いや、ある意味おしまいなんですけども。もちっとだけ続くんじゃ。
ここ最近の日課である朝の禊と観客の居ない神楽、お札の作成、退魔針一本一本を霊力を込めた布で丁寧にゆっくりと磨きあげる作業を終わらせる。今日も晴れ。風速1メートル。日射しは何時も通り。世界が春を祝福し、あらゆる生命は春のやさしさに包まれ、微睡みと共に今日を生きるのだろう。こんな時でなければ、私も二度寝の魔力に抗えなかっただろう。
そんな中、博麗神社の長い階段を昇ってくる影が見えた。
「やあ霊夢。頼まれていた物を持って来たよ」
「霖之助さん。ありがとう」
「いや……しかしまたどうして今更陰陽玉の強化なんて頼んだんだい?」
「別に……やれることは全部やってるだけよ」
「……霊夢?」
「それよりも霖之助さん。
「どうして……って言われてもね。君が無理矢理なるべく早くって注文をしたんじゃないか。だからこうして……」
「コレを頼んだのは十日も前よ?霖之助さんならもっと早く出来ても可笑しくないでしょ?」
「……あれ、確かにそう言われれば……。でもここ数日は色々店の方も忙しくてね、その所為かちょっと遅れたのかもしれない」
「いつも閑古鳥が鳴いている香霖堂が忙しい……ね」
「霊夢……?さっきからいったい……」
会話の途中突然空間が裂け、中から見知った姿の妖怪が現れた。いつも通りの紫の服に、いつも通りの胡散臭さを身に纏った妖怪が。
「はあい霊夢。あら、店主さんも居るのね」
「……」
「っ……!八雲……紫……!?なんで……」
「霊夢、突然で悪いけどちょっとお使いを頼まれてくれないかしら。花風城まで」
胡散臭い笑顔を浮かべながらスキマの上に腰かけ、ある意味いつも通りの口調でお願い事をしてきた。私はそれに対する返答をする為に口を開けた所……
「霊夢っ!緊急事態よ!」
「……あら、私……?」
「っ……!?私が……何で……?」
「八雲紫が……二人……?」
「霖之助さん、落ち着いて。あの二人がどういう状態なのかをしっかり観察して」
「あ……ああ……」
あまりの出来事に霖之助さんは心此処に非ずといった様な返答をする。
「馬鹿な……有り得ない……。
『名称:八雲紫 用途:境界を弄る程度の道具』
『名称:八雲紫 用途:幻想郷を管理する程度の道具』……僕の目はおかしくなったのか?」
「霖之助さんは正常よ。アレが異常なの」
「あら、あらあら。随分可笑しなことになったわね。私そっくりの偽物が堂々と現れるなんて……ね」
「くっ……これも、これも異変の一つだというの……!」
「くすくす。ねえ貴女知ってる?自分そっくりのドッペルゲンガーに出会ったらどうなるか」
「……少なくとも貴女なんかに殺される程ヤワじゃないわよ?」
「じゃぁ……試してみる?」
「じゃぁ霖之助さん。後任せたわよ」
「待ってくれ霊夢!こんな状況こそ博麗の巫女の出番じゃないか!」
「そうね。でもこんな事に力を使ってられる余裕なんて無いわ」
「れ、霊夢……?」
「陰陽玉ありがとね、霖之助さん。これ、陰陽玉と今までツケておいた分。ちょっと足りないかもしんないけど許してね」
「霊夢っ!?待て、霊夢!!」
私は霖之助さんの声を意図的に無視し、今まで準備していた道具全てを持ち出して本殿の中に入る。本殿の中には厳重な封印式が張ってある大きな箱が鎮座してあり、この箱の中に博麗神社で祭っている御神体があるらしい。今まで一度も目にしたことは無いが、花の王が言うには『神の力そのものが入ってあり、緊急事態以外は触らない方が良い物』だそうだ。
私は手に持っている陰陽玉を投げつけて封印を解く。中々に馬鹿らしい絵面だが、博麗の巫女が代々受け継いだ陰陽玉がこの封印を解く鍵だというのだから笑えない。陰陽玉は、封印に使われていたエネルギーを根こそぎ吸収して床に落ちた。
封印が解かれた箱を開ける。私の予想通り、花が一輪置かれていた。
私は、その花を
* * * * *
八雲紫同士が戦っている光景を横目に、南へ真っすぐに飛ぶ。日は東。気温は快適。風は追い風。世界全てが心地よく、同時に全てが敵であると認識させられる。時間は
視界には、春の陽気に当てられたのか知らない妖怪達が輪になって踊っている。
目線を動かせば、妖精たちがどこから持って来たのか、瓶に入ったジュースを回し飲みしている。
少し遠くを見れば、人里の住人達が大きな桜の木の下で宴会を開いている。
どこもかしこも平和であり、その世界に生きる者は全て平和を謳歌し、その平和が永遠に続く物であるかのような表情で騒いでいる。
世界は明らかに異常に満ちているというのに、妖怪どころか妖精、毛玉一匹すら普段の攻撃性を何処かに忘れ、楽しそうに歌っていた。
……或いは私が異常なのか。なんて、なんからしくない思考に自分で苦笑いして。
「おーい霊夢ー!」
空を飛んでいる私を呼ぶ、聞き覚えのある声がした。声のする方向を向けば、これまた見覚えのある白黒の魔法使いが箒に跨がって飛んできた。
―至って普通の魔法使い―
霧雨魔理沙
「こんなところで何してんだ霊夢?さっき神社に行ったら珍しくこーりんの奴が居たし、聞けば霊夢はどっか飛んでったって言うし」
「……何の用?」
「ん?紅魔館で宴会するから誘いに来たんだが……どうした霊夢。なんか機嫌悪そうだな?あの日か?」
「……」
「ねえ魔理沙。私達が初めて花の王と戦った時の事覚えてる?」
「あん?どうした突然……。あー……まあ、忘れてはないぜ。さて、あれは何時だったかな?確か今日みたいな暖かい日だったぜ。あれから……どんくらい経ったかな?5年……10年……そんなもんか」
「あっそ。……ねえ
「あん?さっきから様子がおかしいぞ霊夢」
「相当シュミ悪いわね」
私は退魔針を魔理沙の様なものに向かって投げる。すると吸い込まれる様に額に深々と突き刺さる。
「あ、な……霊、夢?」
「あんたみたいなのに構ってる暇は無いの。さっさと消えて」
「な、ん……」
泣きそうな目をした魔理沙の様なものが箒からずり落ち、地面に叩きつけられる。嫌な音がなり、地面に赤い花を咲かせた。
比喩ではない。本当に赤い花が咲いていた。
「あーあ、本当に殺しやがった。お前姿が友達そっくりな奴殺すとか正気かい?」
「あんたがさっきのを作ったの?」
「いかにも。ちなみになんで偽者だって分かったのか、後学の為に教えてくれよ」
「勘よ。それに私達が初めて花の王と戦ったのは一昨年よ。5年10年なんて誤差がでるなんて、それこそ
「……」
「あー……キキキ!そうか、
-太古の花言葉-
地使・ダークガーデン・ホオズキ
「……遺言はそれでいいのかしら?」
「ああ~?キキッ!人間風情が何ほざいてんだ、ばーか!テメー如きアタイが相手するまでもねえよ!」
「……」
「大体よー、あのクソジジイもわざわざメンドクセー方法使わねえでもこんなチンケな奴等しかいねー世界なんぞパッパッと侵略も支配も簡単だろーに。キキッ」
「……」
「あー、キキッ!まあどうせ明日には全てが終わるんだ!テメーも今のうちに幸せな夢を見る準備にでも入るんだな。……いや、待てよ?どうせ全員が永遠に寝るんなら一人くらい欠けても問題ないよなぁ?キキキ!」
「……」
「決ーめた決めた!折角なら絶対に取り返しのつかない様な奴にしてやろう!あー、例えば……博麗の巫女とかな!!!」
「言いたい事は終わりで良いのね」
