デレマスに転生したと思ったらSAOだったから五輪の真髄、お見せしるぶぷれ~   作:ちっく・たっく

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今度こそ……バレへんか。
っていうのは冗談で、どうしても一話におさめたくなったので小細工。

おすすめの読み方は出てくる曲を聴きながら。


挿話 ライブに行ってみよう 【完】

拝啓、アスナ様

ますます牛の元気な昨今、如何お過ごしでしょうか。

私はボチボチ二層を回るだけの生活にも飽きを感じ、恥ずかしながらライブなどやってみようかと画策しております。

つきましては、お暇でしたら下記の通りにご参加下さると感謝感激雨霰。

かしこかしこ、あなかしこ。

貴女のフレンドのムサシちゃん、略してフレちゃんより、親愛を込めて。

 

追伸、キリトは何やら山篭りしてるらしくって、不参加だってさ。ガーンだな、出鼻を挫かれた。

 

 

 

*****

 

 

 

「何よこれ……いろいろ間違ってるし」

 

朝の光に照らされた宿屋の中、本日のレベリング予定を練っていたアスナのもとに、そんな悪ふざけのようなメッセージが届き、彼女は思わず苦笑を浮かべた。

 

「フレちゃんって……ムサシ要素無くなってるじゃない……」

 

……そして、フレンドの少ないアスナのこと、これが記念すべき初メッセージだと気づき思わず

真顔になった。

 

「夕方からかー。あそこのクエストと狩場を経由して……」

 

行動計画を練り直しながら、アスナは部屋の奥のクローゼットを開く。

 

(そういえば私、パーティーとかコンサートなら何度も行ったけど、ライブって初めてかも知れないわね。……どんな服着ていけばいいかしら。こんなことならクラスの子にライブに誘われたとき一緒に行っていれば良かった)

 

ウキウキと準備をすすめていたアスナだが、不意に手を止めて、不機嫌に口端を曲げる。

 

(……出鼻を挫かれてなんて、ないわよ)

 

 

 

*****

 

 

 

「フフーン☆ みんな、ノってるーー!? 今日は私のためにこんな街の隅っこに来てくれて、ありがとー!」

 

「おー! いいぞーセイレーン! 歌えー!」

「しかし、こんな場所、ウルバスにあったんだなあ、よく見つけたもんだ。」

「ああ、どうもどっかのパーティが昨日解放したばかりらしくて……」

 

時は16:00、場所は【ウルバス】北西の外壁に隠されていた大空洞。

荒くホール場に形作られた空間はかなり広く、体育館に近いものを感じる。

どうやら、天井や周囲の壁が光を発しているらしく、外と同じように明かりには不自由しない。

そしてその中には、それだけの空間から閑散とした印象を払うだけの人が集まっていた。

 

これ、みんなムサシの知り合いなのかしら。

 

あのボス攻略よりも多くの人間が集まっていることに不思議な感慨を覚えながら、突貫で設えたとおぼしきステージ上のムサシを見る。

 

当然、と言うべきか、ボスと戦った時とは装いがまるきり違っている。

 

青いデニム生地のハーフパンツ、原色バリバリの真っ赤なシャツが目に眩しい。

そして、何故か麦わら帽子を被っているのが印象的だ。

どうにか見覚えがあるのは、彼女が抱え込んだギターだけ。

 

衣装だけじゃない、身のこなし、喋り方、性格まで違って見える。……本当に【女優】よね。

 

「さって! おしゃべりも良いけれどー歌を聴いてほしくて呼んだんだもんね、早速だけど一曲目♪」

 

ぐっと麦わら帽子のツバを押し上げ、ギターをかき鳴らした。

 

「盛り上がっていこっか! ウィーアー!」

 

アニメなんて見ない、見ることを許されない私でも知ってる、国民的アニメの曲が、アインクラッドに高く、高く響いた。

 

「う、わあ」

 

思わず息をのむ。

マイクもスピーカーも無いのに、ムサシの声は圧倒的だ。

白魚のような指が弦を弾く度、力強く動く口から歌が飛び出る度、青いライトエフェクトがキラキラと輝いて、本当に……綺麗。

 

【ウィーアー】

 

冒険心とポジティブシンキングを合わせて励ましのメッセージで飾ったような曲。彼女のためにあるようだと思った。

 

短パン姿のムサシは麦わら帽子が落ちるんじゃないかと思うほどパワフルに踊りながら歌いきり、万雷の拍手を浴びて一曲目をしめた。

 

「んじゃ二曲目に行く前に、お色直し行ってきまーす☆」

 

歌い終えた余韻など知らない、とばかりにムサシはステージ後方にある衝立の中に駆け込んでいく。

 

