ワン・フォー・ワン《独りは一人のために》   作:亡き不死鳥

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久々の深夜テンション。
なに書いてるのか自分でも分からない。


アフタースクール

……やけに長かった15分。

それもようやく終わり、俺とオールマイトはA組の生徒達

 

 

「………というわけで、講評の時間だ!

勝ったにせよ負けたにせよ、振り返ってこその経験!

さあみんな!私達の演習を見ての感想は!?」

 

「「「比企谷先生がエグかったです」」」

 

「私もそう思った!」

 

「おい…」

 

「ま、それはともかく!

立ち回りとしては比企谷先生の方が上手だったのは言わずもがな!

そう、ヴィランは狡猾な者が多い!

人質だけに限らず、人目のつかない裏道でことに及ぶ者、周囲の人々を巻き込む事でヒーロー側に負担を強いる者。

姑息ではあるが効果的な手を相手は躊躇わない。

今回で言えば比企谷先生にはヴィランであるという利点以外に、個性としての相性で勝っているものがあった。

分かる人!」

 

「はい!」

 

「はい八百万くん!」

 

「比企谷先生に遠距離での攻撃法があったことですわ。

オールマイト先生と違い相手に姿を見せずに妨害を行うことができるのは大きな利点だと思います」

 

「そのとおり!4階で嵐が起きていたところとか特にそうだね。

近接型の不得意な面を大きくカバーでき、なおかつ相手に対応を取らせない点はヴィランだろうとヒーローだろうと脅威になる。

そして5階の妨害も然り。一方的に自分のアドバンテージを生かせるところはガンガン攻めていこう。

そのためには自分の個性は何ができて、何ができないかを把握するのがとても重要になる」

 

「はいはーい!」

 

「瀬呂少年どうぞ!」

 

「結局比企谷先生の個性ってなんなんすか!?」

 

「うげ…」

 

 

あまり公表したくない話題なのに話の流れがこっちにきてしまった。

あのセロリとかいう生徒が余計なことを質問しなければ…。

しかし注目が完全にこっちに集まってしまっている。

視線は捕食できないから苦手なんです。

もちろん人も捕食できないから苦手だし仕事も苦手。

世界が敵すぎて辛い。

 

 

「……あんま言いふらすなよ。

俺の個性は『捕食』だ。

口から体内に入れた物をある程度操ることができる。

さっきまでのは呼吸でも捕食したことになる空気を操ってたんだ。他にも体内にできた影なんかも操れる」

 

「なんでプロヒーローなのに個性秘密にしてるんですか?」

 

「さて、じゃあペア決めて演習始めるぞ」

 

「スルー!?」

 

 

うるせえこれ以上自分語りなんてやっていられるか、俺は授業に戻るぞ!

それに俺とオールマイトの演習挟んだせいで授業時間内で終わるか少し怪しくなってきている。

二時間分あると言っても講評の時間も合わせれば結構な時間を食うことだろう。

授業の雰囲気作りさえしとけば今回の授業は終了だ。

オールマイトのゴリ押しを参考にしろと言っても無理があるだろうし、そんなゴリ押ししようとする奴がいるなら相澤先生に除籍されることだろう。

…しかしそれでも、第一回目の授業くらいオールマイトも成功で収めたいだろうし、失敗の理由が時間切れとか笑えないしな。

少しくらいは協力してやろう。

演習の相手をさせられた件については当然取り立てるがな!

 

 

「……はぁ。

なんにせよ早くしろ。

相澤先生みたいに除籍とまではいかないが反省文くらい書かせる羽目になる。

それは怠いだろ?」

 

「えー。でもいい機会だし教えてくれたっていいじゃないっすか」

 

 

…………。

 

 

「ところで、初日に相澤先生が最下位除籍っていう合理的虚偽があったな」

 

「…?はい、ありましたね」

 

「なら、『この授業で除籍はない』っていう合理的虚偽があっても文句言うなよ?」

 

「「「!?」」」

 

「ほれ、出席番号順にクジを引け。

……返事は?」

 

