花を咲かせましょう   作:輝く羊モドキ

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いやほんとどうしたんだ私の両手ェ!?
なんか昔の投稿速度に迫ってきたじゃねえかオラァン!?
ヤバみを感じる今日この頃。

まあ、この辺りの話はだいぶ前から書きたかったってのも有りますがね!!




時間制限は今日が終わるまで。残機は自分の決意の分だけ。ルールはこれだけだ。

「っっ?!!」

 

 布団を蹴り上げ飛び起きる。つい先程までの感覚は既に無くなっているが、記憶は確かに残っていた。

 思わず首を擦る。まるで先程の光景が夢であったかのように脳裏に鮮烈に焼き付いている。

 

 私の首を持ち上げ、圧し折るようにゆっくりと力を込めていく花の王の、歪に曲がった笑顔が。

 

「っ!……スゥー。ハァー。スゥー。ハァー」

 

 よっぽどさっきの光景がショックだったのか、まともに動かない肺をゆっくり動かす。心がすごく痛い。育ての親に明確な殺意を向けられることがここまで辛い事だとは想像もしなかった。

 

 今日は、このまま布団に戻って籠りたい気分だった。

 

 

「霊、霊夢!霊夢ー!!!起きろォ!!!」

 

 魔里沙が突然私の自室に飛び込んできた。

 ……はて、この時間に魔里沙が飛び込んできたのは今までの『今日』では一回も無かったはずだけど。

 

「っていうかなんであんたそんなビショビショなのよ。外そんな大雨だったの?」

「お、お前、こそ。なんでそんな、呑気に、いられるんだよ!」

 

 ぜえぜえと肩で息をしている魔里沙は外を指差し、

 

「げ、幻想郷がっ、幻想郷が!!」

 

 と必死に訴える。仕方なく私は寝巻きのまま外に出て、辺りの様子をうかがう。

 

 天気は晴れ。風速1メートル。日射しはいつも通りで……

 

「……えっ?」

 

 

 眼下の景色は海に沈んでいた。

 

 

 

『東方偉世界~Paradise in The Ocean.』

 

 

 

 博麗神社。冥界。妖怪の山。天界。それ以外は全て海の底に沈んでいた。遠くに見える巨木に目を向けると、名もなき妖怪達が必死に木にしがみついていた。

 

「朝起きたら家どころか魔法の森が水の底だ!まだ夢の中かと思ったぜ!」

-水も滴る普通の魔法使い-

霧雨魔里沙

 

「この水……しょっぱいわ。多分海水よこれ」

-七曜の水中脱出マジシャンガール-

パチュリー・ノーレッジ

 

「うぅ~ん。海水はめちゃくちゃ機械に悪いんだよな」

-河童の海流れ-

河城にとり

 

「だいぶ生きて来たけどこんな状況は流石に初めてだ」

-燃えない不死鳥-

藤原妹紅

 

「というかなんでアンタ等うちに来てるのよ」

-見る影もない楽園の巫女-

博麗霊夢

 

 博麗神社には5人の人、妖怪、魔女が顔を突き合わせている。三人寄れば文殊の知恵というが、こんな奴等じゃあ何人寄ってもダメそうだ。

 

「何が問題かって、一切の予兆無しに突如この海水が幻想郷中に満たされた事よ。普通これだけの水を何処からか持ってくるにしても、造り出すにしてもまず少しづつ水位を上げていく物じゃない?」

「私、昨日はずっと機械作りに熱中してて寝てないけど、本当に気が付いたら海の底に居たんだよ」

「迷いの竹林も似たようなモンよ。しかもどうにもこの海の上は空を飛びにくいったらありゃしないわ」

「……里の人間達は大丈夫かな……」

「そもそもこんな一大事にスキマ妖怪は何をしているのかしら」

「誰がこんな事仕出かしたのかわかんないけど、塩水とか絶対植物に悪いわね」

「花畑とか壊滅不可避……あっ(察し」

「この異変が解決されるのも時間の問題かな」

 

 違う、むしろ主犯は花の王だ。と声に出して言いたい。だが証拠も無ければ、花の王がやったと言えるだけの状況でもない。ありえないのだ。花の王がやったと思うことも。花の王がこんな状況にする事も。

 幻想郷のほぼ全てを海に沈める。そんな事をすれば必然花の王が大事にしている花だって海に沈むのだから、そんな事をする訳が無い。そんな事をすると思われるはずもない。むしろこの状況を解決する側だと、誰もが考える。

