百鬼夜行のヒーローアカデミア   作:ソトン9

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~別れ、そして転生~

「邪魔するよ」

 

 八雲の二人が帰ってからしばらくして借りた部屋でボーとしていると師匠が足で襖を開けて入ってきた。

 

「行儀が悪いですよ師匠。何回言ってもその足癖治りませんね」

 

「はっ、かてーこと言うない。今日は両手が酒で塞がっちまってるから仕方ねぇのさ」

 

「はぁ、いつもじゃないですか」

 

「そうだったかい?」

 

 この半年で何度目かわからない話もそこそこに師匠は縁側へどかりと座ると、瓢箪に口をつけてグッとお酒を飲む。

 

「ぷはっ。…嬢ちゃんは生きたくはないのかい?」

 

 質問の意図を探ろうと視線を師匠に移してみるが、庭のほうを向いていて顔は見えない。

 ま、きっと今日の紫ちゃんの話を聞いてのことだろうけど。

 

 スッと体を起こして縁側に出ると、私は師匠の隣に足を放り投げてストンと座る。

 

「…生きたいですよ。今は死んでますけど、次は後悔のないようにしてみせます」

 

「それなら迷うこたないね。今から紫に会いに行って転生の準備を済ませちまえばいい。…でもまぁ、それだけじゃあないんだろ?」

 

 返答が短すぎたせいかこれだけじゃ納得はしてくれないらしい。じっとこちらを見つめてくる師匠の目は「全部ゲロっちまいな」と言っているようだ。

 

 否定しても「鬼に嘘は通用しない」だったかな。そんなことを思い出し、諦めて話すことにした。

 

「…師匠には隠し事はできないですね。

 実は私、ここでの生活が楽しくて、このまま師匠や幻想郷の人妖たちとの時間が続けばいいのになって思ってたんです。皆さん優しくてご飯は美味しい。力の使い方を学んだおかげで信じられないくらい強くなれましたし、霊体だから寒いとか暑いってこともなくて毎日が過ごしやすいです。

 でも今日紫ちゃんが言ってましたよね。私に残された猶予はあと数日だって。

 …いつかはこの幻想郷を出て転生をする時が来る。師匠たちとの別れの時が来るんだろうなって思ってましたけど、それがあと数日だなんてさすがに驚きました。紫ちゃんにはああ言いましたけど、本当のところは師匠たちとお別れしたくなかっただけなんです。私は――」

 

 

 

 ――この半年で随分とここに愛着がわいてしまった。

 

 

 

「ふむ、まぁそんなとこだろうな」

 

 知ってた。そう言わんばかりの態度で酒を飲む師匠。どうやら隠し事どころか、私の気持ちすらお見通しだったようだ。

 

「ほら、見てくださいよ師匠。辺り一面桜が満開ですよ」

 

 私は話題を変えようと思い、屋敷を囲むように咲く桜の木々を見渡そうと庭へ出る。

 

「もう春なんですね。最初に出会った頃に見た秋の紅葉もとてもきれいでしたけど、やっぱり桜は満開に咲いてこそです!」

 

 立ち止まって数メートル先にある池を見てみると、桜と月が鏡の反射のように湖面に映し出されている。時折広がる波紋が映す景色を揺らす様子が幻想的で頬が緩む。

 

 

 

「こりゃ持論だが」

 

 目の前の景色に見惚れていると師匠はフワリとそばに着地して瓢箪にキュッと蓋をする。どうやら話題を変える気はないようだ。

 

「出会いってのは良いもんだ。それが人でも妖怪でも、関わりを持ちゃあ人生の輪が広がって自分の世界も広がる。そん中で経験を積んで成長すりゃ己の器もでかくなってってそこに終わりはねえ。どこまでも成長していける。

 でもそれだけじゃあダメなんだなぁ。出会いがありゃ別れもある。旅立ち、喧嘩、病気、寿命、まぁあげればきりがねぇが、実際にわたしが見てきた中じゃあ特に人間って生物は一度でもこれを経験するとバカみてぇに強くなるんだよ。ま、例外が一人この幻想郷にゃいるけどね」

 

 クックック、と笑った師匠は遠くを眺めながらどこか寂しいような楽しいような表情をしていた。

 

「もっと広い世界を見てきな、嬢ちゃん。おまえさんはもっともっと強くなる。もっともっと成長できる。

 鬼の四天王たるこの伊吹萃香が太鼓判を押してやろう!

