ヤンデレ☆イリヤ   作:鹿頭

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深海電脳楽土

「ここ、は?」

 

辺りを見渡す。

床は透き通っていて、透けて見える底は深海の様に深く、暗く……いや、事実深海か。

先に泡が浮かんでいる。

 

天井は光の届かぬ暗闇。

床が大規模な光源と化していなければ、辺りはとても見れないだろう。

 

 

「……感覚に齟齬がある」

 

左手は無い。

右手の動きに若干のズレが有る。

 

「パスは健在、されどマスターは見当たらない、ふむ。何らかのイレギュラー状態だと推察される、か」

 

銃は取り出せる。

問題は無い。

 

「それに知識も不十分。抜け落ちてる部分がある、か」

 

恣意的なものを感じない、と言うわけではないが。

 

一先ず、召喚者を捜索する事にしよう。

 

 

床に接地する足裏の感覚は、ガラス張りの天空床を踏んでる様で───といっても靴越しだが。

 

「む」

 

タコのような、イカの様な。帯状の物が垂れ下がったなにやらよくわからない物体が数台、隊列を為して佇んでいる。

 

「敵、か?」

 

まあ良い。取り敢えず撃ってみよう。

当たれば死ぬし。

狙いを定め、引き金を引く。

 

「アレ?」

 

死なない。いや、効いてはいるんだろう。

ただ、わかったことがある。

 

「アイツら、第五架空要素で出来てねぇ……」

 

その証拠に、生き延びた二体がこちらへ迫ってくる。

 

「クソッ、左手は……無いんだよなぁ…」

 

銃が効かなかった相手を確実に屠る為の左腕。だがどういう訳かな、そんなものない。

 

「マズイマズイマズイ!!!つまり今の俺は普通の人間と変わらねぇぞ!」

 

耐久力はゴミ。

一部の輩に対してちょう強い銃を持ってるだけ。

しかし効かないので火力はゴミ。

何で召喚された、俺。

 

「お、座に帰る時間か。早かったな」

 

迫り来る触手。

世界がスローに見える。

それは正確に我が脳天を貫こうとして───

 

「セイッ!」

 

背後から突如として現れた、白銀の騎士が、大剣にてその触手を斬りとばした。

 

「お?」

 

斬り飛ばした勢いそのままに、横薙ぎに斬りつける。

目の前の敵は、颯爽と現れた騎士によって退治されたのだった。

 

「お怪我は?」

 

爽やかな笑みでこちらへ安否を問う騎士。

男の俺でも惚れてしまいそうな、ないけど。

優雅な所作だった。

 

「ああ、大丈夫。無事だ。助かったよ、えーと……」

 

 

「ガウェイン、と申します」

 

「おお。ありがとう、ガウェイン」

 

「いいえ、礼には及びません」

 

ガウェイン。

確か円卓の騎士の一人。太陽の現し身のガラなんとかってのが得物だった様な。

 

「えーと、貴方は一体?」

 

「……カルデアのマスターか」

 

ガウェインと背後から合流する様にやってきた四人。赤髪と、狐?と愉快な黒人枠と脚が槍っぽいの。あと人間。そいつは、知識によるとカルデアのマスター、らしい。

 

 

「俺は……エミヤ。クラスはバーサーカーだ」

 

「えっ」「おや」「ムム」「はぁ!?」「ポロロン」「……」

 

エミヤ、と名乗っただけでこの反応。

どうも同姓の同僚がいる様だ。

 

「エミヤ……うーん…」

 

「なんだ、知り合いにエミヤがいるのか?」

 

「はい、まあ……いるって言うか、彼がエミヤって言うか……」

 

「ならバーサーカーで良い」

 

 

「キャットは異議アリ!ワタシとネコ被っているのだナ!そのままボブはデミヤで良いのだな」

 

「オイ貴様……」

 

デミヤ、と言われたボブがあからさまにキレ……まてコッチにもキレてないか?