「うおーー! 最高ー! アンコール!」

「いや、ここでワンピ聞けるなんてなぁ」

「これ本家越えたろ……」

「バッカ本家は越えるとか越えないとかの次元じゃねえんだって!」

「やべー、なんか……もう泣きそうなんだけど……」

 

歌の最中は一言も発することも無かった観衆達は、ここでいったん緊張の糸を切って思い思いの会話に花を咲かせているようだ。

 

知らず乗り出していた体勢を楽なものに変えて、喉の渇きに気付いてアイテムウィンドウを開く。

少し悩んでから【アイス・セー・ソー茶】を取り出した。

要らない素材アイテムの処分に困り、それを欲するNPCに渡すだけのクエストを受けるということを何度か行い、手にいれた報酬の一つである。

酸っぱさと渋さと苦さが混じり、お世辞にも美味しいとは言えないけれど、名前の通りいつでもキンキンに冷えている不思議な飲み物。それが熱気渦巻くこのシチュエーションにそぐうと思ったのかもしれない。

……やたらたくさん貰って、片付かないのもある。

 

「はい、ちゅうもーく! それではここで、今回着てる衣装の数々を手掛けてくれた、お針子さんを紹介しちゃいまーす♪」

「いや、ムサシちゃん、勘弁してよ、いいってば……」

 

観衆のざわめきと共に、新たな衣装……白いマントを纏ったムサシは舞台袖から人々を掻き分けて登場した。

衝立の向こうには隠し通路か何か有るのだろうか。……誰か、男性プレイヤーを引っ張っている。

 

失礼な感想になるが、冴えない風貌の男性だ。

初期配布の服に毛の生えたような簡素に過ぎるシャツとパンツにぼさぼさ頭。背中を丸めた歩き方からは覇気が全く感じられない。

 

「彼はサクラバ。今回のライブ衣装から私の攻略用の一張羅まで、全部が彼のお手製なのだ☆ 布装備から革装備、おしゃれ用からガチ仕様まで、裁縫一筋サクラバ! サクラバをよろしく♪」

「ムサシちゃん、はな、離してオネガイ!」

「……おっと」

 

ムサシが手を離すと、サクラバさんは一目散に群衆を掻き分けて逃げていった。

……全く重ねて失礼になるが、知らずに街で彼の開いている店に入ったとして、きっと私は彼の姿を見た瞬間にUターンして別の店を探してしまうだろう。

 

「ありゃりゃ振られちゃった☆ これは歌で悲しみを癒すしかないわね」

 

ムサシは纏った白いコートを翻した。

これは左右に淡い黄色のラインが入ったもので、コートの下のズボンやパーカージャケットからベルトや靴といった装飾に至るまで、男性的ながらセンスを感じさせる逸品だ。

……サクラバさんの店は流行るわね。

 

「なんか突然別の世界に閉じ込められちゃった怒りを込めて歌います。デレステやりてー……………………話が逸れた☆ 聴いてください!」

 

怒り? 悲しみじゃなかったの? デレステってなに? 全ての疑問を置き去りに、ムサシは眼鏡を取り出して、素早く装備した。……なんで?

 

「アニメ、ログ・ホライズンより……【database】」

 

「ログホラだー!」

「ピッタリ過ぎんだろ……ブラックジョークかって」

「ぎゃー! シロエちー!俺だー! 助けてくれー!」

 

曲名を聞いた途端、観衆の一部が騒ぎだした。そんなに有名な曲なのだろうか。

 

ギターを叩き、ムサシが二曲目の演奏をはじめた。

【ウィーアー】よりも、さらに激しく、荒々しく、彼女は歌う。まるで理不尽への反抗心を代弁するかのように。

 

英語の歌詞が大半を占める曲なのだが、ムサシの発音は自然なものだ。……そういえば日本人には見えない容姿だけど、英語圏の出身だったりするのだろうか? 謎の多いコだわ。

 

日本語のパートに入ると、観衆の大多数がムサシに合わせて歌いはじめた。いいのだろうか?