「「「は、はい!」」」

 

 

よし、上下関係は初めに叩き込んでおくべし。

ペットを飼う者の基本である。

これが守れないとペットに舐められ、部屋のベッドを占領されたりコタツに入ってると猫パンチされたりする。

ソースは俺と親父。うちのかまくらは小町とかーちゃんのところには猫撫で声で潜り込むのに俺たちの場合退けようとするからな。

……もしかしたら上下関係で初めて上になれたかもしれない。

これが権力ってやつか。

 

 

「…………」

 

「……なんだよオールマイト」

 

「なんか比企谷くんの方が先生してる気がしてきて…」

 

「アホか。

あれはアレだ。飴と鞭的なアレで、オールマイトが飴で相澤先生が鞭。

今回は俺が代わりに鞭を打っただけで、毎回授業に参加するわけじゃないんだから生徒もすぐ忘れるだろ」

 

「そんな単純でもないと思うけどね!」

 

「センセー!クジ引き終わりました!」

 

「お、そうか!

ではヒーロー側とヴィラン側に分けて行こうか。

まず第一回戦は…!」

 

 

さて、これで俺の仕事は終了。

ミッションコンプリートだ。

あとはオールマイトの講評を訳知り顔で同意していればいい。

………少し気になることもあるしな。

 

 

 

「爆豪少年ストップだ!殺す気か!?」

 

『当たんなきゃ死なねえよ!!』

 

 

 

………俺しーらない。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「………なあ比企谷くん。

私はこの仕事に向いているのだろうか…」

 

「入社したてのOLかなんかか?」

 

 

激動の第一回ヒーロー基礎学が無事?終わった放課後。

俺とオールマイトは近場のラーメン屋に来ていた。

今日の授業で暴走した爆豪を慰めに行ったはずが、なぜか既に立ち直っていたり。

弟子である緑谷の暴走による大怪我をもう三回も負わせてしまったり。

そんなダメダメな自分に教師は務まるのだろうか、という相談をされているのだ。

……まあ、そんなオールマイトに言える言葉は一つだ。

 

 

「………俺じゃなくて本職の教師に聞けよ」

 

「そうだけども!そうじゃなくてね!

ほらここは私のことを客観的に見てる比企谷くんこそが相談相手には相応しいんじゃないかと!」

 

「その条件なら校長でいいだろ。

付き合い長いじゃん」

 

「校長は他の話が長いんだよ…。

たぶん私の相談は雑談が20は終わった後にようやく始まるといったところか」

 

「なら知らん」

 

「冷たい!

なんやかんや言ってても比企谷くんも教師やってたじゃないか!

模擬戦終わった後なんか比企谷くん一言も喋ってないのにみんなビクビクしながら君のこと見てたし」

 

「それ教師やってるって言わねえだろ…」

 

 

ただ避けられているだけである。

上下関係を築いてもぼっちはぼっちであると再認識した。

しかし俺はいいぼっち。

相手も関わられても迷惑だろうし俺からも関わらない。

所詮は学年主任、雑用なのである。

………雑用のはず。

 

 

「…つうかそのキャラで教師らしくっていってもなぁ。

フレンドリーに接してけばいいだろ。

授業は厳しくして他は甘く。

好かれる教師の鉄板だろ?知らんけど」

 

「それはそうだが…。

しかし私が教えていることがしっかり生徒に伝わっているか、生徒のやる気を奪っていないか心配で心配で…」

 

「それ一回目の授業で言うセリフじゃねえだろ…。

そんなこと言ったら俺なんかお前のサイドキックになってから年中無休でやる気奪われてるわ」

 

「今明かされる衝撃の真実!?

え、なんかごめんね!?」

 

「謝るなら自分の書類を片付けろと何度も…。

その上事務所閉めて拠点移すだけでどんだけのマスコミ撒いたと思ってるんだよ…。

荷運びだけして颯爽と居なくなりやがって。

サラッとニュースになりかけてた俺の心労がどんだけのもんか知ってんの?