 何とかして花の王の居る場所に向かわないと……だが、どうやって。この海の上を飛ぶ事は難しく、常に『何か』が纏わりついてくるような感覚らしい。そして、この海の中には見たことも無いような生物がうようよ居る。泳いでいくのも現実的ではない。

 

「紅魔館の連中はどうしたんだパチュリー」

「……私以外は全員地下に籠ってるわ。妹様を閉じ込めていた結界が、全員を守るシェルターになるなんて皮肉よね」

「吸血鬼は流水に弱いんだったか。永遠亭の奴等は何処に行ったんだか、私が溺れ死にながら向かったんだが誰も居なくなってたよ」

「山の天狗達はこの海を飛べないみたいだけどなんかずっと騒がしかったよ」

「……此処に居ない奴らも無事だと良いんだけどな」

 

 あーだこーだと話し合う四人。すると何処からともなく歌声が聞こえて来た。歌声と言えばミスティア・ローレライ……だが、聞こえてくる声はどこか中性的で、ミスティアの声とは全く違う。

 

「……なんだこの声?」

「あ、アレ見てよ!」

「ん……?ありゃ……舟か?」

 

 この広い海の上を、いつの間にか小舟が揺蕩っていた。いや、揺蕩っていたというより、ゆっくりとこっちに向かっている。

 小舟の上には黒い襤褸切れを着た人?のようなモノが乗っていた。一本の竿を使い、ゆっくりと、ゆっくりと神社に向かって来る。

 

 

ギィ

 

 

ギィ

 

 

「ラララ……ラララ……。やぁ、どおも」

「お、おう」

「……貴方、何者?魔力……のようで魔力じゃない。かといって霊力でも無ければ妖力でもないわね、その纏ってる力は何?」

「ふうむ、纏っている力ねぇ。それは分からないなあ。興味もないし。強いて言うなら……原初の力?まあどおでも。僕は渡守。遥か昔に陸から陸へ繋げた役割を持った。よおろしく」

「渡守……?」

「そおさ。昔々の話なんだけど、超でっかい大陸があってね。僕はそことそれ以外の小島を行き来してたのさ」

「なっ、つまりアンタも花の王並の長生きさんか!?」

「花の……?ああ、あの。まあそおとも言えるし違うともいえる。僕は人が自力で海に繰り出した時に存在意義を無くし、そして死んだ。何の因果かこおしてまた復活して、渡守をやってる。不思議だねえ」

「……アンタは、何者なんだ?」

「……ラララ。僕は渡守。ただ、まあ君達的に言えば僕は妖怪みたいな、神様みたいなモノかな」

「妖怪」

「神様」

「そう、僕は遥か昔にあらゆる陸の生き物の『海に出たい』という信仰とも言える心から生まれ、希われた。そおして生まれたのが僕さ。ラララ」

「……成程ね。つまり海への畏れ、海への信仰がアナタを形作ったと。だとしても分からないわ。何故そんな貴方が魔力の様でそうでない力を持ってるの?」

「ラララ……。それは僕があらゆる陸の生き物の心から生まれたからさ。今の妖怪や神様は主に人間だけの信仰、畏れで形を成しているからある意味で純粋だけど、僕達の時代ではもっと混沌としていたのさ。この力は願いの力。想いを、夢を、成し遂げる。そんな曖昧な力さ。魔力や、妖力、霊力の様に色々な事は出来ない。でも、たった一つの事だけを成し得られるそんな力。原初の力さ」

「じゃ、じゃあアンタならこの海を超えられるのか?」

「勿論、僕は渡守だからね」

「なら乗せてってほしい所があるんだけど」

「……霊夢?」

 

 この海の上では飛べない。舟ならある。つまり、そういう事でしょ花の王。

 

「世界樹まで乗せてきなさい」

「ラララ……お安い御用さ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「二人乗るのがやっとの舟が一気にデカくなった……」

