ヤンデレ☆イリヤ   作:鹿頭

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時系列的にはカレンルートあたりか?多分


縁日、花火の日の事。

「なあ」

 

ソファーに座って漠然とテレビに映し出される映像を眺めて居たら、士郎が後ろから声をかけて来た。

 

「屋台の手伝いに行かないか?」

 

「パス」

 

「おい、世話になっといてそれは無いと思うぞ?」

 

「良いだろ別に…。用事ならこっちもあるんだ」

 

「……カレンさんと縁日行くのか?」

 

「違うよ!?士郎、お前は何を言い出してんの!?」

 

「え?付き合ってんじゃ……」

 

「付き合ってねえよ、今度お前の目の前でこれ見よがしにジャンクフード食うぞこの野郎」

 

「それはやめてくれ……で、本当に付き合ってないのか?」

 

「士郎。お前だってどうなんだ?遠坂とかエーデルフェルトとか間桐とか色々居るでしょ?」

 

「はぁ?なんで今その話になるんだよ?」

 

「……正直こっちが悪かった」

 

「?…結局、行かないんだな?」

 

「そうだ」

 

「そうか……」

 

「なんでお前が残念がってんだよ」

 

「弟の将来だぞ?気になるのは当然じゃないか」

 

「こういう時だけ兄を持ち出すな!第一、人の事言えないぞ士郎!お前が誘える人なんて、それこそ雲霞の如く居るだろうに…屋台の手伝いって…おまえ、お前ー!」

 

「話を逸らすな!俺は心配だったんだぞ!割とモテるのに悉くフってるのが!そしたらあんな人連れて来たんだぞ!?普通その後どうなるか気になるだろう!?

 

「海になんて連れて来てない!偶々居ただけですーぅ!」

 

「偶々で居るわけないだろ!?……と、悪い、そろそろ行くよ」

 

「いってらっしゃい」

 

 

 

 

「用事なんてないんだよなぁ……」

 

なんとか時間まで粘る事に成功した。

というかあんな暑苦しい空間に行きたくない。

良い人、なんだけどなぁ、親父さん。

 

昼寝、でもしようか。

イリヤとクロエは美遊ちゃん達と遊びに行くし…それに、いろいろ疲れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドアがノックされる音で飛び起きる。

どうぞ、と声をかける。

 

そうすると、浴衣を着たイリヤ。

ん?……浴衣?セラか?

 

「うん!そうだよお兄ちゃん」

 

くるっと一回転して浴衣を見せるイリヤ。

へー、セラ、そんな事も出来るのか、と感想を抱くが、それと同時にある種の違和感を感じ、じっと見つめる。

 

「な、なに…?」

 

………帯、緩くない?と言うより変じゃない?

 

「え?そ、そうなのかな」

 

うん。これじゃあ少しの衝撃……で

 

帯を軽く叩いた途端、物理法則を無視した様に弾け飛ぶ浴衣。

露わになる裸の肢体。

 

つまり。

 

「……下着、穿いてない、のか。……誰から聞いたのか知らないけど、それ、デマだぞ」

 

「えー!そうだったのー!?」

 

驚くイリヤ。本当に知らなかったと見える。

 

「と、取り敢えず…穿いてこな…」

 

弾け飛んだ浴衣を羽織って外に出ようとするイリヤ。

 

「あー!待て待て待て!そのまま出るのはマズイ!万が一セラに見られたら死ぬ!一回着ないと」

 

慌てて引き止める。

バレたら不味い。

イリヤに何かしたと確実に認定される。

 

「あっ、そう、だね……でも、わたし、着付けできないよ?」

 

自分がやるから、イリヤは手を広げて伸ばすように、と言うことを伝える。

 

「お兄ちゃん、出来るの?」

 

「当たり前だ。セラに出来て俺に出来ない事は無い……料理以外は」

 

「アハハ……うん。おねがいする……ねっ」

 

立ち上がろうとすると、イリヤが飛びついてくる。

 

「……イリヤ?」

 

