火山が噴火した。
大竜巻が襲った。
隕石が降り注いだ。
太陽が増えた。
大地震で世界が割れた。
蜃気楼に包まれた。
巨大な塔が建った。
雷が降り注いだ。
津波に呑まれた。
剛炎に包まれた。
世界が逆転した。
外の世界と融合した。
悪魔が満ち溢れた。
天が落ちた。
地獄が壊れた。
時間が不規則に揺れ動いた。
氷の世界に閉ざされた。
バケモノが大量に現れた。
何度も、何度も負け、やり直した。共に解決に向かう仲間を幾度と変え、あらゆる手段を試みた。
だが、届かない。
花の王の背中に向かって何度も手を伸ばすが、花の王は私以上の速さで駆け抜けていく。何度も叩きのめされ、私の心は限界に近付いていた。
花の王に傷ひとつつけられず、常に踏みにじられる。そこに希望も光も無い。やり直しを選択する手が重くなっていくのが感じられる。
私は、『終わった今日』と『やり直す今日』の狭間で一人、立ち尽くしていた。本来なら存在しない須臾の空間。そこで揺蕩うように、居た。
なんで、私はここまでして戦うのだろう。絶対に敵わない。絶対に叶わない相手に。もし、私が諦めたのなら、きっと笑顔で誉めてくれるに違いない。よく頑張った、偉いぞ。と。
そんな有りもしない幻想を見ていると、突然声がした。あの憎たらしく、忌々しい女の声が。
「あー、キキキ!よぉハクレイノミコ様!ご機嫌いかがかな?」
「あんた……なんでここに……」
「あー、キキッ!さあて、なんでだろーねー?」
「……」
「おーおー、睨むな睨むな。アタイ自身、なんでこんなとこに居るのかわっかんねぇんだからよ。あの陰陽玉に封印されたからってことはまず間違いねえなぁ。ま、あの頭おかしい性能の陰陽玉を作った奴に感謝するんだな。時空を超えてアタイを封印し続けるイカレ具合だ、頭ん中も相当イカレてるに違いない」
「……何しに来たの」
「あー、キキッ!何度も何度も、花の王に叩き潰されてるバカを嘲笑いに来たっつったらどうすんだ?」
「……好きにしたらいいわ」
「あぁ~?」
「もう、ほっといてちょうだい。私は、疲れたのよ!」
「な~に言ってんだ?まだたった四桁回数も挑戦してねぇじゃねえか。もっと気張れや」
「……うるさい」
「嘗てあの女は何万、何億も花の王に向かっていったぞ?ただのパンヒーが出来てハクレイノミコ様が出来ないなんて事はねえよなあ?」
「うるさい」
「自他共に認める天賦の才能!『主人公』足り得る実力!どっちもあの女が持ち得なかった力だ!そんなお前がたった三桁回負けただけで諦めるってか?」
「うるさい!!あんたに何が理解出来るっていうのよ!」
「出来るよ」
「……っ!」
「出来るんだよ。あたいが、花の王の娘やって何万年経ってると思ってんだ。あたいが、何度花の王に置いてかれたと思ってんだ。手の届く距離にいるのに、何度手を伸ばしてものらりくらりと避けられる。何度付いていっても気がつけば居なくなってる。そのたびにあたいは空虚な気持ちに曝される。今だってそうだ。永く待てば、何時かまた花の王に手を引かれ隣を歩けると思っていたのに、その何時かは永遠に来なくなるって言うんだ。笑えるよな」
「……」
「何度も、何度も手を伸ばして、何度も、何度も諦めた。キキッ!あたいは諦めた回数なら世界一だろうよ。そんな諦めることのプロが、お前にアドバイスしてやるよ。お前が諦めるのは、まだ早い。今が正念場だぞ、気張れよ」
「……」
「あんた、ただのサイコパスクソ女じゃなかったのね」
「ぶっ殺すぞ」
「……お前みたいな不出来で不器用な妹を持つとな、姉は気苦労が耐えねえんだよ」
「ふん、あんたみたいなクソ女を姉に持った覚えなんて無いわ」
「キキッ!お前になくてもあたいにゃあるんだよ。お前の何百回の失敗、お前の何百回もの死は滑稽だった」
「……言ってくれるじゃない」
「滑稽だった……が、あたいの同情心を見事引き出した訳だ。大したもんだ」
「……ふん」
「よく、頑張ったな。霊夢」
「っ!」
「お前はよく頑張った。何度も、何度も花の王に立ち向かったお前は、偉い奴だ」
気がつけば、目の前の女に抱き締められていた。
「『次があるさ』と何度も諦めたあたいにとって、お前の頑張りはとても、眩しかった」
誰にも見せなかった。博麗の巫女ではない、『
「何度も友達と共に闘いを挑んでも、お前は真の意味で孤独だった。何度も目の前で友達が殺され、汚され、朽ち果てて。辛かったろう。苦しかったろう」
