デレマスに転生したと思ったらSAOだったから五輪の真髄、お見せしるぶぷれ~   作:ちっく・たっく

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待っていてくれた方はお待たせしました。ぼちぼち再開ー。


夢であったら

あ、まずい。

憤怒の雄叫びと共に全身を青白く染め上げた炎男の右腕が、リズベットを捉え、吹き飛ばした。

 

「行くわよ!」

「えっ、いーんですかー?」

「いい!」

「……らじゃー!」

 

ふいご踏み踏み作業を一抜けして駆け出す。後ろからモルテ君が追ってくる気配。

状況は良くない。元からほとんど情報の無いクエスト。多少の想定外はそれこそ想定の内ではあるけど、その中でも良くない方だ。

 

青く変わった炎から五歩ほど離れた位置に転がるリズベット。怒りに歪んだ形相で全身を文字通り燃え上がらせているエレメント・オブ・ファイヤ。青炎男でいいか。

 

誰とも接触していない間にもゆっくりと減っていく怒れる青炎男のHPゲージが見える。

 

ボスにお決まりの能力向上本気モードってやつだろう。攻撃無効の不死身がヤツの特徴だったことを考えると……どうあってもヤバい。リズだけに任せられるラインを越えてしまった。

 

(すまんなカーパライン、ここは女の子優先ということで許してくれ)

 

なんとなくの確信がある。こうなってしまったら青炎男を倒せたとしても玉鋼作製は失敗扱いだろう、という。

 

背後の炉の中で燻っている元相棒の現鉄塊から意識を切り、今まさに倒れたリズに追撃しようとする青炎男へと予備のカーパライン(新品)で攻撃する。

 

ソードスキル【レイジング・チョッパー】を起動、駆け抜けながら使える突進技だ。

極力無駄を排除したモーションですれ違いざまに三連撃! ライトエフェクトに大きく炎が波立ちはするけど、まるで手応えがない!

 

「……効いてないわね。モルテ君、あとお願い!」

「あいあいーまむー」

 

観察してた感じ、リズがぶっ叩いた赤玉が核になっていて、派手に燃えてる部分への攻撃はほとんど意味がないと予想できる。

スライムとかレイス系のモンスターに似た特性だけど、外から核が見えないのが厄介。

 

(リズベットの様子はっと……)

 

見た感じでは部位欠損や状態異常などはない。倒れたまま起き上がらないが、HPの色は緑を維持している。動けないのか、動かないのか……。

 

一念発起して街を出て、実際にモンスターと闘ったら心が折れてしまうプレイヤーは稀によくいる。原作でのリズベットの冒険が語られていたかも思い出せないが、このタイミングで青炎男と出会っていないことは確実だ。

 

「ちょっと、リズ大丈夫?」

「……あ、ムサシ?」

 

絶望的な顔をしてるんじゃないかと僅かな危惧を抱きながら覗いたリズベットの瞳はキラキラと輝いている。ほのかに頬が色づいて興奮状態って感じだ

烏滸がましい心配だったかな。ちょっと色っぽ可愛い。

 

しかし今は一秒を争うクエスト中。あまりモルテに任せっぱなしも良くない。

 

「あ、ムサシ? じゃないわよ。大丈夫なら立つ! 」

「うん、あのさ、私、気づいちゃったかも。まだ大丈夫かも玉鋼」

「ん? 気づいた?」

「このクエストの攻略法」

「乗った。詳しく申せ」

 

 

 

*****

 

 

 

ムサシは私の思いつきの攻略法を鷹のような鋭い表情で数秒の間吟味すると、満足気に頷いた。

 

「……いけそうね。っていうかそれしかない」

「本当に?」

「なによ今さら、自信無いの?」

「当たり前でしょ。百戦練磨のムサシと違ってね、こっちは単なる鍛冶屋さんよ。こんな鉄火場初めてだし……」

「別の意味の鉄火場経験豊富なリズだから……鍛冶屋だからこそできる、気づける攻略法なんだと思うけどね……なるほど、道理でフラグ条件が……」

「もう……」

「え、無理なの?」

 

ムサシが空色の瞳を見開いて、ほんとに意外そうに聞いてくるから……。

 

「は? 余裕だし!」

 

 

 

 

なんて威勢よく叫んで、私はもう一度、メイスを抱えて待っているのだ。

 

「今回は絶対はやまったわね……」

 

前を見る。

 