 

 

「ホントよ!!」

 

足が槍っぽい少女が何故かキレ気味だ。

 

「なんなのよエミヤって!どんだけ増えれば気がすむのかしら!!」

 

「あー……悪い」「悪かったな、増えて」

 

俺は兎も角、同じくエミヤ、と呼ぶであろう男が少し機嫌が悪そうになっている。

 

「いや、エミヤもオルタも誰が悪い訳じゃないからね?」

 

「そうです。気に病む必要はありません」

 

向こうはオルタ呼びになりそうだ。

他にオルタ居たらどうするつもりなのか、わからないけど。

 

「すまんな……えーと」

 

「藤丸立香です。あっちの狐っぽいのが」

 

「タマモキャットだ!よろしくなのダナ」

 

「で、赤髪のがトリスタン」

 

「ポロロロ-ン……」

 

「まあ察してるとは思うけど、彼がエミヤ・オルタ」

 

「………」

 

随分と嫌な目線を送ってくる彼。

初対面のアンブッシュが致命的に悪かったし、仕方ないね。

 

 

「で、最後が……メルトリリス」

 

「最後ってなによそれ。もうちょっと相応しい紹介があるんじゃないかしら?」

 

「ゴメン、どう説明したら良いのかわからなくて……」

 

「あらそう。ま、当然よね。アルターエゴですし?最後に回しても……」

「すまん、アルターエゴってなんだ?」

 

「……はい?」

 

なにやらクラス名っぽいが、生憎と現在の自分にはわからない。

与えられた知識が随分と適当だからだ。

 

「……そんな事も、あるのですか。流石に私でもそこまで酷くはありませんでした」

 

 

楽器を弾く手をやめて口を開くトリスタン。

わりと良い声をしている。

 

「あるも何も……そうだな、藤丸立香。召喚者も何処にいるかわからないが……同行しても良いか?」

 

「待って?召喚者が居るの?ここに?」

驚いた顔をした藤丸立香が疑問を呈する。

 

「いや、パスはあるがマスターは見当たらない、からそう判断しただけだが…」

 

『BB───、ちゃんねる───!』

 

突如として視界が変わる。

なにやらBGMがかかり、たちまちニュース番組の様なセットの前に少女が立っている。

 

「もう!ダメですよ黒くない方のエミヤさん!ネタバレはいけません!」

 

「黒くない方の……って」

 

エミヤ・オルタと安直に比較されてしまった。

俺は兎も角、彼はなんと思うか。

 

「今回は見逃しますが、次回からはペナルティですからね?わかりましたね!」

 

「それではー!また次回ー!」

 

視界が元に戻る。

なんだアレ。

BBちゃんねる……?

 

 

「えーと……」

「だ、そうだ。これ以上の詮索はいけないらしいぞ、藤丸立香」

 

「うーん……今は心配だけど、わかった!よろしくね、エミヤ!」

 

「え?コイツ連れてくの?」

 

メルトリリスに異論を唱えられた。

言わずとも、なにが言いたいかはよくわかるが…。

 

「火力もゴミ、耐久もゴミで悪かったな!ホントにすみません!だからその目ヤメて!?」

 

「ダメダメなのだワン」

 

「気に病むことはありません。貴方も一廉の英雄なのです。もっと誇りを持ってください」

 

「ガウェイン……」

 

円卓の騎士はこんなにイケメンだったのか。

俺が女だったら思わず惚れていたね。

なお下半身事情は知らん。なんだこの知識。

 

「大体、キャラがダダ被りの上にそんな役に立たない銃なんか……」

 

「メルトリリス、お願い!」

 

「もう!良いわよ!着いて来たければ勝手にすれば良いでしょ!?」

 

プイ、と横に顔を逸らしてしまったが、同行しても良い様だ。

 

「このガウェイン。どうして貴女が決めている風なのかには全く理解が及びませんが……何はともあれ、よろしくお願いします、エミヤ」

 