 その短い人生を懸命に足掻いて生きてみせな人間よい!」

 

 こちらに向き直って声に気迫を込めて言い放つ師匠。それはとても力強くて、未だ決断できない私の心の中の靄が一瞬で吹き飛んでしまったような気がした。

 高みから相手を待つ王者のような風格でこちらを見る師匠へと私は向き直ると、空気を一気に吸い込んで頭を下げる。

 

「はい!今日まで得たものは決して無駄にはしません。今までありがとうございました、お師匠様!」

 

「おう!精々荒らしまわってきな!」

 

「それは、ちょっと…」

 

 下げた頭を戻し苦笑いして言葉を返すと、師匠は気にせず腕を組んだままニコっと笑う。

 

 月に照らされたその笑顔は初めてこの人と出会った日のときよりもさらに輝いて見えたような気がした。

 

 

 

 

 次の日、私と師匠は博麗神社へとやってきていた。

 

「立派な造りですね~。それになんだか真新しいというか木の香りがします」

 

「どっかのバカが余計なことをしたもんだから、最近建て直したのよ」

 

 素朴なように見えて、素人目でもわかるくらい頑丈そうに建てられている社に感想をこぼしていると、境内の奥から紅白の服を着た少女が現れる。ここの主、巫女の博麗霊夢だ。頭の大きなリボンと両肩あたりの布が無いのが特徴で、一日の大半は賽銭箱を眺めているかお茶を飲んでいるらしい。らしいというのは私は冥界から一度も出たことがないから。

 大幣を片手に頭をポリポリ掻いたり常にだるそうな態度とは裏腹に、この幻想郷ではたった一人でパワーバランスの一角を担っているんだとか。

 

「霊夢~、酒ね~か?」

 

「萃香、久々に戻ってきたと思ったら開口一番にお酒って…あんたね」

 

 早くもお酒を催促する師匠に対して霊夢は呆れて顔に手を当ててため息をつく。

 

「おはようございます。霊夢」

 

「呼び捨てなんだからおはようでいいわよ萃香。で?ここに来たってことはそう決めたってことよね?」

 

「うん。そうだね」

 

「あっそ。まぁ元気でね」

 

「ありがとう霊夢」

 

 どんな相手でも態度が淡泊なところは相変わらずなようだ。お茶を淹れてくると言って奥へ戻っていく霊夢を見送ってから時間もあるということで師匠と霧化の修行を見てもらう。

 

 

 

 

「――こら!しっかり意識は保っておけと言ってるだろ?」

 

「うぅ~すみません」

 

 手足の末端を霧化させることは成功しているけど、それが全身に及んだ瞬間意識が薄くなっていって拡散に歯止めが効かなくなってしまう。今回も意識が朧げになったところに師匠の能力で元に戻してもらった。

 

「今までは私や紫が集めてやれてたけど、転生したあとはそうもいかない。もう見てやれないからね。そろそろ時間だからもう終わるけど、これを修行するときは細心の注意を払ってやりな。じゃないと取り返しがつかなくなる」

 

「肝に銘じておきます」

 

「――す~い~か~さ~ん!」

 

 師匠との最後の修行もそこそこに霊夢が淹れてくれたお茶を居間で飲みながら寛いでいると、突如ハイテンションな呼ばれ方をした。部屋から目の前の参道に出て声のしたほうを見ると、人が飛んでくるところだった。

 シュタッと眼前に着地したのは妖怪の山にある守矢神社のミラクル風祝こと東風谷早苗である。

 

「萃香さん!第二の人生を歩むため異世界に転生することを決意したと聞きましたので、私も是非お力になれればと参上いたしました!すこし寂しい気もしますが、仕方ありません…!誰かが異世界転生する瞬間を見届けられるなんて滅多にありませんので!萃香さん主人公ですね羨ましいです!最強ですよ!異世界転生系は主人公が最強と決まっているのです!向こうでは頑張ってくださいね応援しています!」

 

「さ、早苗、わかったから、ね?」

 

 神社に着くやいなや私の姿を視界にいれた途端瞬間移動のごとく距離を詰められ、目を星のように輝かせて手を両手でギュウと掴まれる。そしてなによりこちらが口を開く間もなく飛んでくる弾丸トークには、戸惑うのを通り越して恐怖すら感じてしまう。

 近い!顔が近いよ!

