ヤンデレ☆イリヤ   作:鹿頭

16 / 23
原作終わってないし、しゃーない。



最終話

「困るなぁ…焚きつけたの、貴方でしょう?綺礼」

 

「誰かと思えば、英雄王か」

 

道を歩く事峰の背後から、鈴の音を鳴らすような。けれども威厳のある声がする。

 

「どーしてくれるんですか。せっかく面白い事になると思ったんですがねぇ……アレじゃあなぁ…」

 

頭を掻くギルガメッシュ。

さほど困っている、と言うわけではない。

 

「一つの世界が滅び、一人の剪定者が産まれただけの事。産まれるからには、私はそれを祝福せねばなるまい。まして、【衛宮】なら尚更の事」

 

さも当然だろう?と言わんばかりの不適な態度を取っている。

 

「あんな物まで持ち出して、大人の僕が見たらどう思うかなぁ……」

 

「フン、裁定と剪定は領分を侵害する事も無かろう。それと、アレは私が与えた物では無い」

 

「ふーん。ま、どっちでもいいんですけどね」

 

「……所で、戻らなくて良いのか?」

 

 

 

「目的は果たしたんで、大丈夫ですよ。それに、観ていても面白くないし、これからはもう僕の役目は無い。大人しく帰りますよ」

 

「………そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結界が……消えた?」

 

「というより、壊された…?」

 

凛とルヴィアが各々の感想を述べる。

 

 

「……オイオイ、どーゆー事だぁ!?」

 

「何者……おい、待て。馬鹿な。何故だ?何故

()()が此処にある?」

 

ベアトリスが首をかしげる。

対照的にジュリアン、否。ダリウスは確信めいた物を抱く。

 

 

「イリヤ……あそこ…」

 

クロエが震える手で、人影を指差す。

 

「………うそ、でしょ」

 

「切……いや、格好は似てるけど……あの顔は…」

 

視界に人影を収めた美遊が思う。

 

「居ても可笑しくは無い、とは思ってましたが……どう見ても、()()は…」

 

バゼットが、クロエらの注目する方へ、目線を向け、その正体を見る。

その持つ兵器も。

 

 

「爺さん……?」

 

朦朧とした意識で、衛宮士郎は男の影を垣間見る。

例え、違うとしても。

 

 

 

「どう言う事だァ!!聖堂教会!!!互いに不干渉の筈だろう!?」

 

馬鹿な。

あり得ない。

あの銃を持ち出すなんぞ、代行者位のモノ。

そう思っているからこそ、そう知っているからこその発言。

しかし、可笑しい。来る訳がない。

そう、あの神父とは約束がある。

 

 

 

 

 

「───地獄を見た」

 

燃え盛る業火。

街を埋め尽くす泥と炎を見た、と。

 

 

男は、ダリウスの言に答える事なく。

一人歩きながら告解する。

 

「未来を視た」

 

再び行われた戦争の行く末を、死の間際に垣間見た。

 

「可能性を視た」

 

戦争の可能性。数多の死。

大戦。月の戦争。偽りの戦争。

 

様々な世界の可能性を視た。

 

新たに生まれ落ちた世界も、例に漏れず。

 

「結末を視た」

 

全てが行き着く先。

死んだ大地。飛来する星の化身。

そして───。

 

「ああ、全てが無価値。どうでも良い。

どいつもこいつ(根源接続者)も、さっさと死ぬ理由が理解出来るよ」

 

未来だの世界だの強制的に視せられて、狂ったり、無感動にならない方が可笑しい。

現に、アトラスの院長は発狂している。

 

「質問に答えろ!」

 

「沙条愛歌。ああ、お前の話は共感出来るよ。視るのと、実際に見るのとじゃ、訳が違う。セイバーに執着する訳だ」

 

《視るのと、見る、という事の違いって、素晴らしいモノよ?》

 

確か、そんな事を言ってたな。

 

 

 

無価値。無感動。

 

全てに飽きる。

 

それでも。

確かに無色だった世界は、運命によって色彩鮮やかに彩られたんだ。

 

 

 

「……ああ、俺が代行者か、って話……だったか。違うな」

 

「何…?」

 

ダリウスは疑問を抱く。

そんな筈はない。アレは、あの銃は、そんな簡単なシロモノでは無い。

 

 

 

「俺は、通りすがりのお兄ちゃんだ」

 

銃を構える。

狙うのは、ダリウスでは無い。

銃口は、箱に向けられる。

 

「───ッ!殺せ!ベアトリス!」

 

「遅い」

 

撃鉄は下された。

弾は進んで行くのみ。

真っ直ぐ。一直線に。

 

音速で対応する汚泥の英霊。

しかし、銃弾は意に介す事なく、泥を消し飛ばしながら突き進む。

 

 

そして、人類は。

 

ここに、最後の希望を打ち砕かれた。

 

 

 

 

「あ……ああ…」

 

空いた穴から溶けて崩れ落ちるピトス。

穴を穿ったのにも関わらず、中からは何も這い出る事はない。

 

ただ、消えて行く。

 

「テメェ!!」

 

破れかぶれになったベアトリスは、男を圧殺せんと蛮神の槌を振り下ろそうと───!

