睡眠不足で今死にそうだけどなァ!?
蛇足ですが作者の羊モドキは蛇足にしっかり足の爪まで書き込むタイプです。なんならスネ毛だって書いちゃいます。蛇足でした。
門を抜けると、長い長い螺旋階段が私を待っていた。げんなりするわ。
螺旋階段を上っている間、妖精が襲ってくるわけでも、罠が襲ってくるわけでもなく、只長い道を上っているだけだった。
「ナントカと煙は高い所に昇るって奴かしらね」
しかし、螺旋階段から見える景色はただただ美しいの一言だった。花の王は私が想像もつかないほど昔からあらゆる美しさを探求しているらしい。
そう、二次元的な美しさだけでなく、三次元的な美しさを極めていると言えるほどに。
絵を描かせれば最上。石を削らせれば最高。あらゆる芸術の頂点に存在している花の王は、当然のように弾幕ごっこでも頂点に存在している。
元々弾幕一つまともに飛ばせることも出来なかったと言うが、今の姿を見てそれが本当だとは到底思えない。弾幕ごっこ、弾幕決闘法は弾幕の美しさを競うゲームだ。美しさにおいて花の王の右に出るものは無い。あらゆる弾幕は、花の王の弾幕の下位互換とも言えるほどに。花の王に直接鍛えられた私でも、未だにその域には達していない。
そんな花の王の弾幕に勝つ方法は見ないことだなんて、なかなか皮肉じゃないの。
そんな花の王に、弾幕ごっこを挑む。勝ち目なんて無い戦いだが、ソレ以外の勝負は
長かった螺旋階段も終わりが見える。荘厳華麗だった階段からの景色も、目の前の質素な扉で終わり。ここを抜ければ、最後。
呼吸を整える。勝ち目は無くても、勝つ。
意思を、決意に変えて。扉をくぐり抜けた。瞬間、辺りを煙が包み込んだ。
煙というか、湯煙だこれ。
「……」
「……」
宵闇、雲一つ無い空には少し欠けた月が浮かび、カポーン。とでも聞こえてきそうなその空間は水音と暖かい湯煙に包まれていた。
温泉じゃん。
室内の概念どこ行ったのよ。
「……あー、レイム?」
「……」
温泉は透明度が高く、その中心で胡座をかいていた花の王の全身を余すことなく見せつけた。
輝くようなエメラルド色の髪、燃えるようなルビー色の瞳、洗練された男らしさを感じさせる細マッチョな上半身に割れた腹筋。そしてその下の……
「……っはぁ!?っ、ふ、服着なさいよ!何で全裸なのよ!?」
「風呂で全裸以外の状態の方がレアでは?」
「いいからさっさと上がりなさい!ごちそうさまです!」
「あ?何て?」
「とっとと温泉から出ろって言ってんのよ!」
「はぁ、いきなり部屋に飛び込んできて図々しいもんだな」
よっこら、と腰を上げ、ザバァと湯船から出る花の王。当然全裸故に隠す物もなく、当人も隠すつもりも無いのか下のモノがふるんと……
「服を着ろーっ!」
「っぶねえ!?おま、いきなりヒトの大事なとこに陰陽玉投げんな!」
「大事ならちったぁ隠しなさいよ馬鹿ぁ!!」
馬鹿だ、馬鹿がいる。仮にも年頃の女の子の前で下の……その……アレを見せつける奴がいるか。
いやまあ恥ずかしい話、まだ一人でお風呂に入れなかった頃は一緒にお風呂に入っていたとは言え、昔と今では色々と事情が違うのだ。
恥ずかしくて直視出来ない……。
「隠せばいいんだろ隠せば……」
「何でそんな嫌々なのよ」
「これでいいだろ?」
「最初っからそうしt」
「陰陽玉装備する奴がいるかぁっ!!!」
「他に何で隠せと?!」
「ちゃんと隠せるモノで隠しなさいよ!!」
見えてる、先がちょっと見えてる!陰陽玉だってそこそこの大きさだけとちょっとアレでかすぎない!?他の見たこと無いけど、見たこと無いけど!
