紅髪夜兎の長男   作:嘉斗

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ばーっと書いてます。注意。
ご指摘により、加筆させていただきました。


仕事→地球

 

 

 

まだ夜にもなりきれない夕暮れ。この時間帯は何故だか物寂しいが、僕は心が安らいで行くのを感じる。

 

誰そ彼の時間。光と闇、生と死、あるいは今世と前世か?

まあ一つ言うならこの空自体は僕にとってなんの根拠もない安心感を与える、ということだ。

その空は赤いが言葉にして綺麗と表せる。それなのに自分の今の姿は同じ赤というのになんと汚いことか。

仄かに芳しくも感じる腐臭を帯びた鉄の匂い。

一般論で言えばその匂いは嫌悪感を覚える匂いだろうが、僕にとってはその感覚が錆びてしまったようだ。

 

匂いの元は分かっている。

 

僕の下にある散々に広がる天人の山である。息をしているものはもはや居ないだろう。

感慨もなく横目でそれらを見て、ふう、とため息をつく。

ついでに頬に広がるまだ温い体液を手の甲で拭いとり、なんとなしに舐めてみる。

 

 

不味い。

 

 

全く、平和ボケしていた頃の『俺』だったなら嘔吐ものの行動だが、この世界に生まれてからというもの戦闘――むしろ虐殺に近いかもしれない――という所詮、『()()()()』が日常に近い。

 

 

そう、僕には前世の記憶がある。

 

 

僕の前世――日本という楽園で18年間過ごした『俺』は、その生涯を突然の心臓発作で幕を下ろした。

父母は高校卒業と同時に1度の誤りで『俺』を世に落とした。2人は育児のいの字も知らなかったそうだ。どちらも遊び人で『俺』のことは厄介な荷物に違いなかっただろう。結果、『俺』がグレてしまうのは自然な流れであって、そんな人間に友人と呼べるものは同じような境遇の人間になるのは自明の理だ。

16になってそんなお友達にも退屈になり、真面目に生きようとバイト生活の日々。しかし実際余裕をもつ時間が無いなら現実に目を向けることもないため、現実逃避のためといってもいいかもしれない。バイト代が両親の遊び金になるのも目を瞑っていた。かつてのお友達から食費を強請られることにも耳を塞いでいた。

そんな生活2年と少し過ごした頃死んだ。初めは苦しかったが穏やかな最後であったな、と僕個人では思う。

まとめて言えば、別に縋り付くほどの人生ではなかったということだ。よって死を早く迎えたからといって今更寂しく思うこともない。

 

 

さて、そんな『俺』はこの世界で目を覚ました訳だが、その世界は何とも荒廃していた。日陰者が集まる洛陽という星……、それが第2の人生の出発地だった。

この人生での母さんは身体が弱かったが芯の通った女性で、父さんは頑固そうで仕事バカだったが実は武器用な人であった。

 

『俺』は『神薙(かんな)』という名前を与えられ、僕になった。僕は幼いながらも達観していたが、不気味がらずに2人は愛を注いでくれた。

愛情……それを得たのは間違いなくこの2人のおかげだろう。

その上弟と妹が生まれ、親愛と共にシスコンブラコンなるものも学んでしまった気がする。

 

 

が、日本のようなほのぼのとした生活も呆気なく終わってしまったのだが……。

 

 

何となく沈んだ気持ちになり、死屍累々となった者達、ついでに言うならカエルの天人達を眺める。軽く100の数はいたはずだったが手こずることも無く殲滅した。

確か『ミドリガエル』なんていったへんてこな名前の宇宙海賊だった。

 

 

 

 

「そういえば……父さんの番傘、緑っぽいやつだったよなぁ。」

 

 

 

 

僕の今世の父、父さんはもうハゲに近く……いや、ハゲているがまだまだ仕事に励んでいる。

衰えを知らない身体は大きく、逞しい。僕は何故か成長しても身体が小柄なままで、何故父さんの遺伝子が働いていないのかと疑問を持つこともある。

それに母さんと顔立ちが瓜二つと言える程に似ているためか、それなりの格好をすれば女としても生きていけるのではないだろうか。

少し……いや、かなり不服である。

 

まあ僕の話は置いておこう。

 

そんな父さんとつい最近たまたま宇宙船で出くわしたのだ。

色々積もる話もあったし、久々の家族の会話に何気なくほんわかとした気持ちになっていた所に父さんは朗報とばかりにある話をした。

 

『実は神楽が地球という星に出稼ぎに出ていてな。俺は神楽を連れ戻そうとしてその星に行ったんだ。……まあ何やかんやあって連れ戻すことは出来なかったがな。しめェには大事な娘を見殺しする所だった……。だがある銀色の侍に助けられてなぁ……。』

 

 

僕としては何とも信じられない話であった。この頑固の塊の男を諦めさせてしまうとはその侍というのは一体何者なんだろう。

父さんの話によれば神楽は銀色の彼の所で奉公するそうで、しばらくは洛陽の家には帰らないとのこと。

 

 

ふむ、と口元を手で覆い思考に耽る。

夕暮れが過ぎ去り夜に差し掛かる空を見て、よし、と立ち上がる。

 

 

 

 

 

「……地球、行ってみるか。」

 

 

 

 

 

 

前世の自分が過ごした星。だとしてもその星とはまた異なる青い星。

 

妹に久々に会いに行くのも心が沸き立つが、かつての故郷に見えるのも嬉しい。

 

 

 

 

そうと決まれば話は早い。さっさと終わらせた仕事の報酬を貰い、その金で地球への船に乗ろう。

 

 

 

 

血で湿った服は重かったが、僕の足取りは軽やかだった。

 




お粗末さまでした( ◜ω◝ )

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