魔王に敗北した勇者が魔王の専属メイドになるそうです   作:火野荒シオンLv.X-ビリオン

3 / 6
3話目です。今回は1、2話みたいなシリアス描写はな
いです


第3話 勇者、とりあえず魔王を殺しに掛かってみる

次の日の朝………とはいうものの、魔王の城の周辺の空は、付近に住まう魔物たちのこともあり、常にどす黒い雲に包まれており、太陽が遮られて朝かどうかが確認しづらいのだが……

それはともかく、とある一室………自然と目が覚めた、銀髪の男---魔王は軽く屈伸をしながら、ベッドから降りる。

そして近くに掛けられていた、魔王の証である装束を手に取ると、ゆっくりとそれに着替えていく…

 

 

『---失礼します』

「……入れ」

 

 

と、彼が装束に着替えていると、彼の部屋の扉から、ノックと共に声が聞こえてくる。

少し間を置いたあと、魔王は扉をノックした人物に向けて入ってくるように告げる。

そして扉の向こうにいる人物は『畏まりました』と告げると…………扉を蹴破りながら、魔王に向かって突撃していった。

 

 

--バァン!

「---うぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!」

「…」

「っ、嘘でしょ………うぉ……あだっ!?」

 

彼に向かって突撃した人物はメイドの格好をしており、その手にはよく研がれた包丁を持っていた。

しかし彼は振り向かぬまま、その包丁を指で器用に摘まむと、ピタリとメイドの動きが止まってしまう。

それにメイドが驚いていると、魔王がそのまま手を離し、そのままメイドは転倒してしまう。

その際顔面を打ち付けたのか、包丁をその場で手放し、メイドは顔面を押さえながら項垂れていた。

 

「いっだぁぁぁぁぁ!!?」

「…まさかただ突っ込んでくるとは思わなかったぞ……それと急に包丁を手放すな、自分に刺さるぞ」

「うっ……うっさいやい!」

 

呆れたように呟きながら包丁を拾う魔王に対し、彼に向かって突撃したメイド………否、勇者レイは涙目になりながら彼に向かって叫ぶ。

しかし魔王は気にせず、彼女が使ってた包丁を投げ渡すと、朝食を取りに部屋を出ていく。

 

「くぅぅぅ……!見向きもしないで攻撃を止めるなんて………!」

「貴様がバカ正直に突撃するからな」

「なんだとー!?」

「ほら、包丁は返してやる……食事に行くぞ」

「あ、ちょ、あぶなっ………こらぁ!置いていくなー!?」

 

 

