最後の物語へようこそ   作:新藤大智

3 / 29
最後の物語へようこそ 第三話

 

 

 真上から脳天をかち割ろうとする巨大な爪の一撃。その一撃をサイドステップで躱す。

 

 俺という目的を失った爪の一撃が鈍い音を立てながら地面に突き刺る。魔物は突き刺さった足を素早く抜くと今度は俺の首をもぎ取ろうと強引に腕を横に薙ぎ払う。

 

 その一撃をしゃがんで躱すと、足のバネを利用してバックステップ。置き土産に剣での一撃を魔物の足に加えながら攻撃範囲から離脱する。もっとも、体勢が悪い上に体が予想以上に固く、たいしてダメージを与えられなかったようが。

 

「………グルゥゥ」

 

 いかにも不満そうな唸り声が響く。僅かながらも傷を負わせられた魔物が動きを止めてこちらの様子を伺っていた。恐らくただの獲物に過ぎないと思った俺からの予想外の反撃に遭って慎重になったのだと思う。

 

 一方、俺は魔物と距離を取り、ひとまず安堵の息を漏らしていた。体の硬さはまだ少し残ってはいるが、動きを妨げるほどじゃない。

 

 それに分かったことがある。魔物の巨大な爪は攻撃力はそこそこあるようだが、はっきり言って機動力はたいしたことがない。さらに言えば直線的かつ無駄な動きが多いので躱し易い。

 

 この体の身体能力からすれば相手の動きを冷静に見ていれば十分に対処できる。とは言え、慎重になるということはある程度知能が有るということだから油断は禁物だと思うが。

 

 睨み合う俺と魔物。だったが、その睨み合いもすぐに中断することとなった。

 

 ドオンッと扉を爆砕する音が響き渡る。さしずめその音は俺にとっては福音で魔物にとっは葬送曲といったところか。さて、いよいよアルベド族の元気印のご登場だ。

 

 爆砕された扉の付近では、もうもうと土煙が立ち込めている。その中から一人の少女───リュックを先頭にマスクを付けたアルベド族の集団がなだれ込んできて俺と魔物を包囲する。

 

 リュックは俺と魔物を交互に見て、仲間に待てと合図を出し、なにやらバックの中を漁って丸みを帯びた物体を取り出す。

 

 それはまるで小さいパイナップルのような形状で………

 

「………って、おい!いきなりかよ!!」

 

 その正体に気がついた俺は慌てて魔物から距離を取る。リュックはそんな俺に構わず、慣れた手つきでピンっとバーを引っこ抜き魔物に向かって例の物体を投げつける。

 

 当然その正体を知らない魔物はその物体を叩き落とそうと腕を振り上げた瞬間───魔物を巻き込みながら大爆発を引き起こす。やがて爆煙が晴れた後をみてみると魔物の姿はそこになかった。多分即死して幻光虫に戻ったんだろうな。

 

 リュックはその爆発の威力を確かめて、うんうんと満足そうに頷いている。俺はというと少し離れたところから爆心地をただ呆然と見ていた。多分、頬を盛大に引きつらせながら。

 

 そして、次の瞬間、ちょんちょんと肩を突っつかれて初めてリュックが俺の背後に移動していたことに気がついた。

 

 い、いつの間に………

 

 口を開こうとした次の瞬間、俺は先ほどの魔物と対峙した時とは比べ物にならない凄まじい悪寒に襲われた。そしてリュックがニコっと可愛らしい笑顔と共に一言

 

「ゾレン」

 

 同時にボディーブローが腹部にクリーンヒット。それも体重の乗ったやつが鳩尾にだ………あまりの衝撃に俺は呻き声すら出せず、意識を朦朧とさせ床に崩れ落ちる。俺は薄れ行く意識の中、リュックを怒らすことだけはしまいと固く神に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少女は思考を停止させない。いつも考えている。

 

 本当にこのやり方しかないのかな?これが最良のやり方なのかな?昔からの決まりだからといっていつまでもそれに従っていないといけないの?と。

 

 エボンの教えでは機械を使ってはいけないことになっている。千年前にシンが現れた原因。それは人々が機械を使用し堕落して、機械戦争の果てにスピラをも滅ぼしかねない武器を作ってしまったからだ。

 

 人がその罪を償い終わるまでシンは消えることが無い。

 

 だからエボン寺院は反機械を唱える。そして、スピラに住むほとんどの人々はそれを信じて千年もの長い年月を機械に頼らずに過ごしてきた。何も疑問を持つことも無く、何も思考することも無く、いつか罪が許される日が来るのを信じて。