「魔法っぽいけど、魔力反応は一切感じなかったわね」

「ラララ……それが願いの力、原初の力さ。海に出たいと願うなら、この舟は何人でも乗せられるよ」

「はぁー。そりゃすげぇ」

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

「ねえ、この舟分解してみていい?」

「おい止めろ。現状唯一の移動手段壊そうとすんじゃねえ」

「えー。でも河童にかかればどんな海でもぶっ飛んでいく高速船とか簡単だよ?」

「ラララ……それはよしといた方が良いよ。何故ならこの海は原初の海なんだからね」

「原初の海……って何よ?」

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

「今より遥か昔、世界は超大陸パンゲアとそれ以外の海って分けられてた。もちろん、僕が主に行き来していた小島も海って扱いだったよ」

「だからなんだってのよ」

「ラララ……。希われて僕が生まれるくらいなんだ。当時生きていた知的生命体以外にも海を目指し、海に出た生き物は幾らでもいた。だがそんな彼等は全て海に()()()()

「海に……!?」

「喰われた……!?」

「おいおい……流石に比喩だろ?」

「いいや、海に喰われたのさ。確かに当時の海は、其処に住まう生物もとても凶暴だったけども、それ以上に凶暴だったのは海そのものさ。なにせ海を泳ぐ陸上生物を飲み込み、空を飛ぶ鳥をも飲み込むくらいだ。故に原初の海では飛べないし泳げない。そういう畏れが生まれたのさ。まぁ現代の君達にとっては飛びづらい、泳ぎ辛い程度だろうけど、それでもこの海と海上は危険地帯なのさ、僕の舟以外はね」

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

「あー、つまりアレか?この舟に乗っていれば安心安全って事か?」

「ラララ……まさか。当時の海の生き物も海に負けず劣らず凶暴さ。自分以外は全て食料と思ってるような奴等さ。この舟なんか一飲みだよ」

「何ぃ!?そういう事は舟を出す前に言え!!」

「ラララ……」

「歌ってごまかしてんじゃないよ!!」

「……ちょっと、騒いでる暇なんて無いわよ。舟の下見てごらんなさい」

 

 パチュリーの言葉に従って舟の下を覗いてみる。魚ではない、何かが此方を窺っているのが解かる。

 

「どうやら奴等私達の事をゴハンだと思ってるようね」

「呑気な事言ってる場合かよ!?」

「……ま、私最悪死んでも復活するし」

「う、うおおチクショウ!?河童の科学がこんな原始生物なんぞに負けるかァ!?」

「ラララ……僕の役割は舟で運ぶだけ。荒事は専門外だよ。それにこの舟も見た目通りの耐久力しかないから壊れたら御終いさ」

「オイ!?もうちょっと何とかならないのか原初の力って奴で!?」

「無理だよ。言っただろお?願いの力は万能じゃないのさ」

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

「……何にせよ、この舟を守る為にはアイツ等を撃退する必要がある訳ね」

「だったら話は早いわ。この舟から一旦降りて、海の中で奴等を叩きのめす。一番手っ取り早い方法ね」

「ラララ……僕は舟の上から応援してるよ」

「……わりいな、私もパスで」

「お前も働くんだぜ不死人」

「馬鹿言え!炎属性の私が海でなんかできる訳無いだろいい加減にしろ!」

「この舟の代わりに食べられて囮にでもなれよ」

「この魔女辛辣なんですけど!?」

「何でもいいわよ。とりあえず水中でも呼吸できるようにはしてあげるわ」

「お、サンキューパチュリー」

「貴方も魔女ならこれくらい自分でしなさいよ……」

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

「あらかじめ言っておくけど、海の中じゃぁいつもの調子で弾幕を張るなんて到底無理よ。それにこの舟を守らなきゃいけないんだから、調子乗って弾幕張ったらこの舟に当たった……なんてことにならないようにね」

「はっ、そんなアホな事する奴なんて居る訳無いぜ!」

「アンタに行ってるのよ魔理沙」「んなぁ!?」

「いや、夫婦漫才はいいから「「誰が夫婦よ(だぜ)!」」ひゅい!?」

「アンタ達呑気で良いわね」

「霊夢に言われたらおしまいだ」

「あぁん?」

「そこ!喧嘩しない!この海のど真ん中に投げ出されたら相当拙いわよ!」

「解かってるよ!さぁ、今日は海産物パーティーだ!」

「いや、アンタ海の中じゃ炎使えないでしょ……」

「不死人って大変だね」

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

ざぼん ざぼん

 

 

 

 

 

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

ざばぁ

 

