ヤンデレ☆イリヤ   作:鹿頭

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ちょっと難産だった


六話

 

 

「一緒に暮らすことになった従姉妹のクロエちゃんです」

 

ある日の夜、なんの前触れも無く帰ってきていた母さんによって紹介されたクロエ。

 

アレ?なんか昨日一昨日と一悶着あったような…?なかった様な…

なんだったっけ?うーん、不思議だ。

 

なんか、とてつもない何かが有った様な…

 

 

「まさか従姉妹が居るなんてな…知ってたか?」

 

従姉妹が居たのは初めて知ったよ士郎。

 

「それにしても、そっくりだな…!まさか隠し…」

 

母さんの鉄槌で強制的に黙らせられる。

それはアカン。

 

クロエがこちらをチラチラと見てくる。

イリヤはクロエを敵視した目で見ている。

 

うーん、どうしよう!

士郎!大丈夫か!

 

「なんでさ…」

 

いや、隠し子とかなんだの言ったのはそっちじゃない。

 

「それもそうか……寝るかな、もう」

 

そうしときなさい。

士郎に続いて寝るとしよう。

 

 

 

 

 

しかし夜中、何者かがベッドに潜り込んでくる感触で目を覚ます。

 

「あ…起こしちゃった!?」

 

クロエ、か。一体どうしたん?母さんと一緒に寝てたんじゃないの?

 

「いや、そうなんだけど…ね?なんか寂しいなーって」

「それとも…お兄ちゃんは、一緒に寝るの嫌?」

 

祈る用に手を組み、上目遣いでおねだりするクロエ。

 

寂しいって母さん一緒に居るでしょうに…と思ったが、口には出さない。

代わりに右側のスペースを空けて返事に代えるものとする。

 

「お兄ちゃん…!」

 

嬉しい!と言わんばかりに抱きついてくるクロエ。

 

構わず、右手を頭の上から滑らせるようにして撫でる。

ちょっと無理な体勢だけれど、クロエが喜ぶんだったら、いいかな。

 

「…ねぇ、お兄ちゃん」

 

うん?

 

「ヘン、なお願いなんだけどさ…」

 

「二人っきりの時は…イリヤって呼んで欲しいな?」

 

それ、は…

 

ちら、と右の彼女に目を見やる。

どうするべきーーむ。

その時。()()()()

 

「ーー前にも似た様な事、有ったよな」

 

「え?」

 

いやね、かなり違う状況だけどさ。

イリヤは、不安がってたなーって。

 

「ーーーーー」

 

瞠目するクロエ。

驚きのあまり声が出ないのだろうか。

 

「お…ぼえ、て……」

 

さて、どうだったか。

 

「お…」

 

お?

 

「お兄ちゃんっ!」

 

馬乗りに乗ってくる。

ちょっと待つんだイリヤ!な?な?

 

「これはもう、イイって事よね?そうよね?お兄ちゃん!」

 

「ダメに決まってるでしょーー!」

 

イリヤが部屋に入ってくる。

 

「何よイリヤ、もう来たの?」

イリヤをジト目で睨みつけるクロエ。

 

「もうって何なのよ!さっきから見てれば好き勝手に!」

「お兄ちゃんもお兄ちゃんだよ!どうしてクロのお願い聴いちゃうの!?」

 

どうしてって…言われても…

 

「お兄ちゃんは、私の事の方が大切だからなのよねー?」

 

クロエは体を前に倒し、そのか細い手をこちらの首へ這わせ、頭を抱えるように回してくる。

 

「そんな事有る訳ないでしょ?お兄ちゃん?私の方が大切だよね?」

 

イリヤは、どこか虚空を思わせる様な眼でこちらをじっと見つめてくる。

答えは決まりきっている。そう訴えかけてくる様な眼だ。

 

お兄ちゃんは二人共仲良くして欲しいんだけど…

 

「ほえっ!?」「ええっ!?」

 

イリヤとクロエは同時に驚いた!って感じの声を上げる。

 

「えー…お兄ちゃん。それはないでしょー」

クロエ。

 

「お兄ちゃん…」

イリヤ。

 

どっちか選べって言われても…

二人共大切な妹だし。選べないって。

 

「ふーん。そっか。お兄ちゃんらしい、と言えばお兄ちゃんらしいけどねー。妹、ねぇ…

 

「お兄ちゃんがそう言うんだったら…私は構わないけど…そっか、妹なんだ…

 

あ、あの?何か?