 

 だが、思考を停止させない少女はエボンの教えに疑問を持つ。

 

 本当にそうするしかないのかと。人が罪を償えばシンは消えると言う根拠はどこにあるのかと。教えの内側にいる人々は疑問すら抱かないだろうが、その外側に居る少女には気づいてる。機械禁止を強制する寺院からその根拠を明確に示されたことがない、ということを。そう教えにあるからだ、そんな言葉で曖昧にすませているということを。

 

 少女は、皆がこのような少し考えば疑問を抱くような教えに縋り付きたくなるのも分からないでもない。それほどまでにシンと言う存在は恐ろしい。

 

 恐怖を撒き散らす人知を超えた存在。実体を持った厄災。一度襲われれば、人などと言うちっぽけな存在はただ踏み潰されるしかない。その現実を直視したくなくて、人々は思考を停止させ妄信的にエボンの教えを信じる。さらに究極召喚という短いが甘い救済の道が示されているのもそれに拍車をかける。

 

 でも、少女は考える。

 

 もし、エボンの教えがただ現実を逃避するだけの甘言だとしたら、そこで止まってしまっていいのかと。シンと戦う辛く険しい道を召喚士やガード達だけに任せ、何も考えないで来るかも分からない罪が清算される日をただ待ち続けることが人類の選ぶ道なのかと。

 

 いや、それは違うはずだ。少女は、少女の一族は、そう思う。

 

 だから究極召喚以外でシンに対抗するための力を欲し、目を付けたのが機械の力───特に機械文明の頃の遺産だった。これならば使用しても究極召喚のように死なないし、もしかしたらシンを打倒しうるものがあるかもしれない。

 

 そんな淡い期待とともにスピラ中を探索してまわる。時には、アルベド族だということだけで謂れの無い迫害を受けることもあった。エボンの僧兵に追い立てられたことも一度や二度ではない。それでも少女は持ち前の明るさを忘れずに根気強く探していく。

 

 そして今日、古びた遺跡を探索して回り、機械に関する収穫はゼロだったものの、少女はとある人物と出会う。見慣れない服を着て魔物と対峙していた彼とは初対面であったにも関わらず、なぜか待ち人が来たかのような、自分に欠けていた部品がそろったかのような気持ちになった。

 

 この気持ちが何なのか良く分からないが、悪い気持ちではないのは確かだった。なんとなくご機嫌になった少女は、とりあえずさっさと魔物を倒して彼を捕縛することに決めた。もし、彼がアルベド嫌いで話もできずに逃げられたら困るからだ。

 

 結果、彼を捕縛することには成功するが、少々浮かれていたため乱暴な方法になってしまった。起きたとき怒ってないといいけど………そんなことを考えながら彼の元へ向かう。

 

 普通は自分がぶん殴った相手に会うというのは気まずいはずなのだが、少女の足取りはなぜか軽やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

「………っ、ここは?」

 

 船の側面に波が打ちつけられる音で目を覚ます。辺りを見回すと、そこは船の甲板の上だった。腹の空き具合からしてそんなに時間は経っていないようだ。やることがない俺はとりあえずホルダーの中身を点検しつつリュック達が来るのを待った。

 

 それから三十分後、アニキと他二名が甲板に現れた。モヒカン頭と体全体に刺青のアニキはどうみても堅気には見えなかったが、Ⅹ─Ⅱのアニキを知っているせいか、じろじろ見られても大して気にならなかった。やがて俺のことを観察し終わったアニキはいきなり珍妙な踊りを始めた。

 

「ぅお、えぁ、ばー、ぐっ」

「………いや、全然分かんねーって」

 

 アニキの珍妙な踊り、もとい必死のジェスチャーを見ながら肩を竦めて答える。まあ、恐らくは海底に行って飛空挺を引き上げるの手伝えって言いたいんだろう。だが、アニキのジェスチャーが妙につぼなのでリュックが来るまでもう少し知らん振りをしようか。ニヤニヤしそうになる顔を必死に抑えながらアニキで少し遊ぶ。

 

 その後も必死に頑張っていたアニキだったが、やがていくらやっても伝わらないのであきらめたようだ。俺はもう少し見ていたかったが、耳元で

 

「アニキが海底にあるアレを引き上げるの手伝えってさ」

「うおっ!」

 