「ラララ……お帰り。戦果は如何程かな?」

「ん……まぁ思ったよりは弱かったが……な」

「目、目がしみる……」

「口の中が超しょっぱいぜ……」

「海の中で弾幕宣言するなんて馬鹿じゃないの?」

「うるせっ」

「げほっ、ゲホッ、ぐっ、ゴボッ、ゲボッ!」

「一人死に掛けてるじゃないか……」

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

「おや、アレは船……かな?僕の知っている物とはずいぶん違うけど」

「うん、ありゃぁ……いつぞやの宝船じゃないか」

「なによ、空飛べてるじゃない」

「……でもアレ前に見た時より遥かに遅いみたいだな」

「空飛ぶ船かぁ、分解したらどんな構造かな?」「お前そればっかだぜ」

「あら、よく見たらあの船に沢山の人間が乗ってるみたい。まるでノアの箱舟かしら?」

「あ!慧音!!無事だったか!!」

「あの先生がいるって事はアレに乗ってるのは盟友達らしいね。良かった~」

「ラララ……アレは危ないね。海の良い餌食だ」

「え?それって……」

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

ぎぃちゃぷん

 

ぎいちゃぷん

 

「ラララ……さあ来るぞ。海が本格的に動き出した」

「な、何が始まるんだよ……!」

「ラララ……海は貪欲に、強欲に、そして無欲に全てを欲っした。そして全てを飲み干した。その身を武器として」

「おい、だから何が始まるんだよ!」

「ラララ……海の怒り、すなわち……津波。勿論、君らの知る規模ではない。宇宙との境界線まで届く高波だ。さあ、船に掴まって。死にたくなければね」

 

ちゃぷん

 

ちゃぷん

 

ざぷん

 

ざぷん

 

ざぷん

 

「な、何が起きてるんだ!?」

「木が伸びて……?いや、まさか、水位が下がっていっている……?」

「ひゅ?!う、おお……!?海が、干上がっ!?」

「……嘘でしょ、地平線が……埋まってる……?」

「ラララ……ラララ……原初の海は嘗て最も大きな『生命体』だった。名前だけなら聞いた事あるんじゃないかな。原初の海は嘗て其の名は無かった。ある時一人の男が名前を付け、海となり、『生命体』となった。ラララ……その最も巨大な命の名。ラララ……」

 

『レヴィアタン』

 

「れ、レヴィアタン……!?」

「知っているのかパチュリー!」

「逆になんで貴方が知らないのよ!レヴィアタンって言ったら聖書に出てくる怪物でしょうが!水魔法を極めていけば必然的に知る悪魔の1柱でもあるわ!強力な水の魔術式を構築する時にはまず必ず使われる悪魔よ!って言うか魔理沙貴方が盗んでいった『海魔深淵の書』に記載されていたでしょう!何で知らないのよ!?」

「二回も言わなくていいだろ!?いやだって……先に光魔法の方解読したかったし……」

「あーもうこれだから人間はぁ!!」

「ラララ……言いづらいけど、魔女。君の知っているレヴィアタンとあの『レヴィアタン』は違う……と言おおか、オリジンと言おおか。あの『レヴィアタン』は嘗ての昔、人間と呼ばれる知的生命が海に出て、海を制した時と同時に死んだ。ラララ……。程なくして役目を終えた僕も死んだが、確かにあの時『レヴィアタン』は死んだ。恐らく魔女、君の言うレヴィアタンはその欠片の屑が何らかの魔法的要因で悪魔と化したモノ、劣化コピーと言うのすら烏滸がましい程度だろう。何故なら『レヴィアタン』にとって、現在の大陸と呼ばれる程度の島を沈めるのは実に簡単な事なのだから。ラララ……」

「そ、そんなモンが何で今この幻想郷に……?」

「ラララ……それは知らない。きっと僕がこおして復活したのと同じ理由なんだろおさ。ほおら、津波が来るぞ」

 

ざぷん

 

ざぷん

 

 

 

 

 

 

ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ

 

 

 

「っ!っ~~~!!」

「っ~!?」

「~~~~!!」

「っ!?っ!!」

 

ラララ……

 

ラララ……

 

ラララ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃぷん

 

ちゃぷん

 

「ラララ……。やあ、津波は過ぎ去ったよおだよ」

「……」

「……」

「……生きてる」

「……生きてるぜ」

「……あ、た、宝船は!?」

 

 

「……無い。何処にも……見当たらない」

「……おい、それどころか……妖怪の山は何処行った……?」

「……山どころか……陸一つ何も見えないわ」

「……目に見えるのは、太陽と、海……だけ。は、ははっ……こりゃなんかの夢かねぇ?」

「う、嘘……だろ……?慧音は……何処に行った……慧音……?」

 