「テメーこそジセーの句ってのを考えたか?あの世に行く準備を終えたか?キキキッ!まあ準備できてなくてもテメーには惨たらしく死んでもらうがな!」
「花の王の所にも美しくないヤツが居るのね、意外だわ」
「……あ?」
「キヒッ、キヒヒッ、キヒヒャハハハ!!コロスッ!!ア”ッ、ブチコロシテヤルヨ!!無残に!絶望の中で!惨たらしく死ね!!」
目の前の女が自身の髪の毛をブチブチと引き抜きながら狂乱気味に叫ぶ。すると何処からともなく見知った連中が飛んできた。
「あややぁ?これはこれは霊夢さん。こんな所で何をしているのです?」
「おぉうれいむぅ~。お前も一緒に呑もうよ~!」
―風のパパラッチ―
射命丸文
―花咲く百鬼夜行―
伊吹萃香
「……あんたらもか」
「んぅ~?何がぁ~?」
まるでそれが当然であるかのような表情でスペルカードを発動させた文モドキと萃香モドキ。本物そっくり……いや、本物以上の弾幕密度で攻撃してくる。……だが、
退魔針は文モドキの腹部に。お札は萃香モドキの頭部に。それぞれ当たり、当たった所を
「あ、や、や……霊、夢さん……これは何の……冗談……で……?」
「霊夢ぅ……鬼でもコレは死んじゃうよ……」
文モドキは口から血を吐きながら、まるで悪い夢を見たかのような表情で。萃香モドキは此方に向けて救いを求めるように手を伸ばしながら。二体は力を失ったように墜ち、地面に叩きつけられて赤い花と化した。
「キヒヒャハハハハ!!!友殺し!友殺し!!冷血女!!キキヒャハハ!!」
耳障りな声をあげるクソ女に向かって陰陽玉を投げる。しかし突如飛来した紅い槍に弾かれ、手元に戻ってきた。
「こんなに月も紅いから……なんて言った事もあったわね」
「今はお昼よお姉様」
―春の夜風と紅い月―
レミリア・スカーレット
―悪魔と破壊の花―
フランドール・スカーレット
「ふん。吸血鬼がこんな光合成する身体になって昼も夜も無いわよ」
「そっかー」
日傘も差さずに悠々と飛んできた吸血鬼姉妹モドキ。妙に鉄臭い……まさか。
「あんたら、咲夜はどうした」
「……ああ、アレ?生意気にも主人に反抗してきたから捨てたわ」
「今頃霧の湖のどっかに沈んでんじゃない?まあ、あんな人間なんて知った事じゃないけど」
「そんな事よりねえ霊夢、今メイド共を纏める役職が空いてるのよ。貴方メイド長にならない?」
「お仕事は毎日私達の遊び相手。勿論、壊れたらパチュリーが直してあげるわ。いい条件でしょ?」
「……そう」
只の霊力の弾を放つ。
「あはっ!早速お仕事だなんて気が早いわね!大好き!!」
「そんなに乗り気だなんて嬉し「あ、ぎぃ」い……フラン?」
「い、たい?痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイ!」
霊力弾は囮。二重結界の要領でお札をフランドールモドキに押し当てる。
「あああ”あ”あ”苦しいっ!助けて!」
「なっ!?っく、『天罰「スターオブダビデ」!』
するりするり。弾幕には掠りもしない。持ってる針をレミリアモドキに突き刺す。
「うぎぃ”!?」
「ぐ、うぅ」
一撃でスペルカードをブレイクさせる。既にフランドールモドキは戦意が消えたのか怯えた目をして此方をみている。
「ひ、嫌……」
「……霊夢とはいえ、フランを殺しかけた罪は重いわよ」
「あっそ」
吸血鬼としての力まで再現出来ているのか、風穴が空いた体が再生していく。……仕方ない。なるべく消耗したくはなかったが、少し本気を出す必要があるようだ。
普段の自分では考えられない程の霊力は乱流を制御し、技として解き放つ。
「夢想封印」
「っ!?グングニル!!」
「ぅぁ、レーヴァーテイン!」
紅い槍が、紅い剣が振るわれる。だが、伝説の武器は私の夢想封印を穿つ事なく、逆に消し飛ばされた。その所有者ごと。
「あ、お、おねえさま……?」
「ふ、フフ……流石霊夢ね。特別な武器なんてなくとも吸血鬼を殺すなんて……」
「や、嫌だよお姉様……死んじゃうなんてやだよぉ……」
「ごめんなさい、フラン……。霊夢も……私が弱いせいで……余計な痛みを感じさせたわね……」
「……」
レミリアモドキは灰となっていく。虚ろと成り行く瞳は私を捉えて離さない。
「れい……む……げんそ、きょうの……うんめ……は……あなたの……て……に……」
「お、お姉さま……お姉さま……?」
レミリアモドキは完全に灰となり、一輪の赤い花と共に風に流されていった。
「嘘よ、うそ、お姉さま……おねえさま!!あ、アアアアア!!!」
「ア、アハハハハ!!そっか!夢なんだ!これは悪い夢なんだ!!お姉様が死んじゃうなんて夢に決まってるわ!!!」
フランドールモドキは哭きながら嗤う。
「夢よ!だから……きっと起きたら何時も通り!アは!早く、ハヤクメヲサマサナクチャ」
フランドールモドキは自身に向かって手を広げ……って、まさか!?
「止めなさ「アはハハは!!」
バヅン
大きな音を立てフランドールモドキは自身を破壊した。
「あは、ハハ……これで……おねえさまに……会え……」
風が吹いた。灰と赤い花が空に舞った。
気がつけばあのクソ女は居なくなっていた。
嗚呼、この感情は何だろう。胸のなかでぐらぐらと煮たっていくこの衝動は。頭の奥で冷えきっていくこの感情は。
……行こう。行かなくては。
* * * * *
先ほどまでの平和な世界は何処へ行ったのか。視界に入ってくる人間、妖怪、妖精
私はその全てを
「貴方は食べても良い人類?なーんて」
「っぁ、……ぇ、れぇ……む?」
「驚けー!」
「ぅぇ……、え……あぇ……?」
「やっほー霊夢、ちょっとウサギさんと遊んでかない?」
「……あ、れ?お腹……無……」
撃ち落とす。
撃ち落とす。
撃ち落とす。
私の中で減っていったナニカが叫ぶような痛みを訴える。それでも体は動く。動かさなくてはいけない。それが博麗の巫女としての役割であり、私の意志であるのだから。
「霊夢……」
ふと見上げれば、見知った姿の妖精が居た。私の勘が告げている、
「れいむぅ……」
今にも泣きそうで、叫びそうな苦しみを抱えた表情は見たことは無く。どうしようもない情けなさと、堪えようのない痛みを孕んだその声は今まで聞いた事の無い苦悶の音として私の耳に届いた。普段の勝気な性格は何処にいったのか、力なく空に漂うその妖精からは諦めの感情しか取れなかった。
「……チルノ」
「大ちゃんも……リグルも……皆……ずっと起きないの……レティもおかしくなって……アタイ……」
「……」
「アタイ……あ……ああああアアアアアアアあアアああアアアア!!!!」
「チルノ!?」
唐突に頭を抱えて暴れ出す。凍気の嵐がチルノを中心として荒れ狂うが、お構いなしにチルノに近づ「ダメッ!来ないで!!!」
「っ!」
「嫌っ!!あア!?嫌だ!イやだ!!アああっ!!」
チルノの頭を割る様にして不気味な黒い花が咲きだす。チルノは必死にソレを抑えようともがくが、その抵抗を嘲笑う様に花は育っていく。そしてチルノから何らかのエネルギーを吸い取り始めた。
「チルノっ!!!」
「来ないでっ!いヤっ……キちゃ……ダめ……!」
頭の花は黒から蒼く変わっていく。一刻も早くアレをどうにかしないと……私は荒れ狂う凍気の嵐に突っ込み、腕が凍りついていくのもお構い無しにチルノに手を伸ばす……が。
「キヒヒャハハハ!!!」
斬ッ!!
