ヤンデレ☆イリヤ   作:鹿頭

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とあるクラスメイトから見た彼。
それだけ。


クラスメイトから見た彼

この穂群原において、衛宮兄弟と言うのは、話題に事欠かない。……悪い意味で。

 

あの同い年の兄弟の兄。衛宮士郎は兎に角女性運というモノが良い……悪いのか?

まあ、兎も角、だ。

後輩に恋慕の情を寄せられていたり、同学年にも懸想する女生徒も数人居る。牽制しあって告白に至らない、そうだが。

 

転校生にセクハラしといてどう言う訳だかフラグを建てていたのは記憶に新しい。

私を含めて全生徒が疑問に思っている。

これがイケメン……いや、イケメンと言うにはちょっと違うな。ごっついし。

 

それよりも、だ。

 

衛宮兄弟の中で悪名高きは弟の衛宮何某である。最早名前を呼ぶのも憚られる、誰もが口を揃えて言う冬木一のシスコンだ。最も、本人は否定しているがね。

 

彼もそれなりにモテる。

 

それだけなら、ただの嫉妬で済む。

 

おのれ衛宮ども、と。

 

だが、シスコンだと露呈した時、彼の評価はゆっくりと下降を始め、比例的に悪名を馳せていった。

まずは、だ。

 

それは確か、一年の梅雨明けだった。

 

段々と陽が長くなり始め、じめっとした空気も失せ始め、俗に言うカップルがぽつぽつと出てくる頃。

 

彼は朝のHR前に大勢の前で「好きです、付き合ってください」と告白を受けた。

 

その時の周囲の反応は様々だった。

囃し立てるもの、衛宮への非難をするもの。

因みに私は、あ、断ったらめんどい奴だ、策士だな、と思ったよ。

 

彼の思考は斜め上を逝っていたがね。

 

「え、無理。放課後に妹と出かける約束があるんだ」

 

即答だった。

 

「付き合って、ってそう意味じゃないでしょ!」

 

「何考えてんのさー!」

 

呆然とする彼女。

周りはそう言う意味じゃない、と援護のつもりだったのだろうが……

 

「その上で言ってる」

 

とそれを尻目に真顔で返事した時、あ、コイツヤバイ奴だ。と一体となった空気を感じたね。

 

その子はその日、早退した。

ま、無理もないだろうがね。

 

今では別に彼氏が出来てる、との話で何よりだ。

 

その時以降、衛宮はシスコン呼ばわりされる事になった。

 

ま、断る為の方便に妹を引き合いにしたんた。当然だろう、と女性陣は思ってたし、男性陣は合法的に弄れる格好の玩具を見つけた、と思っていた。

 

ま、方便じゃなかったんだけど。

 

放課後に、妹が校門前で待っていたのを目撃した時は、何か違うぞ、と誰もが違和感を抱いたんだ。

だって手繋いでんだもんな。

 

どう見ても血の繋がりの無さそうな女の子と。

 

周りの目を知る知らず、平然とそのまま帰っていく彼を見て、誰もが犯罪の臭いを嗅ぎ取った。

 

 

時々、衛宮士郎も一緒にいた時も有ったが、衛宮士郎の方は手を繋いでいない。

 

だが見てみよう、彼は手を繋いでいる。

 

それにしても、兄の士郎はどうして無反応なんだろう。見慣れているにしても、違和感を抱……かなさそうだな。だって衛宮士郎だ。

 

 

それだけなら話はシスコンでロリコンで終わるが、その件の妹。イリヤ、と言うらしいが……彼女はどうだろうか、と言うと、実に幸せそうな笑顔で手を繋いでいるんだ。

 

一度、親切心からか正義感からかなんなのか、イリヤちゃんに、あのアホと居て危なくないの?変なことされてない?みたいな事を尋ねた人がいたらしい。

 

そうすると、イリヤちゃんは「なんでそんな事を聞くんですか?」と言ったらしい。

 

その人は続けざまに、アイツ、変な事してそうで心配だから。なんかされたりしてない?と言ったのは良いが、それがイリヤちゃんの異常性を確認することになる。

 

「お兄ちゃんになら別に何されても良い。関係ない人は黙ってて」と。

 

普通なら、洗脳か何かを疑うべきなのだろうが、あまりの剣幕に引いてしまったそうだ。

 

つまりはシスコンとブラコンの兄妹、と。

なんと業の深い。

 

一部界隈は騒ついていたけど、個人的にはいつ過ちを犯さないかとヒヤヒヤしている。

 

案外踏み外してたりして。

 

時々、休日などで街で見かける二人は、何というか、その。

恋人同士、とでも言うべき距離感なんだ。

 

どう見ても、普遍的兄妹の距離感ではない。

 

普通に左手で彼女は手を繋ぎ……指を絡めつつ。

 

その上に彼の右腕に自分の右腕を絡め、引き寄せつつ、自分の胸元に押し当てている。

 

どう見ても犯罪ですよ。なにかの現場ですよ、コレ。

 

実際に、警察に声を掛けられる事も結構有ったらしいが、今となっては声すらかけられないそうだ。

 

仕事しろ警察。

お前らの逮捕すべき犯罪者がそこに居るぞ!

