霧の艦隊でも自由気ままに航行したい   作:やなぎのまい

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表現に修正。
大根増やしました。





第十二話

 

 

 

 

 

「ん」

 

見事、八百屋もどきを開店することが出来たタイホウ。そんな彼女は今、その自慢のお店の椅子に座り、そこから店先という額縁から街を見ていた。

 

(人間の生活も悪くないわね)

 

フフ、とつい頬が緩んでしまう。

相も変わらず順調に、商売人街道を歩き続けており、常に新しい発見と経験を得ることが出来る。

最高すぎる。

 

「あら?」

 

そんな時、艦載機から入ってきた情報にふと声を漏らした。

 

その情報とは、

 

「401が進路を北東に変更。そして、温帯低気圧は強大な台風になったと」

 

一つ。佐世保湾に停泊していた401に動きがあったのだ。401を追わせることにした艦載機によると、北上しており、こちらに向かっている可能性があると。

 

二つ。先の艦載機とは別の艦載機から入った情報だ。どうやら、名古屋市沖に強い勢力をともなった台風が発生したらしい。

映像として艦載機から入ってくる情報は、台風を横から見たものだけだった。

 

そう言えば。台風の中に何かいた気がする。

これが何なのか、勘であるのか、はたまた忘れてしまった知識の残りカスなのかは知らないが、何となく台風の中を確認するべきだと、タイホウは判断したのだ。

 

「これは……………」

 

艦載機に確認させた先、台風の目。そこには赤く光を放つ一隻の重巡洋艦があった。

 

「たしか、これは…………………………タカオね」

 

霧の艦艇、重巡洋艦タカオ。コンゴウの『東洋方面第一巡航艦隊』に所属する艦だった気がする。重巡洋艦に恥じない、高火力を持つ艦だ。

 

いや────

 

「ちょっとまって」

 

ふと、あることに気づく。本当に些細で、気づけたことが奇跡のようなことだ。

 

タカオの艦首の向き。401がいる────いや海に潜ってしまったため、いると思われる────海域にピタリと向いているのだ。

試しにシミュレーションでだした海図にプロットして表示する。名古屋市沖にいるタカオ。そして、予想になるが401がいると思われる海域。タカオの艦首から直線を引くとやはり、401のいると思われる海域にその直線が交わるのだ。

 

「これは、気づいているわね」

「────せん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「401が向かってきていることに」

「────みません!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません!」

「ひゃう!?」

 

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。声がした方を見てみる。

そこには、ボロボロの布とでも言われそうな服を着た、このあたりに住んでいるのであろう男が、野菜や果物が並ぶ店先に立っていた。

 

「コレください」

 

そう言って、大根の入った籠とほうれん草の入った籠を交互に指さす。「大根は5つでほうれん草は一つで」と言いながら財布を取り出す男。

 

「は、はい!」

 

慌ててビニール袋を手に取り、五つの大根とほうれん草を一つを順番に手に取り、それらをビニール袋に入れていく。重みで破けてしまうかもしれないと商品の入ったビニール袋をビニール袋の中に入れて二重にする。

ビニール袋の持ち手の部分をグルグルと巻いて、

 

「こちら、合わせて700円になります」

「はいはい」

 

そう言って、男は手にしていた財布から小銭を700円きっかり取り出す。

片手でビニール袋を持ち、もう片方の手で小銭を、確認するタイホウ。

 

「ちょうど、700円。ありがとうございました」

 

ポケットに小銭を入れると、大根とほうれん草の入ったビニール袋を持つ手を片手から両手に変えて、客である男に手渡す。

 

その時、男性の客と目が合った。

売る人、買う人のやりとりがあるこの時では、なんの違和感も無いはずなのだが、タイホウには、その目がとても鋭いものである気がした。

 

ここで気づくべきだった。

人間になりきったつもりであるなら、五キロ以上にもなるものを片手で持つべきではなかったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プルルル、と執務室の机に置いてある携帯電話が鳴った。

 

『もしもし、上陰さん?』

「ああ、どうした?」

『例の件何ですが。裏が取れました』

「なに?」

 

