俺の幼馴染が踏台転生者で辛いのだがどうすべきだろうか?  完   作:ケツアゴ

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睡眠中も辛いのだがどうするべきだろうか?

「ねぇ、私のことをどう思うかい?」

 

 また予知夢が発動したようで、俺は大人になった遥とバーで飲んでいた。少し飲みすぎたのか顔が赤らみ目が座っている遥に対し俺は何も言わない。何時もなら馬鹿にした様な呆れた様な顔になる彼奴がこの時は少し頬を膨らませて不満そうだった。

 

「答えてくれたって良いじゃないか。昨夜私のハジメテを奪っておいてさ」

 

「力で押さえつけられて襲われたのは俺の方だと記憶しているが、酒による記憶障害か?」

 

 ……あっ、察した。俺がどうして遥と結婚したかだが、関係を持った事による自責の念か。癪だが納得した。それ以外で有り得んからな。

 

 さすがに理不尽だと思うからしないが、起きたらあの馬鹿の脳天に辞書をお見舞いしてやりたいと思う中、夢はまだ続くようだ。正直むず痒いというか苦痛なのだがな。

 

「私はね。君となら結婚しても良いと何度も言ったけど改めるよ。……君と結婚したい。君じゃなきゃ駄目なんだ。私の愛は全部君に注がれてるんだ。だからさ……」

 

 何かを期待するように微笑みながら遥は鍵を取り出した。

 

「実は部屋を取ってあるんだ。今夜、私に抱かれる気はないかい?」

 

「無いな。それと正気に戻れ」

 

 傍から見れば理不尽に思えるだろうが、俺は仕方ないと未来の俺を弁護する。遥とは物心ついた頃どころか乳児の時からの付き合いだ。ずっと傍に居て、美少女を見れば口説こうとする馬鹿の後始末を何度もしてきた。隣に居るのが当たり前で、異性としてハッキリと意識した事などない。

 

 だが、この時の奴はそういった目で俺を見ている。轟達を口説く時の目をだ。話を聞く限りでは特に関係が進展したという事もなく無理に関係を結ばれた様だしな。声からも心配していることが伺える。

 

「私は正気さ。悪いけど昨日のような事は何度も起きると思ってくれたまえ。ふふふ、君こそ私の唯一無二の子猫ちゃんだぜ?」

 

「あら、この様な夢を見るとは実は押し倒される願望が……。いえ、これは予知夢ですわね」

 

 視界が暗転し、背後から聞き知った声が投げ掛けられる。最近はアリーゼが止めてくれたのか出没しなかったエトナが俺の背後に立っていた。周囲は一筋の光も差さない暗闇だが、俺と目の前の彼女の姿はハッキリと見えている。

 

 

「帰れ。お前が来ると翌日辛いのだ」

 

 此奴が夢に現れた際、俺の意識は覚醒時と変わらない明確な状態だ。脳が休まらず寝不足になるから本当に朝が辛いのだが、何を勘違いしたのか照れながら服の襟を両手で持って左右に広げるエトナ。いや、此奴がどういう方向に思考を持っていくかなど分かり切っていたか……。

 

「性欲を持て余すからでしょうか? なら、私を剥いてお好きにして下さっても……いえ、この話は一旦横に置いておきましょう」

 

「俺からすれば永久に置いていて貰って構わないが?」

 

「実はアリーゼ様ですが婿殿への想いが募るばかりで……」

 

 何とか思いに応えてやってくれ、とでも言いたいのだろうか? 悪いが俺からすれば遥が轟達を口説くのと何も変わらない気がしてならない。此方の事を思って勉強している等と言われた事があるが、関係を持つ事を前提としてだ。何度か戦い名前しか知らない明確な敵に気を使うほど俺は人間ができていないのでな。

 

「前にも言ったが俺と彼奴は敵だ。少なくても俺が裏切らないと言ったら、ならば攫うだけ、というような事を即答する相手とは価値観が違いすぎる」

 

 やはり種族の違いとは厄介だ。姿が似通い言葉も通じてある程度文明も似ている。だが、価値観があまりにも違いすぎる。気に入った相手は力尽くででも手に入れる。それが鬼姫族の特徴だからな。大体、俺の事を大して知らないのに結婚しろと言われてもな。ならば此方も相互理解をする気がおきん。

 

「ええ、そうでしょうね。私達からすれば人間のそういう所は理解不能です。人も我々も元は獣。なら種の繁栄に繋がる強い者と子を残すことだけ考えれば良いでしょうに。お嬢様のお勉強もそれに繋がる為の事に過ぎませんし。ほら、マンネリが倦怠期に繋がるそうじゃないですか」

 

 先程までの熱に浮かされた様な蕩け顔から一変して冷徹な表情になったエトナは呆れたような口ぶりで溜息を吐き、怪しく微笑んだ。

 