『ギャーっ!??なんか目の前に毛むくじゃらキノコおおお!??』
唐突に何処かで聞いた声が温泉内に響き渡る。
何処かでと言うか、今日聞いた声だわ。
「……あぁ?なんだホオズキか?陰陽玉フォームとか新しすぎんぞお前」
『ざっけんなクソじじい!好きでこんなんなってる訳ねーだろ!てか離れろ!離せ!謎パワーで浮かべんなボケェ!汚い!臭い!気持ち悪い!3K!トリプル役満だくそが!』
「洗ったばっかだし汚くないよ」
『そういう問題じゃねぇんだよどカスこの野郎!』
「いいのか?離れていいのか?」
『離せ!いいから離せ!』
「俺の陰部が全国ネットで拡散されんぞ」
『バッカお前止めろオイ考え直せ身内の恥部とか黒歴史そのものだから!』
「永いこと生きると黒歴史とか気になんなくなるし」
『お前と一緒にすんじゃねえよクソジジイ!!』
「何で唐突に漫才が始まるのよ……いいからさっさと服を着なさいよ」
* * * * *
「待たせたな」
「いや、本当にね」
花の王は漸く服を着て陰陽玉を返してきた。思わず受け取ってしまったがものすごくばっちい気がする。
『あー、キキ……。アタイ汚れちったよ……』
マジでやめてほしい。さっきのは記憶の彼方に送りやってしまいたいのだから。
「さて、よくもまあここまで来れたな。歓迎するぜ、レイム」
威風堂々と温泉の奥に鎮座していた如何にもな玉座に座る花の王。さっきのがなければ威厳の一つでも感じられたんだけどね。
……思い出してないから。ぶら下げてるモノなんて思い出してないから!
「……ま、こんなトコじゃ話も出来んか」
パチン、と指を弾く。その僅かな間で景色が造りかえられた。湯煙が無くなり、空が無くなり、空間が無くなる。
瞬きの合間で石作りの部屋となり、宝石、絵画、彫刻、様々な嗜好品、芸術品が壁いっぱいに埋め尽くしながらも、厭らしさを一切感じさせず美を武器とする花の王らしさに溢れていた。
それでも私にとってどんな美術品も売ったら幾らか程度の興味しか持たないから意味は無い。
「んじゃぁまー……答え合わせと行こうかね」
「……」
花の王の唐突に投げかける問の様な、回答の様な、質疑の様な、そんな言葉が嫌いだ。全てを覗いている様で、自分以外を除いている様で。
「……花の王。アンタがなんでこんな異変を起こしたのか、只の暇つぶしじゃあ、無いんでしょ。どこか遠く……もう戻れない程に遠くに行くつもりかしら?」
「45点。ノー、だよレイム。それじゃあ落第点だなぁ」
でも何より気に食わない所は……
「アンタが何を目的としてるなんてどうでもいいわ。大事なのは結果、でしょ?花の王。アンタは
「……ふー、やれやれ。まるで俺が幻想郷の大黒柱みてぇな扱いしやがる」
「そうよ」
「言い切ったよ……。こんなワガママに育っちまったのはダレに似たんだかね」
「いいだろう、レイム。答えが要らないと言うのなら、それも道だろう」
気に食わない。
「私を見ている様で、私じゃない誰かを見ているその目が気に食わないわ」
「……58点。その調子で答えを暴いてみな?」
勝ち目の無い戦いを始めよう。戦ったなら、勝つのが博麗の巫女なのだから。
その戦いに特筆するべきことは何もなかった。連戦、接戦、死戦を何度も繰り広げ消耗していた方と、万全、完全な状態で待ち望んでいた方。順当に戦い、順当な結果になった。
地に付しているのは王と呼ばれた男。膝を屈しつつも、鋭い眼光を携え闘気を発し続けるは巫女と呼ばれた少女。
少女はまだ何が起きているのかを正しく理解しきれないでいた。故に震える脚を叩き、立ち上がろうとしていた。まだ戦える。まだ負けていないと。
奇しくも、そんな少女が現状を理解できたのは第三者からの声だった。
『嘘だろ……クソジジイが……負け……た……?』
呟く様なか細い声だった。しかし静寂に包まれていた玉座の間に響き渡るには十分な声量だった。
敗北。敗者の裏には勝者有り。少女は漸くその状況を理解できた。万に一つ、億に一つも無い勝利が、気が付けばその手の中に握りしめていた。
勝ち、勝った。勝った?勝ったのだ。少女は勝利を握りしめ、倒れ伏しそうになる身体に鞭打ち最後の気合いを入れる。勝者には、勝鬨を上げる権利が有るのだ。
「レイム、お前はそう。主人公だから。ゲームにおいて思うがままに動ける特別な存在、それが主人公」
声が響く。