忘れもしないフザケた嗤い声と見覚えのある銀髪の少女が邪魔をした。
「ッ……咲夜!」
「…………」
「あー、キキキ!ざぁんねんだったなぁ!!コイツは主人の乱心のせいで体も心もぶっ壊れちまってんだよ!!ソコにアタイの力をゴリッとぶちこんで動かしてんのがこの肉人形だ!!キキキ!」
「お前ッ……!!」
「キヒヒヒヒャハハハハハ!!さっきみたいに一撃でぶち殺してみればぁ?あー、キキキ!あくまでもアタイの力をぶちこんだだけで、ガワは本物の人間だから内臓ぶちまけて死に晒すだけだがな!!キヒャハハハ!!!」
何が楽しいのか、空中をくるくる回りながら此方を嘲笑う。ふと咲夜に目を向けると、何時も通りの余裕の微笑みを浮かべながらも、その瞳はなにも写し出していない。そしてよく目を凝らしてみれば後ろ首に髪と同じ色の花が咲いていた。
アレを抜けばもしかしたら……
「あー、キキキ!いいのかなー?アタイばっか構ってる暇は有るのかー?」
「ッ!?」
しまった!チルノは……
「うあああアアアアア!!!」
「チルノッ!?」
目を向けると、自身を割る様に成長を続ける蒼い花と、同じように自身を割る様に成長するチルノの姿があった。卵の殻を破り生まれ出る雛のように。しかしそんな微笑ましい光景とはかけ離れたおぞましさを孕んでいた。
ばき
びきびき
ばりん
チルノという殻を破って生まれたソレは、チルノのようでいて全く違うナニカになった。
まず目についたのはその青く、長い髪だった。頭の花に髪を巻き上げられてもなお自身の身長よりも長い髪は氷柱の如く伸びきっている。次に目についたのは顔の右半分を覆う能面の様な氷塊だ。そして氷塊に覆われていない左の目からは血の様にドロリとした液体が流れ出ている。
「キヒャハハハ!!どーだ?カッコイイだろ?さしずめコイツは氷の魔王って所か?そして魔王に仕える氷のメイドってか?キキヒャハハ!!」
「……クズね」
「キヒヒャハハハハ!!異変解決のためなら友達すらブッ殺すハクレイノミコサマには敵わねぇよ!!!さあ行け愚図共、そのブスを粉々にしちまえ!!」
-時を凍らせる花-
イザヨイサクヤ
-極地の王-
チルノ
「…………」
「ぐっ……痛い……イタイ……」
「……やるしかないようね」
あのクソ女を狙いたいが、遮るようにして咲夜とチルノが並び立つ。
「…………」
今までの弾幕と比べて温すぎる弾幕が放たれる。……何が狙いか分からないけどやる事は一つ。あのクソ女を潰す!
「二重夢想結界!」
本気の切り札の一つ。二重結界と夢想封印の重ね技で距離も空間も無視した一撃は容赦なくクソ女を
「ギィアアアアアッッ!!クソがっ!!一世紀も生きてない人間風情がアアア!!」
「チッ、次こそ仕留めるわ」
「クソッ、クソッ、クソが!!次なんてねえよ!!愚図が!アタイを守りやがれ!!」
「…………」
「うぅ……」
風が、空気が、世界が、止まる。あらゆる生命の一切の活動を許さないゼロの世界。
だが、私を捕らえる事は叶わない。
右に左にひらひらり。凍った時間の中で放たれる弾幕は本来ならば必中とも言える理不尽な不可能弾幕だったのだろう。但しそれは同じ理不尽相手には通用しなかっただけで。あらゆる干渉から
「…………れ……い…………嬢……さ…………………」
「……少し休んでなさい」
私は咲夜の後ろ首に生えていた花を引き抜く。時が動き出す前にチルノの頭に結びついている花に一撃叩き込む。時が動き出し、凍える世界が割れた直後に全ての生命は活動を再開した。
咲夜は力なく空から緩やかに落ちていき、チルノは頭の花が砕けて大きくふらついているが、未だに拘束は解けていないようだ。
「…………」
チルノを中心として氷の世界が創られる。やはり既にその辺の妖怪以上の力を付けていたか……だけど私にとってもチルノはチルノね。
私は氷の世界を
「むぎゃぅ!」
「……あ」
殴ってから気付いたが、やってる事花の王と大して変わらないわねコレ……「花の王に似て来たね」とこれ以上言われるのは屈辱だ。
……まあ結果オーライ。チルノの中に深く根差した花の意識を破壊した手ごたえをしっかり感じたからいいでしょ。
「イタタ……ぅう……れい……む……」
「花に意識を食べられるなんて……ある意味アンタらしいわ」
「うるせーやい」
「クソがっ!使えねえっ!!テメェにブッ刺したヤツはアタイの力をかなりブッ込んだ特別性だっつのに鎧袖一触でやられやがって……このザコ「アンタが弱いのをチルノのせいにしてんじゃないわよ」……は、あ?」
「アンタ、さっきからずっと自分で戦おうともせずに誰かに守られてばっかじゃない。自分の実力に自信ないの?それとも弾幕まで美しくないのかしら?……まさか、両方?」
「…………殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!」
「煽り耐性ゼロね」
「うわぁ、すっげぇ顔」
チルノの言う通り、クソ女の顔は怒りで歪み切り、妖怪絵巻か何かで見たぬらりひょんのようだ。有体に言って醜い。チルノも私も思わず顔を顰めるほどに。
「どい、つも……こいつも……アタイの事を……なんだと思ってやがる……ッ!!アタイが長女だぞッッ!!敬えッッ!!媚び諂えッッッ!!!!」
突如空間が割れるように弾幕があふれ出した。しかしただランダムにばら撒くだけの弾幕。
「チルノ、アンタうごけんの?」
「ふん!ダテにサイキョー名乗っちゃいないわ!」
「あぁ……そう……」
心配して損したわ。
「殺すッ!全員ブチ殺してやるッ!アタイを認めねえクズ共は死ねェ!!!」
……一枚目のスペカ発動しながら二枚目を切るなんてね。今度はばらばらとレーザーを撃ちだすだけ。子供が感情のままに暴れまわってるのと大差無いわね。惰性で動きながら攻撃を開始する。一撃一撃が普通の弾幕用の攻撃とは桁違いの威力を持ってるが、それでもアイツを落とすに至らず。ただ表面を削っているようにしか見えない。
……どんどん硬くなってない?
「クズがッ!カスがッ!ゴミ共がァッ!!!死ねッ!死ねッ!死ねェェッ!!!」
さらにスペカを切った。更に弾幕の密度が濃くなり、速い弾と遅い弾の緩急がついて来た……が、まだこの程度。日常的な弾幕ごっこで使われるような物とパターンは大差無い。チルノもするすると避けている。
「アタイが長女なんだぞッ!偉いんだぞッ!!だから……アタイを見ろォォォッ!!!」
まだスペカを切る気!?弾幕全てが発狂モードになったのか、密度も速度も段違いになった。そしてそれらすべてがランダム弾であるが故に避け方を間違えなくとも、運が無ければ避けることが出来なくなる所謂
というか弾幕の密度が上がり過ぎてアイツの姿が見えない。
「あーもー面倒ね!!こういうのなんて言うんだっけ!?花の王が何時か言ってたわね!」
「クソゲーよ!こんなんクソゲーよ!」
「チルノあんたも大概口悪いわよね!」
「まだ密度あがんのか!?」
チルノが叫ぶ。気持ちは分からないでもない。アイツを中心に弾幕が放たれるだけだが、その物量は空から降る雨と変わらない。そして、高速で迫る弾もあれば、雪のように緩やかに迫る弾もあり、はっきり言って面倒極まりない。
「無理よもー!避けらんないわ!」
チルノがボムを撃った。自身の体から勢い良くレーザーを放つ。魔理沙のマスパ程ではないが、極太のレーザーが弾幕を凍らし、粉微塵に破壊しながら一直線にアイツに向かって行く。
直撃した。が、弾幕を凍らせる威力のレーザーはアイツの髪の一部を凍らせる程度に留まった。アイツ硬すぎじゃない?