「ああ、上手くやるさ。所で、そちらはどう言う状況なのかな?」

 

「あー、それはね……」

 

「此処では何ですし、教会に戻られては?」

 

ガウェインの意見。

どうやら教会がこの不思議な空間にはあるらしい。

 

「あ、賛成」

 

藤丸立香も賛同する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程……裏返す、ねぇ…」

 

一通りの説明を受け、此処の状況を把握した。

はっきり言ってそこまで話を真剣に聞いて居たわけではないけど。

 

「本当に出来るのか?」

 

「今はBBの言う事を信じるしかないよ」

 

と言うわけで、やって来たセパレータ。

そんな中、やはりと言うべきか、BBちゃんねるとか言う巫山戯た番組が始まる。

 

妨害、が有るそうだ。

なんでも急増だからセンチネルは真っ黒なのだが。

 

試しに一発撃ってみる。

無論外れる事なく命中するが、やはりただ銃弾が当たっただけの効果しかない。

 

「はは、すまん。ロクに効かねーわ」

 

「なら下がってろ!」

 

オルタに罵倒される。

いやね、本当にそのとうりですわ。

電脳体で構成されてりゃ効かないって。

 

此処が電脳空間だと知った時、どうして俺みたいの呼んだんだよ、って思ったね。

 

お、流石に円卓二人ではセンチネルも分が悪いか。

あっさり倒された。

 

「BBちゃんねるー!」

 

もう良いよ。強制的に見せられる事の何が苦痛ってね。

こんなの聴き流すならぬ見流すことにして、思考時間として割り切るとしよう。

 

 

「ダメに決まってますよ?そんな事は許しませーん!」

 

強制的に思考を向けられる。

どうやら絶対に見なければならない様だ。

 

 

纏めると、今回の妨害はもう無いらしい。

 

そんなこんなで、ひっくり返そうと───

 

 

「アアアアアアア───!!!!」

 

 

妨害は無いどころか統制出来てねーじゃねえか。

 

「早く急いで藤丸立香!早くひっくり返さないと!

 

メルトリリスが叫ぶ。

 

本当な、どうしようもねえもん。

 

強いし電脳体に銃はそんなに効かねえし。

あ、こっち来た。

 

 

「ホラ来いよお嬢ちゃん!こっちだ!!」

 

ろくに効かない銃を撃ってこっちに誘き寄せる。

その間、視界に入らない様にしなきゃいけない。

 

「ちょっとエミヤ!?どこ行くの!!?」

 

「生憎と役立たずはこれでお別れだ!頑張れよ!!!」

 

「お待ちなさい!此処は私が……」

 

「騎士様はお呼びじゃない!」

 

ガウェインが此方へ加勢しそうになるのを銃で牽制する。

 

「まだ貴方のマスターに会ってないでしょう!?」

 

「悪いな、俺はそこまで忠義者じゃないんだ」

 

どうにかこうにか、パッションリップに銃を当てつつ、誘導する。

 

にしてもスゲェなあの胸。弾が吸い込まれていくぞ。

 

 

「おし、行った、か」

 

藤丸立香らは無事に裏側に辿り着いた様だ。

 

「さて、逃げれ───ないかぁ」

 

眼前には巨大な鉤爪。

ま、良しとしよう───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、何をしているんですか」

 

「アレ、生きてる」

 

気がつくと、教会に転移してた。

 

「まあまあ、アンタ、ロクな奴じゃないみたいだし?このまま───」

 

 

「駄目に決まっています。今の貴方は(わたくし)のサーヴァント。主人を置いて逝こうなどとは……」

 

「悪かったよ、キアラ」

 

 

先程教会に行ってわかったが、マーブル何某と言う女性からパスが伸びていた。

故に声をかけようとしたら、念話で拒否された。

 

 

何を考えているのかわからなかったが、まさか人の皮を被る様なイカレたマスターだったとは……

 

