人々の姿。
森田さんは、鬼神に取り込まれようとしている。
「うそだろう」
目の前で森田さんの顔を覆う布が、端から塵となって崩れていく。
胸まであった黒い布が、あっという間に短くなっていく。
「なんだ? あちこちに道があるが、暗くて先が見えないや。でもなぁ、何となくあそこには行きたくないな。天国には見えないしな」
へへへっ、と森田さんが笑う。
その間にも、黒い布はどんどん短くなっていた。
「もういっぺん飲みたかったな、あのコーヒー」
小さな呟きだった。
そしてぼくにとっては、叫びにも聞こえる声だった。
「森田さん、今見える場所には絶対にいっちゃ駄目だ! 少し耐えてて!」
ぼくは踵を返し走り出す。
ぼくにどうにかできることではなかった。
鬼神に呑み込まれる人を救う方法なんて知らない。
ただひとつ救いがあるとするなら、森田さんは他の人とは違って吸い込まれるのが異常に早い。
ぼくに見せつける為に、鬼神は事を急いたのだろう。
隙があるとするなら、森田さんが見えている場所に辿り着くまでの間だけ。
「シマ! シマ!」
まだ庭も見えないうちからぼくは叫んでいた。
やっとカナさんの庭に辿り着くと、庭にシマの姿はなく、どんなに呼んでも出てくる気配はなかった。
「和也様?」
カナさんに、ぼくは手短に事情を説明した。
「シマなら、森田さんの魂をここへ連れてこられるかと。最後の望みだったのに」
「鬼神に呑まれかけている者を導くのは、はたしてシマにさえできるかどうか。シマは訪れた者がいることを、わたしに知らせるのが本来の役目ででございますから」
カナさんが美しい眉根を寄せる。
「森田さんは暗くて良く見えないが、他にも道があるようなことをいっていました。その道のどれかに、森田さんが本来進むべき道があるんじゃないかって」
今ここにシマがいたとしても、間に合うかどうかさえわからない。
すでにもういってはならない鬼神の下へ、辿り着いてしまっただろうか。
「ここが辻堂と呼ばれる屋敷で、この庭へ迷う者を導くのもシマの仕事かと。勘違いしていました。森田さんを、救う事ができなかった」
溜息と共に項垂れたぼくの背後で、ミャ、と鳴き声が響いた。
振り向いた庭の草陰から、ちらりと白いものが見える。
「チビ? チビ!」
チビが話の全てを理解できるはずはないと思った。それでも胸が騒ぐ。
感情を悟なら、その感情が向かう先に察しが付くことも有り得るだろうか。
ミャー
のんびりと庭の端から、シマが悠然と歩いてきた。
シマに頼もうとした身勝手な願いを、チビが叶えようと森田さんの歩む闇に入っていったとしたら。
「チビ、戻ってこい!」
その辺りにいるなら飛んでくる筈のチビは、完全にこの庭から姿を消していた。
縋るように、シマを見てしまった。
表情のないいつものシマが、ゆっくりと顔をチビが姿を消した庭の草へと向ける。
「シマ……」
後の言葉は続かなかった。
音もなくシマが跳躍した。地に着い足をたった二歩で体の向きを変え、一気に草むらの向こうに広がる闇へと突っ込んでいく。
「カナさん!」
動揺するぼくとは対称的に、カナさんは僅かに目を伏せ、うっすらと笑みを浮かべた口元を開いた。
「あの子達には、あの子達の道理がございます。選ぶ道も運命も、わたし達には、口出しできぬ事でございます」
人に近い者とあの子達では重きをおくものが違うのだと、カナさんはいった。
目を閉じてチビを思った。
シマを思い拳を握る。
コーヒーを飲みたかったといった森田さんの声が木霊して、あっという間に視界がぼやけて滲む。
悲しみを増やすために、大切な人と出会ったというのだろうか。
せっかく手にしたと思ったのに、大切な者がこの手からこぼれ落ちてく。
目の荒い砂のように、少しずつこの指から漏れていく。
ちょっと長くなりました。
読んで下さった皆さん、ありがとうございます!
シマが慕った人の話は、怪奇譚鈴語りの三話目に書いています。
シマの過去に興味のある方は、覗いてみてくださいね~って、このお話、シマの出番が極端に少ないから、シマに興味持つ人いないかも……シマ撃沈(笑)
では!