 

~~~

 

 

 

それから食堂へ辿り着くまでの数分間……幾度となく挑んだレイは既にボロボロ……特に顔が物理的に真っ赤になっていた。

レイは悔しがるように魔王を睨むも、彼は全く気にしておらず、それが余計に殺意を駆り立てたのか、なおも彼女は魔王を刺し殺そうと包丁を構え、突撃する。

……またもや簡単にあしらわれ、派手に転んでいたが………

 

「ぐぬぬぬぬ……掠りもしないなんて……!」

「攻撃が単調すぎるからだ……まさか今までもそんな感じだったのか?」

「う、うっさい!」

「おっと…」

「ちょ、また避け……あぐっ!?」

「…この程度で我を倒そうとしていたとはな……」

「ぐぅぅぅぅぅ!!」

 

憐れむような目で見られたレイは、女の子らしからぬ声で悔しがる。

と、そうこうしている間に既に食堂まで辿り着いていたのか、魔王は彼女を放置したまま先に入っていく。

それを見た彼女は慌てて彼を追いかけながら食堂に向かう。

 

 

 

「……止まれぇ!」

「ッ!?」

 

……だが、突然横から槍が彼女に向かってくる。

彼女は慌ててそれを避けると、槍が飛んできた方向を振り向く。

……そこには全身が厳つい鎧が道を塞ぐように槍を突き出しており、厳つい鎧はレイに向かって叫ぶ。

 

「貴様!何者だ!!」

「ちょ……今の本気で危なかったんだけど!?」

「その前に質問に答えるのだ!昨日までは貴様のようなメイドはいなかった……ということは侵入者だな!?」

「答え聞く前に答え導いてない!?」

「やはりそういうことか!侵入者め……今ここで成敗して…」

「やめるのだ。そいつは昨日付けで我の専属の付人になったのだ…殺そうとするでない」

「なっ!?こ、これは大変失礼致しました……」

 

厳つい鎧はレイを怪しい人物と捉えたようで、彼女に向けて戦闘体勢を取る。

が、その前に魔王が止めに入り、彼の言葉を聞いた厳つい鎧は恐る恐る引き下がる。

それを見たレイは改めて魔王の権威の強さを感じ取る。

 

(やっぱ位が上だからか、素直に言うことを聞くな……ていうか、もしあいつがここでボクを殺すと言ってきたら……今頃ここで袋叩きにされてたってことじゃ……)

「どうした。さっさとこっちに来るのだ」

「…分かってるよ……」

 

と、いつの間にか豪華な椅子(恐らく魔王専用の席であろう)に座っている魔王が、さっさとこっちに来るように言い、レイは改めて警戒心を強めながら彼のもとまで歩み寄る。

……それはこの食堂に来ている魔物たちも同じだったのだろうか………ほぼすべての魔物が彼女を警戒するように見ており、かなり殺気立っているのが目に見えて分かる。

幸い彼女の正体はまだばれてないようで、同時に魔王がいる側で自分には襲ってこないだろう……

レイはそう思いつつ、魔王専用の席の隣に立たされる。

そして魔王が一通り食堂を見回し、一息置いたあとに口を開く。

 

「………諸君、食事の前に大事な話がある……今この隣にいる付人は、昨日我の城に乗り込んできて我に返り討ちにされた勇者だ」

「ちょ…!?」

 

先程までの自分の考えてた時間を返してほしい、そう言い出しかねないほどに綺麗な流れで正体を暴かれたレイは、信じられないような目で魔王を凝視する。

しかも堂々と返り討ちにしたと言い放つ始末……実際に間違いではないので、悔しくも否定できないのが。

彼の放った言葉に関しては魔物たちも驚いており、中には何故そこに勇者がいるんだと叫ぶものもいた……中には全く関係ないことを言ってる魔物もいたが。

 

 

「お、おい!それが本当なら何でその勇者がここに来てるんだ!!それも何故かメイド服で!」

「というか、勇者が魔王様直々のメイドってどうなってるんだ?」

「つか、勇者って女だったのか…!?」

「いやいや、きっと女装趣味があったんだと思う…」

「つまり勇者はホモだった?」

「いや単に男の娘的なやつだと…」

(話が脱線してる上に失礼なことを……!)

「静かにしろ。……勇者が今ここにいる理由に関しては、いずれ来(きた)る目的のために利用するために、我が生かしたまま捕らえたのだ。付人に関しては、我の提案でもある……すまないが、今後はその事を理解した上で、こいつと共に過ごしてくれ」

 

堂々と失礼なことを言われてへこむレイを放置し、魔王は魔物たちにその事を伝える。

だが、当然それには魔物たちも納得するはずがなく、ガヤガヤと騒ぎ始め、次第には魔王に抗議を始めるものも出始めていた。

 

「待てよ!アンタ、どこまで俺たちを縛る気なんだ!」

「ただでさえこっちは人間を食えずに苛立ってるのによぉ!!」

「つーか、勇者を自分の傍に置いとくってどんな神経してるんだよアンタ!」

「こちとら勇者には手痛い目に遭わされたんじゃけぃ!それなのに見過ごせると思うんか!?」

(うわぁ……荒れてるなぁ……というか、ボクに手痛い目に遭わされたとか言うあのハイゴブリン知らないんだけど……)

 

ごもっともと言わんばかりの荒れ具合に、レイは思わずドン引きしてしまう。

しかし、魔王はそんな彼らに対し、堂々と煽るような口ぶりで告げる。

 

「……そんなに不服なら、我を殺してみろ。そこの勇者に先を越される前にな」

「「「ッ…!」」」

(ヒッ…さ、さすがに怖すぎるんだけど……!?)

 

それを聞いた魔物たちの殆どは、顔面に欠陥が浮き上がるほど頭に血が上っているのか、レイすらもびびるほどの顔をする。

……しかし不思議なことに、誰も魔王に手を出そうとせず、魔物たちは無理矢理心を沈めさせていた。

それに対しレイはどういうことなのか疑問に思うも、その間に魔王が食事の挨拶を始める。

 

(…あ、あれ……なんでみんな、急に収まり始めたのかな……あいつらも魔王を殺してもいいって言われてるんじゃ……)

「…では、そろそろ食事といこうか……」

(!チャンス到来!アイツが料理を口に運んだ瞬間に襲えば……!)

「どうした、貴様もそこの席に座れ」

「え、あ、うん……そこに座っててよかったんだ……」

 

勇者が気付かぬうちに勇者にあるまじき行動を取ろうとしているものの、魔王はそれに気づいてないのか、隣の席に座るように告げる。

レイは彼に言われるがままに座ると、魔王が頂きます、と呟き、それに合わせて全員が食事の挨拶を済ませる。

そして全員が一気に料理にかぶりつき、魔王もフォークを使ってセロリを口に運ぶ。

それを見た瞬間、チャンスだと思ったレイは、包丁を構え、彼に向かって刺しに掛かろうとする

 

「貰ったぁぁぁぁ!!」

「「「あっバカ」」」

--スコン

「……え?」

 

……だが、彼女が動き出した瞬間、何処からか彼女が持っているものとは別の包丁が、彼女が座ってた椅子……しかも彼女の顔スレスレに突き刺さる。

それを見たレイは間抜けな声をあげながら、包丁が飛んできた方向を見る。

……そこには先程の厳つい鎧よりも厳つい、シェフの格好をしたハイオークがおり、その手には何本も包丁が握られていた……

シェフの格好をしたハイオークは、それはそれは恐ろしいと言わんばかりの目でレイを睨んでおり、彼女に向けてゆっくりと口を開く。

 

「……食事の時は………騒いでは……いけない………分かったか………小娘……」

「……ハ、ハイ…スミマセンデシタ…」

「…それと……その手に持つ包丁………厨房のだろ……今度勝手に持ち出したら……その包丁で…貴様を挽き肉にしてやる………」

「…………ハイ……」

 

あまりにもの迫力に、レイは得たいの知れぬ恐怖を感じ取ったのか、片言になりながらそのハイオークに謝罪していた。

それと同時に彼女は理解した……何故魔物たちが先程、魔王に襲いかからなかった理由を………

 

 

 