「っづぅぅぅぅああ”あ”あ”あ”!!!死ね死ねしねシネシネェ!!『八百万の大嘘吐き』ィィィ!!!」
さっきまでの二倍以上の弾幕が押し寄せて来る。避けさせる気は全く無いようね。
弾幕は物量だけで、美しさのセンスは微塵も感じられない。花の王のトコの奴等はほんと……幻想郷の奴等以上にぶっ飛んでる奴等ばかりで疲れるわ……ねっ!
滝の様な弾幕を押し返し、そのままアイツに直撃した……が、それでもアイツには痣が残る程度のダメージしか与えられなかった。…………まぁ
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!『虚偽虚構弾「当たるんなら問題ないわ、というかさっきからしつこ過ぎるのよ!『輪廻永劫封印玉』!」
博麗に代々伝わる秘術。陰陽玉を用いた封印術。霖之助さん強化してもらった陰陽玉は私の霊力を余すことなく受け取り、術式を発動させる。
最近は只の弾幕補助にしか使ってなかったが、本来の陰陽玉の機能はあらゆる力を混ぜ合わせ、その内に封じて能力の強化を図る万能の封印道具だ。妖力、霊力、魔力、神力、気力等、様々な力を内に封じる事で使用者の霊力と混じり合い強化することが出来る便利な道具だ。まぁ今までの私にはそんな強化なんて不必要だったんだけど。
ここで重要なのがあらゆる力を混ぜ合わせて封印することが出来る機能だ。目の前のコイツは異様な力を持っているとは言え妖精。ただ倒すだけでは
「アンタが復活しない様に封印するか……」
「な、にを……アタイに何をする気だ!ヤメロ!」
「復活しても何も出来ない様に力だけ全部奪うか、よ!」
「ふざけるな!止めろ!アタイが……人間なんかにっ!?」
陰陽玉は二つ。
「止めろ……止めて……あ……アタイが……」
一つに妖精が持つ自然の力を封じる。
「アタイの……チカラが……」
そしてもう一つには……
「う、うああああ!!!殺す!コロス!絶対に殺しt」
「アンタの敗因はただ一つ、ワタシを怒らせた事よ。博麗の巫女舐めんじゃないわよ」
「霊夢ー!」
「……チルノ。アンタ結局無事なの?」
「サイキョーなめんな!」
「あ、そ…………で、咲夜は……」
「……なんとか生きてるわよ」
地面に降りて咲夜の様子を見る。顔色が悪く、今にも死にそうな目つきだが……ま、大丈夫でしょ。
「ほら、治療用のお札あるから使いなさい」
「……あり……がとう」
かなり強引に花を引っこ抜いた所為で抜いた所から出血している。そこそこ強力な治療札を使うから痕は残らないでしょ。
……さて、急がないと。
「チルノ。あんた咲夜の様子見てなさい」
「えっ、う、うん……霊夢はどうすんのさ」
「私はこの異変の元凶の所に行くわ」
「……んー?花の王さまの所にか?」
「そうよ」
「なんで?」
いや、なんでって。
「霊夢、ついこの前まで異変なんてどーでもいいみたいな態度だったじゃん」
「……事情が変わったのよ」
「ふーん」
「アタイもついて行っていい?」
……正直言って、今のチルノなら足手纏いにはならないだろう。寧ろ、花の王を倒すにはそれこそ猫の手も借りたい位なまでに絶望的な差が有る。
とはいえ……だ、この状態の咲夜を一人置いていく訳にはいかない。どうするか。
チルノを連れていくか、置いてくか。
私は……
* * * * *
結局チルノは置いてく事にした。治療札を使ったとはいえ、まだ立ち上がることすら難しい咲夜を一人置いておくわけにもいかないし。
そうしてしばらく飛んで行くと、幻の結界を抜けたのか目の前に世界樹が見えた。相変わらずの巨大さね。花の王が言うには更に成長しているらしいけど、こんな巨大なモノが何を栄養としているのかしら。少なくとも旧地獄より深くに根差してるでしょうしね。
……ん?あれは……幽香?なんでこんな所に。遠目で見ても判る程に殺気立ってるわね。これは近寄らない方が吉……かしら?
なんにせよ、私の進行方向の邪魔にならないなら無視するだけか。私は幽香を後目に飛んで行く。
「王様……どうして私を……置いて……いかないで……」
世界樹の下についた。洞はぽっかりと大口を開けている。まるで一切の逃げ隠れをしない様に。その巨大な穴を潜ればまさに別世界。あらゆる生命力に満ち満ちた世界だ。私がまだ幼い頃に連れてこられた時の空気そのままに存在する世界は悠久の時を経ても変わらない、花の王其の物だった。
その世界の中、はるか遠くには御伽の国から出てきた様な巨大すぎる国が見える。その周りを哨戒している妖精団も。
まともに進んでいたら消耗は避けられないだろう。少し前に魔理沙から聞いた話が正しければあいつ等は大量の[B]を落とすとの事だけど……まあ面倒ね。
二重結界!
極限まで遠くに飛ばした結界の外側と結界の内側を繋ぐ。いつもの私なら到底出来ない技の出力だが、世界樹の中という満ちた空間と今の強化された私の力で織り成す業。
結界の内側を通り抜ければ眼前に巨大な門がそびえ立っている。幾ら強化された技といえどもいきなり王国に侵入する事は出来なかったか……
突如腹に焼けた鉄を突き入れられたかのような痛みと不快感、そして氷柱を背中に入れられたような寒気と怖気が私を襲った。
直感に殉じ、横に跳ぶ。刹那の間、鉄塊が落ちて来た。
「また仕留め損ねたか。幻想郷の奴等は随分勘が良い」
「……いきなり大したおもてなしね。」
目の前には巨大な人型。魔理沙の言っていた見越し入道の妖精ってのはこいつの事ね。先程の感覚はこいつの放った殺気の影響だと知る。……滅茶苦茶強いわね。
「……お前、よく見たら何時ぞや王が連れて来た人間の子ではないか」
「何よアンタ。私を知ってるっての?生憎アンタみたいなデカブツは私の記憶にないわよ」
「無理もない。10年程前に王が連れて来たのを遠目で見ただけだからな」
10年も前の事を、しかも遠目で見ただけで思い出せるとかこいつの記憶はどうなってるのよ。
-朽ち果てない太古の城壁-
風間・グラウンドドラゴンテイル・ジャイアント・ソーラーナイト・フルプレートアーマーキングガード・弐番大隊隊長・グラスティティア・ド・パンゲア
「……たとえお前がどんな目的で此処に訪れたとしても、ここから先へは進めない。進ませない。たとえその結末が終焉への片道切符であったとしても」
……こいつ、花の王が何をしようとしているのか解かっている……?