軽く浴衣を羽織っているだけなので、捉えようによっては扇情的な格好。

左手を此方の頭へ回し、右手は頬に添えられる。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。わたしじゃ、その……ドキドキ、したりしないの?」

 

熱を帯びた表情から漏れ出る吐息がかかる程の距離。

僅かな膨らみが胸板に当たる感覚。

 

だがしかし。

 

「……これから縁日だぞ?」

 

「うっ……それを言われると…」

 

途端自信がなくなる様に見える。

 

「……取り敢えず、着せるぞ?」

 

「ハイ……」

 

素直に引き下がるイリヤ。

ひとまず、回避したと言えるだろう。

 

「あ、お兄ちゃん、お、思い出したんだけど、わたしの下着、そこにある……から…」

 

「は???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、ホントにどこで覚えたの……」

 

我ながらよく出来たと思える着付け。

帯は叩こうが引っ張ろうが弾け飛ぶ事はない。

 

……取り敢えず、下着は穿くという事、伝えてこいよ

 

「うん、わかったよ。お兄ちゃん」

 

「楽しんでこいよ」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

「行ったか……」

 

危なかった。

あの流れは確実に危なかった。

縁日の後だったら押し切られてたかもしれない。

ホント、流されやすいよなぁ…俺。

 

もうこんな事ありませんよう……

目を閉じる。

 

 

 

 

 

「失礼、一つ伺いたい事があります」

 

「セ、セラ?」

 

ドアが強く開けれる音で思わず目を醒ます。

其処にはセラが口だけ笑った表情で立って居た。

 

「浴衣の下に着物を穿く、という知識をイリヤさんに教えたのは、言うまでもなく、貴方ですよね?」

 

言うまでもなく。

それは裏が取れた、という事。

下手に否定せず、きちんと肯定する。

 

「それに関しては構いません。何故その話を知っているか、も問いません。何かある前に知る事が出来て安心しました」

 

「じゃ、じゃあ、なんの用事で此処に来られたのでしょうか」

 

そうだ。問わない、と言うのならば此処に来る理由が無い。

 

「帯の結び方が悪かった……ええ。紛れもなく私の落ち度です」

 

「………あっ」

 

「「わたしはもう穿いたから大丈夫」なんて言われると、話は変わってきますよね?」

 

 

 

 

 

「おや、どちらへ?」

 

「ちょ、ちょっと、水を飲もうかと」

 

苦しい言い訳をしながら、ベットに放り投げている携帯をゆっくりポケットに入れる。

 

「ご安心ください。二度とそんな事もする機会はないでしょうから」

 

「えっ」

 

「旦那様は「イリヤに手を出す輩は、例えそれが自分の息子でも殺す」と言明されてますので」

 

「……弁護人は」

 

「ロリコンでシスコンの変態にそんなもの、居るとでも?」

 

「……そんな事をして良いと?」

 

「イリヤさんの身の安全が最優先です」

 

「さらば!」

 

網戸を開け、窓から飛び降りる。

 

「あっ、待ちなさい!」

 

 

 

 

やや高いとは言え、無事に着地に成功した。

 

待てと言われて待つ馬鹿は居ない。靴も履かずに出て行ったが、ほとぼりが冷めるまで……冷めるのいつだ?

 

兎に角走る。

 

夜のくせに地面が熱い。

裸足で歩く変質者の誕生である。

縁日だか祭りだかで人が集中しているので、ちょっと路地を外れたら人目は皆無に等しい筈だが、寝てる間に花火が終わったのか、人が割と色んなところに居る。

 

 

靴が欲しい…けど、財布置いて来たし、どうしよう。

電話は有るけど。

 

このまま官憲のお世話になったら……お?

 

 

「この真夏、裸足で歩くとは……とうとう其方の趣味まで目覚めたのですか?」

 

 

これには深い事情が……

 

 

 

 

「……事情は把握しました。なんと言いますか、本当に救い難いですね」

 

カレンに連れられ、彼女の家へと着く。

なんだかんだで、人目を避けてくれたのは彼女の僅かばかりの優しさなのだろうか。

 

椅子に座って、ある程度隠すが、事情を話す。

話を聞いたカレンは、頭が痛い、と言わんばかりに頭を抱える。

 

「まあ良いでしょう。ほとぼりが冷めるまで、此処に居ても構いません…ああ、外に出ないでくださいね?もしも生徒の親に見られると色々と面倒ですから」

 

ああ、そう言えば教員だったな。

 

 

「……それにしても… 貴方から…」

 

?どうかした?

