ごめんなさい。
容認できない人はバックして下さい。
ツヴァイまではもうちょっと待って。
最近、イリヤが余所余所しい。
具体的に言うと、家の前にエーデルなんたら家の豪邸がかの秀吉公の墨俣城の様に一夜で建立された前後くらいか。
一人で寝る時も多いし。
ふむ…察しはつくけど…
《これはこれで存外、寂しいものです》
《知りません》
メル友からは辛辣なコメントが返ってくる。
それはそれとして、まさか転校生ダブルセットにフラグ建設するとは思わなかったぞ士郎。
何をどうしたらラッキースケベからフラグが立つんだよ…
ふしぎよね、ホント。
と、言うわけで。休日である本日、紅州宴歳館・泰山へとやって来たのであった。
む、珍しく混んでる…と、言うことは相席になる…おや。
奥の方の席に、知り合いの姿を認める。
向こうもこちらを一瞥する、が、また黙々と麻婆豆腐を食べ始める。
…相席良いですかな?
「…どうぞ」
この人は、休日ないし放課後、夜くらいに泰山に行くと大抵居る。
名前も何やってる人かも知らないけど。
あ、麻婆豆腐で、と店主に注文し、一応礼儀かと目の前の相変わらず奇抜なファッションをなさるお人に挨拶をする。
「…貴方はほんの少しだけ会話を交わした程度の間柄の人に何のためらいもなく挨拶をする様な恥知らずなんですね」
手を止め、口を開いたかと思うとこの言葉である。
うーん辛辣。以前より対応が心なしか柔らかくなった様な気がするけど、気がするだけな気がするんだ!
「沈黙、ですか。声を掛けて来たのはそちらだと言うのに、まったく貴方は」
畳み掛けるなぁ…どう返して良いのか判断つかねぇよ。
ニコニコ、いや、ニヤッと嗤う様な笑みをたたえたこの人は、相変わらずの様子の様だ。
「何を考えているのかは興味ないですが、一言言うなら、鏡でも見て来たら良いですよ」
麻婆豆腐が非常に良いタイミングで来たので、無視して食べ始める。これ以上の話は精神衛生上悪い。
「……いつもなら、面白い反応を返してくださるのに。何か愉快な悩み事が有りそうですね」
…判るのか?
「普通、悩みと言うものは一人で抱えていてもその重みに耐え切れずに押し潰されていくモノ。誰かに告解してみるのも、良いかもしれませんよ?」
そう柔らかく微笑む彼女は。
表情、声音。それは、どれ一つ取っても、聖女のようで。
「まあ、ただのシスコンにロリコン併発して重症化させた気持ち悪いモノなんて自分から
言うとは到底思えませんけど」
…はい?
「あら、知らなかったのですか?」
蔑み嗤う彼女。
それにしても何を根拠にそんな事が言えるのか?
「私、こう見えても小学校の保健医でして」
個人情報保護とは一体何だったのか。
驚き呆れる。
それにしてもこんな事を思われていたのか…そんな訳ないだろう、と言うなり、彼女は「ふふっ」と笑みをこぼす。
「今の方が、良い表情してますよ。…必死になって言い訳して…ええ、本当、佳い表情です」
タチが悪い。
何を言ってもズタボロにされてお終いになる。会話の主導権は完全に制圧されている!
