デレマスに転生したと思ったらSAOだったから五輪の真髄、お見せしるぶぷれ~ 作:ちっく・たっく
頬を撫でる、風を感じた。
目を開けば、オレンジのライトエフェクト煌めく刃の切っ先が迫っていた!
「オオオオォーー!」
「なんとぉ!?」
咄嗟の判断で膝から力を抜き、瞬時にしゃがみこむ。
ハラリと舞った髪を、横薙ぎの気味の直剣が僅かにさらっていった。
……そこ、まさか当たり判定ないよね?
折り曲げた脚を勢いよく伸ばして後ろに跳躍。
左手に持ったシミター【カーパライン+5】を確かめながら、空いてる右手でちょっと減った銀髪をかき上げる。
アバターだから、そのうち直るでしょう。
……生まれてこのかたずっとショートヘアーだったから、邪魔くさいなあ、慣れないなあ、変える気ないけど。
こちらアインクラッド第一層、「遺跡」エリアの最深部。
ここ何日かは近辺の村や集落でこの遺跡に関するイベントフラグを立てて挑み、戻ってまた別のフラグ立ててを繰り返している。
なにせこのゲームにおいて小規模依頼の期限というものは水物。
「明日の月の光のもと祭壇の間で一心に踊れ」
といったものから、
「ドラゴンの刻、四つの小路の隅の先で火を影に呑ませれば古の記憶が目を覚ます……」
なんて不確かなものまで。(あとから聞いたらドラゴンの刻とはこの情報を聞いた時点から十二時間後に設定されるらしい、ふざけんな)
ということで、遺跡にたどり着いてからこっち、跳んだり跳ねたり這いずったり、モンスターを追ったり斬ったり殺したりでろくに休む暇もなかった結果、脳内に凝るような眠気を抱えたままに最後の部屋を護る骨型モンスターに出会い……。
「……ヤバいヤバい、軽く落ちてた……ゴメンよ骨君」
「オオォ……」
【バトル中に寝落ちをかます】というこのデスゲーム・ソードアートオンラインにあって前代未聞の偉業を成し遂げたことになる。スゴいぞ私。
さて、バトル中に寝込みを襲ってくれた敵に向き直る。
錆びてボロい西洋鎧を着こんだイケてる骸骨、骨君こと【スケルトンソルジャー】が、返事をするようにカタカタと尖った顎骨を鳴らし、獰猛に開いた口から怨嗟の声を上げる。
……どう見ても声帯ないだろおめー、どうやってうめき声を出してんだよ。
「いや、そもそも筋肉無いのに動いてるんだけど……さっと!」
「ォオ!?」
骨君がバカの一つ覚えで大振り攻撃を繰り出して来たので曲刀カテゴリ基本技【リーバー】で首をサックリ切り飛ばしてやった。
……よし、タイミング、角度ともにいい感じだぜ。
一コンマの間をおいてグンっと骨君のHPゲージが減りだし、瞬く間に空になる。
空をクルクル舞っていた骨君の頭蓋骨が床に着陸するのとほぼ同時だ。
もはや聞き慣れたクラッシュ音と共に、首を失った胴体が光る粒子へと変じ、そして消えていった。
ちゃんと起きてればこんなもんよ。
「またつまらんものを斬ったか……」
辺りを見渡しながら、名セリフを決める。
後続の姿はない。今のが最後の骨だったようだ。
武器持ちのモンスター全般に言えるが、ソードスキルという一発の威力を持っているだけに、AIがそれに頼る傾向があるように思う。あくまで今のところ、なんだろうけど。
武器を持てるということはそれだけの体格があるということで、的が大きいから私としてはなおのことやり易いのだ。
さて、仕事を始める前に……。
「~~♪」
スキル起動【音楽】
曲目【ルパン三世のテーマ】
手段【歌】
勝手に口が歌い出すのに振り回されず、しかしシステムが機嫌を損ねないギリギリを見計らって、好き勝手に歌い、同時に、埃っぽく古びた部屋の中を容赦なく漁る。今の気分のジョブは【墓荒らし】で決まりだ。