 

「ラララ……言っただろお?()()()()()()って」

 

 

「ふ、ふざけんな!!ふざけんじゃねえ!!!こんな、こんなことあってたまるか!!」「ぐっ……」

「落ち着きなさい不死人!渡守に掴みかかってもしょうがない事でしょう!?」

「だけど!!でも!だって……!コイツが……もっと早く……慧音ぇ……」

「……渡守はあの津波から私達を守ってくれた。それで良いでしょう……?」

「っ……どうしてっ!何で私が生き残ってっ!慧音が死ななきゃいけないんだっ!畜生!ちくしょう……!」

「……少しは気が晴れたかい?ならこの手を放して欲しいんだが」

「……」

 

 

 

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

「……落ち着いたかしら。なら先を急ぐわよ」

「……おい霊夢、流石にそれは冷たすぎやしねえか。目の前で、すぐそこで、人が死んだんだぞ……!」

「……盟友」

「馬鹿ね。津波に飲み込まれた……ように見えただけよ。そうでしょ?紫!」

 

 

 だいせいか~い。さすが霊夢ねー。

 

 

「っ!スキマの!?どういう事だよ!」

「……成程。見ないと思ったら」

「っ!ビックリさせんじゃねえぜ紫!お前、さっさと出てこい!」

 

 はいはい、ちょっと待ってなさい。

 

 そう言っていつも通りの光景。スキマからぬらりと出て来たゆか……紫?

 

「はーい呼ばれて飛び出てゆかりちゃーん♪ゆかりんでーす!」

「何この頭のおかしいナマモノ」

「四季異変はとっくに解決されてるわよ」

「可哀想に。賢者様の頭の中が腐っちゃったんだね」

「お前……どうしたんだ」

「……」

「ラララ……」

「異体同心の目が痛いッ!何なのアンタ等気が合い過ぎじゃないかしらッ!?」

「なんで貴方生きてるの?」

「ものすごい暴言に聞こえるんですけど!?」

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

「ちょっとー!幻想郷壊滅の危機を救った紫さんを褒めたたえてくれる人はいないのかしらー!?」

「ヤバいぜ。なんかこの紫いつもの胡散臭さが消えて精神退行してやがるぜ」

「あーもーつ~か~れ~た~!!何なのよ意味わかんないんだけど!起きたら急に幻想郷全域が海に沈んでるし、結界ほぼ壊れかけてるし、人里壊滅してるし!何とか人間一纏めにして命蓮寺に突っ込んだと思ったら今度は何よあの津波は!死ぬわ!幻想郷が死ぬわ!仕方ないから船に変化した命蓮寺ごと天界に突っ込んどいたわよ!」

「天界に突っ込んどいたって……それ平気なのか?」

「じゃあ……じゃあ慧音は生きてるのか!?」

「な、何よ急に。生きてるわよ……むしろ死んでたらこっちが困るわ」

「そうか……!そう……か……。良かった……よかったよぉ……」

「え、えぇ……なんかいきなり泣き出したんですけど、情緒不安定?」

「え、それお前言う?」

 

ぎぃ

 

ぎぃ

 

「で?この舟は何処に向かってるのかしら?」

「ああ、今世界樹に向かってる……らしい」

「らしい?」

「何でか盟友が世界樹に向かえって言ったんだよ。花の王に救けでも求めに行くのかな?」

「……は~ぁ。バカねぇ河童は」「何だと!?」

「花の王がこの異変を起こしたって、そう考えたんでしょ?霊夢」

「そうよ」

「……ハァ?!いや無い無い!それは無いって!だって考えても見てよ!こんな海に花が沈んじゃったら塩害で絶対枯れちゃうよ!」

「まぁ、そうね。でも少なくても幻想郷を一瞬で海に沈めることが出来る奴が居るとしたら、それは花の王しか居ないでしょ?」

「いや、そうかもしんないけどさ……でも、花の王がこんな大異変起こす理由がないでしょ!?」

「理由が無くても思いつきで起こしたとかでしょ絶対」

「……紫お前、花の王に何か恨みでもあんのか?」

「……逆に無いとでも?」

「えぇ……」

 

「ラララ……皆さん、間もなく世界樹に着きますよ」

 

「うっを、いつの間に……」

「ラララ……僕にとって海上は何処も同じ距離です故に。それでは皆さん頑張ってらっしゃい」

「……しっかしあれだな。よく考えたら世界樹の中への入り口ってこの海の下にあるんだよな。どうやってそこまで行くか」

「なあ渡守、この舟で下まで潜れないのかい?」

「ラララ……僕は渡守。陸と陸を結ぶのが仕事であって海の底に沈むのは仕事じゃないね」

「ちぇ」

「あら、こういう時こそ紫ちゃんの出番じゃない?