~~~

 

 

 

「……こ、怖かった……ハイオークとは何度も戦ったけど………あそこまで怖いやつなんか見たことないんだけど………!!…というか震えが全然止まらない……」

「やつはこの城の料理長だ。奴のルールに逆らえば、もれなくその次の献立になるぞ」

「何故それを先に教えなかった!?やっぱりお前、ボクを殺す気満々だろ!!?」

 

食事を終えた二人は、魔王の自室に戻る道中で先程のハイオークについて話し合う。

……その道中に、死屍累々と言わんばかりに、魔王に返り討ちにされた魔物たちが転がっていたが……

 

「……ねぇ、こいつらまだ生きてるんだよね……?」

「安心しろ。手加減はしている」

「そのわりには辺り一面が悲惨な状態になってるんだけど」

 

あまりにも悲惨な状態に、さっきまで命だったものが実は辺り一面に転がっているだけなのではとレイは思ってしまう。

……あの後食事を終えたあと、食堂を出た瞬間、魔王に魔物たちが群がった……

そしてその現状が、この有り様だった。

レイはこればかりは同情したのか、両手を揃え、合掌していた。

 

「……ところで、あいつらのうち何人かがボクに襲いかかってきた気がするんだけど……」

「まだ貴様を受け入れられないからだろうな……一応これからも我が貴様に対しては攻撃するなと伝えていくが………あまり期待するではないぞ」

「いやバラした張本人がそう言っても安心できないんだけど……というか、包丁取られたからお前を殺す手段がなくなったんだけど…」

「魔法はどうした」

「お前が女神様の力を封印した際に巻き込まれたのか知らないけど、それすらも使える魔力がないんだよ!使えてもライトぐらいしかできないよ!!」

 

レイはがっかりした表情でその場で項垂れる。

どうやら魔法を使う魔力も一緒に封印されてしまったのか、今まで覚えた魔法が使えなくなったようだ……

チャンスを貰って一日目にして戦う術が無くなったのもあり、レイは激しく落ち込んでいた。

 

「はぁー……お前を殺す手だてがないってのがなぁ……せめて武器さえあればなぁー………」

「それでないものねだりしてるつもりか……まぁ、どうせあの包丁で我を殺せるとは思わなかったがな」

「人の苦労を水の泡にするようなことを言うな!」

「…しょうがない、オーラムに頼んで貴様にはあとでダガーか何かを部屋に届けるよう手配しよう」

(え、マジでくれるの……?)

