ワン・フォー・ワン《独りは一人のために》   作:亡き不死鳥

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先の構想を全くせずに書く小説もいいもの。な気がする。


ユーモア

うまい話には裏がある。ならまずい話には裏がないのかと聞かれると首を傾げざるを得ない。最近は先に到底呑めない条件を出してから本命の妥協案を呑ませようとする方法も増えているらしい。

つまるところ見て即決や考えなしの行動は止めようという話だ。

 

 

「……来なきゃよかった」

 

「どうした比企谷。元気もユーモアも足りてないのではないか?」

 

「メイド喫茶にユーモアを求めるなよナイトアイ…」

 

 

崩れ落ちるように机に項垂れながら目の前の男に悪態をこぼす。

一応今ここにきてるのも仕事の一環だ。普段は書類仕事一貫だが、一月に一度だけ定期的にこの集会が行われている。というのも目の前にいるのはヒーロー名『サー・ナイトアイ』。個性『予知』を使いこなし、かつてオールマイトのサイドキックをしていた、言わば俺の先任にあたる人物である。

とある一件でオールマイトと仲違いし、サイドキックを辞めてしまったのだがいかんせんこの男オールマイトの大ファンなのだ。かつてのナイトアイの仕事部屋にはオールマイトのグッズで満ちていたことがある。そして現在の事務所も然り。

まあそんな彼がオールマイトの活動状況、というか活躍を可能な限り聞きたいと報酬(食事代&新地開拓)付きでこの仕事を行なっている。あ、もちろんオールマイトからは許可もらってるのでご心配なく。

まあ仕事なのでそこはまだいいのだが、こいつは見た目は真面目が服を着ながら睨んでくるような人間なのだが、だからこそユーモアを最も尊重して活動している。

何が言いたいのかというとその余波として新地開拓にユーモアが混じり、今回のようなメイド喫茶や世界一まずいラーメン屋、爬虫類喫茶など意☆味☆不☆明な店を嬉々として選ぶ傾向にある。毎回少しだけ楽しみにしてるのは内緒だ。

 

 

「お待たせしましたご主人様!美味しくなる魔法をかけさせていただきますね!」

 

「ああ、頼む」

 

「かしこまりました!

美味しくなーれ!萌え萌えキュン☆」

 

「ありがとう。君は元気もユーモアもあって大変よろしい」

 

「ありがとうございます!これからもご贔屓に!」

 

「………ついてけねぇ」

 

 

一連のやりとりが鉄仮面と笑顔満開の二人が行なっているのを目にするこちらは堪ったものじゃない。ただ俺を見てサービス(美味しくなる魔法)を欲してないと察してナイトアイだけに話しかける観察眼は褒めてやりたいところだ。

 

 

「さて、本題に入ろう。今月も彼は沢山の活躍をした。『ビリビリッチー』、『マグマカロン』、『アカウントロン』といった報道されたものから引ったくりや個性を使った子供の喧嘩を諌めた件も私の耳に入ってきている。

だがもちろんそれだけではないのだろう?いつものようにあらゆる事件をどのように解決しどんな評価を受け、彼はどう感じたのかを、余すところなく、教えてほしい」

 

「相変わらずのオールマイトマニアっぷりで引くわ。いやいいけど。

今月は結構多かったからな。いつも通り書類に纏めといたやつ、オールマイトが気にかけてたやつに加えて、印象深かったやつはピックアップしといた」

 

「いつも助かる。私の予知は対象の行動しか知らないからな。生の声は大変貴重なんだ。

特に、本人のものはね」

 

「ただの趣味って言えよ」

 

 

オタクというものを半端に知っているせいか、こいつの行動そのものを否定するわけではない。人の知らないその人の情報を知りたいというのは分かるし、コネがあるならそれを活用すべきというのも分かる。

が、直接その相手をさせられる俺からしたらただのストーカーにしか見えねえ!いや二人と知り合いだからなんだけど、釈然としないものがあるのも確か。

 

 

「…あー、そういやあと一つ。事件じゃないからそっちに纏めてないオフレコなんだが、オールマイトが雄英の教師にならないかって誘われてたぞ」

 

「……教師?雄英の?」

 

「ああ、なんでも後継者探しだそうだ。最近オールマイトも少し焦ってたからな、俺は正直いい機会だと思ってるが。

ついでに今日その件で雄英に行ってる。あの校長から色々説明受けてる頃だろうな」

 

「…なるほどな。たしかにいい機会だ。雄英には一際輝くものがいることも確かだ。多くは有象無象と言わざるを得ないがな」

 

「さも俺後継者に相応しい奴知ってますって顔してるな。だれかお前のメガネに適う奴でも見つけたか?」

 

「ああ。最近インターン生として迎え入れた生徒がいる。ミリオと言ってな。彼の周りはよく笑い声が響いている。元気もよく、ユーモアもあり、そして伸び代もある。今は少し伸び悩んでいるようだが、実践を積ませれば次期No1ヒーローも圏内だろう」

 

「そこまで言うか。エンデヴァーの立場がねえな」

 

 

実際ナイトアイにそこまで言わせるとは相当な逸材なのかもしれない。雄英の生徒ということでもしかしたら既にオールマイトの耳にそいつのことを伝えられている可能性もある。

まあ早く後継者を決めてもらった方が俺個人としても助かるっちゃ助かる。前みたいに押し付けられたら堪らないからな。

 

 

「ま、ある程度決定したらまた報告するわ。後継者って言っても今日明日で決めなきゃいけないほど性急ってわけでもないしな。

受けるにせよ断るにせよ、慎重に決めるべきだしな」

 

「…そうだな。分かっているなら頼むぞ。くれぐれも慎重に決めるよう進言しておいてくれ。

彼は時々フィーリングで物事を判断したり勢いで重要事項を決定してしまう傾向があるからな」

 

「分かってるよ。普段から重要な書類には触らせてないし、最低でも一度は話を俺に通すように言ってあるから多分大丈夫だろ」

 

「…そうか。負担を掛けてすまないな、比企谷」

 

「そう思うなら戻ってきてほしいけどな。負担は減るし仕事も減る」

 

「………。今日はここまでにしよう。お勤めご苦労だった。次の店も期待しておいてくれ」

 

「…ここを見て期待してくれは少し難しいがな。まあ、おつかれ」

 

 

先に席を立ったナイトアイを尻目にまだ残っているコーヒーを啜る。魔法の呪文をかけていなくても十分美味いと感じるが、かけてもらったらもっとうまくなるのかしらん?

 

 

「……ふぅ。予知ってのも面倒なもんだ」

 

 

話を濁したナイトアイの気持ちも分からんではない。その能力でオールマイトの未来を予知したあいつは数年後にオールマイトが死ぬと予知した。

それを回避するために現在奮闘中。喧嘩別れでサイドキックを辞めてしまったのも実質オールマイトに対して負い目ができてしまったが故だろう。

……まったく、面倒だ。

 

 

「……ほんと、どうにかならないもんかなぁ」

 

 

溜息が口から漏れるもそれに答えてくれる相手がいるはずもなく、微かにコーヒーの表面を揺らすだけだった。

 




適当な文字数で進める方がやりやすい。
書く速さが遅いせい。

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