もしも生き残りが1人じゃなかったら   作:嗤う鉄心

2 / 6
英霊剣豪七番勝負、一切完勝してきました!

予想以上どころじゃない評価に震えました。
だって初投稿で設定だけなんだよ!?
これは…書くしかない…!

ストーリーを読み返しつつちまちま進めていきます。
それにしてもネーミングセンス…語彙力…。


プロローグ
一話 人理継続保障機関


出会い、レイシフト

 

「フォウ……?キュウ……キュウ? フォウ!フー、フォーウ!」

 

……いま、頬を舐められたような……

 

僅かな違和感を感じ、彼は目を開く。

最初に視界に入ったのは、白いモフモフと白衣にメガネという組み合わせの紫の少女、そして同じく白衣にメガネの赤銅色の青年。

 

「え、と……ここは?それと、君たちは……?」

「その前に、ちゃんと起きてくれよ。通路の真ん中で寝るのは体に良くないぞ?」

「それをあなたが言いますか……」

 

起きてくれ、と言われて、漸く彼は自分が床に倒れていると認識する。

しかし彼には硬い床でないと寝られないという趣味はないし、そもそも通路で寝るなどした事がない。

 

「あれ?なんで俺、こんな所で寝てるんだろ……?」

「あー……入館時にシミュレーションを受けたんだな。霊子ダイブは慣れていないと脳に来る」

 

思わずつぶやいた程度だったのに、その言葉を拾って状況を把握、納得した様子の青年。

 

「その様子だと、所長の説明会でも熟睡されそうだし……よし、番号を見せてくれ。部屋に案内するよ」

「いいんですか?すっぽかしてしまって」

「目の前で熟睡されるよりはマシだろう。ちゃんと俺から説明はするさ」

 

本人はそっちのけで、話は勝手に進められていく。

右も左もわからないが、放置されるのは少し寂しい。

 

「あ、あの!おいてけぼりにしないでください……」

 

威勢よく言い出したが、しかし尻すぼみになっていった。

 

「ああ、悪い。俺は衛宮士郎。このカルデアで技師をしている者だ。で、こっちが……」

「マシュ・キリエライトです。こちらのリスっぽい方はフォウ。カルデアを自由に散歩する特権生物で、私はフォウさんにここまで誘導されてお休み中の先輩を見つけました」

「俺はシミュレーションが誤作動を起こしたんじゃないのかと思ってきたんだが……その心配はなさそうだな」

 

衛宮士郎とマシュ・キリエライト。

本来交わるはずのない彼らは、けれど似たような存在だ。

それを知るものはここには居ないが。

 

「衛宮士郎さんと、マシュ・キリエライトさんですね。俺は藤丸立香。レイシフト?の適性が100%だったらしくて、それでここに来ました」

 

藤丸立香。極東の国で発見された、驚異のレイシフト適性100%を持つ()()()()マスター候補だ。

 

「敬語じゃなくていいよ。俺のことは気軽に士郎って呼んでくれ。それにしても……レイシフト適性100%か。でも、虚数魔術を使うってわけでもなさそうだな」

「私のこともマシュと。どうやら先輩は、魔術に関する知識はほぼゼロに等しいようです。確かに、説明会を受けるよりその他諸々を踏まえて説明した方が良さそうですね」

「そうか、じゃあよろしく、士郎、マシュ」

 

立香の中で、よく分からないが助けてくれる人として、士郎とマシュは認識された。

あながち間違ってはいないのだが。

 

士郎が端末を取り出し、通信を始める。

 

「こちら技術部衛宮」

『……はい、何か?』

「そうピリピリすんなよ、所長。シミュレーションを受けて意識の混濁が見られるマスター候補を保護。説明会を受けられるような状態ではないから、先に個室に案内しておくよ」

『分かったわ。そのマスターには貴方から説明しておいて。それと、マシュはいる?そろそろレイシフト準備に入るように伝えて欲しいのだけど』

「了解。こちらからは以上だ」

 

その言葉を聞くや否や、相手の女性は通信を切った。

いや、女性と言うには些か早い気もするが…。

 

「マシュ、レイシフトの準備だ」

「はい。それでは失礼します、先輩」

 

何処に、とか聞けるような状態では無かった。

一言残して、彼女は颯爽と立ち去って行った。

立香に、疑問を残したまま。

 