 お、漸くわたしの出番ね!任せなさい!

 いよっ待ってましたゆかりちゃーん!」

「……アンタ……」

「……何も言わないで霊夢。お願いだから……」

「そっとしておこう。しぬほどつかれてるんだ」

 

 紫が世界樹の幹に扇子をすり当てる。すると其処が裂け、大きな入り口が出来上がった。

 

「さあ、ガンガン行くわよ!あのクソジジイの横っ面ぶん殴ってやるんだから!」

 

 幻想郷を壊滅させるような大異変を起こしておいて、横っ面をぶん殴るだけで済ませる紫は、やはりなんだかんだで花の王を信頼しているのだろうか。花の王が無意味にこんなことをする訳が無いと。こんな事をしなければならない理由があると。そう、思っているのだろうか。

 私は、そんな紫を直視できなくて、目を背けた。

 

 

 背けた先、混ざり物の無い海の底に、見覚えのある緑色の髪が見えた。

 

「……幽香?」

「霊夢ー!なにしてんだー!置いていくぞー!」

「……まぁ、いいわ」

 

 花の王に。本気の、花の王に勝たなければ、私の、幻想郷の未来は無いのだから。

 

 

 

 

 

 気が付けば、天を仰いでいた。

 

 一瞬。そう、一瞬だった。

 

 紫が、道中が面倒だからと、スキマを使って直接玉座の間への道を作り、其処に全員で飛びこんだ。

 

 着地。直後鮮血に染まる視界。

 

 舞う妹紅の髪、何が起きたのか全く理解できない魔理沙、にとり、パチュリー。

 

 刹那で反応出来た紫は、退くと同時に()()()

 

 にとりが手元のスイッチを押す。なんのスイッチなのかは分からないが、何か緊急用だったのだろう。

 

 しかし機械が起動する前に、飛んできた水を浴びて()()()()()

 

 パチュリーと魔理沙が同時に魔法を唱える。

 

 最初の一言。その初めの発音を発する前に二人とも喉を潰され、両腕を折られた。

 

 ()()()()。そう意識した瞬間、視界が揺らぎ、顎の骨が砕けた。蹴られた……のだろうか。

 

 そうして、天を仰いでいた。

 

 揺らぐ視界の隅で妹紅が水の球に囚われ、透明だった水が見る間に赤く、紅く染まっていく。

 

 ヒュッ、ヒュゥと聞こえる音は、魔理沙かパチュリーが何かを話そうとしているのだろうか。

 

 にとりと、紫の気配が一切感じられない。にとりは、まるで今にも迎撃せんと言わんばかりの迫力を持った氷像となり、紫に至っては何処に居るのかすらも全く分からない。空間に融けてしまった。

 

 コツ。コツ。靴が床にぶつかる音がする。

 

 コツ。コツ。

 

「霊夢、これで()()()だ。さて、俺の前で10秒立ってられるのは、何回目の()()になるかな?」

 

 最期の視界には、揺れる()()()()()()の髪が映っていた。

 

 

 

 ぐしゃり

 

 

 

 

「ゲームオーバー。だが当然、リトライするだろう?」

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

「っっ?!!」

 

 布団を蹴り上げ飛び起きる。つい先程までの感覚は既に無くなっているが、記憶は確かに残っていた。

 思わず額を擦る。まるで先程の光景が夢であったかのように脳裏に鮮烈に焼き付いている。

 

 私の頭を踏みつけ、踏みつぶす様にゆっくりと力を込めていく花の王の、歪に曲がった笑顔が。

 

「はっ、ハッ、はぁっ、ハァッ、ふぅっ、ふぅー、ふぅー。……ふぅー」

 

「……生きてる」

 

 痛い。踏みつけられた頭も痛いが、それ以上に心が痛い。挫けてしまいそうだ。だが、それでも戦わなければ、生き抜かなければ、花の王を、倒さなければ。

 

「……倒して、どうするってのよ……」

 