俺が気づかなきゃ『失踪!?オールマイトが消息不明!謎の事件の気配…!』とかいうタイトルで一面飾ってたんだぞ?」

 

「ほんとごめんなさい!」

 

 

早急に雄英に連絡とってテレビ局に圧力かけながら近日公開の約束に加えて報道規制。

その上でテレビ番組にオールマイト出演を約束させ、ようやく事態の収束に至った。

事務所を閉めきる僅か数日の間に事務所内の異変を気づかれるとは思ってなかった。マスコミ恐るべし。

あ、その情報撮った人は個性不正使用でしょっぴかれてます。ざまあ。

 

 

「………はぁ」

 

「はい、私ももう少し頑張ります」

 

「だから溜息で返事を察するな。…ったく。

そういや今日の演習の最後、お前何パーで個性使った?」

 

「ん?えらい突然だね。

もちろん全力さ!というか全力じゃないとあんな状況突破できないしね!

………どうかした?」

 

「遅くなってるぞ。半年前より更に」

 

「………」

 

 

ラーメンを啜りながら告げる俺にオールマイトは目を伏せる。

やり過ぎた、と演習の時にぼやいたが、あの状況程度全盛期のオールマイトなら朝飯前。

弱っていたとしても攻略できるよう部屋の中心で待機していた。

そしてオールマイトは期待通り制圧して見せたが、あの時オールマイトの姿を俺は目で追えた。追えてしまった。

オールマイトが弱体化してるのは承知の上。

緑谷に個性を継がせてそれがますます悪化していることも。

しかし、それでも俺みたいな木っ端プロヒーローを蹂躙する程度の力は持っている。

しかしそれすら反応できるほどまで力が落ちてしまっているのなら、いい加減命が危ない。

その実感を肌で感じてしまっていた。

 

 

「………はぁ。

今のうちに言っとく。

『オールマイト事務所』はとっくに畳む用意がある。

引退宣言にそれに対するマスコミへの対処も雄英の校長と連携を取る準備だって万端だ」

 

「ま、待ちたまえ比企谷くん!

何を勝手に…!」

 

「騒ぐな、店の中だ。

遮音はしてても身振りは見える。

…ったく、準備があるってだけだ。

俺はナイトアイと違ってお前の最期を見届けるつもりで事務所に残ってる。

予知によればあと一年か二年の話だしな」

 

「………」

 

「だけど準備は必要だ。

心の準備がなく民衆からオールマイトが消えるのは、お前が殺されて、お前を殺したヴィランが野放しにされた状態で、そんな時に縋る奴が居なくなったら普通に引退するより一般人の不安を煽る。

雄英の教師になって後続を育てるって情報だけなら、一時はヴィランが活発化するだろうがそれだけだ。

他のヒーローがどうにかするだろうよ」

 

「…矛盾しているぞ、比企谷くん。

それはまるで、私を説得しているようだ」

 

「意地で状況を見誤るなって言ってるつもりなんだがな。

オールマイトにかけられる迷惑なんてもう数えるのも飽きてる。

だから今更一つ余計なものが増えても変わりゃしなけどよ、計算くらいできるだろ?

お前の継承者は今年一年。

お前の死が予知されてるのも今年か来年だ。

どう足掻いたって新しい平和の象徴にすぐさまなれるわけがない。

それはつまり、お前が死ぬ時まで活動を続けるなら一般人の動揺が最高潮になるのは避けられないってことだぞ?」

 

「………たしかに、そうだね。

君は、緑谷少年を継承者にしようとした時から気づいてたのか?」

 

「当たり前だろ。

数学が嫌いでも足し算くらいできる。

俺はお前の決定を尊重はする。尻拭いくらいはしてやる。

でも、先導役や修正役まで引き受けるつもりはねえぞ?」

 

 