「ええと…」

「ん?さっきの女性のことか?それともマシュがどこに行ったのか、か?」

「両方です」

「両方と来たか。立ち話もなんだし、そろそろ個室に行くか。そっちの方が話しやすいこともあるだろうからな」

 

道すがら、士郎はカルデアについて簡単に説明する。

 

「立香はカルデアの正式名称を知っているか?」

「え、天文台だって聞いたけど……?」

「ああ、普通の人にはそう説明されるだろうな。何と言っても最優先されるのは神秘の秘匿なんだから」

「神秘…?妖精とかそういうやつの事か?」

「妖精を使い魔にしてるやつって居るのかなぁ」

「つ、使い魔っ!?それってどう言う…」

「あー、そっか。立香は一般枠の採用だったな。じゃあ、魔術とかそういうのは知ってるか?」

「魔術?…そういや俺の魔術回路がレイシフトに適してるとかなんとか言ってたような気もするけど…」

 

前言撤回。明らかに魔術の話にすり変わっている。

カルデアの説明を全くしていない。

 

「このカルデアは、魔術と科学が融合しているんだ」

「え?魔術って、本当にあるのか?」

「あるよ。……かくいう俺も、魔術使いだ」

「っ!?士郎が!?」

「立香、魔術回路を持つ以上、お前もその素質がある」

「俺が…?ってそうじゃなくて!カルデアって結局、なんなんだ?」

「魔術と科学の力をもって、『地球』という天体と『人類』という種族の存続を観測、保障する場所。人理継続保障機関『カルデア』――それがこの、天文台だ」

 

信じられないかもしれないけどな。

士郎はそう付け加える。

途方もない話だ。

今まで神秘とは無縁だった立香にとって、そう簡単に信じられることではない。

しかし、彼にとって士郎は既に信じられる存在になっていた。

故に、返す言葉は

 

「信じるよ。士郎の言葉なら」

 

ただ一言であった。

しかし、その言葉はただの一言ではなかった。

士郎は大きく目を見開き、そして破顔する。

 

「参ったな、一本取られたよ」

真っ直ぐだ。俺の真っ直ぐとは違う。

()()()()()()()()()()()()()だ。

きっと、全ての出会いと別れを糧にして強くなっていく。

悲嘆に暮れる別れではなく、未来(あす)を見つめる別れ。

 

いつかこのカルデアを代表するマスターになるだろう。

 

士郎は確信していた。

魔術師としては未熟でも、聖杯戦争を生き残ったからこそ分かること。

立香がその瞳に宿している輝きは、決して消えることはないと。

 

「と、ここだな。言わば、立香のマイルームって事だ」

 

そうこうしているうちに、目的地にたどり着く。

当の立香は――

 

「これ、どうやって開けるんだ?」

「ネームプレート貰っただろ?それをここにかざして…」

「おお!スゲェ!」

 

カルデアの機能に興奮していた。

 

そして部屋に入るとそこには……

 

 

「はーい、入ってまー……ってうぇええええええええええ!!?」

 

 

白衣を着たオレンジ色の青年がいた。

 

「……Dr.ロマン、ここは今日から空き部屋じゃなくなる」

「あ、士郎くん。……え?つまり」

「つまり、彼のマイルームがここだ」

 

沈黙三秒。そして。

 

 

「えええええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

絶叫が響き渡った。

 

 

「落ち着いたか〜?」

「うん。ごめんね、取り乱してしまって」

「い、いえ、お構いなく……」

「そこはちゃんと言ってやれ。調子に乗るぞ」

「僕はそんな奴じゃないぞぅ!」

 

数分後、士郎の淹れた紅茶を飲みつつ談笑する三人の姿があった。

もちろん、カルデアを始め、魔術に関する説明もしてある。

 

「いやぁそれにしても、とうとう最後のひとりが来ちゃったか〜」

「とうとうって言い方はないだろ。っと、紹介がまだだったな。コイツはロマニ・アーキマン。この見た目で医療部のトップだ。ロマニ、こっちは藤丸立香。一般枠でレイシフト適性100%のマスター候補だ」

「よろしく、立香くん。皆からはDr.ロマンと呼ばれることが多いかな。それにしたって士郎くん、見た目のことを言うなら君だって技術部のトップだろう?僕と同じ時期にカルデアに来たけど、その時からだから僕より長いけど」