どうなってしまうんだ。
「あら、捨てられる寸前の仔犬みたいな怯えきった表情をしてますね。男の癖に情け無いとは思わないんですね」
そう言い切ると、彼女は溜息を吐く。
そして、
「…アドバイスの一つでもするなら」
と前置きをしてから。
「貴方はそうですね…別の何かに夢中になったら直ぐにでも世間で言う所のマトモになるでしょう」
保健室の先生、と言うよりは教会のシスター、とでも言わんばかりの口ぶりで話し始めた。
「とは言え、趣味らしい趣味を持ち合わせているようでも無いし、貴方の兄弟の様に部活をやっている訳でもない」
おい個人情報。
「今から趣味に没頭するにも時間…は兎も角金銭面では少々心もとない。新しく始めれそうにもないですね」
待て。
「では学校ではどうでしょう?」
おい待て。
「貴方はクラスではそこそこ、と言った地位。男子からはある程度の好意を持たれているが、まるで女子との接点はない」
待て、待て、待て。
何故、そこまで知っているのか。
「更に同居人は女性の方が多いし、発言権が多い。更には家に常駐しているメイドも居るから、そう言った本を買ったり、行為に耽ける事も出来ない。…義妹に走るのも当然、と言うよりは只の代替案、なのでしょうね。貴方にとっては」
色々と聞き捨てならない事を言ってはいるが…今直面している事実に比べれば些細な事だ。
「今の貴方はどうしようもない状況に置かれている、とでもいいましょうか」
あまりにも、あまりにもこの女はこちらの事を
「そんな目で睨まれると…いえ、睨んでどうするつもりなんしょうか?」
貴方に私をどうこう出来る様な胆力もないでしょう?そう言った彼女はクスクス嗤う。
全てを見透かした様な目で。
貴方の事はなんだって知っている、と言った様な口振りで。
コイツは一体何が目的なんだ。
お前は一体、何の目的で、こんな事を話すのか。
「お前…ああ、そうでした。名前を、貴方にまだ、名乗っていませんでしたね」
肝心な事を忘れていました、ととぼける様な口振りで。
しかし、その顔は。
「私の事は華憐…そう、カレン、とお呼びください」
そう彼女…カレンは、狂おしい程のナニカを、押さえ込みきれないような切なさが滲み出る表情で、そう囁いた。
「では」
席を立つカレン。
ーー待て。
「はい?」
一体、何が目的なんだ。
「目的…ですか。そうですね…」
そう言うと、カレンは席を立つ。
質問には答えず。
ただ、
「また、会いましょう、と言うのは?」
誘惑する様に。そう、耳元で囁いた。
あ、アイツサラッと会計押し付けやがった。
…麻婆豆腐追加で!
ーーー
絶対許さねぇ。財布の中身丸っと消えたぞ。
一皿食い損ねた。そんな感情を抱き、泰山を後にする。
しかし、大変な事になった。
もう泰山行けない。だってあんな怖い人がいるんだもの。
しかしあのおいしい麻婆豆腐が食べられない、と言うのは精神衛生上よろしくない。
自炊…ダメだ、初めて作ったら、黒焦げの肉じゃがを一度作ってしまって士郎にすら「お前は絶対厨房に立つな」って言われてるし…。
我慢するしかないのか?
まあ、追い追いそこは考えるとしてだ。
一つ漸く爆弾が自然解体されそうだ、と言う時に爆弾が新たに追加された。
これは由々しき問題だ。
しかも小学校の保健医、と来た。ふとした弾みで遭遇する可能性を考慮しなければならない。
しっかし数回位しか会話した覚えないのに、どうしてこうなった。
士郎の事言えないなコレじゃ。
さて、どうする…む。
スーパー付近にて見覚えのある人影。
士郎!士郎じゃないか!
買い物…帰りか。
おーい。
「ん?お、奇遇だなぁ、そっちも帰り…辛っ」
辛い?
「ちょっ、お前辛いぞ!何処行って…泰山か!また泰山行ってたんだな!?そうだな!?」
もちろん。
「…家に帰ったら直ぐに着替えてくれよ、家中辛くなったら困る」
了解。
「………そういえば、最近行ってなかったよな、当然といえば当然、か」
そう言うと、家に向けて歩き始める士郎。
帰る場所は当然同じなので、それに着いて行く形で歩き始める。
「…良くあんなの食べれるよな…俺は絶対無理だ……前々から気にはなってたんだけどさ」
そう言う士郎の顔はやけに真剣な顔つきだ。
余程重大な事らしい。
「お前さ、ちゃんと…俺やセラが作った料理とか。味、判ってるのか?」
「極端なモノしかわからない、とか…だったりしないよな?」
失礼な、ちゃんと味は判るぞ。
「本当か?遠慮しているとかじゃなくて?」
勿論。
「そっか、なら良いんだ」
安心した様な。そんな穏やかな笑みを浮かべてみせる士郎。
どうやら要らない気を回させてたらしい。
「なんで食えるんだろうな…」
知らねぇよ。
最初は興味本位で食べてみたら凄く旨かったってだけの話だし。
「はは…」
今度は先程とは裏腹に、乾いた笑みがこぼれている。
「ほら、着いたぞ」
早く着替えろよ、と言って、暗に先に行けと促す士郎。
ただいまーと挨拶を流しつつ部屋に直行する。
途中何やら聴こえた様な気がするけど、キリがないので無視する。
ーーー
「お兄ちゃん、泰山行ってたんだって?」
夕食後、イリヤが苦笑いしつつ話しかけて来た。
そんなにおいしいの?なんて聴いてきた事もあるが、その時は確か士郎が「早まってはいけないぞ!」とか言ってたっけ。
梅昆布茶でも流し込んでやろうかと本気で思ったぞ。
「あー、そっか、そうだよね。最近行ってなかった…もんね」
目を下に向け、言い淀む様にそう言った。
…変な責任感じてんだったら、それは違うからな、イリヤ。ただの飯屋だぞ?