 

「ううん、なんでもないわよ、おにーちゃん。でしょイリヤ?」

 

「うん、なんでもないよ」

 

笑顔で答える二人。しかし何やら確執めいたものが見え隠れしている…。

クロエは手を解き、右側へと転がる。

 

「ホラ、イリヤは左側ね」

 

「うん」

 

左側にイリヤが寝転がる。

兄は意思表示をしていない。

嫌なワケ無いけど。

 

「うーん…ちょっと狭い…」

 

「お兄ちゃんに抱きつけばいいでしょー?」

 

「あっ、そっか」

 

左右から挟むように二人に抱きつかれる。

腕が絡みとられる。

そして益々狭くなる。あの、夏場も近いんですけど、暑さとか、気にならないんです?

 

「?お兄ちゃんと居るのに暑さなんか関係ないよ?」

 

イリヤが本気でわからない、と言った様な表情で返す。

 

そっかー。

 

「そうだよー。えへへ」

 

頭を撫でようか、と思ったけど、両腕は動ける状態に無い。

頭を乗っける事でそれに代える。

 

「ふぇ!?わ…わわ…ふにゅう…」

 

イリヤ!?…ダメだ、返事がない。

 

「むー…ちょっとお兄ちゃん!私にも!わーたーしーにーもー!」

 

あーハイハイ。

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

「うーん…仲良いのは良いんだけど…ちょっと距離、近すぎない?」

 

ごもっともでございます。

 

朝、部屋から出てくる我々を目撃した母さん(アイリ)

そのまま説教…おはなしが始まった。

 

「そうですアイリ様!何度も言っても変わらず…イリヤさんだけでは飽き足らず、従姉妹のクロエさんにまで毒牙に掛けようとするとは…」

 

そんな事してないよ!?

セラの中のイメージってどうなってるの!?

 

「変態です」

 

ひでぇ事言いやがる

 

「ま、まあまあ2人共、そんな手を出した訳じゃないんだし、そんな説教しなくても…」

 

「そういう訳にはいきませんシロウさん!貴方も須らく説教の対象です!」

 

「!?一体オレが何をしたって!?」

 

「貴方は美遊さんや他の子に手を出そうとしてるでしょう?」

 

「誤解だ!」

 

「イリヤさんやクロエさんにも少々怪しいですし…それに、犯罪者は往々にしてそういうものです」

 

「ツッコミ所が多過ぎる!弁解を!弁明の余地を!」

 

「有ると思いですか?」

 

「なんでさぁぁぁあ!」

 

士郎とセラの舌戦は、圧倒的優位でセラの勝利に終わった。

 

 

「マ、ママ、私がお兄ちゃんに甘えてるだけだから…」

 

イリヤが割って入る。

 

「うん、わかってますよーイリヤちゃん。問題はそこじゃないのよねー」

 

なんと

 

「キリツグ、なんて言うかしら…」

 

「だからお兄ちゃんは何もしてないよ!」

 

「そうよママ。お兄ちゃんは何もしてないわ!」

 

「小学生二人にこんな事言わせるなんて、なんて罪作りなのかしらねー」

 

あっこれ話通じそうで通じないパターン…

 

「まあ、イリヤちゃんとクロエちゃんの言う事だからママ信じるわ」

 

「ママ…」

 

「キリツグは怖いわよー」

 

だからこっち見て言うのやめてって!

 

 

 

 

 

 

 

 

はて、あれから数週間が経った。

 

料理対決だの何なのあったり、バゼットさんと遭遇してみたりと色々な事があった。

 

そんな今日は、海に来ています。

 

今日はイリヤとクロエと、美遊ちゃんの誕生日。

 

前々から誕生日プレゼントを用意する、はずだった。

 

実際にはそうではない。寧ろ大変な目に遭った。

 

確か、あの時は……

 

 

「話があるんだけどさ」

 

どうした士郎。藪から棒に。

 

「いやな、そろそろ誕生日だろ?」

 

あー、そうだね。

 

「誕生日プレゼント、何にするつもりなんだ?」

 

まだ決めてない、そっちは?

 

「あー、遠坂に相談して決めたんだけど。ブレスレットにしようと思ってる」

 

誕生日プレゼントにしては重くない?

 

「いや、割と軽いぞ?」

 

そっちじゃねぇよ…

しかし、か。

そうなんだよなー奴はブレスレットなんだよー。

どうしよう。

 

指…辞めとこう。どうなるか知れたもんじゃねぇ…!

 

うーん…。

 

 

 

 

「それで、私の所、へ。ですか、そうですか」

 

本当にすみませんカレンさん!許してください!

 

「確かに、女性への贈り物を女性に聞きに来る兄弟共々、デリカシーが無いのは火を見るより明らかな事でした」

 

……仰る通りです。

 

「そう思っているならもうちょっと姿勢を低くしなさい。具体的には、額が地面に着くまで」

 

ぐふぅ…だからって踏まなくても…ああ、すみません、なんでもありません。

 

「まあいいでしょう、それは置いといてです。妹達+αへの誕生日プレゼント、でしたか。……そうですね、私と一緒に、新都へ行ってみましょうか」

 

え?どゆこと?