そう、間違った決定を否定するというのなら緑谷への継承なんて最初から賛同しないし、そのための根回しだってするはずがない。

ただ単に、それをオールマイトが望み、()()それを望んでいたからに他ならない。

今の雄英の三年生、またはプロヒーローに個性を継承して、そいつが新しい平和の象徴になってしまうなら、後は死ぬまで英雄であれとオールマイトは突き進むだろう。

だが、それはイレギュラー(緑谷)によって楔になり得る。

あいつの存在がオールマイトを踏みとどまらせる可能性は充分にある。

それに民衆の危機は消えないかもしれない。

だが、()()健在だ。

平和の象徴が健在で、次なる平和の象徴を目指すものは湧き出るだろう。

何より、既にその次の平和の象徴(緑谷)は見つけているのだから。

 

 

「…………ずるいよ、比企谷くん」

 

「お前の主張はオールマイトのような象徴が現れるまでの民衆の危機感。

そもそもそんな人間がいないかもしれないって不安だったな。

だがそんな人間はもうお前の弟子で、お前が生きていられる時間の中ではプロヒーローになれないことが確定してる。

なれて仮免だ」

 

「………………」

 

「………だから、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ以上、余計なヴィラン退治するのを辞めろ」

 

 

「………え?」

 

「……なんだよ」

 

「いや、てっきりもう引退した方が民衆の為になるからヒーロー辞めろって話になるのかと…」

 

「辞めようが辞めまいが結局一般人は怯えるはめになるって話ししただけだ。

てかそれならナイトアイに協力してるっての。

余計に個性使って余計な消耗増やすなって話をしてるんだよ。

たまに通勤中にヴィラン退治して制限時間やばい時があるの知ってんだぞ。書類くるし。

つーか平和の象徴の死に場所が路地裏とかカッコつかないだろ?」

 

「い、いやまあ、それはそうだが」

 

「なに?

ああ、ヒーロー辞めたくなったなら遠慮なく言っていいぞ。

一ヶ月くらい新聞の表紙飾らせてやるし、ナイトアイとも和解できる。

俺の負担もなくなれば生徒の育成にも集中できる。

……あれ、いいこと尽くめだな。

オールマイト、ヒーロー辞めていいぞ」

 

「軽っ!?

ええっ、懸念が解決してることと解決できないことが理解できて少し揺らいでたけど…。

なんか今の一言で辞めたくない…」

 

「めんどくせー奴」

 

「酷い!?」

 

 

………なーんて色々策を労しても、まあどうせこの頑固野郎のことだし言い訳しまくってヒーローを続けるだろう。

そして分かってもいる。

平和の象徴が消えた時の民衆の恐れ、ヴィランの暴走。

それは大丈夫かもしれないと楽観できるものじゃない。

なら、後は()()を可能な限り遅らせるしかない。

そのために舌を捏ねるのはタダだ。

 

 

「まあなんにせよ俺が許可しない限りヴィラン退治に手を出すな。

現地ヒーローが困っててもそいつらは立派なプロだ。

余計なお節介働かせるなよ」

 

「ぐ、う、うん。

わ、分かった、約束しよう。

しかし許可しないとって通勤中に許可を取ればいいのか?」

 

「許可しないっつってんだよ。分かれ。

余計な消耗って分かってんのに許可するバカがいるか。

最悪俺がなんとかするからメールでも送ってくれ。

ただ、簡単な事件で呼び出したらぶっ飛ばすからな」

 

「………むむ。

しかし平和の象徴として犯罪を見逃すのは…」

 

「その象徴を1秒でも長く続けたいなら、もうちょっと他のヒーローに仕事を投げることを覚えろ。

ほらアウトソーシングでワークシェアリングするんだよ」

 

「それっぽいこと言って騙されてる気がする…」

 

「気のせいだ」

 

 

平和の象徴は永遠ではない。

その象徴を壊しにくる者が現れる。

そういう奴らを未然に防げたらいいが、さて。

ヴィランの闇の深さは、いったいどれほどだろうか。

まあなんにせよ、少しでも長く平和の象徴を掲げて置かなければ。

 

それが、いつ崩れ去ってもいいように。

もう少しだけ、手を回しておこう。

 




なにが言いたいかというと色々理由つけてオールマイトの行動に制限をつけただけ。
口八丁お安くしておきます。

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