嗚咽が、止まらない。
「今だけでいい。今だけでいいから、その辛さを吐き出してくれ……」
嗚咽は、慟哭に変わっていく。
「大丈夫。今は、あたいが味方だから」
「う、ぁぁぁ、っ、あああ、」
止めどなく、思いが口から溢れでてしまう。
「うああぁぁぁ!!ああぁぁ!!ま、魔理沙がぁ、紫がぁ、皆がぁ……!!何度も……何度もぉ!!」
「うん……うん……」
「うっ、ひっぐ、もう、もうやだよぉ……。幻想郷が、何度も、何度も壊されるの……」
自分の内から涙と共に、誰にも見せなかった弱さがこぼれてくる。
須臾の空間の中、延々と涙と辛さを吐き出し続けた……。
「……恥ずかしい所を見せたわね」
「あー、キキッ!どーしたー?もっとねーちゃんのおっぱいに抱き着いていいんだぞー?」
「っ!誰が!」
「お?それともアレか?ねーちゃんじゃなくてかーちゃんおっぱいの方が良かったかぁ?」
「ブッ殺すわよ!!」
「キヒャーハハハ!!可愛かったぜぇ?『はなのおうがこわいよー』ってかぁ!?」
「死ね」
拳を付き出す。クソ姉の顔面に深々と突き刺さった。
「ま、前が見えねぇ……」
「っち、殺しきれなかったか」
「殺意高過ぎやしませんかね」
「……で、どうするつもりだ?」
「どうする?」
「諦めるのか?それともまた無策で花の王に突撃するのか?」
「あたいはなぁ、別に諦めちまってもいいと思うぞ。さっきはああ言ったがな、お前はお前だ。たとえお前が一騎当千の強さを持っていても、花の王は一騎で世界に匹敵する強さだってのは分かってるだろ?それでもまだ戦うのか?」
「……決まってるじゃない」
「私より弱かった零無って奴は花の王に一度勝てたんでしょ?だったら私に出来ない筈が無いわ。それに……」
「それに?」
「私は、独りじゃない。たとえやりなおした記憶が無くても、私には魔理沙や、紫、萃香、レミリアに文、早苗、霖之助さん、他にも数え切れない位の友達がいるわ。そいつらも一騎当千なら、花の王を倒せる確率も高いでしょ?」
「……花の王を倒しても、終わりとは限らないんだぞ?」
「終わるまで、何度も倒すだけよ」
「数を揃えただけじゃ、カカシと変わんねえぞ」
「私の友達は、カカシじゃないわ。皆強いもの」
「結果お前の友達が死ぬ事になってもか?」
「死なせはしないわ。博麗の巫女は、守る事で本領を発揮するんだから」
「……そうかい、ならもう止めはしない。キキキ、さあ行ってきな霊夢。また挫けそうになったらココでまた胸を貸してやるよ」
「何言ってるのよ。あんたも来るのよ」
「……は?」
「あんたも、花の王並に永く生きてて強いんでしょ?それに、花の王に手が届く位置に行くんだから、また手を伸ばしなさいよ。手の届かない所に行かれる前に、その手をしっかりと繋ぎなさいよ。それが出来るのは誰でもない、あんただけなんだから」
「……キ」
「キキ、キヒヒ、キヒヒャハハハ!!キヒィ~ヒャハハハハハ!!キキャハハハハハハ!!キヒャハハハハハハハハハハハハハ!!」
「そうか!ええおい!?何度も、何度も諦めたあたいに!また挑めってかぁ!?」
「そうよ。手を貸しなさい、
「キヒ!キヒヒ!クキキャハハハハ!!これは良い!!傑作だ!あたいを封じておいてなんと都合のいい言葉を吐くんだお前は!キヒャハハハハハハ!!」
「返事は?」
「キヒヒ!良いだろう!ああ!愉快だなぁ!なんて愉快なんだろうなぁ!!ああ、気が変わった!気が変わっちまったよおい!もう傍観者じゃあいられない!良いだろう!イイダロウ!!アタイのゼンリョクを持ってオマエをサポートしてやルヨ!!!」
「……あんたも永く生きてるだけあって気が触れてるのね」
「アタリマエダロウ!?だが、今日は良い日だ!なんて良い日なのだろうか!妹に頼られることがこんなにも嬉しいとは大発見ダなア!!」
「……ま、大丈夫ならいいわ。さあ、『リスタート』よ!」
「キヒヒヒャハハハハ!!!」
「アタイが花の王にマケズ劣らずに理不尽でアル所ヲ魅せてやるよォ!!!」
* * * * *
布団から抜け出る。すぐさまいつも通り巫女服に着替え、外に出ればいつも通り異常な幻想郷が……
「よう霊夢」
「漸く起きたのね霊夢」
「遅いですよ!」
「さあさあ!早く花の王をシバき倒しに行きましょう!」
「魔理沙!?咲夜、妖夢、早苗まで!?」
広がっておらず、何故か4人がそこに居た。辺りを見渡せば、月が輝き、星が煌めいている夜空が広がって……って夜!?