 

あまりにもの気前のよさに、レイは本気で不安になってくる。

どれだけバカなんだろうと心の底から感じている間に魔王が彼女に話し掛ける。

 

「…それと、流石に我を殺しに掛かるだけだと他の者たちに不公平になるからな……今から我の部屋を掃除するんだ」

「…本気でやらないとダメなの?」

「やれ」

(これは拒否権すらないのか……)

 

流石に自由すぎるのは駄目だったらしく、割と本気で奉仕活動をさせられることに、レイはしょんぼりしていた。

 

 

 

~~~

 

 

 

数分後、魔王の部屋………

現在レイは、掃除道具一式を揃えながら、掃除に取りかかる準備をしていた。

 

「はぁ……パッと見た限り綺麗だと思うんだけどなぁ……サボってしまおうかな………」

 

レイは本気で掃除をサボってしまおうか考えるも、あの魔王のことだ……バレたら何されるか分からないのもある。

最悪また地下牢送りにされる可能性もあるため、レイは渋々掃除を始めていた。

……因みに魔王は現在、この城に存在しているという中庭に日課の読書をしに行っており、現在は彼女一人である。

 

「……この部屋探索したら、意外とあいつの弱点になるやつとか出てきそうだなぁ………」

 

レイは部屋の窓を拭きながら、ポツリと呟く。

………そして周りを一旦見回すと、雑巾をその場に投げ捨て、辺りを散策し始める。

 

「んー……と………何もない……というか机やロッカーにはロックの魔法が掛かってやがる……本棚もめぼしいものはないし……ベッドの下にも何もない………何かあるとしたらやっぱり机の中かなぁ……けど、ロックを解除する魔法は使えないし………」

 

しかし、めぼしいものは何も見つからず、次第に時間が過ぎていく……

結局この日は何も見つからず、仕方なくこの日の探索は諦めることにし、レイは渋々と掃除を再開していた。

 

 

 

~~~

 

 

 

「はー………疲れた……」

 

その日の夜………レイは自分用に設けられた部屋に戻り、下着姿でベッドの上に寝転がっていた。

あの後ある程度魔王の部屋を掃除したあと、昼食を取り、今度は部屋の前の通路周辺を掃除するように言われた彼女は、魔王をぶん殴りたいという気持ちを我慢しながら掃除を行った。

幸いにもそこまで広範囲を掃除するわけではなかったものの、それでも十分すぎるほど長い通路を掃除するはめになり、彼女は予想以上に疲れが溜まっていた。

夕食と風呂は既に済ませているのもあり、後は寝るだけというのもあり、彼女は思いきりだらけていた。

 

「あー……とりあえずこのまま寝ようかな……鍵もちゃんと掛けたし………多分誰も来ないと……」

--トントン…

「……思った矢先にこれだよ……誰なのさ………はいはい、少し待っててねー…」

 

すると彼女の部屋の扉の向こう側からノックが聞こえる。

それを聞いたレイは心底嫌そうな顔をしながら、起き上がると、折角脱いだメイド服(部屋にあるのも含め持ち合わせがこれしかない)を再度着直したあと、扉を開く。

……扉の先には魔王の一番の部下と言われているオーラムがおり、レイは何の用かと尋ねる。

 

「…なんだ、お前か……ボクに何の用なの?もうボク眠たいんだけど…」

「魔王様から話は聞いた……受けとれ」

「?これは……もしかして、キングクリスタルでできたナイフ?」

「正確にはダガーだ。キングクリスタルを使用してあるから、ある程度無茶をしても刃零れはしないし、その辺の剣よりは切れ味もある……魔王様に感謝することです」

(マジで渡してきやがった……しかも結構貴重なものを…)

「?どうしましたか、受け取らないのですか?」

「……貰っておくよ、うん…」

「では、私はこれで…」

 

オーラムから手渡されたのは、水晶のごとく輝く、滑らかな刃をしたダガー……

どうやら昼間に魔王が武器を手配すると言ったのは本当だったようで、まさか本当に渡してくるとは思わなかったレイは思わず戸惑ってしまう。

とりあえず受け取りはしたレイはそのままベッドまで戻ると、それをまじまじと眺める。

 

(……あいつ、本当に何を企んでいるんだろう……敵に塩を送るってレベルじゃないもの渡してきたし………でも……使っていいなら、遠慮なく使ってやる……せいぜいボクにこれを渡したことを、後悔するなよ、魔王!!)

 

レイはダガーを鞘に納めると、そのまま強く握りしめる。

 

 

「……とりあえず、明日は朝から奇襲するぞー!!その為にも寝よう!!」

 

そして元気な声でそう叫ぶと、そのままメイド服を脱ぎ捨て、布団に潜り込んでいた。

 

 

 

(……明日は朝から奇襲か……一応警戒しておくか…)

 

そして偶然彼女の部屋の近くで彼女の言葉を聞いてしまった魔王は、そのまま自室へと戻っていった……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。