ヤンデレ☆イリヤ   作:鹿頭

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続いた。
この後の展開はオリ設定にしようか原作待とうか悩む


二話

 

 

「起きろ」

ドアが音を立てて強く開けられたかと思うと、いくつもの包丁が飛んでくる。

その包丁は、綺麗に人型をなぞる様に床に刺さった。

 

殺す気か!?

 

「腕が鈍っていないかの確認だ」

 

人で試すなよ!

鈍っていたらどうするつもりだったんだ!?

 

「その為の確認だ」

 

………どうしてこうなったのか。

 

と、言うのも。

昨日、店長から店の奥の倉庫で寝ろ、と寝袋を渡されたので寝ていたのだ、が。

一体誰がモーニング包丁で起こされる事になると予想出来たのだろうか。いや、出来ないだろう。

 

「朝は出来ている。早く来い」

 

周りに刺さっている包丁を一本ずつ回収すると、店の厨房へと戻って行った。

 

もうちょっとゆっくりしたいが、包丁がいつ人体に当たるとも限らない。

そうなっては事だ。

早く行こう。

 

寝袋から出て、畳んで、しまう。

店の方に行くと、丼が置かれていた。

 

「今日はこれだ。食べると良い」

 

朝からキッツイなぁ…流石にこってこてなのはな、とは思うが。実際食住を保証してもらっているのは事実。

有り難く頂こうと思う。

 

うん、やっぱり美味しい。

ガタイは妙に良いし、性格はアレだけど。

その腕前は本物だ。

 

「旨いか?」

 

勿論!

 

「……そうか」

と返事を返したと思うと、さっさと振り返って、仕込みを再開した。

 

店には麺を啜る音、麻婆豆腐のラーメンの仕込みの音のみが響く。

その間、美味しいなー、と思いつつも一体こんな所で何をやっているんだろうか、と一人思い直す事となった。

 

食べ終わり、ご馳走さま、と返すと、間髪入れずに皿とレンゲが置かれた。

 

「麻婆の余りだ。食せ」

 

どう言うわけだか、ぶっきらぼうに置かれた様な気がした。

 

ええ、勿論。いただきます。

 

食べながら考える。

 

どうしようか。

この店にいる限り、イリヤとクロエには会えない。向こうから来る…と良いけど……

それも望めそうに無い。

 

かと言って、食い逃げになりそうだった事実が有る。

本当に困った。

 

そんな時。

 

「すみませーん。まだやってます……おや、他の客なんて珍しいですね」

 

金髪に赤い眼をした身なりの良さそうな少年がやって来た。

その手には5枚の丼を持っている。

どうやら、返却に来た様だ。

 

「従業員だ」

 

「……いつの間に雇ったんですか?」

 

「昨日だ、ギルガメッシュ」

 

「そりゃあ知らないはずだ」

 

肩を竦める。

ここに置いときますねー、と丼を置くギルガメッシュ。

 

「名前はなんて言うんですか?」

 

ギルガメッシュはこちらに顔をを向ける。

美少年。そう言うのが適切だ。

そう思わせるくらいに、恐ろしい程に整っている顔をしていた。

 

「衛宮だ」

答える前に店長が先に言う。

 

「衛宮……ですか」

その紅の眼がこちらを睥睨する。まるで、何かを見定める様だった。

 

「ふーん…」

軽く横目で見てきたかと思うと、一人で何やら勝手に納得しては、一人で勝手に頷く。

幾らなんでも、ちょっと不快になる。

 

「コレはそう言う奴だ。気にするだけ無駄だ」

 

「ひどい事言ってくれますね、これでも僕は優しい方だと思うんですけど?」

 

「ならば私を助けると思って麻婆を喰っていけ」

 

「えー…アレ食べるなんて嫌ですよ…」

 

軽口を交わす二人。その様子はまるで数十年来の知己の様でもあったが、絵も言われぬ違和感の前には、とても友人などとは言えない。もっと別のものなのだろう。

 

「衛宮は旨そうに喰っているが?」

 

こちらに視線を軽く向ける。

 

「えぇ……辛くないんですか?お兄さん」

 

美味しいよ?食べる?

 

「いえ、丼を返しに来「出来たぞ」ただけ……えぇ…仕方ないなぁ…」

 

ため息をつき、席に座るギルガメッシュ。

心なしか、箸を取る手は重く見える。

嫌なら食べようか?