「昔、一人の少女が居た。その少女は、どこまでも人間で、何よりも強く、誰よりも孤独だった。その少女の名前は、『零無』」
声が響く。
「チカラという点では、零無は強者足りえなかった。技術という点では、零無は達人足りえなかった」
声が響く。
「だが、最強だった。何故なら何度負けても、最後に勝つまでやり直したから」
声が、響く。
「その心こそが彼女を最強足らしめたのだ。何度死んでも、何度壊れてもまた、やり直す。相手の弱点を学び、相手の行動を学び、相手の隙を学ぶ。そして、勝つ」
「俺が唯一恋し、求め、そして失った少女だった」
やり直す程度の能力。俺はそう名付けた。
敗北の運命を捻じ曲げ、死の運命を捻じ伏せ、望む未来をその意志が折れぬ限り手に入れ続ける程度の能力。
その能力を持った少女は余りにこの世界の理から離れていた、只の少女だった。
俺がその能力に気が付けたのは偶然であり、ある種の世界の法則であった。この世界に生まれ落ち、幾星霜。この大地の王となって、幾星霜。永く生きすぎた所為か、大抵の『程度の能力』を感知、掌握することが出来るようになった。勿論『境界を操る程度の能力』も例外ではない。『運命を操る程度の能力』程度の能力ならば息をするように操作できた。
正しき世界を曲げ、歪め、有らぬ形にするのにも飽き始めた頃の事。その少女に出会った。
世界の調停者と、そう名乗った少女は俺に戦いを挑んだ。いや、戦いというよりは狩りに近いかもしれない。少なくともその少女は俺に勝つつもりだった。
当時の俺は人間を愛していた。しかし同時に人間に飽きてもいた。故にたった一つの命を刈り取る事に躊躇は無かった。果たしてソレは成功した。だが同時に失敗もした。手には確かに命を刈り取った感触が残っている。なのに目の前の少女は生きている。生きているどころか、五体満足に立ち向かってきている。
二度目。その命を刈り取った。だがまだ生きている。その時気が付いた。刈り取った様に思えた感触が無くなっていると。
三度目。確信する。この目の前の少女は何らかのチカラで自身にとって不都合な現在、未来を改変していると。
運命を捻じ曲げる。捻じ曲げた運命ごと消えてなくなり、そして元に戻る。
時空の彼方に送り出す。歪んだ時空が消滅しても、また元に戻る。
破壊の猛毒に犯す。毒を受けた事実ごと元に戻る。
何度も、何度も、何度も。その少女を刈り取る。あらゆる方法を試した。あらゆる技術を試した。どうすれば殺し切れるか、どうすれば奪いきれるか。
しかし、それは少女も同じだった。
少女の命を消す度に、少女は長く対峙し続ける。
10回目の
27回目の
59回目の
1023回目の
そして、数えるのも面倒になった頃、その少女は俺と敵対して一時間、立ち続けた。それだけじゃない。ただの人間が、俺に膝を付かせたのだ。
そこで俺は漸くその少女に興味を持った。
「お前、名はなんという」
「……」
「名前がないなら俺が名付けてやろう。お前の名は……」
零無。無表情に、無感動に戦い続ける少女に相応しい。
零無は無表情、無感動に戦い続けるが、心が無いわけではないらしい。恐らく万に達する位の挑戦で、今の自身では勝てないと判断したのか、対話を試みてきた。以来、俺と零無はそこそこ一緒に過ごす事になる。零無は、世界を調停するという、俺には理解出来ない仕事をしているようだった。人の集落で暴れる土蜘蛛を無視したと思えば、名も知らないような虫の神を殺したり、妖怪を地底に叩き落としたりと、様々な事をやっていた。その行動規準は未だに分からないが、何らかの目的を持って行動しているようだった。俺はそんな零無を弄り、時に共闘し、時に喧嘩し、時に笑いあった。
そんな長くも、短い間を共に過ごした中で、知らず知らずのうちに俺は零無に惹かれていた。花の蜜を吸う蝶のように、気がつけば常に零無に引き寄せられていた。長く、永く生きてきたがこんなにも誰かを想った事は無かった。この瞬間が永遠に続けばいいと本気で想った。
だが零無が人間で有り続ける故に必然、別れは訪れる。
零無は死んだ。ある日、唐突に。
老いではない。病でもない。呼吸が止まり、心臓が止まり、生命が、止まった。
俺は激怒した。如何なる理由があろうとも俺から許可もなく逃げる事は許されない。偉大なる王からは決して逃げられない。そして、真の王にとって死は永遠の別れ足り得ない。
俺は作った。死魂の行き着く先に、決して逃れられぬ捕魂の花を。