「もう、気をつけてくださいな。令呪を切らないと、貴方は───」

 

「あーハイハイ、わかってますよ。こんな事はしませんって」

 

先程、記憶をぶち込まれた。

突然の事に死ぬ程驚いたが。

 

 

ゼパル様の応用、だそうで。

しかし、サルベージするには僅かな記憶しかなかった、と残念がってた彼女とは第三者視点から見るに、浅はかならぬ仲だったらしい。

 

と言っても、目の前の彼女は記憶を持ってるだけの同一人物、と言う理屈だが。

 

 

「それで……あの…」

 

「おいおい、教会なんですけど」

 

「菩薩なら此処にいるでは有りませんか」

 

「ああいや、そう言う事じゃなくてだな……なんか、うん。教会に何か思い入れが有ったような……」

 

どこか朧げな記憶が何かを訴える。

まあ、今の俺には関係ないが。

 

 

「……良いでは有りませんか…どうせ、そう言う仲でしたのですし、快楽の儘、めくるめくこの世の西方浄土へと、共に……それとも、外でするのがお好みですか?」

 

「そう言う訳……っ」

 

口を塞がれる。

それどころか、蛇のように絡みつくように彼女の舌が入ってくる。

 

「っ……はぁ…ええ、我慢出来そうにありません。私を、はしたない女だと咎めますか……?」

 

「……いいや、マスター。君は悪くない」

 

「まあ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は進み、殺生院キアラは追い詰められていた。

 

「よもやここまで、とは……ええ、認めましょう。私の不覚です」

 

「は、やけに殊勝な態度、ね!」

 

メルトリリスが、魔性菩薩から、ヘブンズホールまで堕ちた殺生院キアラにその脚で肉薄する。

 

斬りつけた側から、魔神柱めいた肉が飛び散るのが見える。

 

 

「っ……ええ、こう言う時の為の彼です」

 

「何のこ…と………?」

 

 

銃弾に倒れる、後ろに下がっている筈の、藤丸立香。

其の儘、崩れ落ちる。

 

 

 

メルトリリスは訳が解らなかった。

 

キアラパニッシャーであの女をここまで堕とした。

今度こそは、上手くいくと思った。

なのに、なのに、どうして。

 

「エミヤァァァァァ!!!」

 

藤丸立香(あの人)は、此処で死ななきゃいけないの?

 

せっかく乗り越えたと思った。

殺生院キアラを、同じ土俵まで引きずり落とした。

 

するとどうだろう。結果は同じ。

 

死んだ。

死んだのだ。

あっけなく、死んだのだ。

 

「悪いな、マスターの頼みなんでな」

 

「───うるさい!」

 

貫く。

 

先にどうにかすべき相手はいるだろうが、どうしても、今此処でコイツを殺したかった。

復讐したかった。

 

「か……はっ……」

 

「そんなんで、私の気が済むとでも!?」

 

「ああ、そう、だな……お前の怒りは正当だ」

 

と言って、手に持つ銃を背後に投げるエミヤ。

 

「は!?何よそれ!今更情を引こうってワケ!?」

 

ふざけるな!ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!!!

 

怒りが爆発する。

死に体のコイツをもう一度貫こうと───

 

「退け、射線に被る」

 

「は?」

 

違う声。一発の銃声。

その弾は───。

 

「は、い?」

 

殺生院キアラに、命中していた。

 

「……カハッ」

 

あまりの出来事に思わず脚を引き抜くと、血を吐いて倒れ、そのまま消滅するエミヤ。

 

 

確かに殺す気だった。

けれど、なんだこれは。

 

ますます訳が解らない。

 

 

「何故……何故です…【エミヤ】!!」

 

 

 

「オルタ、貴方、死んだはずじゃあ!?」

 

 

「勝手に人を殺すな」

 

呆れたように吐き捨てるオルタ。

 

 

「何故【エミヤ】は……!ああ、崩れる。体が…どうして、何故……?!!?」

 

