ワン・フォー・ワン《独りは一人のために》   作:亡き不死鳥

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車ぶっ壊れるし、あらゆることにモチベでないしで、エタりそう…。
金が欲しい…


リコール

……夢を見ている、気がする。

思い出せない誰かの声が、頭の中で少しだけ反響する。

 

 

『君はいったい、何故ヒーローを目指すんだい?』

 

 

誰だったか。

いつだったか。

昔々の話過ぎて、どうにも頭が曖昧にしか記憶のサルベージを行ってくれない。

 

でも、一つだけ覚えている。

まだ純粋だった中学生時代。

それでも残酷だったあの時代。

ヒーローが飽和し、人助けが職業になり、誰もが憧れるその職業は、俺に絶対的に似合わなかった。

 

 

『…………』

 

 

夢の中の俺は言葉を発しない。

だって、その答えが分からないのだから。

でも、きっと俺のことだ。

いい個性を持っていたからとか、ヒーローの奥さんを持てば専業主夫の夢を叶えられるとか、そんなことだろう。

 

 

『君はとても優しいね。

でも、助けた相手が優しいとは限らないとは思わないかい?』

 

『………』

 

 

目の前の誰かは、何かに訴えかけるようにこちらに話しかけている。

顔は、わからない。

中学のいつ頃なのか、この人は、誰なのか。

 

 

『君が聞いた通りさ。

君のクラスメイト、名前は…なんだったか。

まあいい。君が身を張って交通事故から助けてあげたというのに、あろうことか彼女はなんと言った?』

 

 

………ああ。

なんとなく、思い出した。

中学、事故。ああ、そうだ。

中学生だったころ、ヒーローに憧れていた頃。

まるでアニメのような暴走トラックが、クラスメイトの背に向けて走っていったのを目にしたことがあった。

それを見た俺は、分不相応にも、助けたいと思った。

個性の制御すらまともにできない奴が、一端の救済願望を胸に浮かべてしまったのだ。

……きっと、俺が助けなくとも彼女は助かっただろう。

その暴走トラックにはヴィランが乗っていて、近場にはヒーローがそいつを捕まえるために何人かいた記憶がある。

そんな彼女を俺は全力の個性で、自らを飛ばすことで彼女ごとトラックからの回避を行った。

俺は足の骨折、彼女にはかすり傷がいくつか程度。

 

そんな結果に、俺はバカバカしくも喜んでいた。

余計な介入。余計なお節介。

だからこそ、学校に登校してきた彼女の声は、俺を現実に戻す手助けをしてくれた。

学校の教室で、彼女はこう言っていた。

 

 

『助けられるなら、ヒキガエルじゃなくってカッコいいヒーローに助けられたかったな〜』

 

 

それはきっと口から溢れる本心。

命の危機を助けられたからって、惚れた腫れたなんて話になるのは非現実的な妄想話。

不恰好な自己満足よりも、劇的な救出劇を。

村人Hよりも勇者の手を。

中学生、いや一般人は助けられるにしてもそんな喜びを求める。

喉元過ぎれば熱さを忘れる。

恐怖も忘れて、後に残るのは『誰に』救われたというレッテルが残る。

オールマイトに救われたと聞けばクラスメイトは湧きたち、少女の元に集うだろう。

だが実際助けてしまったのはクラスの日陰者のヒキガエル。

笑い話にしか使えないのだろう。

 

 

『比企谷くん。君の力、個性は素晴らしいよ。

君はその個性が怖いかもしれない。

それなら僕の元へおいで。

君への感謝も忘れ、貶すだけの誰か達のために、君の力は使うべきじゃない。

もっともっと自由にできて、君自身の素晴らしさを発揮できる場所が必要だ。

それを僕なら用意できる』

 

 

スッと目の前の人物が手を差し出してくる。

教師達の眠くなる話し方、逆らいたくなるような声とは違い、こちらに味方だと教えるような優しい声。

今にも付いて行きたくなるような衝動に襲われるのが容易に分かる。

夢でこれなのだ。

過去の、現実の俺にはいったいどう映っていたのか。

 

 

『今まで大変だったろう?