「ちょっとアンタ。花の王が企んでる事が解かるって言うのかしら?」
「我等が王のお考えを理解する必要はない。指示を遂行し結果を出す機械人形でさえあれば良い」
「その結果アンタが望まない未来が訪れるとしても?」
「我等は等しくあの御方からあらゆるモノを頂いた。命も、記憶も、経験も、幸福も。なればこそ、我等はその全てをもって受けた恩をお返しする。しなければならない。永きに渡り生きて来た王に返す方法などそれしか知らないのだから」
……恩、か。博麗の巫女としての私があるのも、普通の女の子としての私があるのも、なんだかんだと世話を焼いていた花の王の御蔭ではある。昔は『博麗の巫女』は只のシステムだったらしい。幻想郷のバランスを保つためだけに生かされ続ける無味無色の人生だとか。
……ま、今では考えられないけどね。毎日のように騒がしい奴等が神社に訪れては好き勝手に振る舞って帰る。そんな日常。無味無色とは程遠い、騒がしくも楽しい常日頃。
だからこそ。
「そんな
「……ならば帰れ。明日の朝日を待たずともすべて終わり、お前の望む日常が戻ってくるだろう」
「帰らないし、このまま放置すれば日常は戻りはしないわ」
「……帰れ」
「……明日になってしまえば、アンタの言う日常は戻るんでしょうね。でもね、それは
「っ!?貴様、何故、なにを知っている!?」
「巫女の勘よ」
「……ふ、ふふ。話には聞いていたが、巫女というのはやはり我々の理外の存在らしい」
「分かった?ならとっとと退きなさい」
「拒絶。貴様は危険な存在らしい。ならば全霊をもって貴様を排除せねばなるまい」
巨大な妖精は後ろを振り返り、手にしていた巨大な盾をそれ以上に巨大な門に叩き付ける。門全体に広がっていた魔法陣が起動し、尋常じゃない量の魔力を集め始めた。
「一切の加減はしない。一切の容赦もしない。故に一切合切捨てる覚悟で来い」
「この後に花の王をぶっ飛ばさなきゃいけないんだから省エネで行くわよ」
殺気が空気を振るわせるような重圧となって私を貫く。『絶対殺す』と、その全身で表現しているようだ。勿論死んでやるつもりなんて毛頭ないけど。
巨大な剣が地面に叩きつけられた。瞬間、地面が割れるのではないかと思う程の大地震が起きた。地震の威力は、空中に飛んでいた私に振動を与える程に強く、まともな飛行など出来ないだろう、私以外は。
『空を飛ぶ』私は地面の影響を受けない。当然の理、アンタが地を支配するなら私は宙に浮くだけ。
大地が裂け、其処から竜が頭を擡げる。爆炎と噴石、火砕流が吐き出される。当然当たるとヤバいので避けるけど。
「ちょっと暑いじゃないの」
「何故ちょっと暑いで済む!?」
結界術は巫女の専売特許よ、なんてね。熱を遮断する守護結界を張っているのに、それでも暑さを感じるなんて滅茶苦茶な熱量ね。
弾幕を回避しながら此方も弾幕を張る。的がデカいからほぼ全弾当たるが手に持っている盾に弾かれ続ける。
「ぐっ?!なんて馬鹿げた威力か……!」
まずあの盾をどうにかする必要があるわね。弾き飛ばすか壊すか……壊すか。
「弾幕ごっこで回避しないなんてツマラナイでしょ。麗撃『夢想封縛爆鎖』」
一枚の札が二枚に、四枚に、八枚にと増え続け、盾に張り付く。退魔針を投げつけ、盾に傷が入ったのを確認し、札を起爆させる。爆発の威力が外に行かない様に強固な結界をほぼ同時に張れば技は完成する。
なんという事でしょう、弾幕を弾き続けた鬱陶しい盾が粉々に吹き飛んでいるではありませんか。
「馬鹿なッ!日輪の盾を壊すなど王様にしか不可能な筈!?」
「日輪だか七輪だか知らないけど、花の王以外にも壊せるみたいね」
「き、貴様……!」
「弾を弾いてばかりじゃ無粋よ?神力『夢想封印 輝』」
「っ!?そのチカラ……まさか、王様の!」
ご明察……って、流石にここまであからさまだと判るか。神社の本殿に封印されていたあの花、花の王曰く『神の力そのもの』だ。それを私は
……なんで花の王が神の力を博麗神社に封印していたのか、そもそも花の王は神だったのか、色々と疑問が湧いてくるが、全部ひっくるめてこの異変の終わりにでもぶつけてしまおう。だから今は。
「とっとと終わらせるわよ!」
「ぐはっ……あ、ありえない……世界樹の次に硬いと言わしめる我が鎧を砕くなど……ありえない……在り得ないっ!!」
「『在り得ない、なんて在り得ない』花の王が時々言ってたわね」
弾幕と弾幕がぶつかり合う。しかしあまりに一方的過ぎた。弾幕同士相殺することなく、一方的に私の弾幕が相手の弾幕を飲み込んでいく。
「……嗚呼……こんな……こんなことが……」
「……」
「……否。否だ!我こそが王国の盾であり、門である!『通すな』と命令されたなら決して通してはならない!」
「たとえその命が尽きてでも!!」
背後の門から極光が質量を持って解き放たれた。弾幕の体を辛うじて成してはいるが、それはもはや一発一発が破壊兵器だった。
光が地面を貫く。地面が融けた。
光が空を裂く。空気が消えた。
光が空間を散らす。光が次元を割る。光が世界を破壊する。
それでも私には届かない。
地面を融かす暴虐の光も。空気を消す浄化の光も。空間を散らす激烈の光も。次元を割る泡沫の光も。世界を破壊する終極の光も。あらゆる物から浮いた私には届かない。
あらゆる物から浮き、光滅の弾幕を捻じ伏せる。博麗のではない、
弾幕を消し飛ばし、ついでに閉ざされていた門をブチ破った。
「……我が全霊……我が矜持……我が命……全てをもってしても……届かない……か」
「……アンタ、花の王とどれだけ長い付き合いか分かんないけど、嫌な事はハッキリ嫌って言った方が良いわよ」
「……ふ、は……まあ……覚えておこう……」
大きな音を立てて地面に倒れた。私はソレを後目に、目の前まで迫った王城に向けて飛んだ。
「それでも貴様は……王に届かない……」
* * * * *
城下町……っていうのかしら?巨大な門を抜けた先にはこれまた広大な町が広がっていた。空から見ても端が見えない位に広い町は一軒一軒が木材とも石材とも違う材質の何かで出来ており、その街並みも人里とは比べ物にならない位に洗練された美しさを放っていた。
「ようこそ人間。歓迎はしない……けど道案内はしてあげる」
「……ここじゃ人の真後ろからいきなり声かけるのが礼儀作法なのかしら?」
「ああ……まあね。ここ最近のトレンドなんだ……驚かすのが……この町のルール……なの?」
「私に聞くんじゃないわよ」
軽口を叩くが内心でかなり驚いてしまった。まるで気配を感じなかった、こうして話している今も。
後ろのヤツがスルリと私の前に躍り出て来る。こうして目の前にしても変わらず気配が無い。
-孤独な幻樂団-
カラオト
「……それで、今度はアンタが私の邪魔をすんのね」
「聞いてた?人の話。道案内してあげるって言ったよね、耳死んでんの?」
「喧嘩売ってるのかしら?言い値で買うわよ」
「高くつくよ。具体的には夜明けまでね」
「どういう事よ」
「いいのかなー、道案内役も無く王城にたどり着くことが出来るかなー。まぁ、オツムの足りない人間に懇切丁寧に、優しく、分かり易く説明してあげようか」
「殴り倒していいかしら」
「好きにすれば?でも注意して。貴方が今いるこの街全てが妖精の住居で、仕事場で、遊び場なのね。そう、そんな中に一人迷い込んだ人間なんて例えるならそう……例えるなら……えーと……妖精の森に迷い込んだ人間が永遠に森から出られなくなるようなものよ」
「例えヘタか」
「うるさいな。とにかく貴方がどんなに強くてもここの妖精たちに永遠に惑わされ続ける事になるよって言いたいの」
「あっそ。ならさっさと案内しなさいよ」
「横暴だなぁ」
そう言って前を飛んで行く……妖精……なのだろうか?