「お兄ちゃん…うん。お兄ちゃんが言うんだったら、気にしないよ」
えへへ、と笑うイリヤ。同じ笑顔でも、ここまで違うのかとあの
ん?
「ねぇ、何考えてたの?」
一見、先程の笑顔を維持している様に見えるが、目が笑ってない。
まるで射殺す様な目線だ。言い訳の有無を許さない。適当な事を言えない物々しさ。
「あ…いや、なんでもないよ、お兄ちゃん。ヘンな質問してごめんなさい」
突然そんな質問を投げかけられて面食らっていると、申し訳無さそうな顔をしたイリヤから引き下がって行った。
「あっ…今日は、友達と遊んで疲れちゃったかなぁ…もう寝るね」
「おやすみなさーい」
お、おやすみ。
……今日はもう寝よう。
ーーー
翌日。イリヤが熱を出した。
疲労的なヤツってセラは言ってた。
特段気にする必要も無い、そうで、士郎といつも通り登校する。
ーーー
士郎は部活だそうなので、此方も帰宅部の活動を始める。
それにしても、ほぼ毎日の様に遠坂とエーデルフェルトの喧嘩に巻き込まれているのに、よく身が持つなぁ…
そのまま自転車を漕いでいると、小学部に差し掛かる。小学部…うっ頭が。いや、流石に小学部とは言え、この時間帯に上がる教員は居ない。
…良し、居ないな。
何事も無く、自宅に着く。
玄関のドアを開けると、見舞いに来ているのか、数名分の靴がいつもより増えていた。
邪魔しても悪いし、自室に籠ろうとした時、妙な格好をしたセラ。
「お帰りなさいませ」
当然コレをスルー。
「不本意ですが」
まずい!メンタルが強化されている!
「衛宮家の……長男…長男…長男、どちらなんでしょう…」
困惑するセラ。
なんだいつものセラだったか
そんなのこっちが知りたいです。
そもそも正確な誕生日不明だし。
…法的には士郎らしいし、士郎でええんじゃないの?イリヤも周りにはそう説明してるらしいし。
「まあそうなんでしょうが…」
じゃ、と自室に向かう。
「あ!待ちな…」
気にしない。
イリヤの部屋を通り掛かろうとした時、ドアの向こうからはわいやわいやと賑やかな声が聞こえる。
お見舞いの定義が崩れる!
そんな時、勢いよくドアが開かれ顔面に激突する。
顔がすっごく痛たい。
「あっ…イリヤの兄貴その2じゃん」
「ちょっと、タッツン、先に謝らないと…」
「あっ、わりーわりー」
「そんなんで良い訳ないでしょ!?」
良いよ、別に。純粋に痛いだけだし。
イリヤの友達だし。無問題。
…まだ純粋な頃の四人。三人か?
「…貴方がイリヤのお兄さん、ですか」
はじめまして、と挨拶をしてくる少女。美遊・エーデルフェルト。エーデルフェルトと言えばあの士郎がフラグ立てた金髪ドリルだけど、まあ、うん。
はじめまして。
「ちょっとタツコ!」
そう言うのは心なしか怒ってるように見える我が妹である。
「げっ…イリヤそんな怒らなくても…ああいや、ごめん」
「私じゃなくて、お兄ちゃんに謝って」
「ごめん!」
さっきから別に良いって言ってるじゃん!?
「おー、さすがイリヤの兄貴その2は優しいなー」
「その2ってどうなのさ、タッツン」
…小学生って元気だよね。
話がこう、永遠に続くって言うかさ。
愛想笑いも程々にして自室に入る。
そんな時、一人美遊が、遠くを見つめて居た気がした。
………。
気付いたからと言って、何かが出来る、と言う訳でもないが。
しばらくすると、美遊や小学生四人組と入れ違いになる様に士郎が帰ってきた。
当然のようにセラに絡まれ…絡まれるが、リズの言葉に割とあっさり撃沈したりした。
ちなみに主人公は、単に辛味に極端に弱くて、逆に脳が辛味を認識してないだけだったりする。
クロエ出すまでが難しい。
カレンさんは私の趣味だ。今では反省も後悔もしている。
キアラさんが頭をちらつきまくった。