これからはそんな苦しみを背負わなくていい。

だって、君は悪くないんだから』

 

 

自分を肯定してくれる存在の大きさ。

いや、気迫と言ってもいいかもしれない。

絶対の意志、絶対の自信を感じさせる男の口から俺への誘惑が大手を振って向かって来た。

 

 

『もう大丈夫、僕がいる』

 

 

その声に、俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

pipipipi!!!

 

 

 

「………んぁ?」

 

 

………やかましい暇つぶし機能付き目覚まし時計が耳元で鳴り響く。

せっかく、何かを思い出せそうだったのに。

 

 

「………まあ、連日忙しかったからなぁ」

 

 

雄英高校にヴィランの潜入を許してしまったことにより、侵入してきたヴィラン達、ヴィラン連合について連日学校終わりに会議が行われていた。

そこの救援に真っ先に向かった俺に対して、団体行動の重要性をチクチク校長に口説かれた。

…いや仕方ないじゃん。

あんなオールマイトの事務所にいた時はそんな不測の事態なんてほぼほぼなかったし。

集団行動とかボッチの俺にできるわけないじゃん。

 

 

「………まあ、終わったことをどうこう言っても仕方ない。

それよりも、問題はこっちだな」

 

 

机に置いてある資料、『雄英高校体育祭概要』と書かれた紙束を持ち上げる。

そこには体育祭の進行、持ち場、アクシデントが起きた時の対応など様々な情報が載っている。

まあ警備情報などの細かいものは載っていないが、一通りのことはこれを見れば分かるようになっている。

その中でも驚いたのが、予想していたよりも仕事の量が少ないのである。

警備については他のヒーロー達に依頼して厳重にするらしいので、俺達教員は体育祭のジャッジや司会に専念できるのだが、体育祭は安全第一ということもあり、それに相応しい教員が選ばれている。

つまり完全に個性を制御できない俺はお呼びじゃないのです。

その結果増える空き時間。最高かよ。

 

 

「………体育祭、ね。

なんつーか、懐かしいな」

 

 

ふと、口から哀愁に似たセリフが出てくる。

もちろん雄英体育祭は毎年やっているので別にソレそのものが懐かしいわけじゃない。

もう何年も前の、俺が卒業生だった時の体育祭。

既にそこいらの一般ヒーローの元で就職が決まっていた俺にそこまでのモチベーションもなく、まあまあの順位で終了した後。

帰宅ラッシュに巻き込まれたくなかった俺が初めて直接あった相手。

 

 

『ふぅー。やっぱ報道陣多いね体育祭!

撒いてきちゃった!』

 

『………』

 

『………』

 

『………は?』

 

『うおっ!?

い、いたのか!気づかなくてごめんよ!』

 

『……ああ、いえ』

 

 

今と変わらない、ムキムキの身体と笑顔で現れるナンバーワンヒーローを相手になんと言えばいいか分からず、特に反応を返すこともなく先程までと同じ体勢になった。

まあ、何をしているかというと雄英高校の屋上でボーッとしてるだけなんだが。

そんなところで休んでる俺も俺だが、そんなところに逃げてくるオールマイトもオールマイトだと思う。

とはいえ、ナンバーワンヒーロー様が俺みたいな一介の生徒に用もないだろうし、そのままどこかへ行くだろうと放置したのだが、どうにもその反応は間違えていたらしい。

 

 

『………』

 

『………』

 

『……あれ、リアクションなし?』

 

『……はい?』

 

『いや、ほら、私って結構有名人だと思うんだけどね!?』

 

『ああ。そりゃ人気ナンバーワンヒーローが有名人じゃなければ、誰も有名人を名乗れないでしょうね』

 

『でしょ!?

まさか反応どころか視線すら全然くれなくてびっくりだよ!』

 

『疲れてるもんで』

 

『あ、そうだよね。

体育祭、お疲れ様。まだ帰らなくて平気なのかい?』

 

『あんま人の多いところ好きじゃないんで。

帰り道が空くまで待ってようかと』

 

 

そこまで話していると、すぐ隣にオールマイトが腰を下ろしてきた。

マスコミから逃げてきたというだけあって、急ぎの用事があるわけでもないのだろうが、何故横に座るのだろうか。

 

 

『……うん!

きみ、カッコいいね!

まさにクール、といった感じだ!』

 

『…突然なんすか。

てか、カッコ良くなんてないですよ。

黄昏てるとか格好つけてるとか、俺のはそういう類です。

それこそ、カッコ良いなんていうのはテレビで映ってるオールマイトとかのことでしょう?