「そう言えばそうだったな。でも俺は」

「何度も聞いたよ。得意な分野がそれと言うだけなんだろう?でもそれだけで十九歳から、それも十年間その位置に立てるわけがないだろう」

 

と、士郎の年齢の話になる。

事実、立香も少し気になっていたのだ。

士郎の見た目はかなり若い。

二十歳の立香と同じくらいに見える。

しかし、言動の端々から感じる雰囲気はそれより年上であることを指していた。

そして、ロマニの言葉。

『十九歳から、それも十年間その位置に立てるわけがない』

 

「ちょっと待って!士郎って実は凄い人なのか!?しかも予想以上に前から居るみたいだし何よりだいぶ年上ってことに驚きなんだけど!!?」

「そんなに凄くはないよ。でも、年齢についてはよく言われるかな。これでも俺は二十九歳だよ」

「え、嘘!九歳も年上だぁ……。そうは見えないのに。ほんとに敬語じゃなくていいのか?」

「寧ろそうして欲しいな。出来れば特別扱いせず、仲良くして欲しい」

「いや立香くん、さっきはサラッと流したけど君もなかなか凄いからね?レイシフト適性100%とかそうそういる訳じゃないのに二人目という時点でおかしいからね?……日本ってどうなっているんだい?」

 

ロマニが愚痴っぽく呟くのも無理はない。

何せもう1人のレイシフト適性100%を持つ者も日本人。

本来であれば見つかる可能性は限りなくゼロに近いが、それでも2人発見されたのだ。

 

「立香は才能なんじゃないか?もう1人は…そうだな。魔術特性がきっとそうさせているんだろう」

 

曖昧に言葉を濁す。

しかし、それは当然のことだ。

立香がレイシフト適性100%を持っていたのはただの偶然だろう。

しかし、もう1人は違う。

生まれ持った魔術特性。それを持ちうるものはあまりに少ない。

故に、士郎と同じ。

魔術師から隠さねばならない魔術師。

 

「士郎くん、その話になると毎回曖昧に答えるよね」

「師匠から絶対言うなって言われてるし、それに……強いて言うなら、守るためかな」

 

彼の「守る」という言葉には、彼自身が含まれていない。

それが、一体どれだけの人を悲しませるのか……彼は気づいていない。

 

と、不意に電子音が鳴り響く。

ロマニの端末だ。誰かからの連絡だろう。

 

『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下、慣れていない者に若干の変調が見られる。これは不安からくるものだろうな、コフィンの中はコックピット同然だから』

「やあレフ。それは気の毒だ。ちょっと麻酔をかけに行こうか」

『ああ、急いでくれ。いま医務室だろ?そこからなら二分で到着できるはずだ』

 

マシンガントークもどきの後、要件だけ伝えると相手の男性は通信を切った。

 

「…………ロマニ」

「ここ、医務室じゃないですよね」

「それは言わないでほしいな……。士郎くんも何分かかるとか言わなくていいよ。寧ろ言わないで」

「はぁ。まあ、Aチームは問題ないみたいだし、緊急事態というわけでもないんだろうけどさ」

「二、三分の遅刻くらいは許されるかな?それじゃあ行ってくるよ」

 

と、ここまでの会話に一分弱。

現在地である立香のマイルームから中央管制室までは約五分。

AチームのレイシフトとBチームのレイシフトは数十分あけて行われる予定となっている。

つまり、多少遅れたところで問題は無いのだ。

 

「落ち着いたら、医務室を訪ねに来てくれ。今度は美味しいケーキぐらいはご馳走するから」

「おいおい、そのケーキ作ってるのは一体誰だと思ってるんだ」

「もちろん士郎くんだよ?」

「ロマニの分はないと思っとけよ」

「酷いな!!」

 

 

瞬間、明かりが消えた。

 

 

「……停電?」

「今の消え方……人為的なものか」

 

 

そして、サイレンが響き始める。

 

 

『緊急事態発生、緊急事態発生。中央発電所及び中央管制室で火災が発生しました。中央隔壁は九十秒後に閉鎖されます。職員は直ちに避難してください。繰り返します。中央発電所及び中央管制室で……』

 

 

「っ!?」

「火災……っ、立香!お前は今すぐ逃げろ!」

「そんな……中央管制室ってマシュは……?」

「立香くん!今はそんなことを言っている場合じゃ……」

「……この先は地獄かもしれないんだぞ。それでも、それでもマシュの事が心配なのか?」

「……ああ。このカルデアで顔と名前を知っている、数少ない人間だから」

 