 

「あぁ、お兄さん。それなら「案ずるな、貴様の分も用意してある」……いいですやっぱり」

 

丼が追加される。

冷めてしまうともったいない。

早く今手をつけている麻婆を食べ終えて、次の丼へと手を伸ばす。

 

「……としても、良く食べれるなぁ」

横目でこちらを見るギルガメッシュがそんな事を呟いた。

何が?と問うた所、「僕にはそんなに食べれませんよ」と返ってきた。

 

あらまあそれは残念。との感想を抱いた。

 

会計時、ギルガメッシュはどうみても金塊。そう、金の塊で支払いをしていた。

ぼったくりとかそう言う次元じゃねぇ!これが真の金持ちか…!と戦慄する事になった。

 

「あ、お兄さん。これチップです」

 

目の前に金塊が置かれた。

チッ…プ……?

 

「じゃあ、また」

紅顔の美少年は退店して行った。

 

…そうか!この金塊で未払い分の支払いができ「断る」えぇ…

 

「一度働いて返済に充てるとの契約を交わした以上、不可能だと知れ」

 

……詭弁とかではなく、正論。はっきり言ってやられた。

金収入が入った場合、それで返済するとか言う話は一切無かった。

このニヤついた笑みを浮かべている店主に、一杯食わされたのだ。ラーメンなだけに。

 

金塊を持て余す事になった。

一先ず奥へ行き、金塊を紙袋の横に置く。

今一使い道の無い銃に使い道が潰えた金塊。

無駄だらけである。

 

結局、今日は彼以外には客は来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

ある事に気づく。

情報について、だ。

 

この街について、正規の方法では何一つ知らない。

このラーメン屋かある事と、小学校が近くにある事位しか知らない。

だから、これで話を聞こう。

 

金塊を再び持ち、カウンターへ行き、店長へこの街に関して知っている事を余さず教えろ、と言う。

 

どだい情報とは、入手経路が重要なのだ。

出所の解らない情報なぞ、何の価値もないし、信用もされない。

 

その為の金。彼は知ってて渡したのだろうか。

だとすると、一体何処まで。

 

「余さず、と来たか」

 

金を受け取らず、手を後ろに組み、ゆっくりとこちらへ向かう店長。

 

「ならば仕方あるまい。私が知っている事ならば全て話そう」

 

口角を僅かに上げた店長がそう言って語るのは、10年以上前の聖杯戦争から始まる悲劇。

神稚児。

エインズワーズ家。

その目的。

マナの急速な枯渇。

前回の勝者が、衛宮士郎だった、という事。

 

「さて、どうする?無知は罪だが、知っていて何もしない方が重罰だ。と言っても、貴様は魔術師でも魔法使いでも無かろう」

 

こちらの出方を伺うかのように真横に立つ。

確かに、魔術回路なんてもんは存在しない。いや、あるのかも知れないが。

使えない以上はどうしようもない。

と、すると。

現状己の持つ最高攻撃手段の、あの銃しかない。

 

「あの銃……かね」

 

目を細め、途端に厳しい表情になる。

やはり、と言うべきか。

あの銃が何なのか、知っているかのようだ。

 

「……私の想像が合っているのならば、確かに貴様でも何がしかの役には立とう」

 

疲れたのか何なのか、横の椅子に座る。

この人に限ってそれはあり得ないとは思うが。

 

「だがどうする?アレは世界を救う為に世界を滅ぼす禁忌の兵器。貰い物、とは言っているが……」

 

目を閉じ、深呼吸する店長。

 

「問おう。貴様は何のために世界を滅ぼす?」

 

「───愚問。十字架を背負う為」

 

「ほう。何故に」

 

「美遊と、世界。天秤にかけたところで、あの子は優しいから、どちらか選べないだろう。むしろ両方取ろうとするかも知れない。だから、迷わなくて良いように、選択肢が多岐に渡り、重くならぬ様にせんがため」

 

「それで滅ぼしても構わない、と?」

 

「そんな事で滅びる弱い世界なんて滅んで当たり前だ」

 

「ッ……ハハ、フハハハハ!!!」

 

堰を切ったように笑う。

一通り笑うと、口をゆっくり動かし始めた。

 