「今宵は忠告に参りました。我らが仇敵は貴方達に注目しています。此方に着き婿として優遇されるか、子を残すための種馬として過ごすか……最後の警告をする時までよく考える事です」

 

 視界が白くなり、俺の目が覚める。耳に最後の嘲笑うような声がまだ響いているようで気分が非常に悪かった……。

 

 

 

 

 

 

 

「はっ! 君を婿にするか種馬にするかのどちらかだって? 私が三人纏めて虜にしてやるさ」

 

「あっ、そうか。頑張れ。超頑張れ」

 

 昼、夢の事を掻い摘んで話すと遥はゲス顔で気合を入れている。予知夢の事で意識? 可能性は可能性だしな。意識してこの馬鹿の傍に居辛いのは馬鹿馬鹿しい。

 

 しかし前から思っていたが、此奴の自信は何処から来ているのだ? 確かに数名の女生徒を口説いては一回だけデートをしてるなどしているが、行為に関しては未経験だろうに。だが、あの三人を受け持ってくれるなら俺も苦労が……苦労が四倍になる未来しか見えない。

 

「……良いよね、花嫁姿ってさ」

 

 この日だが、俺達は知り合いの結婚式に出席していた。後方部隊の一人の式で、遥は花嫁を眩しそうに見ている。いや、流石に人妻にまで手を出す気ではないだろうが……多分。

 

 俺の視線に気付いたのか遥は眉を顰めて不機嫌そうだ。どうやら通じたようだな。この程度、通じなくて何が幼馴染だが。

 

「確かに彼女は美女だし私も狙ってたけどそこまで節操なしじゃないさ。私が言ったのは服についてだよ。花嫁衣裳って憧れるんだ。私だって乙女なんだぜ?」

 

 ……意外だな。此奴にそんなまともな感性が残っていたとは。花嫁を口説くべきではないなどと理解していたか……。

 

「ジューンブライドで純白の花嫁姿の私。ああ、体にピッタリのタイプが良いかな? 父さんから君に渡されてさ……」

 

「相手は俺で確定という事か? 随分と光栄なことだ」

 

「だろ? 私が結婚するなら君しかいないし……君が私以外と結婚したら今より構ってくれる時間が減りそうだからね」

 

 不満そうな顔から少しだけ泣きそうな顔になるのを見て最近の事に納得する。小鈴やら轟やらアリーゼやら僅かな期間で遥以外に俺の傍に居る奴が増えたし、ベタベタもされている。居場所を奪われたような気がして不満だった訳か。

 

 

 

「まあ、君の隣は永遠に私の物だけどね。小鈴は怯える姿も可愛くってついつい。でも、いずれ恐怖が癖になって私の事をお姉様とか呼んだりしてさ……ふふふ」

 

 あっ、一瞬此奴の傍から離れたくなった。しかし分かっているのなら最近の過剰なスキンシップは勘弁して貰いたいものだな。俺は妄想にふける馬鹿の顔を見ながらそう思う。

 

 

 

 

 

 

「……ブーケ私が貰ってしまったよ。ふふふ。本当に君のお嫁さんになるのも悪くないかもね。私が幸せにしてあげるよ?」

 

「そうかそうか。それは僥倖だ」

 

 ブーケを手に入れて笑っているまでなら良かったのだが、もはや態とでは無いだろうかと思ってしまう。だからまぁ、此奴の花嫁姿を見てみたいと思ったのは黙っておこう。悪くは……なさそうだな。

 

 俺が自分の隣で照れている花嫁姿の遥の姿を想像した時、探知に反応があった。この反応は間違いなく……。

 

 

「この様な祝いの日に……」

 

「敵かい? しかもその表情からして……あの三人か」

 

 折角の日を最後の最後で台無しにさせる訳にはいかないと俺達は会場を抜け、反応があった場所へと向かう。そこには反応通りにアリーゼ達の姿があり、俺は言葉を失ってしまう。

 

 

「……は?」

 

 何時もの様に着物を着崩したエトナは金棒を構え、軽鎧を着たクリスは巨大な包丁を思わせる大剣を構えている。アリーゼはナイフに軍服だ。ああ、それは良い。此処までは問題ない。だが……。

 

 

 

 

 

「何故ナメタケの瓶を首飾りにしている?」

 

「お前からの贈り物だからだ。大切に身に纏うのは当然だろう?」

 

 ……価値観の違いって本当に凄いな。鬼姫族とは皆この様なのか?

 

 

 

 

 

 

「……なあ、エトナ。名誉を棄損されている気がするんだがどっちを訴えるべき?」

 

「当然アリーゼさ……何を訳の分からぬ事を言っているのです、クリス」




原点回帰 二人の糖分こそこの作品だ 感想お待ちしています

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