 

「落ち着け東風谷早苗」

 

「んにょわ!」

 

 勢いに押されてたじたじになっていると、スキマを開いて現れた藍さんが早苗の服の襟首を引っ張って私から離してくれた。

 

「ほら、あんたはこっち」

 

 襟首を引っ張るのを引き継いだ霊夢が早苗を連行していくが、早苗は引きずられながら「にょわ~!」と叫びながら境内に消えていった。

 

「大丈夫か?翠」

 

「ふう、はいなんとか」

 

「行くと決めたのだな?」

 

「はい」

 

「うむ。お前には才能がある。そのような者が成長もできず消えてしまってはつまらんからな。それにお前は霊夢や魔理沙と違って礼儀がなっている。まぁ、紫様をちゃん呼ばわりするのは少々いただけないがな。

 まったくあの二人には手本にしてもらいたいものだ。特に霊夢は博麗の巫女たる自覚が足りないからな」

 

 声に呆れを滲ませて話す藍さんの表情を見る限り、霊夢たちは随分と傍若無人なようだ。

 

「ら~ん全員揃ったのかしら?」

 

「紫様。はい、守矢の巫女も先ほど到着しました」

 

 霊夢の素行について否定も肯定も出来ず苦笑いをしていると、紫ちゃんが日傘を差して現れた。

 

「ごきげんいかがかしら萃香さん。すでに転生の準備は整ってますから、早速始めましょうか?」

 

 どうやら後は私の返事次第だったみたいだ。少し時間をもらって参道の階段の前まで歩いていく。

 博麗神社は長い階段を上った先にある丘のような場所のため、ここからならば幻想郷を一望できると以前師匠から聞いたこともあって一度は見ておきたいと思っていた。

 眼下には大小いくつかの集落のような場所があり、少し霞んでいるが遠くには頂上付近を雲が覆っている大きな山が聳え立っている。あれが妖怪の山だろうか。残りはほとんど森に囲まれているが、ビルなどの近代建築が一切ない自然が残された光景はとても雄大で美しく思えた。

 

「…すごい」

 

「気に入りまして?」

 

 ぽつりと言葉を零すといつの間にやら隣に立っていた紫ちゃんがとても誇らしそうな笑顔で質問してきた。

 

「そうですね。しっかりこの目に焼き付けて行きたいくらいには」

 

 私がそう答えると彼女は扇子で口元を隠した、けど嬉しいという感情が雰囲気にも出ていてバレバレだった。普段は何も読み取れない怪しげな人なのに幻想郷のことになると本当にわかりやすい人だということがわかる。

 

「…それじゃあ、そろそろ始めちゃいましょう」

 

「ええ、そうですわね」

 

 ここでの思い出をこの風景と一緒に心に刻んで、私は揃って待っていた皆の元へと戻る。

 

 

 

 

「ここが?」

 

「そうですわ」

 

 あの後境内裏に広がる森の中へと移動を始めた霊夢、早苗、師匠、藍さん、紫ちゃん、私の6人は目の前に突然霧が現れたところで立ち止まった。不思議な事に霧は左右の見えない先まで続いていて、しかもガラスの壁か何かで仕切っているかのようにその場に滞留している。

 

「では」

 

 そういって一歩前にでた紫ちゃんは手にした扇子を下から上に流すとスキマの亀裂を入れる。真剣な顔を見てわかる通り普段の移動に使うような気楽なスキマではないようだ。

 

「藍」

 

「はっ」

 

 呼ばれて返事をする。そのやり取りだけで承知した藍さんは懐に手を忍ばせるとどうやって入れたのか大量の式札を取り出して放つ。札は一枚一枚手つなぎの状態で亀裂の中へと消えていくのが見えた。

 

「………見つけました」

 

「霊夢」

 

「はぁ~、だっるいわねぇ」

 

 印を結んで固まってしまった藍さんが何かを発見したらしく、続いて霊夢の名前が呼ばれる。

 懐から5枚の細長いお札を取り出した霊夢は先ほどの藍さんのように放つ。すると札は亀裂の周りを等間隔で囲むようにぴたりと止まって淡く光始めた。

 

「いいわよ」

 

「東風谷早苗、準備を」

 

「わっかりました!」

 

 最後に早苗が呼ばれると何やら大幣を振りながら念仏のようなものを唱え始めた。

 

「2人とも」

 

 ここまで出番もなく突っ立っていたままの私と師匠は作業を観察するのをやめて紫ちゃんのほうへ振り向く。

 

「あとはこのスキマを開いてあなたが通れば完了となりますわ」

 

「え、そんなにあっさりなんですか?」

 

 言われたことがあまりに単純なことにすこし驚く。スキマを通るだけとは随分と呆気ないなんて思っていると横からパシッと頭を師匠に叩かれた。

 