例の戸籍情報の偽装疑惑がある少女。その少女の素性調査、は表向きの理由であるのだが、上陰はこの一件を、特に北良寛に漏れないように内密に事を進めていた。

と言うのも、タイホウ=装甲空母大鳳ではないか?といつ考えがどうしても上陰から無くならなかった。よって、私用の部隊、という訳にはいかないので、腐れ縁(クルツ・ハーダー)の海兵隊を動かしてもらっていたのだ。

 

「それで、どうだった?」

『結論から言いますと、人間でない可能性、また霧の関係者であることは間違いないかと思われます』

「裏取りは?」

『まず、集音マイクにより周りから音声の解析を行っていたところ、我々か、霧の関係者でないと知らないことを口に出していました』

「具体的には?」

『聞いてもらった方が早いかと』

 

そう言うと、ピロンとデスクトップのパソコンに着信した旨を伝える電子音が響いた。

 

電話を持つ反対側の手で、パソコンを操作し、着信したファイルを開き、音声データを開く。

 

 

 

 

 

『たしか、これは…………………………タカオね』

 

『ちょっとまって』

 

『これは、気づいているわね』

 

『401が向かってきていることに』

 

 

 

 

 

音声データを聞き終えると、上陰はスっと目を細めて小さく息を吐いた。

 

タカオ、そして401。もし彼女がただの横須賀に住むものだったなら知り得るはずがない単語である。そしてタカオと401という今まさに問題になっているものの単語だ。偶然ということもあるはずがない。

 

『もしもし?』

「音声データについては、私もそう思う。他にもなにかあったか?」

『えぇ。彼女、今街の方で八百屋もどき?を経営しているのですが、その時海兵隊の独りが変装して突入しに行ったんですよ。大根とほうれん草を求めて』

「……………」

『それで、会計しようと思って小銭を彼女の手に渡した時、彼女、片手で五つの大根と一つのほうれん草の入ったビニール袋を持っていたんですよ』

「それのどこが…………………………まさか」

『えぇ、世間一般の15歳の少女が片手で軽々と五つの大根が入った重い袋を持ち上げることが出来ると思いますか?』

「なるほど」

 

話を聞くに、特に大きな大根だったらしく、1.5キログラムから2キログラムくらいあったと見てもいい、という話だ。しかもそれが五つ分だ。それを片手で持ち上げられるとなるの本格的に体を動かす人くらいだろう。どうやら、腕もそんなに太くなく、むしろ、細い部類に入るらしい。そう報告を受けていた。

 

これはまさか。

 

上陰の中で何かがカチリとハマった。

401を見つけた時と同じだ。気分が高揚し、次の手を考えれば考えるほど頭が冷静に冴え渡っていくような感覚。

間違えない、タイホウは霧の装甲空母タイホウだ!

 

近々、直接赴いて話をしなくては。

 

「海兵隊による監視を続行、決してバレないようにな」

『了解しました』

 

そう言ってプツリと電話が切れた。

電話を執務室の、机の上に戻すと、椅子の背もたれに体全身を、預ける。メガネを取り、目元を指で揉みながら息をついた。

 

名古屋沖に居座る重巡洋艦タカオ。

401。

そして、装甲空母タイホウ。

 

いくつもの問題、そしてキーワード。

世界を動かすため、上陰は思考の海に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 








どもども。しばらく投げてました、ごめんなさい。
作者ページ見た方は知ってるかも知れませんが、これまた投げっぱなしになるかもない作品を出してしまいました。

ごめんなさいぃ!

また更新していきますので、どうかお付き合いのほどよろしくお願いします。



次回予告!

霧の艦艇、ダメっ子タイホウ!?
あれれ?人間に招待がバレちゃった?
嘘、駄目よ上陰おじ様!そんなことしちゃ!!
どうなるタイホウ、そして八百屋タイホウは一体どうなっちゃうの?
え?ズイカク、その手に持っているものは……………えぇ!さつま揚げ!?そんなもの何に使うっていうの!?
次回、タイホウ死す!(笑)

お楽しみに!




続かない(次回予告が)





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