「キヒィヒャハハハハハ!!!」
突如陰陽玉から突き破る様にサイコパス女が飛び出て来た。
「っ!あんた、一体何をしたの!?」
「ああ~?キキキ!決ぃまってんだろォ?『今日を嘘にした』ッ!!アタイにかかりゃぁ世界を欺くなんざ片手で出来んだよ!キヒヒャハハハ!!!」
「んな……馬鹿げたことが花の王以外にも出来るっての……?」
「伊達に億年生きちゃいねえよ!億分の一日程度どうってことねえ!」
「待ったその理屈は流石におかしいぜ」
「そもそも、なんでそんな……『今日』を嘘にしたってのよ」
「キキキッ!さぁぁてなんでだろうねぇぇ。もしかしたらそこの奴等が教えてくれるかもねぇ」
「……どうなのよ?」
「あー……その、ですね……」
「霊夢、その……アレだ。なんというか……スマン!」
「……なによ突然」
「霊夢さん。貴方が幻想郷の為に何度も今日を繰り返して、花の王に立ち向かっていった事を先程
「私達だけじゃないわ。幻想郷の全員が……何度も、何度もこの幻想郷が花の王によって壊されていく様を……」
「言葉にし辛いですが、なんというかふ、と突然夢を見たように体感したというか……知識としては知っているみたいな感じですけど……」
「私らはなんというか、『今までの今日』を記憶してなかったからあんまり実感わかないけどさ。霊夢は全部、覚えていながら……戦ってたんだろ?色んな、色んなコトをされても、挫けずに、諦めずに。さ……。あのな霊夢……あの、あー……えっと……。その、なんだ?あー……さっきまで滅茶苦茶言いたい事があったんだけど全部吹っ飛んじまったぜ……。れ、霊夢!」
前置きも無く魔理沙が抱き着いてきた。思わず踏鞴を踏んだが何とか支えきる。
「な、なんなのよ一体……」
「霊夢!お前、辛かったらもっと私達を頼ってくれよ……!」
「……は」
「友達だろ!?確かに私らには『やり直した今日』の記憶は無いけどっ!それでも、辛かったらこうして一緒にいられるからっ!」
抱きしめるその両腕に力が入っていく。
「寂しいじゃないか……!全部、独りで何とかする必要なんてないんだぜ……」
「ちょ、魔理沙……痛い……」
「そうですよ霊夢さん、私達友達じゃないですか。辛い事も、悲しい事も。ちょっとでもいいから分け合いましょうよ」
「霊夢、貴方が博麗の巫女である事は、貴方だけが無理をしなければならない理由にはならないわ」
「霊夢さん、私達だってこの幻想郷が好きなんです。少しでもいいからそのお手伝い、させてくれませんか?」
「っ……ばか、力……入れ過ぎ……なのよ……。痛くて……涙……でるじゃない……」
「はっ……何泣いてんだぜ……。お前は昔っから……泣き虫……だな……」
「そういう……魔理沙こそ……」
馬鹿ね。
「……おーいお前等、いつまでイチャついてんだダァホが。今日を嘘にしたっつっても時間は無限にある訳じゃねえんだよ、さっさと花の王んとこ行ってボコしに行くぞ。それともアレかぁ?ここで百合の花でも咲かせていきますかってかァ?キキキッ!」
「は、ハァ!?イチャついてないし!ふざけたこと言うのも大概にしておきなさいよクソ女!」
「キキッ!なんだぁ?これからも
「うっさいクソ女!」
「霊夢、貴方って涙腺が弱い上にお姉ちゃんっ子なのね。意外だわ」
「あー、ですよねぇ。なんかイメージとだいぶ違いますよねー」
「異変の事となると鬼神の如き強さですけど、内面はやっぱりちゃんと女の子なんですね」
「……あ?」
待て。こいつ等は何を言っている?