「只の妖精じゃないよ。私はゴーストと妖精のハーフ。だから存在感なんて無いし、攻撃なんて通じやしないんだけどね」
「さらりと心読んでんじゃないわよ」
「心なんて読んじゃいないさ。経験というか勘というか……とにかくそう言う感じなのさ」
こう見えて私も何万年と生きてるよ、ゴーストだけど。と締めて飛んでゆく。私も後を追った。
「此処に来る前にでっかい鎧女を倒しただろう。アイツは強かったかい?」
「……まあ強かったわね。私ほどじゃなかったけど」
「そう。まぁ、アイツは昔っから融通の利かない見た目通りの堅物でね。その上必殺技とかそういうのに憧れるお年頃というか……まあ、相手してて感じ悪かったでしょ」
「……そうかしら?」
「あれぇ、そうでもなかった?私アレ嫌いなんだよね」
「ところで、この街並みを見てどう思う?王様が一から作り上げた町なんだけどさ、きっと世界中どこを探してもこの街並み以上に美しい場所なんてないよ。ヴェネッチアなんて目じゃないし、魔都なんて足元にも及ばない」
「ヴェネッチアって何よ」
「知らないの?異界都市ヴェネッチア。山に囲まれてるのに水路だらけで歩きづらいんだ。だから水路を走る水竜が大量に飼われてて……」
「……ヴェネッチアって何よ……」
「此処が大通りさ。あそこに見える巨大な搭があるだろ?あそこから眺める街並みは最高さ」
「飛べばいいじゃない」
「わかってないなぁ。浮足立った景色より地に足ついた景色の方が良いじゃないか」
「何が変わるってのよ」
「変わるさ。何故なら今の人間の科学力じゃあの塔よりも高い建築物は作れないんだよ?」
「それがどうしたのよ」
「いやぁ、空の飛べない人間じゃぁこの高さの景色は見られないんだなぁって優越感感じられるじゃん」
「だからどうしたのよ」
「右手をご覧くださーい」
「観光案内か」
「私の生命線長いでしょ」
「あんたゴーストでしょうが」
「……さぁ、正面に見えるのが王様が自分の為だけに建てた巨城。世界樹の外の奴等は『花風城』なんて呼んでるわね」
「……今更だけど、なんでアンタは此処まで道案内してくれたのよ」
「さて、なんでだろうね」
目の前のゴースト、カラオトは曖昧に笑う。
「……本当はね、貴方を此処まで連れて来るつもりは無かったんだよ」
「……」
「どこか適当な所まで連れてって、そこで他の妖精たちと一緒に囲んで始末してお終い……ってつもりだったんだけどね。なんでだろ、貴方が想像以上に強そうだったから尻込みしちゃったかねぇ?」
「……」
「……そんな顔で見ないでよ」
「ちょっとだけ、昔話をしようか。まだ、この城の影も形も無かった頃の話だよ」
「ある所に、一人の男が居ました。その男は世界中のあらゆるものが大好きでした。しかし、男はその大好きなものを覚えておくことが出来ません。何故なら、その好きな『もの』には名前が有りませんでした。名前とは区別です。『あらゆるもの』からその『もの』単体を分けて覚える事が出来なかったのです。故に男は考えました、どうしたら大好きな『もの』を覚えておくことが出来るか。そして思い至ったのです。名前が無いのなら、自分が付ければいいのだと。そうして、男は世界中のあらゆる『大好きなもの』を覚えるために、『大好きなもの』全てに名前を付けたのです。そうして、男は一番初めに世界から自分を区別しました」
「そう、その男の名前は貴方も良く知ってるでしょう?」
「……花の「田中さんよ」誰よ田中さんって!」
「冗談よ、いっつゴーストジョーク」
「真面目な話、花の王は世界からあらゆる物を区別した。あらゆる物に名前を付けたわ。でもね、名前を付けるって事はソレを世界から区別するだけで済む事じゃないの。……人間の貴方にはちょっと分かりづらい感覚かも知れないけどね」
「……分かるわよ。ちょっとだけだけどね」
まだ私が寺子屋に通うような歳だった頃、神社に一匹の犬が住み着いていた。私はその犬に名前を付けて呼んでいた。ある日その犬は冷たくなって横たわっていた。寿命だった。私は泣いたわ、生き物の死を始めてみた訳でもないのに。大粒の涙を流して泣いた。
名前を付けるって事は、他のものと区別するってだけじゃない。ある種の呪いに等しい。名前を付ける事で、そのものを他と区別し、記録し、記憶する。だから心に残る。ソレが亡くなったら、喪失してしまったら、心から離れて逝ってしまったら。失われたものは戻らない、決して。心に空いた穴は塞がらない。大事なものほど、心を占める大切なものほど、失くしてしまったら。
時間は怪我を癒してくれる。しかし心の穴は塞げない、空いていることに慣れるだけだ。
別の何かが代わりになることは無い。別に心に入り込んでくるだけだ。
もし、永い時の間に様々なものと出会い、そして亡くしていったのなら。
「人間は、肉体で生きるものだ。大怪我を負えばそのまま死んでしまうこともある。だけど哀しみでは中々死なない。妖怪は、精神で生きるものだ。時に畏れられ、時に崇められる事でそれを糧とし生きる。仮に身体が亡くなっても復活する事もある。だが、大きな哀しみであっさりと死ぬ」
「花の王は人間じゃない。かといって妖怪でもない。神でも無ければ妖精でもない。この世のあらゆる物の生みの親でもあるけど、この世のあらゆる物と繋がりを持たない」
でもね、と前置きする。
「花の王はそれでも、心で生きているんだ。肉体で生きているんだ。だから彼は何よりも強く、誰よりも強く、そして、おかしくなってしまった」
あらゆる物を愛し、あらゆる物に名前を付けた代償はあまりに大きいと言う。
「もう彼の心は原型を留めていない。それでも肉体で生きる彼は永きを生き続ける。心当たりはないかな?彼、最近凄い忘れっぽくなってるんだ」
「……」
心当たりは、ある。
「人間には、『病は気から』なんて諺があるだろう。彼も同じさ。風邪の様な症状は出ないけど、もっと根本の部分から壊れていってるんだ」
「彼は、人間も、動物も、妖怪も、神すら愛した。でも、その何れも彼より先に亡くなっていった。その何れも彼の心に大きな穴を空けて逝った」
「彼が何をしたいのかは私達でも分からない。ただ、この世界を捨てて何処かに行ってしまうんじゃないかって気がしてならないんだ」
「……馬鹿々々しい話でしょ?」
「変な話かもしれないけどさ、わざわざ、幻想郷から世界樹の、こんな中心部まで来た人間に言う事じゃないかもしれないけどさ。言わなくても良い事かもしれないけど……さ……」
「花の王を……止めてください……。私達じゃ駄目なんです……。お願い……します……。私達の王様で……友達で……父親……なんです……」
言われるまでも無い。ただ……そう、一つ。一つ戦う理由が増えただけだ。
私は博麗の巫女。幻想郷を守る役割を持つ者。
そして、『今の幻想郷』には花の王は
「頭を上げなさいよ、お姉ちゃん」
「……へっ?お、おねえちゃん?」
「花の王が父親……なんでしょ?私もよ。だから血は繋がってなくてもお姉ちゃんでしょ?」
「……そ、そう……なのかな?」
「そうよ」
「そ、っか。えへへ、なんか照れくさいや。私より後に生まれて来た子は結構いるけど、誰も私の事『お姉ちゃん』なんて呼ばないし。まぁ私も先に生まれた子にお姉ちゃんなんて言わないけど」