俺は作った。死体すら甦る生命力の塊たる花を。
俺は作った。死魂と死体を繋ぐ狂気と魔力の花を。
そして俺は成し遂げた。死者の完全な蘇生。世界の理を覆す魔法、神業。その日、俺は神となった。
俺は零無に問う。何故に死んだ。
零無は答える。神の意思により死んだ。
曰く、この世界はとある創作物の世界である。
曰く、俺ですら知覚出来ない上位の『神』より産まれ、この世界をあるべき姿に戻すために彼女は動いていた。
曰く、既に手の施しようもなく、あるべき姿からかけ離れた世界を『神』は見放し、その神兵たる彼女を捨てた。故に、この世界では知覚出来ない方法で死んだ。そして、『神』の手を離れても尚生きた彼女は既にあらゆる法則により世界より弾かれ、苦しみ抜いて死ぬ定めにあるという。
それが、どうした。
俺が、彼女と共に生きると。そう決めた。世界から弾かれるというのなら、俺が手を引っ張って留まらせてやる。苦しみ抜いて死ぬというのなら、俺が守り救ってやる。世界は美しさに溢れ、永く生きても尚褪せぬ楽しさに満ちている。そんな世界を零無と共に生きたいと、そう、思ったから。
それでも、零無は諦めていた。諦める事を決意した。
もう、疲れた。と。
もう、休みたい。と。
世界に弾かれる存在は死しても尚緩やかな眠りに着くことは許されない。地獄の最下層に送られ、輪廻転生することはなく永劫の責め苦を受け続ける。ならばせめて、魂はこの愛した世界に散らせ、逝きたい。と。
認めない。上位の神がどうとか、世界がどうとか、知ったことではない。
俺が、そうであれと願った。理由なんてそれだけで十分だろう。疲れた、休みたいとか、どうでもいい。生きろ。生きてくれ。
だが、零無の決意は変わらなかった。ならば、そう。意思と意思のぶつかり合い、すなわち、戦争。初めて零無と出会った時と同じように。初めて零無と出会った時と同じ場所で。最期の戦争を始めた。
決着は、僅か一日でついた。何万、何億と続いた一日だった。
幾万、幾億の勝利も、無意味で、無価値だった。
零無は何処までも人間で、何処までも強く、何処までも『主人公』だった。
たった一度、地に伏しただけだった。それだけで俺は恋し求めた全てを失った。
そのまま、何日過ぎただろうか。気がつけば、ただ其処に居るだけの神として崇められ、信仰され、名実共に神と成っていた。すぐそばに小さな、小さな社が建ち、気がつけば其処に一人の少女が居座っていた。
死者の蘇生を成功させて神に成ろうとも、恋した少女一人救えない神など誰か信仰するのか。だが、それでも形だけでも神社があり、形だけの巫女が其処に居るのなら、其処に神は居なくてはならない。故に俺はその場所から逃げ出した。自身の身から神の力だけを切り置き、名付けることで区別した。勝てないが故、恋した少女一人守れなかった忌み名を刻んで。自身の心から剥がされた大事な名を刻んで。
神の力に『
「博麗神社の前身は元々は俺の神の力を切り置いた社に過ぎない。故に今のハクレイ神社は俺にとってはただデカイ零無への墓標。其処になんも価値の有るものは無かった」
むくり、と身体を起こす花の王。花の王の物語はいよいよ佳境に入るようだ。
「無かったハズだった。だが、ある時ふ、と気がついた。零無が意思を通し死んだと言うのなら、零無の意思が形作る前ならば零無を挫く事が出来ると」
「零無が『神』とやらに殺される前に、完全な形で零無を囲う。『神』に殺される前の零無はこの世界を訪れた事を心から喜んでいた。つまりこの世界に断ち切れない未練が有る筈だ。『神』に殺される事で生きることを諦めると言うのなら、零無が『神』に殺される前に俺が『神』を殺す。そうすれば……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!零無を救うとか、神を殺すとか、馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!零無って人はもうとっくに死んだんでしょ!?博麗神社が建つ前だってんなら骨も魂も残っちゃいないでしょ!そんな過去に戻りでもしなければ助け、よ……う……も……」
「……」
「過去に、戻るって言うの……?」
「漸く、赤点は免れたな。それでも68点ってところだ」
「ふっっっざけんじゃないわよ!!!そんな馬鹿げた事が出来るわけないじゃないの!!!」