カメラ写り凄くいいじゃないですか』

 

『ま、私は格好つけてるからね!

助けた人も、ただテレビを見ているだけの人にも、私が来たから大丈夫、私がいるから大丈夫と、そう認識し続けてもらえれば本望なのさ!』

 

『………。

やっぱカッコ良いっすわ』

 

 

何のためらいもなく誰かの為にと公言し、そして救い続けているスーパーヒーロー。

かっこいい、かっこいいさ。

憧れるし、尊敬だってする。

でも、それは俺が目指すべきヒーローではない。

目指せるヒーローではないのだ。

 

 

『……ま、格好良さだけでヒーローは務まらないからね。

結果が付き纏う。大変な仕事さ』

 

『…その大変な仕事の先頭切ってる人に言われると説得力増しますね。

…働きたくねえ』

 

『ハハハ!

でもま、その格好良さを貫いた先に救える人がいる。

助けた事実が大切なんじゃない。

助けられたという事実が大切なんだ』

 

『……それってどっちの意味で言ってます?』

 

『両方だよ。

助けられた人達はその事実に安心する。

助けられた我々ヒーローはそれが救いとなる』

 

『……でも、助けられなかったらただの重荷ですよね。

それってキツくないですか?』

 

『ああ、キツイ。凄くキツイ。

人の死ぬ瞬間は辛い。助けられなかった人を見るのは辛い。追い詰めすぎて自害したヴィランの息絶えた姿だって目を覆いたくなるほど辛いさ。

別に生き死にだけじゃない。

困ってる人達が、迷ってる人達が、不安に震える人達が俯く姿を目にした時だって同じさ』

 

『…オールマイトでも助けられなかった人がいるんですか?』

 

『ああ、いるさ。たくさんいる。

仕方のないことだと、わかってはいるけどね。

だからこそ、次こそはと思ってしまうんだよ。

そして少年、今の君もそうさ』

 

『俺ですか?』

 

『うん。なんか、よくわからないけど辛そうだ。

ヒーローの一側面、しかも悪いところを話してしまって気を悪くしたかい?』

 

『…いえ、別にそういうわけじゃ』

 

『なら良いんだけどね。

君は独特な目をしているよ。

悩んでいて、それでも正しさを捨てられない、複雑な目だ』

 

『素直に目が腐ってるって言っていいんですよ?』

 

『ハハハ!ナイスジョーク!

ユニークだね!』

 

 

愉快に笑い飛ばしてくれているが、俺自身今の俺がどんな顔をしているのか分からない。

ヒーローの辛さ苦しさを教え、今もなおヒーローの道を歩み続けているオールマイトに俺はいったい何を感じたのだろうか。

………少なくとも、こうなりたいという憧れではないが。

 

 

『………まあ、私も口が上手いわけでも、相談に乗ったからといってそれを解決できるほど頭がいいわけじゃない。

だから少年、本当に困った時でいい。

私に助けを求めてくれ』

 

『助ける側が頼むんですか…』

 

『余計なお節介ってやつさ。

君はいいヒーローになれる。

だが、ヒーローも助け合いだ。

同業者に助けられることも、助けることだってある。

まあ君は素直に助けを求めるほど真っ直ぐじゃなさそうだけどね。

だからこっちから勝手に助けに行こうと思ったのさ』

 

『………なんつーか、ほんとお節介すね』

 

『ああ、そうだな。

こればっかりは辞められないよ。

余計なお節介はヒーローの本質みたいなもんだ。

グイグイ踏み込んで勝手に救い出す傍迷惑な存在だよ』

 

『………。そっすね。

じゃあ、本当に、後先がなくなった時は、もしかしたら、頼むかもしれません』

 

『むむ、君も頑なだね。

そうだ、こんなに話してるのに名前を聞いてなかったね。

少年、君の名前を教えてくれるかい?』

 

『…比企谷です。比企谷八幡』

 

『そうか。

では比企谷少年、君がそこまで追い詰められたのなら遠慮なく私を呼べ。

そして私の声を聞くんだ』

 

 

そこで一つ区切って、ニカッと笑い、いつものセリフを付け加えた。

 

 

 

『私が来た、ってね!』

 




エターナルフォースブリザードで自害せよキャスター!(執筆的な意味で)

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