「折角だし呼んであげたら?きっと楽しい事になるわよ?」
「……『喜ぶ』じゃなくて『楽しい事』ね……貴方中々に悪い性格してるね」
「親譲りなの」
「……ふふっ」
「……花の王は巨城の最上階、玉座の間に居るわ。でもそこには空を飛んで行くことは出来ないの。唯一の出入り口が天睨の間と呼ばれる大広間にある扉よ。そして、其処には一番厄介な奴が居るわ。ソイツを倒さない限り玉座には辿りつけない」
「分かったわ」
「……ごめんなさいね、本当なら城の中も案内出来れば良かったのだけれど、あの中は迷路になってる上に入るたびに構造が変わるから案内しようがないの」
「……それはまだ、幻想郷でも常識はずれな建物ね」
「ふふっ、この世界の常識は花の王が創ったのよ?」
「そんなアホな……いや、花の王なら……」
時間は迫ってきた。名残惜しいが、それでも行かなければならない。
「……じゃあ、行ってくるわね。お姉ちゃん」
「……頑張ってね。全部……全部終わったら、一緒に呑みましょ?姉妹みんなで」
「勿論花酒で、ね」
「ふふふ、花の王に沢山用意させないとね」
私は歩きだした、花の王が待つ、玉座の間に向かって。
「全部終わった時……皆がこの世に残っていれば……ね」
* * * * *
城の中は迷路なんて生易しいものでは無かった。迷宮と言っても過言ではない。というか、別世界とでもいうべきなのだろうか。
「世界樹とはいえ、樹の内側に太陽があるのはまぁ、まだいいわ。でもなんで建物の中に月が浮かんでるのよ!」
いや、叫んだところでどうにもならないけども。
そもそもここは本当に建物の中なのか?上を見れば夜空に満月、前を見れば森林に、後ろを見れば砂漠、と。出入り口何処に行ったのよ。
時間はもうそれほど残ってはいない。ここまで来たのだ、
……これは幻術の類だろうか?いや、そんな気配は一切感じられなかった。まさかとは思うが、建築技術だけでこのような幻影を見せているとでもいうのだろうか。
……花の王ならやっぱりやりかねないわね。
これ以上無駄に留まっている訳にはいかない。花の王は最上階に居るって言っていた。なら階段を探すべきなのだろうか、いや、花の王なら上に昇るのに階段なんて普通の物を使うだろうか。
実は部屋の中に登り口は存在せず、外に存在している。……有りそうね、でも城に入る時にはそれっぽい物は見えなかったし、私の勘もこの部屋……部屋?にあるっていってるし。
昇る……と見せかけて降りる階段で進む。……これも有りそうね。
そもそも昇る、降りるなんて考えが違うのかも。
……考えるのが面倒くさくなってきたわ、とりあえずこの辺一帯吹き飛ばしたら何か起きるでしょ。
……
……
ま、何か起きるとは思ったけど、まさかいきなり別世界に送られるとは思わなかったわ。
「おいおーい。折角趣向凝らした謎解き部屋作ったのにお前全部ぶち壊すとかありえねー。脳みそ筋肉マンかよお前」
-忘れ去られた記憶の記録-
ブレイン・シェルフ
「……っ、アン、タ……は……」
長い銀髪、赤と青のツートンカラーの服。余りにも特徴的なその姿は竹林に住む宇宙人、八意永琳を幼くしたような姿をしていた。
「どーもー、5ボス兼EXボスでーす。なーんつって」
「アンタは……何?」
「んー、なんといったらいいか。まず私は花の王の記憶の欠片ってとこだな。正確に言えば花の王が忘れていった知識、感情、記憶の妖精だ」
「……そんな物が妖精に成るものなの?」
「普通、というかまず絶対ありえねー。だが花の王だけは唯一無二の例外だ。なんせ存在そのものが自然物だからな。この国を探せば花の王の爪の妖精とか髪の妖精とか垢の妖精なんでいるかもなー」
「そんな馬鹿な事が「嘘だよばーか」……」
「花の王が唯一無二の例外じゃなく私が例外なんだ。正しく言えば花の王の膨大な記憶、感情、知識が、だな。それが一つの有形となったのが私。仮にもしも花の王ほど長生きが居たとしても、そいつじゃきっと私は生まれねー。花の王みたく様々を愛し、育て、失ったからこそ私が生まれたんだろ。多分な」
「……じゃあ何でそんな姿なのよ」
「さあね。これまた多分だけどこの姿が花の王の知識、記憶の象徴なんじゃねーの?言ったろ、私はあくまでも忘れられた記憶の欠片だ。花の王が覚えてる事は私は知らん。聞きゃー良いってか?メンドー」
「……アンタが、玉座の間の門番って所かしら?」
「そだな、今日はそんな感じだ」
「
「ここ最近は城門守ったり街中飛んでたりあちこち行ってるからなー。ま、花の王の指示ってやつだ。で?通るっつーなら私を倒さなきゃ進めねーよ」
「そ、なら……話は早いわね」
「ノーノー、そんな欠伸の出るようなぬるい弾幕じゃ掠りもしねーよ」
そう言いながら空を飛ぶこともせずに独特な足さばきだけで弾幕を回避し続けている。しかしハッキリ言って奇妙過ぎる。明らかに歩幅と動く速さ、大きさが合っていない。
「花の王が忘却したのは感情や知識だけじゃねー。余りにも永い年月、
「無駄に覚えて、そもそも必要ないから忘れたって事ね」
「そーいう事。さあ、私もやられたらやられっ放しじゃねーぞ」
右手を、虚空の何かを引くように。左手を、虚空の何かを掴むように。同時に動かし、刹那の間に右手を放した。それはまるで弓を引くかのような……瞬間、勘に従い身体が動いた。脇腹がザックリと何かに裂かれた様に血が出る。
「痛っ……!何をしたの……っ!」
「『不射之射』っつー……あれだ、エアギターLv.100みたいな奴だ」
「エアギターでこんな被害出る訳無いでしょ!」
「出来るんだよなぁコレが。弓に限らず、刀、槍、鞭、銃、あらゆる武器はその道を極めるとその武器を持たずとも結果だけを引き起こせる。その神髄は詐偽其の物だけどな。武器を振るうとダメージが入る。『世界』を欺き、結果を幻惑させる。相手は『世界』が思う結果を受け、本当に攻撃を受けたかのようにダメージを認識する。
「っ……!?思い込みで血を流すってこと!?」
「そうだ。只の思い込みでも、怪我を負えばそれが『事実』になるし、只の思い込みでも死ねば、死ぬ。無いものを有ると見せるんだ、詐欺其の物だろ?」
意味不明過ぎる。しかもそれが
そして何よりも厄介なのが、攻撃の動作以外に全く気配を感じない事だ。霊力や魔力、妖力、神力の類であれば感じ取る事も出来るのに、あの攻撃にはソレが一切感じられない。アイツの言葉が正しかったらつまり本当に何もしてない訳だから感じられないのも仕方ない……いや、仕方ないで済ませられる問題じゃないわ。
「ま、こんな事態々やるより弾幕一つ飛ばしたほうが威力も自在度も有るんだけどな。私にゃ霊力も妖力もなーんも持ってねえからこーして技術に頼るほかねーんよ。じゃ、次から本気だすぞ」
その直後、私は勘に従い全力で飛び回った。何が起きたのか一切分からないが、それでも留まるのはヤバイと勘は告げる。規則的な動きは死につながると勘は告げる。故に不規則に、荒波にもまれるように、自分の動きで酔いそうになる程に動き、動き、動く。
横目でアイツを見るも、ずっと自然体で立ち続けているだけだ。弓を構えるような動作すらしていない。だと言うのに何故……まさか、まさかまさか!?