士郎は、知っている。

地上の地獄を。

肉や骨が焼ける臭い。人が死んでいく様子。

―――そこいらに満ちる、濃厚な死の臭いを。

だからこそ、覚悟を問うた。

きっとこの先に広がるのは、冬木と同等、もしくはそれ以上の地獄だと。

 

立香はそれを知らない。

だが、知っている人が死ぬかもしれないなんて――放っておくことは出来ない。

知り合いなんて一人もいなかったこのカルデアで、最初に話しかけてくれた人。

そんな彼女がその地獄にいるのかもしれないと言うのなら、地獄にだって行って――助け出す。

 

立香の覚悟もまた、揺るぎないものだった。

 

「分かった。行こう!」

「えぇっ!?ちょ、士郎くん!?」

 

二人は既に駆け出していた。

 

「ああもう!立香くんも士郎くんと同じタイプか!!」

 

愚痴を言いつつ、遅れてロマニも走り出す。

 

 

 

 

中央管制室に着いた。

 

目の前に広がるは、炎の海。

漂うは、死の臭い。

 

 

「……立香、少し離れててくれ。調べる」

 

そう言うや否や、かがみ込んで地面に触れる。

 

「……同調、開始(トレース、オン)

 

士郎が口にしたのは、自身のスイッチを入れる単語。

剣というカテゴリに特化していた解析も、無機物であれば問題なく行える程度に成長していた。

彼が今している事はその応用。

金属でできた床を通して魔力の網を広げ、生存者の気配を探る。

 

 

……爆発したのか。中心は――所長の足元?

内部の犯行と見るべきだな。

Aチームは――一人、レイシフト完了済みか。

他のみんなは生きてはいるが……。

ん?この気配……マシュ?

コフィンの外に……?

 

 

「立香!右手側奥だ!」

「あ、ああ!」

 

士郎の声に従い、立香は駆け出す。

そこに居たのは――

 

「マシュっ!!」

 

倒れたマシュがいた。

その下半身は、瓦礫の下敷きとなっている。

 

「しっかりしろ、今助ける……!!」

 

この状態ではもう助からないと分かっている。

しかし、そのまま放っておくことは出来なかった。

 

「いい、です。助かりません、から。それより、はやく、逃げないと……」

 

マシュは自分のせいで立香が死んでしまうのは嫌だと思っていた。

自分のことは諦めて逃げるように訴えた。

 

『中央隔壁、封鎖します。館内の浄化まであと百二十秒』

 

隔壁が閉まった。

これでもう、逃げることは出来ない。

 

(ここで死んだとしても、それが俺の運命だっただけのこと。けれど……マシュは助けたい)

 

同時に、立香は覚悟し、受け入れていた。

 

 

『システム、レイシフト最終段階に移行します。座標 西暦2004年 1月30日 日本 冬木。ラプラスによる転移保護 成立。特異点への因子追加枠確保。アンサモンプログラムセット。マスターは最終調整に入ってください』

 

 

こんな状況でもシステムは正常に稼働しているらしい。

電子音のアナウンスが響く。

 

 

『レイシフト定員に達していません。該当マスターを検索中……発見しました。適応番号 48 藤丸立香、適応番号 無し 衛宮士郎 をマスターとして再設定します。アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します』

 

 

「っ、俺には適性がないんじゃなかったのか…!!」

 

誰かが叫ぶ声。おそらく士郎だろう。

 

「あの…せん、ぱい。手を、握ってもらって、いいですか?」

「ああ、もちろん」

 

 

『レイシフト開始まであと3』

 

 

マシュがなんとか伸ばした手を、立香がしっかりと握る。

 

 

『2』

 

 

カルデアスが真紅に染まる。

 

「炎のような真紅……『人類存続の保障ができない』時に設定した色……!?」

 

士郎が叫ぶ。

嘘だろ、と言わんばかりの声で。

 

 

『1』

 

 

「っ、立香!絶対に自分を手放すな!!」

 

「士郎!!」

 

士郎の声と、誰か――女性の声がした。

 

 

『全行程 完了(クリア)

ファーストオーダー 実証を開始します』




……書いてたら、あっという間に長くなりました。
多分次の話はもう少し早く上げられると思います。

次回から『炎上汚染都市 冬木』開始です!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。