「バカ。世界の境界に穴を開けようってんだ。紫が異世界までの通路を開いて藍がこっちとあっちを式札で繋げる。そこを霊夢の札で固定することで安定させようとしてんだよ」

 

「な、なるほど」

 

 納得して叩かれた頭を擦りながら未だ何かを唱えている早苗のほうをみる。

 

「今でも十分すぎるくらいですけど、彼女には能力を使ってもらいなんのイレギュラーも起きないよう極限まで成功の確率を上げてもらっています」

 

 私の疑問を察して聞く前に答えてくれる。

 

「さぁ、心の準備はいいかしら?」

 

 まだ開いていないスキマの前に立つ紫ちゃんが聞いてくる。

 

 私は黙ったままスキマの前までいってスッと後ろを振り向く。

 

「師匠、紫ちゃん、藍さん、霊夢、早苗、皆今までありがとうございました!」

 

 これまでの感謝を込めて頭を深々と下げる。

 

「おう!萃香よう、達者でな!」

 

「楽しみが一つ減ってしまいますわね」

 

「さらばだ、翠よ」

 

「風邪、引くんじゃないわよ」

 

「ブツブツ・・・お、お元気で!・・・ブツブツ」

 

 それぞれの言葉を受け止めて後ろを振り返ると、スキマがゆっくりと左右に割れる。その奥にはいつもの大量の目玉は無くどこまでも黒く染まっていた。唯一目印にできるのは先まで伸びている式札くらいか。

 

 一瞬だけ躊躇してわたしはその中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 異世界の萃香がスキマに飛び込んだ後、一刻程が経つとスキマは閉じられ周りの札もきれいさっぱり消滅してしまう。

 

「あぁ~もう無理」

 

「ばたんきゅ~です~」

 

「2人ともよくやってくれたな」

 

 少々肩で息をする霊夢と早苗は額や背中から玉のような汗を流して地面に倒れ込む。藍も少し疲れたような顔で二人を労う。

 

「若者がだらしないねぇ」

 

「まったくですわ」

 

 そんな3人とは違い萃香と紫の両名は涼しい顔で少女が消えた先を見つめていた。

 

「一緒にすんじゃないわよ」

 

「そうですそうです!」

 

 未だ力の差を感じて不満そうに噛みつく霊夢。それに便乗して早苗もうつ伏せで駄々を捏ねながら抗議する。

 

「…あいつ、無事にあっち着いたかねぇ」

 

「さぁ、どうかしら?霊夢」

 

「ま、行けたんじゃない?」

 

「へぇ、その心は?」

 

「勘よ」

 

 その答えを聞いて萃香と早苗は爆笑し紫と藍は口元を抑えてクックッと笑う。

 

「霊夢の勘ほどありがてぇもんはねぇな!」

 

 そういって瓢箪の酒を一気に呷る萃香。

 

「そうですわね。さて、このあとは5人で宴会といきましょうか」

 

 神社へと戻った5人は慎ましく宴会をしようと準備するが当然幻想郷の文屋がそれを見逃すはずもなく、宴会の話は瞬く間に全土へ広がり騒がしいものへとなっていく。

 

 来る者拒まず、去る者追わず、ここは幻想郷、幻想郷は全てを受け入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………暗い…ここはどこだろう。なにも見えない。なにか聞こえるが音が籠っていてよく聞こえない。…水の中だろうか?

 そんなことを思っていると突然視界が眩しく輝き、体が逆さに持ち上げられる。バシバシとだれかに叩かれて悲鳴が口から出てしまい、抵抗しようにも体が上手く動かない。

 

「は~い、元気な赤ちゃんが生まれましたよ~!」

 

 何か暖かいものが体を包むと私は誰かに抱かれるような感触を感じた。

 

「初めまして私の赤ちゃん。あなたの名前は萃香、伊吹萃香よ」

 

 ―――私は転生して再び生を受けた。

 

 

 

 

 

 




遅くなり申し訳ありません!

いやはや、モンストでHxHコラボが始まりまして、メルエムを運極にするのに手間取ってしまいまして!

しかもこんな時間に投稿というね。投稿予約しようかとも思ったんですが上げるなら早いほうがいいかと思いまして。

本当に申し訳ない!

さてさてプロローグですが、今回で終了となります。

次回からヒロアカ編を書いていきたいと思います。

あ、いちよう読み返してはいるんですが誤字等おかしいところあれば報告してくださると助かります。

ではではm(__)m

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