 

「させないわ!」

 

そこにクロエが投影した双剣を投げつけ、軌道を逸らす。

外れた槌は、空を叩く。

そこを逃さず、クロエは追撃に出る。

 

「ありがとう、クロエ」

 

「え?……今、私の名前を……」

 

すれ違い様に、クロエはそんな言葉を聞いた。

 

 

 

男は銃から薬莢を排出し、再び弾を込める。

そして、膝をついている、ダリウスの元へ歩み寄る。

 

「貴様!一体何をしたか……何をしたかわかっているのかぁ!?」

 

半狂乱になり、目の前の男に掴みかかるダリウス。

 

「知っているさ」

 

「……は?」

 

「遍く全ての星々には、終わりがある。それがこの世界は早かっただけの事。それなのにダラダラと無駄に延命しようとして……」

 

「オイ……オイ、なんだよ、それ」

 

ダリウスなのか、ジュリアンなのか。

今まで築き上げて来た物を、横から蹴飛ばされて、誰が誰だか解らなくなっている。

 

「そもそも、聖杯一つで星が救えると思ったのか?高々英霊七騎分。それに、箱にしても、欧州の一部の話だろう」

 

「…………辞めろ」

 

話を遮る。

 

「おめでたい頭だ。この世界はな、パンドラがほんのちょっと素直だった時点で、21世紀での滅びは確定していたんだよ」

 

「辞めろ!」

 

話を聞きたくない。

 

正義の味方(エインズワーズ)。大いに結構。だけど、“宙”は残念ながら不変のものを嫌う。お前らは、大海に漕ぎ出す事を目指すべきだった。つまりは、無駄骨だ」

 

「辞めろと言っ───」

 

その後の言葉は紡がれる事はなかった。

 

顎下から撃ち抜かれたからだ。

第五架空要素に寄って置換されていた人格は消え失せる。

無論、撃ち抜かれた肉体も、生命の鼓動を止める。

 

 

「ジュリアン様───!」

 

クロエと戦っていたベアトリスは、惨状に気づき、男を殺しにかかる。

 

しかし、距離が離れていた。

その為に。

 

「死人は寝てろ」

 

再び銃声。

所詮は第五架空要素で出来た身体。

何かを遺す事なく、崩れ去る。

カードすらも、残らない。

 

泡滴を無感動に眺め終え、イリヤらの方を向こうとして───。

 

「待ちなさい!」

 

横から、遠坂凛の声。

指先をこちらに向けている。

手には高価そうな宝石が握られている。

 

「なんだい?」

 

「……貴方、何者なの」

 

「何者、ね。言ったでしょ、通りすがりのお兄ちゃんだ、って。イリヤとクロエの兄だよ。俺は」

 

「本当に、お兄ちゃん…なの?」

 

クロエが縋るように呟く。

 

それとは対照的だが。

 

「…………」

 

イリヤは何も喋らない。

どこか怯えが混じっている様にも見える。

 

兎も角、イリヤ達の方へと歩き始めようと足を上げたその瞬間。

 

「ダメですわ!」

 

ルヴィアがそれを制止する。

 

「どうして!?」

 

思わず抗議する。

 

「まだ、話は終わってませんわ」

 

 

「兄なのは置いといて。貴方、どうやって来たの?いえ、それよりもソレ。何処で手に入れたのよ!」

 

「あー……コレ、か…」

 

握りしめた銃をもて遊ぶ。

 

「動かないで!」

 

「ひどいなぁ!」

 

「その銃。私の推測が正しければ、持ち出せる事はほぼ不可能よ。それなのに、何故持っているの?」

 

「貰った」

 

「とぼけないで!」

 

「とぼけて無いよ!貰ったもんは貰ったんだから仕方がないでしょ!?」

 

「じゃあ誰から!」

 

「……メル友?」

 

「あー、ハイハイ。メル友ね。それなら納得……出来るかぁ!」

 

「じゃあどうしろと!」

 

「ソレ置いてゆっくり離れなさい!」

 

「なんでそこまで過剰になるのさ!?」

 

「……だって貴方、なんの感情も抱かずに人を殺せる奴を信用しろ、なんて方が可笑しいとは思わない?」

 

「魔術師なんて俺よりロクでも無い奴、一山いくらで売るほど居るでしょ?」

 