 

 

しかし、それすらも噂と斬り捨てるのか、それでも構わない、と言う変人はいるようで、ラブレターが机の中に入っていた事がある、らしい。

 

 

彼は非道にも封すら開けなかった。

故に真偽の程は不明だからだ。

 

ただ、その事に対して詰め寄る者は居なかった。……休んだ子は居たけど。

 

 

ただ、彼の偏愛を悟るにとどまった。

 

彼は異常だ。

ロリコン、とかシスコン、とかの域じゃない。

 

妹以外()()()()()()()()

そう思った時から、彼がとても空虚で、どこか哀しく見えた。

 

兄である衛宮士郎には、健全な対応を見せている。

嫌な事は嫌だ、と言うし、都合の悪い時はちゃんと断る。

 

けれど、妹であるイリヤちゃんには全てを優先している。

 

どんな用事が先にあろうと、必ず妹を取る。

人としては屑そのものの所業だが、彼は余計な心配をさせまいと、その事を一切妹には悟らせない。

 

上手いことやってる、と素直に思った。

 

 

 

 

二年次に妹が増えなければ。

 

 

 

 

あれは夏前だったか。

 

最早コイツを妹ネタで弄らない事が暗黙の鉄則になっていた時か。

 

妹に近づきそうな男、と言うか真性の犯罪者を捕まえただか半殺しにしただか殺してしまった、と言う噂が流れて以降、そんな鉄則が生まれた気がする。

 

それはともかく。

突然、校門で待っている女の子が2人に増えた。

 

しかも良く似た。

 

 

なんでも、従姉妹だと言う。

従姉妹、とは言うが、明らかに対応が自分の妹に対するものである。

 

その事に気づいた時、我々は同じ感想を抱いた。「あ、アイツいつか死ぬんじゃね?」と。

 

それを証明するかの様に、3人で出歩いている光景の目撃例が増えていった。

 

身体は一つしかないのに……妹が2人のとうとう両手にロリの犯罪状態が誕生した。どっちが犯罪者なんだ。

 

一応、見慣れぬ少女を連れ歩いている、と言う事で警察のお世話になったらしい。

従姉妹、と聞いてから生温かい眼をしながら見送る様になったそうだが。

 

ブタ箱にぶち込んどけよ。

汝らの眼は節穴か警察。

 

しかし、従姉妹、か。クロエ、と言うらしい。

 

イリヤちゃんとクロエちゃん。

2人の仲は、あのアホの前では良さそうに見えるが、2人と同じ小学部に妹がいる友人曰く、「どっちが姉なのか」で争ってるらしい。

 

それだけならまだ微笑ましいのだが、やはり、と言うべきか、「どっちが兄に相応しいか」だの「結婚するのはどっちか」だのなんだのとでも穏やかとは言えない争いを日々繰り広げているらしい。

 

 

クロエちゃんもブラコンだったのか。

 

 

 

やっぱお前いつか死ぬって。

 

 

 

 

だが、私は見たのだ。信じられない光景を。

 

あの阿保が、()()()()()()()()()光景を。

 

驚天動地。

正しく青天の霹靂。

空前にして絶後。

 

これ以上ない衝撃。

 

言葉をあまり連ねると、陳腐に聞こえるが、兎に角驚いた。

 

顎が外れたのではないか、と言う程口も開いた。

 

指を絡め!腕を組み!あの!阿保が!女の人!見るからに年上と!!!!

 

しかも公衆の面前でイチャつく。

 

私はこれを好奇心から観察する事にした。

 

あの阿呆の対応は妹に対するソレ、と言うよりは、矢張り何か違う。けれども、女性の方がぐいぐい来ると言うか、なんと言おうか。

 

ああ、アイツ強引に行ったら落とせたんだなぁ、と言う事が判明した。

 

…………今まで、なんだったんだろうな。

 

私は、心底呆れながらその場を後にした。

 

 

その次の日、それはそれとして気になったので、彼に直接聞いてみた。

 

「昨日、妹以外の人と歩いていたようだが、誰なのか?」

 

その瞬間、教室内に緊張が走った。

そして一気に騒々しくなる教室。

 

「嘘だろ……」「ありえん……」

 

「はは、この星も今日限りか」

 

「諦めるのはまだ早い……いや、お終いか」

 

「遺書は……いらないな」

 

教室はまるで今にも終末が来るかの様な光景を描いている。

彼は少しばかり瞠目したかと思うと、腕を組み、「あー……」と頭を掻きつつ、声を漏らす。

 

その様子を見て、教室は益々騒つく。

 

「……もっと、上手いもん食っときゃ良かった……」

 

「到達出来なかったのが心残り…」

 

「こんな事なら士郎に……!」

 

おい、大丈夫か。本当に地球が滅びる訳じゃ無いんだぞ、おい、最後。

 

「俺にも、よくわかんない、んだよな」

 

途端、水を打ったように静まり返る教室。

 

「……と言うと?」

 

私は尋ねる。

 

「何というか、からかわれているのか何なのか。どう接して良いのか良くわかんないんだよ」

 

あ、これ付き合ってねえ。

向こうが物凄い勢いでグイグイ来てるだけだ。

 

「はい、お疲れ様ー」「かいさーん」

 

「良かった、まだ生きてる……!」

 

「放課後になんか食いにいくか」

 

「士郎に……いや、やっぱやめとこ。死にたくない」

 

教室はいつもの喧騒を取り戻していく。

私は何とも言えない気分になった。

 

「でも、見てたのか、人が悪いな」

 

彼が抗議するような素振りでそう話す。

 

「ごめんなさい」

 

私は素直に謝罪をする。

私の勘違いはこれにて終い。

 

コイツはこれからもロリコンでシスコンのド変態だ。

 

……あの女の人には、頑張って欲しい様な気もする。

 

 

 

 

 

 

 


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