「……魔理沙?」
「あ、あのぉ~、えっと……だな。その~、なんだ?さっき、今までの今日の出来事を見せられたって言ってたろ?それとな……もう一つオマケを見たって言うか、見せられたっていうか……」
「……ハッキリ言いなさい」
「あ~、アレだ。その、あれだ。
幻想郷中に、何もない空間でそこの女と霊夢とのやり取りが配信されてた……的な?」
……え?
「……どこから?」
「『あんた……何でここに……』って所から」
「どこまで……?」
「『さあ、リスタートよ!』ってとこまで……」
「……」
「……全部。全部かぁ……。ふ、ふふ。ふふふふふふふふ」
「だ、大丈夫だ霊夢!大体の奴が鬼の目にも涙的な見方をしてたし!」
「そ、そうですよ!心臓に毛どころか内臓全部に毛が生えてそうな霊夢さんが意外にも泣くことがあるn」
「おいクソ女。これは一体どういう事かにゃーん?」
「おかしいですね、瞬きすらしてないのに気が付いたら音もなく魔理沙さんと早苗さんが地面に沈んでます」
「パーフェクトメイドたるこの私すら気が付けずに殺ったというの……?」
「それ以上にヤベーのは明らかに口調と表情が合ってなgggg」
「霊夢!?ちょ、首!首折れるわよ!?」
「折るのよ」
「折るのは拙いのでは!?」
「そうね、潰さないとね」
「そういう事じゃないでしょああ白目向いて泡吹いて」
ゴシャァ!
「わあ真っ赤な雨ぇ……」
「すごーいヒトって指の力だけで骨を潰せるんですねー……」
◇
「まあ死んでもすぐに復活するんですけどねー!キキキッ!」
「私の許可なく復活するんじゃないわよ頭が高い」
「巫女のする言動じゃないですね……」
「いや、死んで即座に復活するコレも妖精としてはかなりおかしいわよ?」
「オラ、魔理沙も早苗も何時まで寝てんのよさっさと花の王のトコ行くわよ」
「霊夢さぁぁん!?思いっきり蹴り起こすのは止めて差し上げてぇぇ!?」
「言っておくけど花の王ボコした後はアンタ等の記憶が無くなるまでボコすから」
「ちょっとぉぉ!?」
「なんでこの巫女わざわざ敵増やすような事言うのかしら……」
「キキッ!無駄無駄ァ!記憶を無くしてもアタイがまた植え付けてやるからなァ!!」
「アンタは私に何の恨みがあるって言うのよ!」
「キヒヒャハハハハ!!!」
嗤いながら夢想封印を掴み、そのまま握りつぶした。いやぁあんたそれは無いわ。
「キヒ!ヒャハハ!!『何の恨みがある』だァ!?アタイは忘れてねえぞォ……!アタイの事を
「んな……」
しょーもない事を。と続けようとしたが、きっとソレがホオズキの譲れない所なのだろう。ため息を吐く。口に出した言葉は戻せない。これくらいの怒りならば甘んじて受けるしかないか。
「あぁもう、悪かったわよ。でも言っておくけど、私もあの時は結構キてたのよ?」
「キキッ、アタイをボコボコにしてチャラだろ?」
「調子いい事言っちゃって……」
「……やっぱりお姉ちゃんっ子なんですねぇ」
「妖夢、貴方も
「ぐ、お……おぉぉ……」
「ぅあはぁ~……おほしさまがきぃらきらぁ~……」
「ほら、あんた達なにぼさっと突っ立ってんのよ!さっさと行くわよ!」
「調子いいのはどっちなんだか……」
「なんて!?」
「何でもないわ。さあ行きましょう世界樹に行きましょう」
「……咲夜さん……」
向かうは南。偽りの今日を征く一行は未だに明けぬ夜の中を飛んでいた。
「結局、『今日を嘘にした』ってどういう事なんだぜ?」
「キキッ!アタイの『嘘』は本物以上のクオリティを持つ!霊夢が今日をやり直すタイミングで一日を嘘にした!するとどうなる?」
「……どうなるんです?」
「キキキッ!アタイの嘘は世界をも欺く!それはつまり、花の王も欺けるって訳だ!時を止めようが戻そうが常に同じ時間を生きるアイツは今頃、虚構の今日で幻想郷を攻撃してるだろうよ!……だが、虚構の今日で幻想郷を壊した時、アタイの嘘に気が付くだろう。だからそれまでに戦力を集め、一気に叩く」