この【音楽】スキルは最初から取れてアインクラッドにおけるあらゆる楽器技法をも内包する優秀なスキルだが、いかんせんダメージが出せない取らなくても歌える金にならないナンカ恥ずかしいと色んな理由でドマイナーな趣味スキルだ。
「……モンスター出ないなぁ」
あらかた部屋を物色し終えて、薄暗い廊下に出てぼやく。
【音楽】スキルで奏でる音は美しく、歌声はより遠くに響く。
当然のように聴覚を頼りに動く敵モンスターはこちらへと寄って来るので、素早く膾切りにできる剣腕があれば有用なスキルだ……が。
何故だかまるでモンスターが寄ってこない。
そういえば入り口や途中で見かけたプレイヤーたちも、近づいてこなくなったなあ……。
ここでもう一つエンカウント率にブーストをかけるべく、私は愛剣を腰の鞘に納刀し、ギターを実体化する。
とあるクエスト報酬でもらった原色バリバリ真っ赤の派手なやつ。
これでも分類としてはフォークギターになるのだろう代物。
電子仮想世界で言うのも変な話なのだけどさ。
適当な知らない演歌をセレクトして 弾き語りしながら。入り口に向けて駆け出した。……ゆっくり歩く理由がない。
走りながら知らない曲の演奏でも、システムがスラスラ歌わせてくれるのがいいところ。
そのうち素でモノにしてやるつもりだけどもね。
寂れ、モンスターすら息を潜める遺跡の中に拳の効いた演歌が流れていく。
……エコーを伴って、赤い軌跡を引きながら。
無論、それは私だった。
*****
「……よくぞ墓所の秘密を暴いたな勇者よ。……これにより先刻伝えた我が秘技がそなたの中で調和し、形をなすだろう……もはや言うべきこともない……行け、行って思うままに技を極めよ」
いかにも「マスター」といった外見の髭NPCが偉そうな態度でしめくくり、私の選択可能スキルに【舞踏】が追加されたとのシステムメッセージが表示された。
……うーん、この【音楽】の同類臭、たまらんなぁ。
チャンバラの役には立たないんだろうなぁ。
悔しい……でも頑張って上げちゃう。アイドル志望だもん♪
「ふむーん、そうねえ……」
ウィンドウを開きスキル更新作業をしながら呟く。
一周回って眠くない。……まとまって睡眠とったのは二日前になるけど、心が高揚して寝たくない。
……しかし、つい先刻に戦闘中にモンスターを前に意識を失うポカをやらかしたばかり。
賢明なるSAOプレイヤーならば大事をとって宿屋にて休むのが定石であろうなあ……。
「よし、行くか!」
まあ、ご存知このムサシ、賢明さとは縁がない。
さっそく【舞踏】スキル起動。……お、バレエあるじゃん。
「たーたたたたたー♪ たたーた、たたたたたー♪」
クラシックを口ずさみながら大胆に全身を使ってバレエを躍りながら草原を高速移動する女サムライの姿が、そこにはあった。
勿論、それも私だった。
仮想世界にあるまじき酸欠のような感覚(多分、深刻な寝不足)を覚えながら、ここ一月ばかりのアインクラッドでの生活に思いを馳せる。
なんのことはない。今日と何も変わらない。
フィールドを駆け回って、歌を唄い、寄って来るモンスターを楽しく切り殺して、話しかけられるNPCに片端から突撃していった。
広いアインクラッド第一層、とても楽しかったけど……そろそろ回り尽くした感がある。
「メインディッシュの頃合いだわねえ」
アン、ドゥ、トロア!
切れよく進む私の目線の先には聳えるこの階層の到達点、太った塔のような迷宮区が待っていた。
なんで人が寄って来ないかあててみよう。(配点:マーリンの髭)