霧の艦隊でも自由気ままに航行したい   作:やなぎのまい

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第二話

雲一つない、澄み渡った青空に、穏やかな海が広がっていた。

 

そんな、快晴の今日この頃。大きな甲板兼滑走路の先頭に立ち、私は大仰に両手を広げる。

深く暗い海の底にその身を潜めるまだ見ぬ強敵との出会いを願い、全身全霊で戦おうと誓う。

 

「エンゲージ────」

 

霧の艦艇特有の艦に走る薄く輝く線がより一層輝きを放ち、重力子エンジンが唸りをあげる。装甲空母タイホウを中心にして海面に波紋が広がり、空間がビリビリと震えた。

 

「各艦載機、発艦用意!」

 

私の指令を合図に、ナノマテリアルがキラキラと輝けば、そこには侵食弾頭魚雷を積んだ艦載機が数十機と現れた。

フゥウウウン──と小さくも、莫大なエネルギーを放つ重力子エンジンを吹かし、いつでも出撃させられるように待機させておく。

 

「まだまだ────────」

 

タダでさえとんでもない火力であるのに、と私は小さく苦笑しながらもさらに火力準備いていく。

 

ゴゴゴゴ──と地響きのような音を立てながら、艦載機の乗っていない甲板兼滑走路の空いたスペースが本を開くように展開し、中から何百門というミサイル等の発射装置が顔を出した。ガコンガコンとミサイル一つ一つが小さく回転し、発射準備が完了していることを知らせてくれる。

 

全力戦闘────の4割くらいの火力の用意が完了した。ディスプレイなどを確認するまでもなく、感覚でそう感じた。

まぁ、騎士道精神というわけでもないのだが、確かに全力戦闘をしたいところだ。しかし、そんな馬鹿みたいなことしてしまえばコンゴウやヒエイに絶対にバレるし、何言われるかわかったものではない。彼女らはお小言が多すぎる。

もっとゆとりを持つべきだ、となんども熱弁する訳なのだが一向に通じる気配がない。まったくもってつまらない話だ。

 

そんなわけで、これが今の私に出来る全力なのだ。

 

「さぁ、これだけ用意すれば大丈夫よね。」

 

自分の戦力を振り返って確認する。

 

「隠れてられるのも今のうちよ。」

 

クスリ、と笑うとすかさず獲物を狩る獣へとその気配を変える。

 

「全艦載機、発っか────ッ!?」

 

イ401がいるであろうと予測していた前方とは遠くかけ離れた左後方から、重力子エンジンの反応があったからだ。

振り返って確認してみれば、確かに後方より高速推進音、魚雷が飛んできていた。

その魚雷群の中に小さな違和感を覚える。

 

「タナトニウム反応、侵食魚雷……………しかし、無駄ですね」

 

後方より放たれた魚雷郡は私の展開したクラインフィールドに阻まれ、海中で爆発、さられには紫色の球が現れ周囲を侵食していった。もちろん私に被害はない。

 

「まさか、作戦なしのただの攻撃?401がそんなことをするわけッきゃぁ!?」

 

気がつけば、装甲空母タイホウのど出っ腹から煙が登っているではないか。通常弾頭魚雷だったのか、自前のナノマテリアルで速攻修復できる程度の被害ですみ、息をはこうとした時、ソナーに引っかかった小さな三つの影。

 

「間に合って!」

 

勢いに任せて腕を突き出す。それに呼応するかのようにクラインフィールドが展開された。そこに侵食魚雷と通常弾頭魚雷が着弾し、轟沈するかもしれないという恐怖をまき散らしていく──装甲空母というだけあって侵食魚雷の一発や二発では沈むわけないのだが──。

 

「嘘!?さっきまであっちに────」

 

そうして気づく。

 

「無音潜航させていた本艦に魚雷を積んだアクティブデコイか!」

 

侵食弾頭兵器を二発ほど、通常弾頭兵器と合わせてアクティブデコイディスプレイであろう艦影に向けて放つ。少しの時間も立たずに撃破することが出来た。やはり本物は最初に現れた左後方のあれか。

 

時間にして数分だが、このあとの展開をも含めてしばし熟考する。

なるほど、これが戦術か。

 

おもしろい!

