「メリークリスマス!!」
手に持っているパイを霊夢の顔面にシュゥゥゥゥ!!
「『花の王 殺す方法』」
「その願いは私の力を超えている」
「朝からテンション高いなお前ら」
特に前触れも無くパイを魔理沙の顔面にシュゥゥゥゥ!!
「あっぶねっ!?」
生意気にも避けやがりますので『避けた』という事実をねじ曲げる。
「『花の王 消す方法』」
「その願いは私の力を超えている」
「役に立たない神ね」
「ははっ、新参の巫女に役目全部持ってかれたヤツがなんか言ってら」
「お陰でずっとのんびり出来るから別に構わないわ」
さて、あまりにも突然に始まったクリスマスパーティー(参加者三名)に驚きを隠せない者も居るだろう。だが何のことはない。花の王のいつもの発作(気まぐれ)だ。
顔面白いクリームまみれの少女二人に青年(見た目だけ)一人。どう見ても事案です本当にありがとうございました。
その光景を見ていた妖精三匹が何処かに飛んでいったが、どこからともなく出現したパイを顔面に受けて墜落した。
「……で、なんなのよ急に」
「や、なに。レミリアのヤツがクリスマスパーティーやるっつって招待状を送ってきたんだよ」
「待て、お前ら顔にクリームつけたまま普通に会話しだすんじゃないぜ」
パイを魔理沙にシュゥゥゥゥ!!
「二度目は無いぜこの野郎!」
魔理沙はダイナミックにエビ反りを決めて回避しようとするが、そんなことお構いなしに服にパイを叩きつける。
エビ反りしながら、魔理沙の目がチベットスナギツネのように乾いていく。
「んで、吸血鬼のやるクリスマスパーティーなんぞ何をやるか分かったもんじゃないからこうして色々試してんだよ」
「それでパイを投げる発想に至るアンタはマジモンの馬鹿よ」
「ハロウィンで魔理沙に菓子強請ったらカボチャパイを投げつけられたからその延長線上でな」
「げ、まだ根にもってやがったのかよ」
「アンタのせいか魔理沙」
「トリック オン トリートとか言われたらそうするしかなかったんだぜ……」
「意味が分からないわ」
閑話休題
「そんなわけで俺がサタンとやらの代わりにプレゼントと言う名の絶望を送りつけてやろうとな」
「サタンじゃなくてサンタだぜ……いや、なんか一周回って合ってる気がしてきた」
「クリスマスってそんな行事だったかしら」
「どんな行事なんて関係ない。ただ俺がやりたいようにやるだけだ」
「それクリスマスにかこつけて暴れたいだけだろ」
「よく分かったな。正解者に景品をやろう」
亜空間から招来されたパイが魔理沙の頭部に降り注ぐ。パイのあまりの多さに、魔理沙は押しつぶされた。
「ぐぇぇ……」
「こんな大量にどうしたのよ……」
「作った」
間。
「「作ったぁぁぁ!!?」」
身体中に付着したクリームが消し飛ぶ程度に驚く二人はその勢いのままに花の王に掴みかかる。
直前、遥か空高く舞う二人。花の王は幻想郷最強格の人間二人を同時に、一切触れることなく投げ飛ばしたのだ。
気がついたら空高く舞い上がっており、訳もわからない状態の中、重力に惹かれるがままに落ちた先には巨大なパイがスタンバっていた。
「で、だ……。花の王、お前いつの間に料理ができるようになったんだ?」
全身白いぬるぬるべたべたまみれになった二人は神社の風呂で汚れを落とし、なんとか信じがたい事実を受け入れようとしている。
「料理ができるようになったというか、過程をすり替えた」
「は?」
料理ができるようになったのではなく、過程をすり替えたと言う言葉の真意を聞こうとした瞬間、霊夢の足元から花が一輪咲いた。
「……何よこれ」
「パイの花」
「……は?」
「ぱ、パイの花?」
その花の見た目は、一見すると至って普通の花のようにも見えるが……
「こいつが成長すると肉厚のパイになる」
「前から意味が分からないと思ってたけど何時にも増して意味が分からないわ」
「マジで何でもありか」
「その肉厚のパイが枯れると『パイの実』になる」
「『パイの実』になるのか……」
「二個セットになる」
「しかも二個セットになるのね……」
閑話休題
「なんにせよクリスマスパーティーにパイ投げは意味不明すぎるわ」
「ダメか」
「ダメだろ」
ならば何なら良いのか、少し思案する花の王。
「いや、普通にプレゼント配れよ」
「普通にプレゼント配ることの何が面白いんだよ」
「プレゼント配りに面白さを求めるんじゃないわよ」
「じゃあ面白い事と面白くない事ならどっちやりたい?」
「面白い事だぜ」
「面倒じゃない方ね」
「じゃあ面白くて面倒くさくない事は普通の事なのか?」
「うーん」
「人生何でも楽しんでみるもんさ」
「アンタが言うと説得力が違うわね」
そういう事で面白いプレゼント配りを考える事になった。
そうして、夜。ところ変わって紅魔館。
「メリークリスマス!」
「「「メリークリスマス!!」」」
レミリアの掛け声に合わせてかちゃん、と杯を鳴らす音が聞こえる。
「なんでまた唐突にクリスマスパーティーなんて始めたんだ?」
「よく分かんないけど、変な外来人がレミィに吹き込んだらしいわよ」
「まあ私は呑めれば何でもいいけど」
不死鳥、動かない魔女、鬼の四天王という異色のトリオが顔を突き合わせて呑んでいる。
「……」ムッスゥゥゥ
「……」ニコニコニコ