キアラの身体が崩れていく。

醜い魔神柱のパーツが、溶け落ちる。

 

「この銃は第五架空要素で出来てる全ての物質を破壊する。魔神柱の血肉に、第三魔法。つまり、だ。最初っから詰みだ。その上付け加えるなら───」

 

 

「オレもコイツも抑止力。つまりは、アラヤが本当の雇い主だ」

 

「なんです───なんですそれ───!」

 

 

「さよならだ」

 

再び引き金を引くエミヤ・オルタ。

 

 

「い───や……」

 

正確に脳天を貫かれたキアラは、呻き声を立てながら溶けるように崩れ落ちていった。

 

 

「……!そうよ、立香!!」

 

 

「メルト……リリ…」

 

「ダメ、喋らないで!!」

 

「ふむ、ご丁寧に弱装弾か。処置すれば何とかなるな」

 

「ホント!?良かった……!」

 

「それでしたら、私が」

 

藤丸立香の危機、とあって駆けつけてきたBB。

 

「BB!出来るの!?」

 

「ハイ。退去までの間は絶対に持たせます」

 

「フン。オレは先に行く」

 

粒子となって消えるエミヤ・オルタ。

 

「取り敢えず、大丈夫でしょう」

 

「そう、なの。ええ、安心したわ」

 

BBの言葉に安堵するメルトリリス。

しかし、彼女はある事に気づく。

 

「弱装弾……って言ってた、わ、ね……」

 

「メルトリリス……貴女…」

 

BBが白い目でメルトリリスを見る。

 

「いいえ、立香は現に命の危機に晒されたのよ!私は悪くないわ!」

 

「まあ、もしも次に会えたら謝ったほうがいいと思いますよ?」

 

「それは……そう、だけど…」

 

「それに、貴女は消えるはずでした。それなのにこうして居るのは彼ら2人のお陰、と言っても過言ではありません。その事は覚えておく様」

 

「ええ、わかってる。わかってるわ!だから罪悪感に苛まれているんでしょうが!!」

 

「罪悪感があるなら結構。ほら、そろそろ退去です。この人のカルデアに召喚される事でも祈ってなさい。私も待ってます」

 

「ええ、そうするわ。()()()BB」

 

そう笑顔で言うと、メルトリリスは消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……」

無事にカルデアに召喚されたアルターエゴ・メルトリリスは、ある時カルデア内を散歩していると、ベンチに枯れ木の様に座っているバーサーカー・エミヤの姿を認める。

 

「……?君、は……?」

 

見られている事に気付いたエミヤは、誰何する。

 

「何です、その初対面みたいな態度は」

 

目の前まで進み、その高身長で見下ろして、思わず高圧的に接する。

 

違う。そう言う事が言いたいんじゃないのに。

 

「………悪い、君は俺を知っているのかも知れないけど、俺は君を知らない」

 

「……!そ、そう。なら良いわ。ええ、何も言う事はありませんとも」

 

何処か悲しい顔をするメルトリリス。

 

覚えてなかった。それなら謝る事なんて無い。

だったら、それで良いだろう。

けれども、どうしてこんなに胸が苦しいのか。かつて得る事の無かった罪悪感に、戸惑う。

 

「……申し訳ない。何処かで会ったのだろうに」

 

「そう。なら忘れて」

 

踵を返し、この場を後にする。

最悪の出会いだった、などと感想を抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「ああ、そうするよ。その脚でぶっすりと貫かれた事はな」

「エミヤッ───!!!」

振り返り、自慢の脚で蹴りを入れる。

「うおっ、あぶねっ、辞めろ!俺はアリさん並の耐久力なんだ……ガクッ」

一発目を回避されるが、続けて放つ二発目は見事に命中する。
「ふん!何よ、人の心を散々弄んといて!そのまま暫く座に帰ってなさい!」

メルトリリスは今度こそ、この場を後にする。
どこか頰を緩めながら。

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