……いいのだろう。みんな楽しそうだし。

 

(本当に、ピッタリな曲ね)

 

戸惑い、疑問、理不尽への怒り。それらと闘えと、諦めるなと、そして叫べと駆り立てる歌。

 

足が自然と地面を踏んでリズムを刻む。

叫ぶように、私も歌う。

 

いつしか熱気そのものになったように、音楽に合わせて意識を白熱させていた。

 

 

 

*****

 

 

 

日が暮れて、薄闇の第二層に月光が差し込んだ。

ライブは終わるどころかますますその勢いを増すばかり。

大空洞はもう、とっくに満員で、移動に苦労するほど。

外では歌声の聞こえる範囲に出店が出て、テーブルや椅子が設置され、ほとんどお祭りのようだ。

騒ぐ口実を探していた人は、意外に多かったのかもしれない。

 

ムサシのライブは、一曲歌う度に協力者を紹介し、また次の曲を歌うというのを繰返し進行する。……たまに着替えも挟む。

 

ステージ設営をしたグループ、人集め担当や、資金提供者、全体の調整を買って出た人。

少なくとも壇上に現れた人は多くの人に顔と名前を売ることに成功したわけで、満足げな顔をしていた。

 

とりわけ、キバオウとディアベルが並んで出てきた時には唖然としたものだ。

 

【アインクラッド解放隊】なる攻略ギルドを結成する。我こそはと思うものは参加してほしい。

……といった内容をキバオウが大仰に話し、ディアベルが横からニヤニヤしながら茶々を入れる。過剰なリアクションを挟んでキバオウがツッコミを返す……という流れだ。漫才コンビかしら?

 

話を聞くに、今のところキバオウがリーダー、ディアベルがサブリーダーの二人組らしい。

私達があの場を去ってから一体何があったのか、気になるところね。

 

「……はいっ【冒険でしょでしょ?】でした☆次の曲に入る前に、今日のこの場所、大空洞を紹介してくれた人をお招きしちゃいまーす! 先日のボス攻略は参加を見送ったものの、十人の集団を率いて様々なクエストを進める男! 【不屈組】リーダー、否、組長! ルシアン♪」

「誰が組長だ、誰が……」

 

また、ムサシが一曲歌い終えた。

本当に、どの曲をとってもムサシや現状にピッタリ即していると思えるから大したものだ。

 

大号泣している人や叫びっぱなしの人は最早珍しくもなく、感極まって倒れてる人や、先程は興奮からステージに乱入した人もいたくらい。(ムサシ直々に【丁重に歓迎】されていた)

 

……さて、今度ムサシに招かれ壇上に上がったのは、なんとも人相の悪い人だった。

 

落ち窪んだ三白眼、痩せこけた頬、ライトアップされてなお青白い顔色が不健康で危険な印象を強めている。

腰に提げている短剣も、この世界では自然なはずなのに、その筋の人にしか見えない。

 

「……ご紹介に預かった、【不屈組】のルシアンだ。うちは攻略を目指すが、それは必ずしも早急な迷宮区の攻略を意味しない。……全員を強くし、一歩一歩たしかに進んでいく。やる気があって気づかいの出来るやつは誰であれ、何レベルであれ歓迎する」

「……凄い……風格だ……やはり組長……」

「ぶん殴るぞ」

 

杞憂だったみたい。

ステージ上の二人はどうやら相当に仲がいいらしく、しばらく微笑ましいやり取りが続く。……彼氏って感じでもないけど、会場中からルシアンに対する嫉妬のブーイングが飛びはじめた。

 

「なにムサシちゃんとなかよくしてやがるー!?」

「セイレーンはオラのもんだ! テメーなんざ怖くねえ!」

「そうだー! 引っ込めヤクザ野郎ー!」

 

「いやっちっげーよ! ゾッとすること言ってんじゃねーよ! えー、不屈組のルシアンでした! よろしく!」

 

それだけ言い残し、ルシアンさんはステージを駆け下り、姿を眩ませたのでした。

 

ムサシ? ムサシなら、一連の騒動にお腹を抱えて笑ってるわよ。

 

「あはははは! ……ふー! さてさて、宴もたけなわではありますが、次の曲がラストになりまーす☆」

 

ざわつく会場、ブーイングどころか悲鳴まで上がっている。

 

「流石に今日はネタぎれなのよねー。……心配しなくても、そのうち歌いたくなったらまたやるわよ。……その日までみんな、死んじゃだめだからね♪」

 

……突然そんな事を、真剣な顔で言ったりするのは、ズルいでしょう。

 

「また必ず会いましょう……聴いてください」

 

【オトノナルホウヘ→】

 

 

 

*****

 

 

 

もう、すっかり真夜中だ。

 

大空洞の隠し通路を登り、アタシは外壁の上に出て、篝火の月の光に照らされたウルバスの街を眺めていた。

 

……風が、体から火照りさらっていく。

残るものはなんだろう、寂寥? ……焦燥かな。

 

「ムサシ」

「……あれ、アスナ」

 

どれだけ自分の中に浸っていたのだろう。

背後から近づくアスナに声をかけられるまで気づかないとは、ドチャクソ疲れてるとはいえ、不覚。

 

「なんで此処が?」

「貴女の位置はお見通しなのよフレちゃん」

「なるほど、ハロー、ジュテーム」

 

アタシの自然な愛の告白。

 

「となり、座るわね……いい景色」

 

アスナさん、これを華麗にスルー。

 

「まあうん、ここはお気に入りになる予感……なにそれ」

「【アイス・セー・ソー茶】……知らない?」

「なにそれ知らない。……アタシにもチョーダイよ」

「はい」

 

え?