「……お前等、私の近くでにらみ合いをするな。酒が不味くなる」
閻魔、花妖怪、スキマ妖怪の式の三名が一つのテーブルについてちびりちびりと呑んでいる。この三名は『花の王ガチ勢』の異名を持っているが今はどうでも良いな。
「それで霊夢はちゃんと生活出来ているのか?」
「馬鹿にしないでよ慧音、私を何だと思ってるの?」
「隙さえあればだらける妹的な存在かな」
「私~知ってるわ~♪霊夢~は炊事掃除洗濯全部~幽香任せだって事~♪」
「ちょっとアンタ黙ってなさい」
「ほう……霊夢?」
「な、なによ……言っておくけど私がやろうとしたら既に終わってたってだけよ?」
半妖怪、巫女、夜雀の三名は呑むより食べる方に若干力を入れながら会話をしている。この三名は『花の王の娘ガチ幻想郷勢』とも呼ばれているが若干語呂悪いな。
「それでクリスマスって何なの?」
「偉そうな人が生まれた事を祝う日らしいよ?」
「え?誕生日って事?」
「誕生日じゃなくて誕生した事を祝う日」
「? ? ?」
「まあ何かにこじ付けて騒ぐ日よ」
「なるほど!」
悪魔の妹、地底の薔薇(ハイビスカス)、騒霊三姉妹の五名はわっちゃわっちゃと楽器を鳴らしながら談話する。この五名は『花の王の妹ガチ勢』と呼ばれたいと思っているかも。
他にも様々な妖、霊、神等が紅魔館の(無駄に拡張された)イベントホールに集っている。
しかし、その中に花の王の姿は見えなかった。
「……で?肝心要のアイツは何処に居るのよ咲夜」
「博麗神社に居た事は確かなのですが……」
「あはは……また訳のわからない企み事ですかね。訳の……わからない……」
「美鈴、そのぬとねの区別がつかなさそうな顔止めなさい」
「咲夜さん……私こう見えても30年近く花壇造り頑張ったんですよ……それを……花の王は一瞬で……一瞬で……」
「一瞬で美鈴の30年を上回る花壇に造りかえられたものね」
「あの手際は見事だったわ」
「もう私の美意識が信じられない」
「そう言うな。お前さんの花壇も大したもんだぜ?俺に比べるまでも無いがな!」
「……ハっ!?花の王、貴様いつの間に!?」
「俺は常に何処にも居て何処にも居ない。つまりそういう事だ」
レミリアの真後ろに気配無く立っていた花の王は、普段身に纏っている衣服とは遥かに違う
「
「まって今とんでもねえ副音声が聞こえたのだけれども」
「
「ちょ、ちょっと待って!?待ちなさい花の王!その大きな袋を振りかぶるのを止めなさい!」
「
「待っ、待っ、ちょ!」
花の王が白い袋を振り抜いた。瞬間、レミリアはその場から消失した。
「……えーと、主催者が消えちまったんだけど」
「レミリアさんは何処に行ったんでしょうねぇ……」
「……ヤバいよ神奈子、早苗。あの黒サンタ明らかにこっち見てる!」
刹那、守谷の三柱の後ろに回り込んだ花の王。
「
「ひぃ」
「は、花の王アンタ、いきなり何する気だい!?」
「
「ちょっと!?私達が何をしたって言うの!?」
「神奈子は今年一年ずっと神社で偉そうにふんぞり返ってるだけでした!」
「なっ!?諏訪子だって日がな一日ゲームばっかやってるじゃない!」
「お、お二人ともちょっとは落ち着いてください」
「
「待て花の王おちつ」
花の王が白い袋を二回振り抜く。守谷神社の天を司る神と地を司る神が消えた。僅かにも満たない、瞬間の出来事だった。
「あ、あわわ……」
「「
「へぁ!?た、楽しんでます……よ?」
「それは良かった。良い子にはプレゼントをやろう」
そう言って、いつの間にか膨らんでいた白い袋の中から丁寧にラッピングされた箱を取り出す。当然のように生花で彩られていた。
「ありがとうございます……?」
「じゃあ俺は次の所に行くから。
「あ、はい」
「
「うひゃあビックリしたぁ!?」
「……」
花の王から貰ったプレゼントに困惑する早苗。その大きさは自身の掌に乗る程度のサイズで、重量も大したことはなく、むしろ箱と生花の重さを除いたら中に何も入ってないのではないか?と感じるほどに軽かった。
早苗は、つい好奇心に負けてその場でプレゼントを開けてしまった。理性は、そのプレゼントが危険物なのではないかと警告していたのにも関わらず……。
「これは……ブレスレット……?」
プレゼントの中身は草木で編まれたブレスレットだった。持ってみれば、まるでそれが自分の一部であったかのような馴染み具合で更に困惑する。
デザインは緻密で繊細、されど嫌味さの無い上品な作りであり、着用者を選ばない気品のある存在感を放っている。
「綺麗……」
こと美しさにおいて花の王の右に出るものはない、そういった事は知ってはいたが、このような手芸品にまで及ぶとは思いもしなかった。
早苗はそのまま、ブレスレットを自分の左腕に装着した。
「……♪」
触れた感覚からして早々壊れるものでは無いだろうが、花の王がヤワな作りのモノを作る筈もないが。
「大事にしよう……」
心の底から、そう思った早苗であった。
視界の端で次から次へと消えていく人妖神の存在はこの際見なかった事にした。
消えた人妖神達が何処に行ったかだって?
彼女等には誰かの為の礎となってもらいました。
まあしれっと復活するから大丈夫!(ギャグ次元的発想)
灯火の星やってたらもう年末やで。
100%クリアしたやで。長かった……。
さて、二週目行くか。