 

「いえ。こちらの話ですよ。靴は……要りませんね。ほとぼりが冷めるまで居れば良いのですから」

 

いや、サンダルくらい欲しいんですけど。

 

「知りません。さて。足の裏、見せて下さい」

 

はい?

 

「ですから、火傷してるでしょう?処置しますから」

 

何処からか取り出した救急箱。

中身は異様に豊富な種類が取り揃えられてある。

保健医だったか。

 

「ええ、ですから」

 

それなら…うーん…はい。

多少の羞恥は有るが、医療処置と割り切って足を出す。

 

「あら。思ったより……つまらないですね」

 

途端表情を暗くするカレン。

 

「そこまで酷くはないです。軽度、と言ったところですね。消毒だけで大丈夫そうです」

 

そう言うと、慣れた手つきで消毒液を含ませたガーゼで拭いてくる。

エタノール独特の刺激が、足の裏にしみてちょっと痛い。

 

「ふふ、そんな顔もするんですね…次いでです」

 

と言いつつ足の裏に指先を食い込ませてくる。

途端走る激痛。

思わず声を上げる。

 

「足ツボマッサージです」

 

絶対違う!なんか別の痛っ!痛い痛い痛い!

 

「……ふくらはぎ、揉みますね」

 

うん…?うん…

慣れた手つき、とは言い難いが、打って変わって優しく揉みほぐしてくる。

 

「……意外としっかりしてるんですね」

 

そりゃあ、イリヤとクロエ抱えて走る時があったら困るし。鍛えないと。

 

 

「貴方の行動原理は……ハァ」

 

溜息を吐きつつも、その手は休む事はない。

太腿に差し掛からずに通り越して、ズボンの裾に入り、鼠蹊部へと近づく。

 

あの、すいません。

 

「何ですか?」

 

そろそろ……その、ねえ?

もう良いかなー?って思ったりして

 

「すみません、そう言う行為では無いので……」

 

「だからだよ!?もう良いですよ、十分ですから」

 

「むう……わかりました」

 

と言いつつも、手は一向に引かずに、寧ろ……

 

「わかってない!わかってないでしょ!?」

 

「はて?何の事……ハァ」

 

自分の電話が鳴る。

確認すると、自宅とある。

 

「……出ても良いですよ…むぅ」

 

漸く手が引いていったのを認めると、電話に出る。

 

《おお、今どこだ?……セラ、怒ってたけど、なんかしたか?》

 

《してねえよ》

 

《だよな!ま、説得はしといたぞ。靴も履かずにどこに行ったんだよ?みんな心配してるぞ?イリヤ達なんか探しにいっちゃって…まあ、セラ達が行ったから大丈夫だとは思うが》

 

《……知り合いに会って…まあ、家に》

 

《知り合い……?お前に知り合いなんて居た……ハッ!今日は泊まりか?》

 

《違うわ!》

 

「えっ…あんなにも…熱かったのに…?」

 

何もしてねぇ!

 

《……へぇ、水臭いじゃないか!……よし、こっちは任せろ。上手いことするよ》

 

《おい!そんな事はしなくていいから!おい!おい……》あの野郎後で覚えとけ

 

 

「据え膳喰わぬは……何でしたっけ?」

 

「……俺は、兄だ。2人の兄ちゃんなんだ。こんな事に耽るわけには……」

 

「(あの小聖杯、無意識に暗示でも掛けたんでしょうか?)今は…今だけ、忘れてもいいんですよ?」

 

「う……う、ぐぐ…」

 

「好きにしても……良いんですよ」

 

ワイシャツのボタンを自分から数個開ける。

扇情的な黒いランジェリー、とでも言うような下着が見える。

 

強気に言っているが、その実顔は紅潮しているし、横に逸らして目を合わせない。

しかし、その事が一層……

 