「あははー駄目ですねこれ。どんだけ斬ってもスカばかりー。え、リズさんさっきどう当てたんですかー?」

「炎の揺らぎで見分けたらしいわよ。さっきのコロコロが火元で、よく見ればどこから炎が出てるか分かるんだってさ」

「えー……ムリムリーどう見ても全部燃えてますって! あははー。リズさんに騙されてませんかムサシさん、あはぁ」

「失敬ね、それに多分正解よ。実際核は有ったし要はスライムとかと同じよね。……私も見えてきたよーな?」

「え、マジでじま!? ちょっと当ててみてくださいよ答え合わせですよ」

「いやさっき説明したでしょ私が、いや私達が切り殺しちゃ意味ないの。リズを待ちなさい」

「あ、さてはハッタリですねムサシさんー? ホントは分かってないからそうやって言い逃れしてるんだー。あははー見栄張ることないでしょー」

「はあ? どうやって私が嘘ついてるって証拠よ。こんな炎男、軽く畳んでやってもいいのよ? ん? 処す? 処す?」

 

いや、処しちゃダメでしょーが終わりでしょうが。

軽口を叩きながらエレメント・オブ・ファイヤの周囲で牽制を続ける二人。ますます火力を上げて激昂を示すボスを前にして緊張感の欠片もない。

ただ仲良しの友達とゲームをしてるみたいに……楽しそう。

 

「美味しいとこはもらうけど、ね」

 

本当に不思議な人達に感化されてか、私の口元にも笑みが浮かぶ。

 

よく見える。右足付近にある核が徐々に登ってきて……もうちょい……いい子……そのまま……そのまま……今だ!

 

「スイッチ!!」

 

今日一番の大声を上げて、私は駆け出していた。

世界は狭まり、二人の仲間さえ意識の外だ。私と敵、いや、私と的、それだけしかない。

 

メイスを両手に持ち、重単攻撃のソードスキルを撃つ。

 

「ってえええぇえい!!」

 

ジャストミートだ。

ここがグラウンドなら確実にダイヤを回れる渾身の一打。

 

甲高い音と共に核を失なったエレメント・オブ・ファイヤの巨体が搔き消えた。

 

核は曇天を背景に橙の放物線を引き、燻る炉に吸い込まれるようにして飛び込んだ。

 

ホームラン。

 

爆発的な炎が上がり、親方が嬉しげな悲鳴をあげる。

 

ムサシが振り返って親指を立てていたので、私も応じてやった。

 

「どんなもんよ」

 

 

 

*****

 

 

 

雨が降っている。

笑顔の親方に有無を言わさず送り出された私達は帰路を急ぐ。……まだ足元がふわふわしてる。

 

「エレメンタルなら精霊って意味になるけど、エレメントは要素ってニュアンスなのよ」

「へえ、博識ねムサシ。火の要素……なるほどって感じよね。最初から燃料って名札ついてたわけ」

「あははー。終わってみたらかなり凝ってて楽しいクエストでしたねえ」

 

結果としては最上のもの。

どうにも玉鋼にもランクがあって、親方は最高の出来だと請け負ってくれた。

 

遠くから雷鳴。

 

「でも、ちょっと残念」

「あははーなんですムサシさん、なにか有りましたー?」

「いやね、リズに貸してある外套あるでしょう。こんなこともあろうかとビックリドッキリ機能が有ってね」

「あ、そうなんだ。教えてくれてたら良かったのに」

 

本当に、夢みたいな心地。大きすぎる成功体験に酔った私は雨に濡れてもまだ熱い。

 

「サクラバさんが最近修得した秘密技らしくてね、袖口に仕掛けがあるの。……出番無かったわね」

「あははー、まあ、どれだけ周到に準備したって何事も……」

 

だから、一際大きい雷鳴に合わせるようにしてモルテが剣を抜き、一切躊躇わずに目前を歩いていたムサシがソードスキルを無防備に受けて吹き飛ばされ……。

 

「え……?」

 

振り向き様にモルテがこちらに投げたナイフがお腹に突き刺さり……。

 

「予定通りってわけにはぁ……いかないもの、ですねぇ……あはぁ」

 

稲光に照らされたモルテの、心底おかしいといった表情を見ても、少し夢かと思ったんだけど。

 

「……え? ……あ」

 

視界に映る、麻痺の状態異常表示。

 

頬を伝う冷たい雨と、遠く聞こえる雷鳴が、絶望を運んで来たのだった。




道化キャラって怖いよね。

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