ドライ兄が辛いからね。仕方がないね。
夜中、イリヤとクロエと。
「お兄ちゃん、まだ起きてる……訳ない、よね」
と言いながらゆっくりドアを開けて部屋に入ってくるイリヤ。
先程まで寝ていたし、時計を見ると深夜だ。
そのまま狸寝入りをしてもいい。
だけどそれは嫌なので、ゆっくりと手を上げる。
「……!起こし…ちゃった?」
ゆっくりと起き上がり、布団を軽く畳む。
それから、ちょうどベッドに腰掛ける形を取りつつ、別に構わないと言う事を伝える。
と言うか、こんな時間にどうしたの。
「え、ええっと…そ、それは…」
やましい事でもあるのか。それとも言い訳を思いついていなかったのか、言い淀んでいる。しかし、追求する気なんてさらさらない。してどうなると言うのか。
だからイリヤには、おいで、と。それだけ言う。
「〜っ!うん、うん!」
眠い目でもはっきりとわかるくらいに笑顔を浮かべたイリヤ。
それから、近寄ってきて、寝起きだし、寝汗とか気になるだろうから、隣に座るのかと思いきや、膝に座ってきた。
ちょうど、向き合う形で。
「えへへー、お兄ちゃんだー」
両手を回し、ぎゅっと抱きしめ、胸のあたりに顔を埋めてくる。
けれど、何処か脆く、危ない感じがした。
その姿を見て、思わず頭に手が伸びる。
「お兄ちゃん…?」
目を閉じ、その存在を確かめるように撫でる。そうでもしないと、何処かへ行ってしまいそうな、或いは、自分がどうにかなってしまいそうな。そう言う形容しがたい不安に襲われたからだ。
「むー…お兄ちゃんはいっつも撫でるだけなんだよね…あ!いや、別に、イヤって訳じゃないよ?違うからね!……それでも、やっぱりもっと……」
撫でるのは飽きたと来たか。
確かに、そればっかりやっている記憶はある。
しかし、だからと言って他に何をすれば良いのか。抱き締める?「ほえ!?……ぁ…おにーちゃん………えへー♡」うーん、それくらいだよなぁ…他に何をすればいいのか、わからない。
困った。
困り果てたので、取り敢えず抱き締めたままベッドに横たわる。
腕を下敷きにしないように、痛くないよう注意しながら、ちょうど横向きの姿勢になる。
「………」
イリヤは何も言わない。
ふと、再び眠気が襲って来た。
このまま寝ようか。ただ、次の日のセラが怖い。セラ怖いホント。
クロエもなぁ…うん。説明が大変だ。
機嫌を取らないといけない。
来てくれれば一番早いんだけど…それはそれでイリヤが拗ねる。
どうして、複雑怪奇な事態ではない「お兄ちゃん、誰の事考えてるの?」……か?
「ねぇ、何でいま他の人の事考えてるの?誰なの?その人」
視線を下にずらしていくと、上を向いている。つまり、此方へ目を向けているイリヤ。
その目は、何時もの赤い瞳だが、何処か闇を感じさせるようなモノだった。
「セラかな?うーん…まあ、バレちゃうとたいへんだけどさ、大丈夫だよ?お兄ちゃん。バレなきゃいいんだもん」
バレたら困るから考えてたんです。
とは言えども、イリヤの表情を伺うに、本気で何とかなると考えている。
或いは、何とかなる方法があるのか。
「もしかして、クロの事だったりするのかな。だったら、お兄ちゃんはわたしの事を見てくれないの?」
イリヤの抱き締める力が強くなる。
「イヤだよ…そんなの……」
とうとう胸に顔を埋めて泣き出してしまった。
それでも、離れようとしないのを鑑みるに、随分と信頼されているらしい。
イリヤの心は、弱っていたのか。
気づけなかった自分が嫌になる。
このままふて寝する迄放って置く、と言うのも良いのかも知れない。
ただ、それをしてしまうのは、大切な何かを失いかねない。
まあ。今からしようとしている事も何かを失うのだろうが。
「イリヤ」
「……何さ」
首の横にある、僅かな隙間に手を伸ばし、顎に触れる。
「えっ!?」イリヤも思わぬ出来事に力が緩む。
そのまま空いている手でイリヤの身体を支え、抱き起す。
泣き止み、僅かにその目に涙をを湛えるだけの瞳を見つめる。
顎に触れていた手をゆっくりとなぞらせ、親指で下唇に触れ、そのまま下になぞる。
「おにぃ…ちゃん……」
ゆっくりと顔を近づける。
互いの吐息がかかる位の距離まで近づく。
ピントが合わずにボヤけて見えているイリヤの表情は、熱に浮かれたように真っ赤だった。