「王に不可能はない」
「そんな散歩に行ってくる感覚で過去に戻れる訳無いでしょ!?それこそ世界の理とやらをひっくり返すような荒唐無稽な話よ!」
「誰もそんな気軽に言ってねえだろ。だが、世界の理をひっくり返すのは魔術の領域だ。全世界において魔術の扱いに長けてる奴は俺を置いて他にない。そしてその俺が不可能じゃないというのならそれは可能だという話に過ぎないよ」
「常識外れにも程があるでしょうが……」
「勿論、生半可な魔術じゃあ過去への扉に触れることすら出来ないがな。だからこそ、膨大なデータ量をやり取りできるだけの魔法陣が必要になる」
「……そんな、魔法陣がドコに有るって言うのよ。まさかこの国を囲っている門がソレって言うんじゃないでしょうね」
「それこそまさかだ。あの程度の大きさで過去に戻れるんだったら、それこそ何万もの魔法使いが過去に日帰り旅行にいけるさ。アレは只の趣味に過ぎねえよ」
「趣味で作れるサイズかしら……」
「過去に戻る魔法陣、時空を超える極大魔法を発動するにはこの国は勿論、幻想郷、その外の世界、地球上全部丸々使ってもなお足りない」
「……じゃあ何処にそんなモンが」
「あるだろう。誰にでも目にすることが出来る、世界一巨大なキャンバスが」
そう言って花の王は上に指をさす。
途端に天井が消え去り、夜空が広がっていた。
「……あら、ここは樹の中じゃなかった?」
「今更だな。世界樹の中でも時間感覚が狂わない様に外の空を魔術紋で映してるだけだ。それと、まだ分からないか?」
花の王が指す先には何処までも広がる夜空があるだけだった。少し欠けた月が輝き、星達が騒ぎ、雲一つない星天だった。
……月がキャンパス?いや、それだったら地球よりも狭いはず。ならば何処に……。
「……ま、そもそも魔法使いでもないお前にゃ分からないのも無理はないな。誰にでも目にすることが出来る、世界一巨大なキャンバス。それは……宇宙だ」
「宇宙……?」
「月の発する魔力を使う月魔法ぐらいは聞いた事あるだろう。そして同じく、輝く星一つ一つにも異なる魔力を発している。その星々を繋ぐ星座という見方、人間はこの星座に様々な伝説、神話を伝承した
……は?
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!何を言ってるのか全然理解できないけど……アンタの言ってる事が本当なら、方法さえ解れば誰にでも過去に飛べるって言うの!?」
「半分正解で、半分不正解。確かに方法が解り、星同士を線で結べるなら誰にでも天体魔法は扱えるだろう。だが、その線を結ぶ事が難しい。何故なら、星座図の様に実際の天体には物理的な線も、魔法的な線も何も繋がっちゃいない。そして星空にただ外見的な線を結んだだけでは何の意味も持たない。見た目上の同じ大きさの魔法陣を描く事に何の変わりも無いからだ」
「い、意味がまるで解らないわ……だったら、なんで花の王はそんな事言いだしてるのよ。そんな物机上の空論じゃないの!」
「……もし、空に浮かぶ星一つ一つに、目には見えないけど確かに存在はしている大きな目印があって、どれだけ離れていてもソレの距離や場所を正確に認識する事が出来るとしたら。その目印同士を自在に線で結ぶ事は容易いとは思わないか?その目印同士が実際どれだけ離れていても、二次元的に線で結ぶ事はもちろん三次元的に結ぶ事だって容易な筈だ。勿論、その線は実際の光星間を繋ぐ物理的な線じゃない。あくまでも、自身の頭の中で結ぶだけの話だ」
「な、そ、そりゃぁ訓練すれば、頭の中で結ぶ事なんて簡単に出来るんじゃないの?」
「ああそうだ。簡単に出来る。お前も自分の家の中の家具類が何処にあるかなんて目を閉じても正確に解かるだろう。それの延長線に過ぎない。いや、むしろ常に正確に場所を知覚できる分星同士をつなぐ方が楽かもしれんな」
何が言いたい……?星に目印をつける?仮に花の王が言った事が出来るとしてもどうやって星に目印なんて刻むのか……
まてよ。
まさか。
「やっと察してくれたか。いつもの鋭さは何処に行ったんだよおい」
「そんな……それこそ
「絶対有り得ないなんて、それこそ俺には
意味が解らない。理解できない。頭が動かない。こんな戯言と切り捨てられたらどれだけ楽だっただろうか。
「あ、アンタ……花の王なんでしょ。大地の支配者なんでしょ?何でそんな軽く宇宙に行けるのよ……」