 聞き覚えのある声がしたので驚きながら振り返る。そこには、やほー、さっきはごめんね~と能天気に手を振るリュックがいた。その様子に俺は毒気を抜かれながら話しかける。

 

「まあ、さっきのはもう気にしてないけど………びびるからもうちょっと普通に声を掛けてくれると助かる」

「あはは、それじゃあ面白く無いじゃん。それに他の人にはしないから大丈夫だよ」

 

 何が大丈夫なんだかさっぱり分からないが

 

「いや、なんで俺だけなんだよ?」

「ん~~何となく?あ、それとあたしリュックっていうんだ、よろしくね」

「あ、ああ、よろしく。って、なんで疑問形?」

「まあまあ、細かいことはいーじゃん、それで君の名前はなんての?」

 

 なんでか知らないが、テンション高目のリュックが聞いてくる。俺は若干その勢い押されながらも「ティーダ」と簡潔に答える。

 

「へー、ティーダっていうんだ。この辺じゃあんまり聞かない名前だね?それに服も見たこと無いものだし」

「ん~そうかもな。ここからずいぶんと遠く離れた所からきたからかもな。」

 

 そう言って俺の第二の故郷───ザナルカンドを思い浮かべる。一年足らずしか居なかったが、綺麗な夜景や海に心癒されることもあったのでそれなりに愛着を持っていた。シンによって崩壊した今はどうなったことやら。

 

「遠い所?ってどこら辺なの?」

「………まあ、とにかくめちゃくちゃ遠い所だ。」

「むぅ~、遠いってだけじゃどこか分かんないよ。教えてくれたっていいじゃん!」

 

 リュックは俺の返答に不満げに頬を膨らまして、教えろ教えろとせがむが、今は教えない。ここでザナルカンドなんて答えたら、かわいそうな人を見る目で見られるに決まってる。年下の女の子からそんな目で見られて喜ぶ趣味はない。

 

「まあ、それは置いといて。海底にあるアレの引き上げを手伝えってのはどういうことだ?」

 

 強引に話を切り替えて本題に入ろうとする。そんな俺にリュックは話を摩り替えるなー、と頬を膨らまして不満をあらわにするが、まぁいっかと言って本題に入る。いや、切り替え早いな。

 

「んじゃ、本題に入るね。海底にあるアレって言うのは機械文明の頃の遺産のことだよ」

「機械文明の頃の遺産?」

「そそ、シンが現れるまでは機械文明が栄えてたのは知ってるでしょ?その頃に作られた物がこの海底に沈んでるんだ。さっきちょっと外だけ見たんだけど、大きな損傷はなかったから動力が生きてれば自力で浮上できるかもしれないんだよ。でも、海底まで行って返ってこれるくらい泳げる人って私くらいなんだ。それで私一人じゃ大変だから手伝ってほしいな~って思ってさ」

 

 リュックはそう言って、ね?と上目遣いで懇願する。一瞬、速攻でOKしそうになるが何とか思いとどまる。いや、どっちにしろOK出すことに変わりはないだが、今それ言うと何かいろいろ負けた気がするので少し考える振りをする。

 

「ん~~報酬は?」

「こんな美少女のお手伝いできるんだよ?最高の報酬だと思わない?」

「さようなら。短い付き合いでしたね。もう会うこともないでしょう」

 

 機械的な口調でそう告げるとリュックは慌てた様子で俺のことを引き止める。

 

「わ、わ、ちょっと待って、う、嘘だよ嘘。今のはただの冗談だってば!報酬はちゃんとあるって!」

 

 その小動物っぽい慌てぶりに少し苦笑しながら俺は足を止める。リュックは少しほっとしたように息をつき、報酬のことを話す。

 

「え、えと報酬ってのはとりあえずここに居る間の食事でしょ、それから少しだけどギルとポーションかな」

「食事、ギル、ポーションか………OK、交渉成立だ。」

 

 そう言って俺は手を差出しリュックと握手する。これが報酬として妥当かどうか分からないが、もともと報酬を求めている訳でもないし海底にある飛空挺は大事な戦力だから引き上げなくちゃなんないしな。

 

「それじゃあ無事に契約も成立したことだし、今から行ってぱっぱと終わらせちゃおっか」

 

 握手していた手を離すとリュックがそう言って、甲板の手すりから勢い良く海にダイブする。それを見て俺も軽く柔軟体操をし、海へと飛び込んでいった。

 

 

 

 




拙い作品ですが、読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字等々あればお手数ですが、お知らせください。
また、その他にも何かあれば感想でお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。