「……あ、バレたくさい?そーなんだよねー。ま、この技に名前を付けるとしたら『
「ふっ……ざけんじゃないわよ!!」
「おっ?お、おー、おっ、おお」
何かを呻きながら今度は回避に専念しだした。流石にこの技なら不射之射を受けないか。
目を瞑り、弾幕を放ちながら考える。あの不射之射は見えないし感じられないが、それだけだ。必中という訳でも無ければ、掠ったら死ぬようなモノでも無い。そこから推測するに、その常識外れな連射速度に目を瞑れば、見えないだけの矢に過ぎないのだろう。ならばきっと結界で矢を弾く事が出来るだろう。
方針を決め、目を開ける。するとそこには……
「ほい、ほいさ。ほほい、ほっ、ほっと。あーらよ」
素手で弾幕やレーザーを弾き、反らし、受け流す非常識な光景が目に飛び込んできた。お前それも技術って言うつもりか。
「知らなかったのか?極致とはつまり、理を超える事だ」
「いやそれはおかしい」
「おかしくない奴には極致に至る事は出来ないからな。さあ、次だ。月歩!」
ボンッ!ボンッ!と空中で何かが破裂するような音と、空を飛んでいる私に肉薄してくる少女。というか、空中を走ってない?
「私は空を飛行することは出来ねえ。だけど、空を跳ねる事は出来る!」
「どういう理屈よそれ!」
「極めるとは『出来た』と言うことだ。理屈とはあとから勝手についてくることだ!」
「無茶苦茶するのもいい加減にしなさい!」
「出来ることをすることは無茶苦茶なんて言わねえよ!無間抜手!」
そう疑問を抱くより刹那早く、抜手に私の弾幕が
抜手と結界が一瞬の均衡を見せると同時に二重結界の応用でその場から離れる。
直後、光すら飲み込む闇の星が産まれ、潰えた。
「お前、本当に勘が良いんだな」
「な、な……今のは……」
「空間の特異点、宇宙の落とし穴、超重力、まあいろんな呼び方も有るが、様はただのブラックホールだ」
「ブラックホールを素手で産み出したって言うの!?」
ありえない、常識に当てはまらない。
「重力を発する程に重い一撃、光速に迫るスピード、空間を歪めるほどの握力。従来なら自分の腕ごと相手を屠る技だが私は一歩先に行く。空間を歪める握力と同等の放力を同時に発揮し重力に指向性を与え、五指を更に光速で動かすことで超重力を相殺、相手にのみダメージを与える!」
「抜手って何だったっけ」
この際常識についてはもう気にしないことにする。だが、ブラックホールは駄目だ。空を飛ぶ私でも、空を飛ぶ私だからこそ致命に至る。重力に囚われない、あらゆる物から浮かぶ私でも、空間を歪め圧縮し消し飛ばすブラックホールは私に効く。というか効かない生き物など要るのだろうか。
なんにせよ、これでは近づくのは危険。離れていても、感知できない矢が飛んでくる。夢想天生で回避は可能だから近づかれなければ負ける事は無い……筈。しかし油断は出来ない。相手は弾幕を素手で弾くことが出来る。千日手は相手の勝利ね。弾けられない程の物量で攻めれば……
「へいへい、まさか離れてればいつかは勝てるとか思ってねえだろうな。夢は寝てから見るもんだぜ。音破!」
一歩。踏み出した動作がそのまま超加速となり音を置き去りにする速度で迫る。遠距離戦も許して貰えなさそうね。ならば、ヤられる前にヤるだけよ。
防がれるなら、防げなくなるまで撃つ!
「ッ!空隙ッ!翔衝拳ッ!走破脚!烈風蹴撃!拳断雷撃!」
弾幕を反らす、弾く、殴る、蹴る、踏み越える。四肢を十全に活用して不可能弾幕の嵐を駆け抜けた。既に目の前。さっきの技を使うならキルゾーンに入っている。
「くたばれ!無間ぬ き t 」
しかし既に私の『必殺』は発動し、直撃していた。
『輪廻永劫封印玉』
あらゆるエネルギーを陰陽玉に封印する。運動エネルギーも。重力も。時間すらも。
永劫に終わらない技をかけ続けるがいいわ。
突如虚空が裂けるようにして光が差す。どうやらあれが玉座の間に続く扉らしいわね。そこを抜ければ長い異変も遂に終わりね……。
扉に向かって飛ぶ……が、視界が傾く。誰かの攻撃……じゃない、ただ疲れてフラフラになっただけ。
「う……っ、仕方なかった事とはいえ……消耗し過ぎた……わね……」
巫女とはいえ、巫女だからこそ。神の力を長時間使い続けた代償はかなりものだ。しかし休んでいる暇はない。残された時間はあと僅かだろう、勘だけど。
真っすぐに飛ぶことすらままならない状態のまま、私は扉を抜けた。いよいよ最後だと奮起して、残った力を振り絞り飛び続ける。
終わりは近い。
前話が去年のクリスマスとか頭おかしいんか。
もっとこまめに投稿せーやこんなクソ長く書くんならよぉ。
しかもまだ終わりじゃないとか無能オブ無能かよ。
なんて感想でもいいんでください。この際何でもいいんでください。
モチベーションが無くなるとこんな感じになります。つらみ。
次は!もっと!早く投稿しますんで!許して!
・神社に祀られてた花
花の王が博麗神社に封印し、博麗の巫女に代々管理させていた『神の力そのもの』。より正確に言うならば『神の力そのもの』を封印した所が博麗神社となり、其処の管理者が博麗の巫女と呼ばれるようになった。
銜える、つまり自身の力として
・地使・ダークガーデン・ホオズキ
悪・地タイプのフェアリー。花の王が初めて作った妖精の一。
性格は最悪。人の嫌がる事を進んでするタイプ。
能力も最悪。虚偽虚構を生み出す程度の能力。生まれた『嘘』は本物のように振る舞い、本物と同じ能力を持つ。しかしレプリカではない故に時として本物以上の力を発揮する。
幻想郷中を『嘘』で埋め尽くし、何やかんやで紫が博麗神社に飛び込んでくることになった。結果こーりんの目では『真』も『嘘』も等しく道具の一つとして見えた。
・光合成するレミフラ
ホオズキの『嘘』で生まれた人、妖は基本的に『真』とほぼ等しい人間関係を持つが、『真』を排除する性質も持つ。何処かのタイミングで『真』の咲夜と『嘘』の咲夜が入れ替わり、『嘘』のレミリアに斬り捨てられた。『嘘』の咲夜は今頃紅魔館で大立ち回りしてるんじゃないんですかね。
・極地の王 チルノ
妖精の粋を超え、神に近づいたチルノ。ホオズキの『嘘』エネルギーを注入されて覚醒した。アタイサイキョー。でも霊夢はえげつない程に強かった。
・カラオト
幽霊でも亡霊でもない、ゴーストと妖精のハーフ。ゴースト故に不死、妖精故に不滅。生命線が長い。
指揮する程度の能力を持ち、普段は花の王の為に作曲編曲、演奏もしている。しかし一度戦闘になると、花の王国に住んでいる妖精達を指揮し、苛烈に相手を滅ぼす。
パンゲア大陸が割れ、七大陸を形成してきた位に生まれた。世界を渡り歩く花の王と共に音楽の美しさを魅せて回った。とある前人未到の秘境には合唱を行う獣が居るらしい。
・ブレイン・シェルフ
花の王より生まれた妖精達の末妹。あらゆる自然現象の化身たる妖精の中でも唯一の例外。花の王の抜け落ちた知識、感情、記憶が形となった物。
余りにも膨大な量の記憶は一つの形となって世界に生まれ落ちた。その姿は花の王の最古の記憶にある象徴。そして技術の象徴だった。
霊力も、妖力も、魔力も、神力も持たないが、永き時を生きる花の王が花を植え育てる片手間に鍛え、極め、そして忘れ去られた技術を全て継承している為妖精の中でも最強の一角である。
花の王が極めた技術の極一部は、達人と呼ばれた生き物に受け継がれ、今の世界でもひっそりと息をしている。とある前人未到の秘境には格闘術を使う獣がいるらしい。
次回、いよいよラストボス
終わりが、始まる。