「せめて優しく……してください

 

最後の方は消え入る様に小さくなって行く。

理性をフル動員させるも、微かに漂う色香に理性が奪われていく。

 

その時。

鳴り響くインターフォンの音。

 

何度も。何度も。

 

連打される。

 

 

「……チッ」

 

カレンは舌打ちをすると、ボタンを留め直し、玄関のドアを開けに行く。

 

「はい」

 

「あ!どうもカレン先生!ここにお兄ちゃんいるって聞いて来たんです!」

 

イリヤの声が聴こえる。

 

「どうして此処を?」

 

「将来、アンタが泥棒するかも、と思って…ね?藤村先生にちょっと適当な事言えばすぐ教えてくれたわ」

 

「あの人ですか……ハァ」

 

どうやらクロエも居るようだ。

玄関に向かう。

 

「お兄ちゃん!大丈夫だった!?」

「まだ何もしてないわよね!?」

 

2人は浴衣姿のままだった。

花火が終わって、家に帰った後、そのまま来たのだろうか。

 

 

「素直にシた、と言えばどうです?」

 

カレンが路傍の石を見るかのような目でこちらを見つめる。

 

「それは無いわ。お兄ちゃんの事は一眼見ればわかるもの」

 

「……余計な所で…」

 

ますます表情に冷たさが走る。

 

「ほら、お兄ちゃん。靴、持ってきたよ!ほら、こんなところにいないで帰ろっ!」

 

イリヤに手を引かれる。少し体勢を崩すが、サンダルを履いて外に出る。

 

「ほらほら、お兄ちゃん!こっちよ」

空いていた手をクロエに掴まれ、2人に同時に引かれ、家路へと強制的につくことになる。

 

ふと、カレンの方を見る。

一瞬、目の開きが大きくなり、僅かに微笑んで、「また来てくださいね」と。そんな事を言った。

 

「ほらお兄ちゃん!耳を貸さない!イリヤ、早く連れて帰るわよ!」

 

「クロに言われなくてもそうしますよーだ」

 

 

 

 

途中、セラとリズと合流する。

やはり、セラからは塵を見るかの様な目を向けられる。

リズはどうでも良さそうだ。

 

「もう、セラお姉ちゃん、お兄ちゃんはそんな事してないってさっきから言ってるでしょ」

 

「そんな事はないでしょう?イリヤさん。貴女が着付け出来ないのは知っています。それなのに着直して尚且つ帯をしっかり締めてくるなんて、この変態以外に居ません」

 

「別に良いでしょ、お兄ちゃんがどうなんて。問題はこの暑い中追い出すのが悪いのよ。流石にセラ、やり過ぎじゃない?」

 

部が悪くなって来たイリヤの代わりに、クロエが話をすり替える。

 

「旦那様ならもっと強い対処をしたと思いますが?」

 

「パパはそんなセラお姉ちゃんみたいに頭の固い人じゃ無いと思うなー」

 

イリヤがすかさず口を挟む。

でも割と固いと思う。

 

「……それは…」

 

「お、居た居た。こんな所に居たのか」

 

士郎の声がする。

 

「「士郎お兄ちゃん!」」

 

「あー、何だ。見つかった、んだな?」

 

「うん!」

 

士郎の確認に

イリヤが元気よく返事を返す。

 

「そっか……」

 

何故か憐れむ様な目をこちらに向ける士郎。

だから誤解だって。

 

「よし、帰ろう。セラもそんな怒らないでさ。結局、何かした訳じゃないだろ?」

 

「それは、そうですけど…」

 

「なら良いだろ?とりあえずはさ。ここら辺の人の迷惑になるから帰るぞ」

 

有無を言わせぬ様に丸め込む話術。

我が兄ながら実に素晴らしい。

 

「ほら、行こうぜ」

 

そのままセラの手を取る士郎。

お前ほんと刺されるっていつか。

 

「な……なな」

 

「シロウ、たらし」

 

「たらしって何だよリズ!?」

 

「いや、否定は出来ないかも…」

 

「イリヤもか!?」


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