「愉快だ。世界は違えど、貴様ら兄弟はその道を行くと言うのか。……ならばこの言峰綺礼。神の御名に於いて汝が道を言祝ごう。君の道に幸あらん事を」

 

神父の様に、十字架を切る言峰綺礼。

その様は、実に絵になっていた。

 

「止めないので?」

 

「何故止める必要が?」

 

世界、滅びるのに?と言外に言ったつもりが、こう言われるとペースが崩れる。

 

「……エインズワーズとの約束とか、こう、色々あるでしょう?」

 

「知らんな。私が破る訳ではなかろう」

 

「食えませんね」

 

「麻婆は食わせるが?」

 

「一本取られました」

 

お互いに鼻で笑う。

その後、微妙な沈黙が場を漂う。

 

「───ついてこい。渡したい物がある」

 

バンダナを外し、出口へと向かう言峰。

 

「渡したい物?」

 

「弾薬と……その格好では寒かろう。コートだ。ああ、銃も持って来い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あのさ、これ何処から?」

 

「秘密だ」

 

朽ち果てて荒れ放題になっている、とある神の家。その地下に案内されたが、そこには大量の弾薬と、武器が有った。

 

 

「その銃は基本的にはどの弾薬でも第五架空要素で構成されているモノならば絶対の天敵と成り得る。本物ならばな。……災厄にも効くだろう」

 

持ってきた銃の弾を確認すると、その口径に合った弾薬を渡しつつ、そんな事を説明してきた。

 

「災厄?」

 

「こちらの話だ。……例え贋作だとしても、私がどうこうなる話ではあるまい」

 

「それもそう、か……で、このコートは?」

 

埃を被った、硝煙と、薄れたタバコの臭いが染み付いたくたびれた、黒いチェスターフィールドコート。

どう見ても、どう見てもだ。

 

「拾った」

 

「拾った」

 

「拾ったのだ」

 

「……そう言う事にしますよ」

 

追求をやめ、埃を払いつつコートを着る。

これ以上は面倒臭いだろうし、話す気もないだろう。

 

「似合っているぞ」

 

「気色悪い」

 

言峰が妙にニヤついていたので、思わず言ってしまったのは、悪くないだろう。

 

「行く先は真逆だがな」

 

何処か遠い所を見つめる言峰。

何かの幻影を見つめているのか。

 

「こっちの世界では同じ道を歩いたさ」

 

意図していないが、自然とそう口に出てしまった。

 

「………そうか。あのホムンクルスが真っ当に生きてる時点でそう考えるべき、か

 

「何か言った?」

 

「独り言だ」

 

「所で、エインズワーズの工房…だっけか。結界とかってどうすれば良いの?」

 

「さて、な」

 

「駄目?」

 

「そこまでするのは過干渉だろう」

 

「いや、道具が強いだけの劣化AUOですら無いパンピーなんですけど」

 

「どうせ鋼の大地は訪れるのだ。神秘の隠匿などと些細な事を言っている暇は無かろう」

 

横に顔を向ける言峰。

鋼の大地、と来たか。

 

「結界を撃ち抜け、と」

 

「そうだ、衛宮。どうせなら派手にやれば良かろう。それに、この地域には人の影は見られぬ」

 

こちらに再び顔を向け、片手を大仰に上げる。

 

「案内はしよう。来い」

 

そう言って、階段を上がって行った。

弾薬を粗方ポケットに仕舞い、スリングを新たに取り付けた銃を肩にかける。

そして、階段を上がって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徒歩で暫く歩くと、大きな一本道に出た。

 

「この先だ。私は戻らせてもらう。……では、幸運を祈る」

 

そう言って、道を反対側へ進んで行く。

その背中を見る事なく、道を真っ直ぐに歩いて行く。

そうすると、大きな、大きなクレーターが見えた。

 

 

「ここ、か」

 

次に装填する弾薬を口に咥え、肩に掛けていた銃を構える。

呼吸が荒い。緊張している。

落ち着け。お前は何の為に銃を握る?

 

そうだ。それでいい。

呼吸が整って行くのを感じる。

 

刹那、呼吸を止める。

そして、銃の引き金を引き、撃鉄を下ろした。

 

一発の銃声が、辺りに鳴り響く。

 

銃弾は真っ直ぐに進んで行き───

 

 

 

 

 

 

結界が、壊れた。

 

 

 

 


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