「知らないのか?星は遠くから見れば輝いているが、近くで見れば
「ふ、ふざけてる……」
私は、ある意味で花の王を見くびっていたのかもしれない。非常識でも限界はあると。どんな深淵にも底はあると。なんだかんだで戦えば勝てると。
実際はまるで違う。非常識は何処までも非常識で、どれだけ堕ちても底を照らす事も叶わず、戦いになると思う事すら誤りだった。
何故。疑問が出る。
「何で……何で態々弾幕ごっこを受けたのよ……。何でわざと負けたのよ……!何で此処まで綿密な計画を立てたのに台無しにするような真似出来るのよ!!」
何で、なんでなのよ。天体魔法ってのを使えば何時でも過去に行けるんでしょう!?
「答えなさい花の王ッ!!!」
「……いくつか勘違いをしているようだな。天体魔法はあくまでも魔法陣となるモノに過ぎない。何時でも発動できるというのは正確ではない。星の動き、向き、時間。無限通りのその情報から、星々を更に無限通りの組み合わせで魔法陣を描く
この計画を思いついたのは、昨日だ」
……え?
意識に空白が出来るとはこの事か。
つまりなんだ。
偶々魔理沙が異変解決に乗り出して、偶々幻想郷中の人間、妖怪達が異変解決に向かって、偶々私が異変解決に乗り出した日に、偶々過去に戻れる魔法陣を発動できるって事……?
「『ご都合主義』を引き起こす。それが、俺の真骨頂。なんてな」
「っ……。……。……ふぅ~っ。いや、アンタがどんなご都合主義を引っ提げた所で、もう弾幕ごっこの勝負はついてるんだったわ。アンタの話がスケール大きすぎて忘れてた。アンタの野望もこれまでよ」
「……あぁ、これまでか」
「なんて言うと思ったかよ」
当然、リトライだ。
「……は?何を言ってるの?」
「何もカニもねえよ。コンティニューだ」
「ふざけてるの……?」
「異変の黒幕側がコンティニューをすることを禁じるルールなんて無い。そうだよなぁ?スペルカードルールの原案を作ったのはこの俺で、霊夢は俺と共に話し合いながら作り上げたんだから」
「……本気……?」
「当然。まぁ、これが妖怪ならそれこそ『存在意義』に関わる大事だろうがな。残念、俺は妖怪じゃあ、無い」
そして、もう過去に戻る為にリソースを割く必要も無くなった。
「なっ、なん……で……」
「言っただろう?天体魔法は無限通りの魔法陣を作ることが出来ると。そして『ご都合主義』を引き起こすのが俺の真骨頂だと。『魔力を異世界から無限に引っ張ってくる』魔法が今完成した所だからな」
「ああ、安心しろ霊夢。時間は既に俺の味方だ。俺は敢えて二つ、嘘を吐いていた。
一つ、今日発動できる魔法陣の効果は正確に言えば『過去に向かう扉を作る魔法陣』を極小サイズで作る魔法陣だ。魔力消費なんて微々も微々たるモノだ。一度その時刻になれば勝手に発動し、後はどれほどの時間が過ぎようとも、条件が整えばゆっくりと魔法陣を起動すればいいだけだからな。無論、この魔法陣をどうにかする事はまあ不可能に近い。なんせ極小。それを世界の何処かにでも隠しちまえば誰が見つけられるというのか。
二つ、この魔法で向かう過去に一切の法則は無い。扉を潜れば戻る時は1万年前か、1億年前か、はたまた1秒前か。そして戻る場所も、運が良くてこの地球内部を含めた何処か、悪ければ銀河を幾つも跨いだ先の宇宙の辺境。だが、それもとある条件をクリアすれば簡単に解決できる。即ち、戻りたい時の『座標』と『時間軸』の目印があれば良い。
『座標』は、俺と零無が始めて出会い、最期の別れとなった場所、『博麗神社』。
『時間軸』は、過去、現在で二人しか持ち合わせていない『やり直す程度の能力』。
それらを目印に使えばいい。故に、霊夢。お前が生きてようが死んでようが、主人公の特権たる『やり直す程度の能力』さえあれば俺は、恋し求める嘗ての時間に戻ることが出来る。
解かるだろう?霊夢。つまりこの戦いに『逃走』は有り得ない。『博麗神社』がお前の家で、『やり直す程度の能力』をお前が持ち続ける限りこの戦いは決して終わらない。
わかるだろう?レイム。つまりこのタタカイはオレとレイムの意志と意志のぶつかり合い。レイムがアキラメタその時、オレのショウリが確定する。
わかるだろう?れいむ。おまえのおもうげんそうきょうをまもりたいのなら、おれのいしをへしおるしかないと。なあ?」
さあ、楽しい楽しい
今回
・ホオズキ、空気になる。
・唐突なオリ主要素!