「うっ……それを言われると」

 

「何を引き下がってるんですの!遠坂凛!」

 

「煩いわね!図星突かれたら貴女だってこうなるわよ!」

 

「貴女と一緒にしないでくださいな!」

 

言い争いが勝手に始まった。

抜け目が無い。とでも言うべきか、此方への警戒は忘れていない。

 

敵じゃないんだけどなぁ…。

そう思いながら、イリヤとクロエの方を向く。

 

しかし。そうではない。

 

「おい、カレイドステッキ」

 

「はいはーい、何ですかー?お兄さーん。それとですねー。私の事は!ルビーちゃんとお呼び下さい!」

 

「元の世界に、全員帰れるか?」

 

「うーん、まあ難しいですけど……出来なくはない、です」

 

「今すぐにやれ。間に合わなくなったら知らん」

 

「ハイ?」

 

 

「───来た」

 

 

頭上から、天体が堕ちて来る。

否。正確には天体では無いが……星そのもの、と言っても差し支えない。

 

落ちて来たソレが、城を踏み潰す。

 

踏み潰され、崩れた城の瓦礫が水晶へと変貌していく。

 

「何……アレ」

 

「蜘蛛…?」

 

凛とルヴィアが恐怖に腰を抜かす。

無理もない。

何故ならば、目の前のソレは───

 

「おい!早くしろルビー!全員此処で死ぬ事になるぞ!」

 

「……サファイア!」

 

「わかりました、姉さん」

 

ルビーとサファイア。二つのカレイドステッキが、円の軌跡を描き始める。

足下には、見慣れぬ魔法陣が次々へと展開していく。

この世界の衛宮士郎も陣の中に入っている。

 

……ま、何とかなるだろう。

銃弾を装填する。

 

「お兄ちゃん!?」

 

クロエが叫ぶ。

何をしようとしているのか、察したのだろうか。

 

「ちょっと!お兄ちゃん!どうしてそんなモン弄ってんのよ!」

 

クロエが腕を掴んで来る。

けれど。

 

「悪い」

 

腕を振り払い、魔法陣の外へ出る。

悪いな、俺は一緒には行けない。

血に濡れたこの手で、お前らを抱きしめる訳にもいかないだろうし、俺には為すべきことがある。

 

「お兄ちゃん!待って!お兄ちゃん!」

 

クロエが叫ぶ。

 

「お兄さん!銃を棄てて入ってください!もうすぐ飛びます!」

 

ルビーが真面目な様子で喋る。

銃を捨てろ、と言うのは干渉して飛べなくなるかもしれないからだ。

 

 

 

「───お兄ちゃん…ダメだよ、お兄ちゃんが来たのに、嬉しかったのに、なんだか怖くて無視しちゃったの、あやまるから、ねぇ、いっしょに、いっしょに…帰ろうよ!!!

 

今まで口を閉ざしていたイリヤが叫ぶ。

 

その事に瞠目する。

そんな事気にしてたのか。

ははっ。最後に、悪い事したかな。

 

振り返える。

 

「イリヤ、クロエ」

 

せめて、笑顔で。

 

「ありがとう。出逢えて幸せだった」

 

 

 

 

 

 

「だ─め──!────」

 

誰との声とも知れぬ声が何もない空間に木霊する。

 

「行った、か」

 

大蜘蛛の方を向き直す。

侵食していく水晶の渓谷は、直ぐ近くまで来ている。

 

滅びの確定したこの地球との約束を果たすため。

現状最も滅びの原因に近い俺を殺す為。

 

水星のアリストテレス。

タイプ・マーキュリーが、動きだす。

 

「AAAAAAaaaaaaaaa───!!!!」

 

 

「さて、水星。俺の知っている知識には、少なくともお前は何処かで退場する筈だ」

 

銃を構える。

足が震える。

呼吸が荒くなる。

怖い。

 

人類が逆立ちしても勝てぬ敵。

だけど、この銃の次の持ち主は、コイツの存在を知らない。

 

つまりは、世界の滅びを早めたケジメとして、此処で倒さねばならない。

 

恐怖を呑み込み、引き金に手をかける。

 

「悪いが、此処で俺と心中して貰うぞ。────ORT!!!」

 

 

 

 

 

 

銃弾が、放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「……って事が有ったんだよ」

「そうなのか?」

「そうだよ。だから水星のアリストテレスは居ないんだ」

「………兄は強…なんか違くないか?」

「うーん……彼が銃を握ってからの事しか解らないから…」

「……そうかい。で、そいつは結局どうなったんだい?」

「あ、それはねぇ……」

「あー、自分で聞いといてなんだが…スマン、仕事だ。行ってくる」

「うん、いってらっしゃい、ゴドー」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。