 

 

 

 

 

「ふふ、久々に来てみましたが、色々有りますね」

 

新都のとある大型複合施設に、カレンと2人で来ている。

一体これはどう言う事なんだ…

 

「せっかく歳上の女性と来ているんだから、ちょっとくらい楽しそうにしたらどうなんですか?」

 

いやいやいや。

 

「無粋な人ですね…ハァ…」

 

「ま、興も削げたので本題に入りましょう。指輪で良いのでは?」

 

考えたけど、どうなるか解らないし、美遊どーすんよ、って話だからナシ。

 

「え?本気で考えてたんですか?警察呼びましょうか?」

 

勘弁してくれ…

 

「ブレスレットは?」

 

士郎がプレゼントするよ、それは。

 

「…兄弟揃ってシスコンでロリコンなんて…ああ、どうしたらこんな罪深い兄弟が…」

 

遠坂に相談した結果だから。士郎は。

 

「……遠坂の娘はブレスレットに込められた意味も知らないのですか…」

 

やれやれ、と言わんばかりに頭を抱えるカレン。やれやれ言いたいのはコッチだって。どうしてぬいぐるみとかにしなかったのだ、遠坂よ。

 

「まあ、対抗してネックレスでいいんじゃ無いんですか?」

 

何に対しての対抗なのか知らないけど、そうしよう。

 

「本当に自分の意見が有りませんね」

 

ひでぇ事言いやがる。

 

「お金は?」

 

有るよ、割と。

 

「露骨な金持ち自慢ありがとうございます。見栄を張らないで下さいね。見ている限りバイトとかやっている形跡はありませんよね?」

 

なんでそんな事知っているのかは一先ず置いといて、当店特製激辛何某、時間以内に食べ切れたら賞金出すって言う店があってね…

もうそのイベントやってないけど。

 

「あー、成る程、あの店ですか。でしたら納得です。結構な額でしたよね。アレ」

 

そうそう、懐がかなり潤った。

 

「それなら…多少高くても問題有りませんね。全額使いましょう」

 

そうしましょう。

 

 

 

 

 

購入したが、カレンは

「少し余りましたね」

 

などと言っている。

 

いや、マイナスなんですけどー?口座から引き出したよ?何が余ったんです?

 

「ここまで付き合ったお礼に何か買って欲しいんですけど、いいですよね?」

 

えー…食事じゃダメ?カレーとかさぁ…

 

「絶対に嫌です!なんでよりによってカレーなんですか!そこは麻婆豆腐でいいでしょう!?」

 

あっ、ごめんなさい。

 

「冗談に過ぎます!」

 

機嫌をそこねてしまった…。

何とか機嫌を取り直してもらわないと…ん?

 

ふと目に留まるのは簪。

百合の花がモチーフにされている。

 

百合、か。果たして良いのか?

 

「簪ですか。ふむ…これ、お願いしますね」

 

えっ、あっ

 

「だめですか?」

 

…わかった。

 

観念して、簪を買う。その場で差し出すと、そのまま髪を何処からか出した髪留め等でポニーテールめいた形に結い上げ、簪を挿した。

 

「…ありがとうございます」

 

どういたしまして。

 

「さて、帰りま……おや」

 

どうしたん?

 

「……いいえ、何も。さ、帰りましょうか」

 

と言いつつ、腕を絡めて来る。

へ!?な、何してるんです!?

 

「別に良いではありませんか?こんな美人に擦り寄られているんですよ?もっと鼻の下でも伸ばしたらどうなんですか」

 

それ自分で言っちゃう!?

 

「ふふ、なかなか新鮮な反応です。さ、行きますよ」

 

割と強引だな!

 

「おや。こう言うのがお好きだと思ったんですけど…違いましたか?」

 

そう言う問題じゃない。

 

「やはり妹じゃないと興奮出来ない、と。本当に救いがないですね」

 

そんな事一言も言ってませんけどぉ!?

 

「言ってない、と言う事は…うわぁ…」

 

やめろ!もうやめてくれ!

 

「…ふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はすみませんね、なんだか。

 

「いいえ、構いません。私も愉しかったですし」

 

楽しかったですか。それは何より。

 

「では、いつかまた。貴方が生きていたらお会いしましょう」

 

なんて事言うんだよ…

 

一応、見送ってから家路に着くのであった。

さて、帰りますか!

 

 

 

ただいまー…?