・花の王、とっくにSAN値0
の3本でした。
前話の最初、何故こーりんが今日改造した陰陽玉を持って来たのか、何故ゆかりんの偽物と本物が出会ったのか、何故偽物ラッシュで霊夢が鎧袖一触だったのか。全ては花の王の『ご都合主義』に集約されます。なんだかんだで花の王は『本気で全力』の
そして、霊夢があたかも直後の未来を知っているかのような行動、考察をしているのは『やり直す程度の能力』で今日を何度かやり直しているからです。
心当たりはないですか?初めて見る筈の弾幕なのに、一切の躊躇も無く、あたかも未来が見えているかのように予め安地にいたり、或いは何処かに隠れた探し人を、其処に居る事を予め知っていたかのように真っすぐ向かったり、或いは初めて出会った相手の好みを把握していたり。
心当たり、ないですか?ゲーム、好きでしょ?
・ホオズキ・イズ・ボールモード
陰陽玉に封印されている状態のホオズキ。後半から完全に空気になってるけど居るから。ちゃんと居るから。
花の王の雄蕊隠しにクラスチェンジ。
・零無
この世界線の『元』主人公。最低系主人公でもある。死にゲーの主人公でもある。乙女ゲーの主人公でもある。属性過多!
『生前』は東方大好きっ子。転生した先で既に原作崩壊マッハでストレスもマッハ。『神』とやらの指示を基に原作とかけ離れている行動をしている妖怪、人間、その他諸々をSYUUSEIした甲斐あってか花の王という頭おかしいアホが居ても現在までなんとか原作に近い出来事が起きている。原作補正さんが頑張ったお陰とも言えなくも……いや、花の王相手にゃ分が悪い。
『何度負けても勝てるまで戦う』意志の強さを持つ。本来なら自身以外決して『やり直す程度の能力』を察知する事は出来ないが、記憶領域がアカシックレコードに有る花の王に察知された。
何をトチ狂ったか、花の王を相手に[FIGHT]していたが突如[ACT]して[MERCY]した結果、戦闘数に応じた好感度を取得した。
そして更に気が触れたのか、花の王を攻略(乙女ゲー的な意味で)した結果、エグイ程デレた。
しかし『神』ミッション不達成によりデスペナルティを受けた結果、ヤンった。男のヤンデレってヤベー奴やんけ。女のヤンデレもヤベー奴だからセーフか。
・霊夢
この世界線の『現』主人公。魔理沙は主人公ちゃうんか!?とのお声が受信されましたが、あくまでも魔理沙は主役級です。
主人公ではあるが、元のスペックがエッグイので大体初見クリアしてしまう。
子供の頃は花の王と一緒にお風呂に入るくらいデレてた。今は、まぁ、反抗期か知らん。少なくとも花の王に二度と会えなくなるくらいなら博麗の巫女を止めるくらいの覚悟はありそう。
ちなみに霊夢と零無の外見はまるで似てません。あくまでオリ主ですからね。
零無の外見は誰に似てるかって?そりゃぁアレよ。今までの話の中に大ヒントがあるよ。確か。
次回、花の王の全力
プレイする度に内容の変わるゲームについてどう思う?正にゲーマーの夢でしょう?永遠遊べるでしょう?当然、攻略ウィキなんて無い。ネタバレの心配も一切ない。常に新鮮さに包まれたゲームは、いかが?