「……あの、今更ですけど、妖精一匹が世界を欺くなんてそんな……大それたことが出来るのですか?」
「キキッ!現人神、オマエんトコの神は確か乾と坤を司るんだったか?成程そりゃあ凄い。大した神格だ」
「えっ、はぁ。ありがとうございます?」
「キキキッ!偉い神は世界に対して何らかの影響を与えることが出来る。だが、忘れるなよ?妖精は
「同一にして異なる……何言ってるんです貴方」
「……キキッ。オツムの足りないザコ妖精にゃぁ分からない事だからなぁ?」
「それ言外に妖精並の頭だって言ってるんですか買いますよ喧嘩なら」
「馬鹿な事やってんじゃないぜ。それよりまだ質問の答えが足りてねーぞ。何で私達が『今までの今日』を知ることになったんだよ」
「キキッ!そんな事なら至ってシンプル!花の王を欺いたと同時にこの幻想郷も欺いた!霊夢が何度もやり直した『今日』は、霊夢にとっては過去の事。だが、世界にとっては訪れなかった未来、起こり得ない可能性、実らなかった
「さっきから例えが主婦染みてるわね……」
「キキッ!こう見えて経産婦だぞアタイは」
「「「「!?」」」」
時の止まった夜を征くのはいつぶりだろうか。あの時は紫が夜空を止めたけど、今はホオズキが止めている。
制限時間は……勘だが、あまり残っていない気がする。
そう、思った矢先。忌々しくも荘厳に、壮麗に、雄大に構える世界樹が見えた。
世界樹の中と外を結ぶ洞。その前に、多くの妖が私達を待っていた。
* * * * *
「よぉ~シスコン霊夢ぅ~元気ぃ~?」
「霊夢さん!幻想郷中に意外な一面を知られた事に対して一言お願いします!」
「オイオイオイ」
「死ぬわアイツ等」
「とか言ってる間に無言で地面に沈みましたよ」
「オカシイ人を亡くしたわ……」
「人じゃねえぜ」
「次その事に触れたらその首捥いであげるから」
「巫女の外道化と人外化が凄まじいのですがその辺どう思います萃香様」
「いやぁ、霊夢は元からこんなんじゃなかったかな?」
「……」
「あの、霊夢さん?無言で地面に埋め続けるの止めてくれません?もう身体半分沈ん出るんですけど」
「霊夢ぅ、私なんか首まで埋まってるんだけどぉ?」
「……」
「すみません、先の事は謝りますんで、ほんと。頭を押さないでください。地面に沈めないでください」
「霊夢ー!?私もう頭まで沈んでるんだけど―!?」
「……見せしめに■すか」
「霊夢さん!?今不吉な言葉を吐きませんでしたか!?」
「ちょっと霊夢!?結界使って固められたら出られないんだけど!?」
「霊夢、何時まで馬鹿やってるのよ」
「……紫」
「紫ー!助けてくれー!」
「あやや、紫さぁん!」
「こんなんに使う時間は無いわ。それにそんなんでも貴重な戦力なんだからさっさと解放してあげなさい」
「……」
「流石呼ばれて飛び出てゆかりちゃーん!」
「情緒不安定さに定評のある紫さん流石です!」
「忘れなさい。いいわね?」
「紫……」
「霊夢が同類を見つけて安心した猫みたいな目してるぜ」
「黒歴史を持つ者同士で傷の舐めあいって訳ね」
「何時まで茶番を続けるつもり?いい加減さっさと花の王を倒しに行くわよ」
「と言うか私的にはそこのクソ妖精に用があるんだけど?」
「あ~?キキキッ!ぽっと出の吸血鬼風情がなァんの用だって?」
「こんな纏まり具合で花の王を倒せるウサかねぇ……」
「ぼやいたってしょうがないでしょてゐ。私達だけじゃあ花の王の足元にも及ばないんだから」
「師匠がそこまで言う程の相手なんですか……」
「イナバ、ハッキリ言ってアレは間違いなく最強よ。全ての頂点にして異なる位、王を名乗るだけの事はあるわ」
「……あぁ、この空間に厄が溜まってきたわぁ」
「何でもいいですがソレ、こっちに伝染させないでくださいね」
「あ~あ、河童代表なんぞにならなきゃ花の王相手に喧嘩売る事も無かったんだけどなー」
「……さっきまで花の王に冷凍保存された恨みをどうのとか言ってませんでした?」