アレ、イリヤとクロエが来ない…?どこか出かけてるのか?

 

「あ、おかえり。それで、買ってきたのか?」

 

ああ、うん、買ってきたぞ。

 

「お、そうなのか」

 

イリヤとクロエは?

 

「え?居ないのか?ちょっと前に帰って来たと思ったんだけど…またどっか行ったんじゃないか?」

 

ふーん。そっか。セラとリズは?

 

「買い物だ」

 

なんで士郎が料理してんの?

 

「あー…別にいいだろ?なんだって。そう言う気分なんだ」

 

なら仕方がない。

 

「だよな?」

 

うんうん。

セラとまた言い争うが良い。

じゃ、自室に戻るかな。

あ、これ、士郎預かっててー。

 

「おう、いいぞ」

 

どうもー。

 

 

 

自室に戻ると、背後からドアが勝手に閉まる音がする。

振り返る。そこには。

 

「おにーちゃん」

 

え?イリヤ?どうした…の?

 

「クロ、お願い」

 

「はいはーい」

 

いつの間にやら背後に居たクロエに足を取られ、そのままベッドに転ばされる形で寝かされた。

そこに左右、添い寝する形で2人が横になる。

 

「おにいちゃん、しょーじきに答えてほしいかなー?」

 

イリヤ?何に?

 

「あの人。私たちの学校の保健室の先生だけど、どうしていっしょにいたの?」

 

え?あー…うんとね?それはね?

 

「随分仲よさそうだったねー。お兄ちゃん?腕なんか組んでさ」

 

【さて、帰りま……おや】

 

この事だったのかー!ちくしょう!嵌められたぁ!

 

「どう言う関係なの!?お兄ちゃん!好きな人、いないんじゃなかったっけ?」

 

どう言う関係も何も…付き合ってないし。

なんだろうな?相談相手?

 

「相談相手と腕組んだりする?ふつー」

クロエが発言をする。

 

向こう側が勝手にやって来た事…なんですけど…。

 

「ふーん…勝手にねぇ…」

クロエのその目は実に冷たい目だった。

 

「おにーちゃん」

顔を手で挟まれ、引っ張られ、強引に、と言うより、強制的にイリヤの方を向く事になる。

 

「何しに行ってたの?」

 

紅い瞳が、射抜くように見つめている。

いつもはかわいいイリヤが、獲物を縊る寸前の目をしている。

あ、これ誤魔化したら死ぬやつだ。

本当は、秘密にしておきたかったんだけど…

 

「ひ、み、つ?」

 

顔にかかる力が強くなる。目からハイライトが消えていく。

待て待て待て。違うから、想像してるのと絶対違うから。

いやね、イリヤとクロエと美遊ちゃん、誕生日近いじゃん?

 

「え…?」「あっ」

 

だからさ、誕生日プレゼントの相談に…ね?

人に聴くのはどうかとは思ったけど。センスあんまりないから…

 

「あー…うん、そ、そっかー。誕生日、プレゼント。プレゼント…」

 

「あ、アハハー…」

 

頭の拘束が解ける。…ちょっと痛かった。

 

「あっ、待った!」

 

クロエが何かに気づいたように言う。

 

「腕組んでたでしょ!アレ!アレはどうなのよ!?言い逃れ出来ないわよ!?」

 

「あっ、そう、そうだよお兄ちゃん。先生と腕組んでたー!」

 

アレは向こうから組んで来たと言っているでしょうに。

 

「ソレ、本当なの?」

 

本当だよ、クロエ。嘘なんかついてない。

 

「お兄ちゃんの事だから、嘘はついてないんだろうけど…つまり、そうすると……」

 

クロエとイリヤが顔を見合わせる。

 

「「…………………」」

 

「「……ごめん!(なさい!)」」

 

「私、ヘンな事考えてた…うん、ごめんなさい…」

 

「私も。ごめんね?お兄ちゃん」

 

いや、別に怒ってないから良いんだけど…

あー!ほんとほんと怒ってないって!だからイリヤは泣きそうな顔しないの!

 

「でも…疑ったのは事実だし…」

 

だから気にしてないって言ってるでしょ!

そんなね、気に病む事ないんだよ?

 

イリヤを引き寄せ、抱き締める。

 

「お、お兄ちゃん…」

 

イリヤもそれに答えるように、抱き返して来る。

 

「私も泣いとけば良かったかなー…」

 

あー、クロエお前も、ホラ来い。

 

「あーもう!お兄ちゃん大好き!」

 

「わ…私だってお兄ちゃんの事は大好きだから!」

 




誕生日プレゼントもといルビーちゃん暴走は次回。

これでロリコンないしシスコン扱いされない方がおかしい

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