 倒しても、倒しても。花の王の心が折れて無ければまた、立ち上がる。強靭で、頑強な花の王の心をどうやったら折ることが出来るのか、勝つ事が、出来るのだろうか。今まで勝ち続けてきた博麗の巫女が、花の王に勝てるのか。

 

「……ふっ、ふぅっ、っ、グズッ」

 

 涙が溢れ出てくる。痛い。痛いのは嫌だ。花の王に殺意を向けられるのは嫌だ。花の王に痛めつけられるのは嫌だ。

 

「うぅ、ぅぅぅぅ、う、ぇぇぇん」

 

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 でも、それ以上に。

 花の王に会えなくなるのは、もっと嫌だ。

 

「う、ううう”う”う”」

 

 もう、一人っきりの布団でぼろぼろと泣くのは嫌だ。

 

 もう、一人っきりの食卓でぼろぼろと泣くのは嫌だ。

 

 もう、一人っきりの神社でぼろぼとと泣くのは嫌だ。

 

 目を擦る。袖はグショグショになったが、大丈夫。私は、大丈夫。

 

 自室を飛び出て洗面台に向かう。ざばざばと顔を洗い、水を拭き取り、鏡を見れば、博麗霊夢。

 

 そこに、泣き虫の少女は居ない。

 

「勝つ」

 

 ぼそりと。

 

「勝つ」

 

 ぽつりと。

 

「勝つ!」

 

 はっきりと。

 

「勝つわ!」

 

 しっかりと。

 

「博麗霊夢は、花の王に勝つわ!!」

 

 宣言する。勝つ。そこに道理も、理屈も、理由も要らない。勝つから勝つ。

 

 胸に決意を抱いて、まだ暗いうちに朝餉を食べて気合いを入れる事にした。

 

 

 

 

 ()()()()……?

 

 

 

 

 おかしい、いつも起きる時間はほぼ一定だと言うのに、『前回』と『前々回』は起きる時間が()()()()だったというのに?

 

 おかしい、そもそも普段から起きる時間なんてそうそう変わる物でもない。なのに今日だけ何でまだ暗いうちに起きた?

 

 おかしい、体内時計は『いつも通り』の時間を刻んでいる。つまりこの時間こそ、いつも通り。おかしいのは、太陽の、光?

 

 

 そこまで考えて、外に転がる様に飛び出た。『前回』の様に眼下に海が広がる訳でも、『前々回』の様に紫と偽物の紫が弾幕ごっこを繰り広げるでもない。平和な境内。いつも通りの生ぬるい緩やかな風。そして……

 

 

 

 

 

 空を見上げれば、天界が落ちてきていた。

 

 

「嘘でしょ……」

 

 

 

『東方偉世界~Falling down The Upper region.』

 

 

 

 

 ゲームはつづく。

 

 





ひゃっほぉぉぉぉぉぃおおいいいいい!!
泣き顔霊夢可愛いいいいいいいいいいいいいいいいいいおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
何書いてんだ俺。

あーあ俺も霊夢に泣かれる程求められてーなー。
冷静に何書いてんだ俺。

今更ですが、サブタイトルの適当英文に突っ込み入れられても……その……困る。


・渡守
 遥か昔、まだ人間と原生生物が生存競争を繰り返していた頃、互いに海の外へと生存圏を求めた意志と願いから生まれた人形の何か。いろんな生き物の思いから生まれた故に黒い襤褸を着たナニカの姿を成している。
 その姿と海を渡る役目から当時の人間からは死の神とも畏れられていた。しかし人間は海を渡る船を造り出し、その役目を終えひっそりと死んだ。はずだった。
 あ、ちなみに名前は小野塚千導って名前らしいっすよ。こんなんでも一応性別は雌。

・呼ばれて飛び出てゆかりちゃーん♪
 としばれそう。

・空間に融けるゆかりちゃーん♪
 圧倒的初見殺し。必須タグで残酷な描写付けてないからこれ以上の描写はしない。つまりそれほどやばい事になってるって事だ……!

・水を浴びて凍り付く河童
 超圧縮された冷水は氷とならずに水のまま温度を下げていく。その水を浴びれば当然凍り付く。そしてその水は水生生物に特攻を持つのだ。

・サファイア色の男
 一体何の王なんだ……!



次回、ダイジェスト版

編集で一日を一年近く過ごした様子をご覧頂こう。
そしてサブタイラッシュにワシの頭は耐えられるんか……

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