 

「え、アスナさん、これじゃ間接ちゅーダヨ?」

「……? べつにいいじゃない。女同士でも気になるタイプ?」

「……いいえぇ。……苦い」

 

酸っぱい。……キンキンに冷えてやがる。

……ありがてぇ。

 

「お菓子もあげるわよ。……随分おつかれね」

「そりゃ、昨日思い立って今日のこれよ」

「うわ」

 

あ、バカを見る目だ。

 

「バカね。急ぎすぎじゃない?」

「だってさー、人間の足は短いのよ、走らないと損じゃない♪」

「また分かるような分かんないようなことを……ふふ」

 

あ、笑ってくれた。……かわいい。

 

「なぜ笑ったし?」

「ふふふ、いえ、なんか不思議だったの。さっきまであんなスゴいライブを観てて、聴いてて、今はそのミュージシャン本人と並んで座って街を眺めてる。……素敵な贅沢だわ」

「そこはアイドルって呼んでほしかったなー」

 

光栄だけどさ。

やっぱりアイドルという肩書きには執着があるアタシです。

 

「私、アイドルってよく知らないし。……そこ、こだわるところ?」

「勿論、大いに」

「……それじゃ、アイドルのムサシさん。一つ、質問していい?」

「なんでもどーぞ」

 

苦く冷たい炭酸を呑み、やたらに甘いクリーム菓子を頬張る。

 

「今日のライブの曲ってさ、みんなを勇気づけるような歌ばっかりで、それを意識して歌っていたんでしょう?」

「……いやー」

 

いや、いや、いや、そんなこた、ないっすよ?

アタシはただ歌いたかったのを歌っただけで、いやでも確かに意識はしたのかな、カラオケでついつい面子で歌う曲を決めちゃうみたいなさぁ……そういうの、あんじゃん?

 

「そんなことは……」

「でも、最後の【オトノナルホウヘ→】だけは、なんというか、違った気がするのよ」

 

あれ、アスナさん? 聞いてます? 言い訳を聞いてくれません?

 

「えっと、違ったって、どう?」

「私達、観客に向けての歌じゃなくて、別の事を考えた、他の誰かに向けた歌……だったと思う」

「……は、え」

 

思わず息をのむ。

 

「図星?」

「……うん、図星☆ すごいねアスナ」

「あら、音楽にもムサシにも、それなりに詳しいのよ私」

 

初めて、貴女を驚かせられた気がするわ。

なんて言って微笑むアスナ。こっちは心臓止まるかと思ったよ。

 

【オトノナルホウヘ→】

 

前世の俺が、一等好きだった曲。……遠くにいる、遠くに行く人を思い出した時には歌いたくなる。

……なんでもどーぞなんて言わなきゃよかったぜ。

 

「ママ……おかあさんのね」

「うん」

「おかあさんの作った、クロケット……コロッケ食べたいなぁ、なんて」

「うん」

「思いながら……歌いました」

 

そんな、アタシの告白を、どう受けとめたのか。

 

「そっかあ、おかあさん、かあ」

「うん、おかあさん」

 

それからほんのちょっと、沈黙。

二の句が継げないと言うか、困る。

アスナの顔を見れないし、アタシがどんな顔をしてるか分からない。

 

「ねえ、ムサシ、歌ってよ」

「……んあ?」

「明るい曲を聴きたいわ。……貴女のセンスで、この夜にピッタリの曲をお願い」

「…………難しい注文をするわね」

 

センスってなによ。

期待した目で見ないでほしい……しかし、そこはプロ意識、あるいはこの身に宿した芸人魂。

 

滑らかに相棒のギターを実体化。ジャジャーンと鳴らして調子を確める……意味ないけど。

……そうね。

 

「アスナと、この夜におくります、聴いてください」

「……ええ」

 

【シュガーソングとビターステップ】

 

今日はいいライブだった。

最初から、最後まで、アタシとみんなが笑ってた。

 

もちろん、今夜はいい夜よ。

友達がアタシの歌を笑顔で、手を叩いて聴いててくれる。

 

 

 

私は大丈夫。

この歌が、向こうに届けばいいのにな。




好きな曲を紹介できる……もしや作者って最高なのでは?(錯乱)

歌詞は書けんが!

改修しました。過去最長?
楽しかった。

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