 

「全艦載機、発艦!」

 

小さな重力子エンジンを吹かしながら、風切り音を幾つも残して全ての艦載機が空に舞った。

 

「こんどはこちらの番よ。」

 

まるで獲物を狩る獣のような雰囲気を放ち、私はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第一次魚雷群、防がれました!続いて第二次魚雷群は着弾、第三次魚雷群も防がれました!」

「あぁ、しかし攻撃を当てることができると分かっただけでも儲けだ」

「しっかし、俺らあれに勝てんのかねー?」

 

静の報告に返事をする群像に、杏平が疑問を投げかける。

 

「いや、勝たなくては。だな」

「艦長、是非ここでかっこいい言葉の一つや二つ、出てきてもいいのではないですかね?」

 

僧が隣から茶化すように言った。

 

ふむ、と顎に手をやると、群像は401クルー全員に聞こえるような大きな声で激を飛ばした。

 

「俺らはこんな所で沈む訳にはいかない!何としてでも生き残る!不意打ちだとしてもこちらの攻撃は当たるんだ……………かかるぞ!」

「「「おう!」」」

 

士気はばっちり。あとはこの状況をどう乗り越えるかだけだ。

 

「いおり」

「はいはーい!」

「重力子エンジン、フル稼働させる。どれぐらいもたせられる?」

「うーん、難しいところだけどねー……………十分はもたせてみせるよ」

「上々だ」

 

うちのクルーは皆優秀だな、当たり前のことを改めて実感した。

 

さて、こちらの勝利条件は二つである。

・この海域を突破してタイホウとの戦闘区域を抜けること。

・タイホウに勝つ。

 

後者は限りなく確率が低い。

しかし、どちらに転ぶかもわからない。ただ、大戦艦ヒュウガにだって我々は勝利を収めた。もしかしたらということがあるかもしれない。

よし、と深呼吸を1回挟むと脳を全力で回転させる。

 

「タイホウ、方位168。魚雷発射音を確認、数50!続いて海面に着水音感、100以上!まだ続いています!」

「来たか!僧、デコイをばらまけ、本艦の被害を最小限にすることだけを考えろ。杏平、1番から4番に通常魚雷装填。5番に音響魚雷、6番7番にアクティブデコイ装填。アクティブデコイにも魚雷を積んでくれ。数とプログラムは任せる。最後に8番に侵食魚雷装填。」

「ハイハイよっと!」

 

なれた手つきでコンソールを操作していく二人。ドゴン、ボォンと魚雷が起爆していく音が艦内に響く。大きな揺れがないことからまだ本艦にダメージは通ってないと群像は少し安心した。

そこで群像は新たな指示を出していく。

 

「音響魚雷が起爆してからアクティブデコイを展開。各デコイの操舵は僧に任せる」

「「了解!」」

 

「機関最大、急速潜航!各魚雷、ファイヤ!」

 

慣性の法則に従って体がグンと後ろに引っ張られる感触、この感触で脳が完全に戦闘モードへと切り替わる。

うっすらだが、勝てる作戦も用意してある。

 

全力で足掻こう……………その喉元に喰らいついてやる。

 

こうして戦いの火蓋が切って落とされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ヨシムツ様、古山陸軍参謀総長様、評価ありがとうございました!
感想をくださった方、ありがとうございました!


何かありましたら、教えて下さい。



(2017/10/13 00:23:12)
ちょっと中身変更しました。この段階で、401クルーはタイホウが艦載機を使うことを予測しなかったということでよろしくお願いします。

勝手にすみません……………

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