引き寄せ、お互いを重ねる。
軽く、微かに触れる様に。
「……っあ…もう、ダメ……」
顎にかけていた手を払われ、今度は逆に、強く引き寄せられる。
貪られるように舌を絡め取られる。
「んむっ…ぢゅる…っはぁ、っん……」
一度、息が苦しくなって離れる。
けれど、間にできた銀の橋を辿る様に、イリヤは追いかけてきて、捕まえられる。
「んっ…ぇれろっ…ふぁ……ぉ、兄ちゃん」
自分から離れたかと思うと、
振り払われ、手持ち無沙汰になっていた右手を両手で取られる。
「おねがい……」
取った手を、イリヤは自らの胸に押し当ててくる。
お互い、熱に浮かされていて、どうかしている。
一時の夢と想い、服に手をかけようと───
「はい!しゅーりょー!おしまーい!お疲れ様でしたー!」
いつの間にやら部屋に入ってきたクロエ。
イリヤとの間に割って入って、引き剥がされる。
「な、なななな……何すんのさクローー!」
クロエの両肩を掴み、前後に揺するイリヤ。
「ナニすんのさー…はこっちのセリフよ!なーんかヘンな感じするなーと思って心配になって探してみれば!あーもー呆れた!生意気にも抜け駆けなんかしてこのバカイリヤ!」
肩を掴む手を払い除けつつ、怒るクロエ。
その表情からは、どちらかと言うと呆れの方が強い様に見てとれる。
「抜け駆け!?何よ……何なのよそれ!元はと言えばっ…むー!んむ……っ!?」
はいストップ。
頭を冷ましつつ、二人のやり取りを眺めていると、イリヤが勢いに任せて取り返しのつかなさそうな事を言いそうだったから、口を手で塞いで止める。
「………ま、アンタが何思ってようと自由だけどー?お兄ちゃんは私だけのって言うのには変わりはない……ちょっと、ナニしてんのよ!何口塞がれてトロンとしてんのよ!?」
「ん……っん…っはぁ…お兄ちゃん…」
塞いでいた掌が湿っていくのを感じる……。
先程ならいざ知らず、冷静になった思考では、口を塞ぐのを止めると言う判断を下す。
……名残惜しそうに見つめられても、困る。
「あー!もー!ずーるーいー!……お兄ちゃん!」
クロエがこちらを向き、生唾を飲んだ。
そして、両手をこちらの頰に添え、顔を近づけて行き。
「んちゅ……じゅる…っは、はむ…んっ」
クロエに絡め取られる様に、口の中で舌が這い回る。
貪られる様に、強引に舌が絡み合う。
「……ん、……っはぁ!…はぁ」
「……ハッ!ちょっとクロ!どさくさに紛れてナニやってんの!?」
正気に戻ったイリヤがクロエの両肩を力強く掴む。
「何よ!そっちだってヤったんだからお互い様でしょ!?」
手を振り払って逆に胸ぐらを掴むクロエ。
「何よその理屈!わかんない!お兄ちゃんとわたしの邪魔しないで!」
「ハァ!?どーゆー事よそれ!?お兄ちゃんと私の邪魔してるのはアンタの方でしょ!?」
キャットファイトとが始まってしまった……!
どうしよう。
「「お前なん……」」
二人共抱き寄せて、横抱きにしつつベットに横たわる。
「きゃっ」「ぃやっ」
「おにい……ちゃん?」
イリヤが意図を問う。
そんなの、喧嘩はいけない。位しかない。
これでおしまい。もう眠いし、このまま三人で寝るよ。
「……うーん…まだちょーっと納得いかないけど…まぁ、お兄ちゃんが言うなら…」
クロエは渋々賛同の意を示す。
ほら、イリヤもそれで良いね?
「……ゎかったよ…むー…」
と言いつつも、二人共しっかりと抱きついてきて離さないのは、愛嬌か。
取り敢えず、何とかなった……。
次の日
「で?何か弁明はありますか?変態」
「滅相もございません」
【私は妹に手を出した変態です】と書かれた紙を持たされている。
「ま、まあまあ、セラ。三人で寝てただけだろ?そんな変態扱いしなくても……」
「シロウさん。ダメです。彼は有罪です」
「あのね、セラ…わたし達は何もして…」
「夜中に喧嘩するのが何もして居ない、と?」
「うぐっ」
「喧嘩してた……ってなら、仲裁してたんだろ?それを変態って」
「……キスから始まる喧嘩って、有ると思いますか?」
「えっ」
「やばっ」「マズっ」
【私は妹に手を出した変態です】と書かれた紙を持たされている。
「旦那様にご報告、させていただきますね?」
その後、