「さ、さーて、装備の最終チェックしなきゃな。前みたいに使う前に死ぬとかシャレにならないし」
「ったく、地震は私の専売特許だっていうのに。博麗神社の要石引っこ抜こうかしら」
「止めてください。これ以上場を引っ掻き回すのは」
「分かってるわよ。ったく……ま、なんにせよ花の王を倒さないと明日が来ないってんならやるしかないでしょ」
「うぅ……花の王怖い……花の王嫌い……」
「お姉ちゃん……無理だったらお家帰ろ?ね?」
「さとり様、吸血鬼より日光に弱いんですから無理しない方が……」
「そう言う訳にもいかないわ……花の王に一発入れるって決めてたんだから……」
「うにゅ……さとり様の貧弱体力じゃ無理なんじゃ」
「お空?」
「……壮観ですね」
「これだけの妖怪達が宴会以外の目的で集まるなんてそうそう無いでしょうに」
「それだけ幻想郷が愛されてるって事よ。よかったわねぇ紫」
「……ええ。だからこそ、これ以上幻想郷を傷つける事は許さないわ。相手が、花の王でも」
「……花の王は、本当にこの世界を壊すつもりなのでしょうか」
「藍、花の王の目的がどうであれ、手段として幻想郷を壊すというのなら止めなければならないわ」
「……はい」
「にしても妬けちゃうわねぇ、こんなにも狂おしい程に花の王から求められるなんて。その零無って子はどんな人なのかしら?」
「……さあね、遥か昔の事だし、零無も特徴らしい特徴なんて無かったから忘れちゃったわ」
パンッ、と拍手を一打ち。それだけでザワザワと続いてた話を打ち切った。数多もの視線が私を貫く。
「さて、あんた達。この場に居るって事は、全員が花の王に戦いを挑むって考えで合ってるわね?一応言っておくけど、花の王は幻想郷でも随一の理不尽な強さを持ってるわ。私や、紫でさえ瞬殺される程のね」
「戦えば、まず死ぬわ。それでも、私と一緒に戦ってくれる?」
返答は、叫び声だった。
「あったりまえでしょ!あの糞ヤローに一発ブチかましてキュってしてドカーンじゃ済まさないんだから!」
「フラン、口悪いわよ。でも私も同じ気持ちよ、霊夢」
「永い付き合いだけどいい加減お灸を据えようと思ってたところよ」
「花壇にされた恨みは忘れちゃいないわよ」
「いや、姫様貴女師匠に押し付けたんじゃ……」
「天狗代表として花の王には一度話を付けないといけないですからね」
「援護は任せろ椛!」
「お前も前で戦うんだよにとり!」
「私の緋想の剣でぶった切ってやるわ!」
「いやそれ総領娘様のじゃ……もういいです」
「ややややってやるわよ!」
「お姉ちゃん大丈夫?ぽんぽん痛くない?」
「覚妖怪がトラウマ持ってちゃ世話ないぜ」
「アンタ等……」
「ふふっ、霊夢。全員をまとめ上げる事出来そうかしら?」
「まとめる必要なんて無いわ。それぞれが好き勝手にやるのがきっと一番いい方法だから」
「……そうね」
「紫、死ぬんじゃないわよ」
「当たり前よ」
覚悟を一つ決めると、夜が明けて太陽が昇り出した。
「っち。花の王がいよいよ本格始動しだした訳だ。てめぇ等、もうこっから先はいつ死んでも可笑しくないぞ。気合い入れろよ」
「アンタが仕切るんじゃないわよクソ妖精」
「あ”ぁ?」
「やめい」
「……本当にまとめる必要はないかしら?」
「……ま、何とかなるでしょ。ほらあんた達!花の王が襲ってこないうちに城に襲撃掛けるわよ!」
「巫女の言動じゃねえよなぁ」
ふ、と辺りを一瞥してみた。
「霊夢、行こう」
「……ええ」
きっとコレが、最期。これで勝てなければもう勝つ事は出来ないだろう。不退転の決意を抱いて、世界樹の洞を潜った。
さあ、今日が始まる。
終わりが近い近いと何度も書いてますがもちっとだけ続くんじゃ。
妖怪勢は描写しきれてないですがもっとずっと居ます。さらっと登場するかもしれません。
次回、幻想郷vs花の王国軍
自身の望みと行動は必ずしも一致するとは限らないのです。